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<ホド編 第2章> 6.フォルネウス

6.フォルネウス


 フォルネウス。

 1ヶ月前に突如現れた海の魔王。

 ゴエティアに列挙される72の悪魔の中で侯爵に位置し、序列30位に座する存在だ。

 配下に海の中でも相当な強さを誇る海獣を29体従えており、元老院が派遣した軍との戦いではフォルネウスは微塵も動くことなく、配下の海獣たちによってあっという間に壊滅に追い込んだほどの戦力を有している。

 フォルネウス本体の力は未知数だが、恐れられているひとつはフォルネウスの振動波で、その射程半径500メートル以内に入った瞬間に、船や生物は破裂するようにバラバラにされてしまうという点だった。

 ロムロナたちが慌てていたのはその射程範囲内に入らないようにするためだったのだが、その情報を伝える前にスノウはヴィマナの甲板へと出てしまった。


 「あれか」


 約1キロメートル先に何かが見えたため、スノウはスメラギスコープを取り出して確認した。

 水面から巨大な人のような影が腕を組んで上半身だけ出している状態が見えた。

 厳密には人ではなく、巨大なヒレを背中に4枚生やした人型の巨大な怪物で、皮膚はシャチやイルカを思わせる滑らかなゴムのような質感で、水中を凄まじい速さで移動するのに適しているように見えた。


 「あれがフォルネウスか。周囲の海流の畝りは引き連れている海獣が蠢いているからだな。この距離からするとやつの体の大きさはおそらく15メートルほどか」


 シュヴァァァァァァン!!


 フォルネウスから凄まじい威嚇のオーラが放たれた。

 それと同時にフォルネウスを中心に波紋のように大波が発生した。

 徐々に津波のように巨大な海面の壁がスノウの立っているヴィマナに襲いかかる。

 ブリッジからスクリーン越しに見ているロムロナたちは不安な表情で叫ぶ。


 「スノウボウヤ!」

 

 ドドドドドドドドドドドド!!


 凄まじい大波がスノウの立っているヴィマナの甲板を襲う。


 ブドッバァァァァァァァァァン!!


 大波が真っ二つに割れた。

 スノウから凄まじい斬撃波が放たれ大波が斬られたのだ。

 斬撃波は水面だけでなく、海面下にも伝わり海流の畝りからヴィマナを完全に守った。


 「凄すぎる‥‥本当にあいつあの暴風やろうなのか?もはやホウゲキさんより強えよ‥‥」

 「間違いないですね‥‥」

 

 カヤクとニトロは目を見開いて口をあんぐりと開けたままスクリーンを見て言った。

 ロムロナも言葉を失っている。


 (この強さ‥‥一体何があったのスノウボウヤ‥‥)


 一方フォルネウスはヴィマナが大波で難破していないことに苛立ったのか、ヴィマナに向かって接近してきた。


 「小さき者よ!」


 ボファァァァ!!


 凄まじい威圧のオーラと共にフォルネウスから言葉が発せられた。

 

 「我の大波を弾いたこと褒めてやろう。だが、大波を弾いた程度で我に勝ったと思うておるなら後悔するであろう。何故なら我の恐ろしさを知るのはこれからだからだ!」


 フォルネウスから凄まじい振動波が放たれた。

 ヴィマナは既にフォルネウスの振動波の射程内にいたのだ。


 ヴヴヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!


 「おいおい!やばいやつだろこれ!」

 「ガースのおっさん!船後退できませんか?!」

 “できるわけないじゃろガースが!!お前らが何とかせいでガスよ!”

 「おいおいおい!やべぇよ!」


 カヤクとニトロはパニックに陥り、落ち着きがなくなっている。


 「スノウボウヤ!」


 ロムロナは操縦桿を強く握りながら言った。

 一方スノウは表情ひとつ変えずにヴィマナの甲板の上で両手を前に出した。


 グヴァァァァァァァァァン!!


 スノウの両手のひらからフォルネウスの放つ振動音と同じような音が発せられた。


 ヴヴヴヴヴァファァァァァァン‥‥


 振動波が中和されかき消された。


 「何だと?!」

 

 フォルネウスの低い声が周囲に響いた。

 スノウは風魔法で空中に浮遊し始めた。

 そしてフォルネウスから100メートルほど離れた場所で浮遊して止まった。


 「おいおい何の冗談だ?!スノウのやつ空飛んでんぞ!」

 「風魔法ねぇ‥‥あんな使い方出来るなんて‥‥」


 ロムロナたち3人は驚いてスクリーンを見ていた。

 一方スノウはフォルネウスを見下ろしながら言った。


 「フォルネウスとか言ったな。おれ達の進路の邪魔なんだが、大人しく航路を開けてくれるなら見逃してやる」

 「ブオフォフォフォフォフォ!!何とも身の程を知らぬやつよ!貴様、見たところニンゲンのようだな。少々魔法と剣に自信があるようだが、我を楽しませてくれた礼だ。一瞬で痛みなく屠ってやろう」

 「会話にならねぇな。今のは航路は開けないという答えでいいんだな?って会話できねぇやつに言っても無意味か」

 「小賢しいニンゲンめ!死ぬがよい」

 

 ビュンビュンビュン!


