<ホド編 第2章> 8.奇妙なクエストの話
8.奇妙なクエストの話
奇妙なクエスト。
ウルズィーの説明は確かに奇妙だった。
緋市の地下に存在するいくつかのダンジョンの中で最も深い階層を有するダンジョンの下層域に向かった冒険者たちが戻ってこないのだという。
緋市のFOCsで捜索クエストが発行されたことで、いくつかの小規模クランが挑んだのだが、いずれも戻ってきていないらしい。
その状況を受けてFOCsは新たなクエスト、冒険者たちが消息不明となっている原因を突き止めるクエストを発行する予定なのだという。
「事前にFOCsから相談があってな。わしたちガルガンチュアで捜索隊を出して欲しいと言われたんだが、どうもきな臭くてな。受けるのを渋っていたんだ。まぁそもそも三足烏からのプレッシャーに対応するので精一杯だってのもあるからな。FOCsも痺れ切らしたんだろう。おそらく明日にでもクエストが出されるはずだ」
「なるほど。ちなみにこれまでどんなレベルの冒険者たちが挑んでいるんだ?」
「ざっくりサファイヤ級以下だな。たまにエメラルド級が行ったりもしていたが、皆帰ってきてない。エメラルド級以上のクエスト報酬条件はそこそこ高額だから捜索クエスト程度は受けないんだ。だが、明日発行される原因究明クエストは高額になる予定だからエメラルド級以上の冒険者も参加するだろうな。ウチのやつらには様子見だって言ってあるけどな」
「そうか。三足烏が絡んでいる可能性もあるんだろうか?」
「それは否めねぇな。戦力削るって意味では確かに功を奏しているとも言える。もしかすると、消息不明となっている冒険者たちは三足烏に買われてんじゃねぇかって勘繰っているやつもいるくらいだからな」
「なるほど‥‥わかった。そのクエスト、おれ達も受けるよ」
『え?!』
カヤクとニトロは思わず声をあげて驚いた。
「スノウ、何のためにそのクエスト受けるんだ?」
「何だよ、元三足烏・烈の分隊長が怖気付いてんのか?」
「違うわ!あんた、仲間を探すのが優先なんだろ?言っちゃ悪いが、こんなところで道草食ってる場合じゃねぇだろって言いたいんだよ」
「その通りだが、おれはどうも気になるんだ。この件におれの仲間が関わっているんじゃないかってな」
「!!」
カヤクとニトロはそれ以上質問することができなかった。
魔王フォルネウスとの戦いを見せつけられてスノウが人域を超えた存在に思えていたため、自分たちでは感じ得ない何かを捉えているのだと思ったようだった。
ふたりの中ではホウゲキが最強の存在だったのだが、スノウはそれを大きく上回る存在になっていたのだ。
「分かった。あんたに従うぜ。俺たちはレヴルストラの仲間に入れてもらおうとしている見習い候補みたいなもんだからな」
スノウはカヤクの言葉に反応することなく、ウルズィーに話しかけた。
「この街のFOCsはどこにあるんだ?明日にでも行ってみようと思うんだ」
「おお、それなら俺が案内してやるよ。支局長とは懇意にしているからな。詳しい情報を聞けるだろうぜ」
「ありがとう」
元三足烏のカヤクとニトロの存在もあり、楽しいはずの夕食は少し微妙な雰囲気となっていた。
ロムロナが気を利かせて酔ったふりをして盛り上げてくれたので、険悪な雰囲気は避けられたのだが、スノウはロムロナにそのような気遣いがあることに驚いていた。
・・・・・
翌日。
ウルズィーと共にスノウ達は緋市のFOCsを訪れた。
ガルガンチュア本部から10分ほど歩いた場所にFOCsの支局があるのだが、他の世界とは大きな差があるほど立派な建物だった。
中に入ると大勢の冒険者達がおり賑わっていた。
所々で言い合いや喧嘩が起きており、スノウは懐かしい感覚になった。
「おい、あれレストールじゃねぇ?」
「ガルガンチュアの総帥じゃないかよ!」
「すげぇ貫禄!」
「ドワーフだっていうが、その強さはやべぇらしいぜ?」
「レッドダイヤモンド級らしいじゃねぇか」
「あの人に気に入られたらガルガンチュアでも上位の職位で雇ってもらえるらしいぜ?」
「でも最近三足烏とやり合ってるらしいからなぁ」
「三足烏の方がいいんじゃね?」
「馬鹿か、めちゃくちゃこき使われるし、ゴミのように扱われるって噂だぜ?」
冒険者たちはウルズィーを見て方々で噂し始めた。
