<ホド編 第2章> 5.ホウゲキの出生の秘密
5.ホウゲキの出生の秘密
「実はな‥‥」
カヤクはホウゲキについて話し始めた。
「“鬼神を怒らせるな” ‥‥俺たち三足烏の中で伝わっているホウゲキを象徴する言葉があるんだな。ホウゲキは激怒するとその力を数倍にも引き上げられる体質があったから、ただでさえ化け物級の戦闘力が異常に跳ね上がるんだ」
「怒りで戦闘力を引き上げる体質‥‥」
「そうだ。俺は結構一緒に行動していたんだが、見たのは数回だ。ホウゲキが激怒するトリガーは、大きく二つ。戦いを侮辱された時と自分を追い詰めるだけの相手に出会った時だ。だが怒ったケースの殆どは前者だ。あの人を怒らせることが出来るやつなんて殆どいないからな。アレクスサンドロスはあの人を怒らせるまでには至ってねぇと思う」
スノウはポーチにしまってあるウカの面に触れていた。
普段は黄金の狐面だが、スノウが怒りを覚えると鬼神の面へと変化する。
鬼神面のイメージはスノウが意図したわけではないのだが、ホウゲキだった。
スノウの心の中のどこかにホウゲキを畏怖する感覚があったのかもしれない。
(アレックスとの因縁もあるが、おれ自身があいつをねじ伏せなければならない。心のどこかで自信が持てなかった気がするが、今何となく分かった気がする。たかが人間のホウゲキにすら勝てないと思い込んでいる自分が神や天使、魔王と戦って勝てるはずもないとどこかで諦めているからなんだと思う。ホウゲキ程度で怖気付くようではダメだ‥‥)
そう思いながらスノウは険しい表情になっていた。
それを見たカヤクは躊躇しつつも話を続けた。
「そ、そもそもだが、強いのは当たり前なのかもしれない。あの人はオーガロードと人間のハーフらしくてな。普通はオーガロードの血が薄まってオーガロードより弱い子供が生まれるらしいんだが、稀に突然変異的にオーガロードの数倍から数十倍の強さを持って生まれてくるのがいるらしいんだ。そしてホウゲキが正にそれだって噂だったんだ。年齢も不詳でさ」
(オーガロード‥‥シャンゼンがオーガロードだったな。彼もまた異常な強さだったけど、ホウゲキはそれ以上の強さだっていうのか?!)
シャナゼンとはゲブラーにあるオーガが住まう国、ジオウガ王国の王であり、史上最強のオーガと誉高い人物だ。
その強さはまさに鬼神の如くであり、様々な武勇伝が存在するが、彼の怒りに任せた破壊力は街一つをあっという間に壊滅させてしまうほどだった。
ホウゲキが強いというのも頷けた。
「それで、何でホウゲキを止めて欲しいんだ?」
カヤクは少し複雑な表情で話を続けた。
「俺はあの人に拾われた。戦争の最中、目の前で両親を殺され俺自身にも虫を殺すように刃が向けられた時に必死に怒りと殺意を返して生き延びたんだが、何の希望もないゴミ屑のような俺を拾って育ててくれた。教えられたのは殺人武術と勝たなければ無価値であり死だという理念。ほぼ洗脳だな。だが、俺はあの中に良心と高貴な何かを見たんだ。あの人もまたこんな時代に弾かれたゴミ屑みたいな場所で育ったと思うんだ。その中で徐々に洗脳させられた。あの人には力があったから余計に染まったんだと思うよ。だが、きっと救えると思っているんだ。悪いのは三足烏の上層部だ。俺には知り得ないやつらだったからよくわからないんだが、上層部にホウゲキは操られているんだと確信している」
「俺も同じ意見ですよ。もしホウゲキが単に強さだけを追い求める鬼だったら、誰も慕いません。あ、いや、みなさんを裏切る気は全くないんで誤解なきように願いたいんですが、少なくとも、カヤクさんたち分隊長はホウゲキに恐怖で従っていたわけじゃなく、ホウゲキの強さと信頼されている感覚の心地よさがあって従っていたんだと思うんですよ」
そこまで言ってカヤクとニトロは話すのをやめた。
まるでホウゲキを擁護しているように聞こえてしまうと思ったからだ。
「いいだろう。おれがホウゲキを止めてやるよ。だが命の保障はないからな。あいつの強さは見ている。おれも全力で戦う。そうなれば手加減など出来ない。殺すつもりで戦う」
「構わない。俺たちは別にホウゲキに改心してもらいたいわけじゃないんだ。あの力と勝利に捉われた洗脳というか呪縛から解き放ってやりたいだけなんだ。俺たちがやれればいいんだが、流石に無理だからなぁ。だが、あんたなら出来るかもしれないなぁ。俺も長く戦場に身を置いて生死の狭間で生きてきた人間だ。あんたがどれほどの強さなのかくらいは察しがつく。いや、それ以上だな。底が知れねぇ」