 フォルネウスの周囲に3つの魔法陣が出現した。


 「トライ・ゼノス!」


 フォルネウスはリゾーマタ雷系クラス4魔法のゼノスを3方向から同時に放った。

 クラス4は人間には到達できない魔法域となるが、それを3つ同時に放てるのはフォルネウスが魔王として強大な力を有している証でもあった。


 バリバリバリバリバリバリバリ!!

 ヴァズァァァァン!!


 スノウはフラガラッハで3倍のゼノスを一振りで払い除けた。


 「なんだと?!」

 「今度はこっちから行くぞ」


 スノウは両腕を広げた。


 スノウの背後に29もの魔法陣が出現した。


 ズババババババババ!!ドッゴォォォォォォォォォン!!


 リゾーマタ雷系クラス3魔法のジオライゴウが29発同時に放たれた。

 フォルネウスの周囲にいた海獣全てに直撃し、海獣たちは腹を上に向けて海面に浮かんできた。


 「ブフォフォフォフォフォ!我に勝てないと悟り、せめて我の下僕だけでもと思うて攻撃したか!どこまでも小賢しいヤツよ!それでは我の本気の魔‥‥何だこれは?!」


 フォルネウスは自身の真上を見上げて驚きの表情を見せながら言った。

 自分を覆い尽くすような巨大な魔法陣が頭上に出現していたからだ。

 スノウは右手を前に出して人差し指をフォルネウスに向けていた。

 

 クイ‥


 そして無言で人差し指を下に向けた。


 シュン‥‥ブォドッゴォォォォォォォォォォン!!!


 フォルネウスの頭上の巨大な魔法陣から小さな光球がフォルネウスに向かって落ちてきたかと思うと、次の瞬間、凄まじい爆発が巻き起こった。

 フォルネウスから周囲に激しい爆風が広がっていき、海流の畝りとも共にヴィマナも大きく揺れた。


 「おわぁぁ!!」

 「大丈夫ですかカヤクさん!」

 「俺は大丈夫だ!だが、スノウのやつ、何て魔法放ってんだよ!あんなの見たことねぇよ!」

 「あれはリゾーマタの爆裂系クラス4魔法のアトミックデトネーションね。超高熱の原子爆発を引き起こすとても強力な魔法だけど、規模が異常だわねぇ。あれはもはやクラス4魔法じゃぁないわぁ。クラス4の数倍の威力はあるわねぇ」

 「クラス4って!あのお人は人間ですよねロムロナ(ねえ)さん?!」


 ニトロが驚きながら言った。


 「人間ね。確かに。でも普通の人間じゃぁないわねぇ。生身の体で越界できる人間であって人間ではない存在‥‥という感じかしら。あたしもクラス4の魔法は使えるけど、正直フォルネウスの指一本落とせるかどうかだわねぇ」

 「何てやつだよスノウ‥‥」


 ロムロナたち3人はスクリーンごしにただただ驚くことしか出来なかった。

 爆裂から発せれらた黒煙が風に流されてフォルネウスの体が顕になったのだが、見るも無惨な姿だった。

 上半身が完全に吹き飛んで、海面下にある下半身から腰椎が数個残っている状態だった。

 次の瞬間、轟音と共にフォルネウスの下半身が一気に浮上してきた。


 ブオォォォォォォ‥‥ザッバァァァァァン!!


 浮き上がったフォルネウスの下半身は一気に倒れ込み凄まじい大津波を引き起こした。


 「やべぇやべぇやべぇぞ!!退避だ退避!」

 「ガースボウヤ!急いでエンジン全開よ!取舵いっぱい!!」

 “馬鹿言うなでガスが!エンジンが焼き切れたら修理できねぇんでガスぞ!”

 「ここで死ぬよりマシでしょ!さぁ全開よぉ!」

 「待ってくださいロムロナ(ねえ)さん!あそこ!」


 ニトロが指差した先にはスノウがいた。

 空中でフラガラッハを構えている。


 ヴァン!!‥‥シュヴァヴァヴァァァァァン!!


 『!!』


 スクリーン越しに信じられない光景が映し出されていた。

 スノウが放ったフラガラッハの斬撃波が大津波を斬り刻み、大津波をかき消したのだ。


 『‥‥‥‥』


 3人は言葉を失っていた。

 まるで夢でも見ているかのようだった。


 数分後、スノウがヴィマナのブリッジに戻ってきた。


 「ふぅ‥‥さぁ障害は取り除いてきたから前進だ。ロムロナ、操縦頼んだ。おれは汗かいたからシャワーでも浴びてくる」

 「わ、わかったわぁ」

 「ス、スノウの兄貴、お背中でもお流ししましょうか?」

 「俺、結構背中流すの得意なんですよ兄貴」

 「はぁ?!気持ちわりぃんだよお前ら!いきなりなんだよ!近寄るな!」


 スノウは2人を追っ払うような動作をしながらブリッジから出ていった。


 「どうやら俺たちはとんでもねぇやつと一緒に旅しているようだな」

 「ですね‥‥」


 ふたりは呆然としていた。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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