(流石にウルズィーは有名だな。そう言えばウルズィーはウルザンダー・レストールって名前だったっけ。1代でこんな巨大キュリアを築くって凄いよな。ネツァクのブルズさんもそうだが、豪傑はやはり何かを成し得るもんなんだな‥‥)
ブルズ・クロッカスとは、スノウがネツァクで知り合った豪傑だ。
かつてレッドダイヤモンド級冒険者で名を馳せた人物だったが、道具屋や武具屋を興し、巨大な商業グループにまで発展させた商売力と経営手腕でも優れた人物だ。
スノウにはウルズィーとブルズが重なって見えたようだ。
「さ、こっちだぜ」
冒険者たちをかき分けるようにして進んでいく。
掲示板には多くのクエストが貼り出されていた。
「こんなにクエストがあるのか‥」
「まぁな。今ホドは不安定なんだ。あの戦いの後、急に魔物や海獣が増え始めてよ。ダンジョンに出没する魔物も1.5倍から2倍は強くなっているんだぜ」
「何かきっかけがあったのかな?」
「分からねぇ。だが悪いことばかりじゃねぇよ。魔物が強くなるってことは冒険者も早く経験を積んで強くなれるってことだ。三足烏は強ぇからな。俺たちもそれなりに強くならなければならんのよ」
「ウルズィーさん」
「何だよ、おめぇとは話したくねぇんだが」
「あ、いや、すまない。だが、俺は元三足烏の分隊長だ。ニトロも隊員だった。少しは情報もあるし、あいつらの戦闘力も把握しているつもりだ。ガルガンチュアの役に立てると思うんだよ。罪滅ぼしじゃないが、あんたらの力になりたいんだ。俺はエントワに人の心を取り戻してもらった身だ。信じちゃもらえないことも、俺がやったことを許しちゃ貰えないことも分かってるが、どうか役に立たせてほしい」
「俺からもお願いします!」
カヤクとニトロは深々と頭を下げた。
「ちっ‥‥おめぇら俺が御涙頂戴に弱ぇって知っててそういう作戦に出たか?」
「ウルズィーボウヤ。すぐにとは言わないけど、まずは話を聞いてやってもいいじゃないのぉ?スノウボウヤもだけど、こんなご時世だから何があってもおかしくないんだから戦争もあるし騙し騙されもするわねぇ。そんな中で人の心を失いたくないと思うなら、裏切るよりは裏切られる方がマシなのよ?」
「‥‥ロムロナのねえちゃん、あんたは正しいよ。だがよぉ、人の心ってのぁ理屈じゃねぇんだよ。人の心持ち続けたいと思えば思うほど、複雑で思う通りに行動出来ねぇもんなんだ。でもまぁよ、おめぇらを信じられなきゃぶっ殺すだけだ。話くれぇは聞いてやる」
「!‥‥ありがとう!ウルズィーさん!」
「ありがとうございます!」
カヤクとニトロはふたたび頭を深々と下げて礼を言った。
スノウはそれを冷ややかに見ていた。
やはりスノウは仲間と認められない者に対する不信感は強く、信じられる者と信じられない者への態度に雲泥の差があった。
「さて、受付に行くぜ」
スノウ達は冒険者達をかき分けて受付に向かった。
「これはレストール総帥、ようこそいらっしゃいました」
「おう。支局長に会いてぇんだがいるかい?」
「はい、奥にいらっしゃいますよ。毎度不気味ですが、支局長は今朝、“今日はレストール総帥とそのご友人たちが来るのでよろしく” と言ってまして‥‥」
「ブハハ!相変わらず予言者みたいで気持ち悪ぃな!」
「ですよね‥‥はは‥‥ではご案内いたします」
受付嬢はスノウ達を奥へと案内した。
ガチャ‥
扉を開けると執務机に両肘をついて手を組んで座っている者がいた。
「!」
スノウは目を見開いて驚いた後、ため息をついた。
「はぁ‥‥」
(マジかよ)
「お待ちしていましたよ」
「おう、相変わらず察しがいいな。予知能力でもあんのかいお前は」
「いえいえ、虫の知らせというやつですよ」
ガタン‥
支局長の男は席を立ち両手を後ろで組んでゆっくりと前に出てきた。
「そして、ご無沙汰しておりますスノウ・ウルスラグナさん」
「ヤガト‥‥」
「お、あんたら知り合いだったのか?」
「いや、知り合いというか知り合いとして認めたくないというか」
「随分とつれないことを言われますねぇ。今まで散々お世話してきたというのに」
緋市のFOCs支局長は何と、ヤガトだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