「そんな世辞は無用だ。それよりネンドウについて知りたい。ロムロナから聞いたんだが、今三足烏はジライが仕切っているらしいが、その中で厄介なのがネンドウってやつらしいじゃないか」
カヤクは真剣な表情で答え始めた。
「ネンドウ‥‥正直俺たちもやつが何者なのか分からないんだ。伝え聞いた話ではジライの下で動いているらしいんだが、俺の記憶ではやつは三足烏の幹部だった気がする。実は三足烏ってのは謎の組織でな。三足烏のトップが誰かも分かってねぇんだよ。ジクウって名前だけは聞いているんだが、ホウゲキも見たことがねぇらしくてさ。ネンドウって名前も聞いたことがあるんだが、実際に見たことはないし、ジライの下で動いているやつが本当にネンドウなのかも分からない」
「全く。お前らに期待できるのは三足烏の情報だけなんだが、全然使えないじゃないか」
「な!‥あ、いや、すまねぇ。だが、ジライについてならいくつか教えられることはあるぜ」
スノウは無言で頷いて話を続けるよう促した。
「あいつは三足烏の研究機関で生まれた人造人間なんだ」
「!!」
突然予想もしなかった情報にスノウは驚きを隠せなかった。
「あんたらは見ていないかも知れないがやつのスピードは異常だ。強化魔法なしで、ギョライの超連射を全て軽々と避けきっちまう。そういやスノウ、あんたはギョライと戦ったよな。あいつの本気はえげつない。最大銃を4丁同時に撃てる。それも連射でな。その無数の銃弾を全て完璧に避けきっちまう。それと頭脳だ。戦略を練るのが得意でな。ホウゲキは小細工が嫌いだから、ジライの理屈っぽいところに毎度イラついていたみたいだが、俺は正直恐ろしいと思ったぜ。あいつの戦い方には、気づいたら逃げ場がなくじっくりと殺されるような緻密さがある。それと冷徹さだな。ズバ抜けた知能とスピードを持って造られた人間だ。そしてあいつには良心や思いやりみたいなものは一切持ち合わせてねぇんだ。そういうのは造られる中で抜かれちまったんだと思う」
「なるほど。でもまぁいいじゃないか。そういうキャラクターの方が躊躇なく殺せる。エスティーを、おれ達を裏切ってエントワが死ぬきっかけを作ったといっても過言じゃないんだ。どういうキャラクターでも躊躇なく殺せるけどな」
カヤクはスノウの冷たい怒りのオーラを感じてゾッとした。
「情報収集できそうなのはそれくらいか。今蒼市はエネルギー障壁に守られているって話だから簡単には入れないかもしれない。あの場所に入る手段も突き止めなければならないと思うがとにかくさっき言った3つのミッションだ。まずはおれの仲間探しからだが、その中でジライとの遭遇する場合は叩きのめす」
「ウフフ‥スノウボウヤ、本当にいい男になったわねぇ。さらに惚れちゃうじゃないのぉ」
(昔を思い出してしまうわねぇ‥‥全てがボウヤが言っていた通り‥‥。だとすればあたしはあたしの役割を果たすだけだわねぇ)
ロムロナは珍しく真剣な表情を見せていたためスノウは少し心配になった。
「大丈夫かロムロナ」
「あらぁ!心配してくれているのぉ?ダメだわぁあたしちょっとだめかもぉ‥‥スノウボウヤ、あたしを看病しなさい?全裸で」
「断る」
そのやりとりを見ていたカヤクとニトロは開いた口が塞がらないといった表情になっていた。
「姉さんってスノウの前じゃあんな感じなんだな」
「あれだけ怖いのに、やっぱ姉様も女なんすね」
「ああ。そういうの悪くないかもなぁ」
「聞こえてたらやばいからそういうこと言わない方がいいですよカヤクさん。間違いなくとんでもない拷問受けることになるから」
「おや、あなた達。はっきりと聞こえちゃってるからこの後拷問ね。痛いのと苦しいのどっちがいい?」
「あ、そ、そう言えばガースのおっさんに頼まれた整備があったんだぁ。それじゃニトロあとは頼んだぜ」
「あ!ちょ、おい!あんた逃げるのかよ!」
そそくさとその場から立ち去ったカヤクに怒りの表情をみせているニトロはぎこちなくその場から立ち去ろうとしたがロムロナに捕まってしまい、そのままロムロナの拷問部屋へと連行された。
「何だか締まらない作戦会議だな。まぁいいや。とにかくガース、一旦緋市か素市に向かってくれるか?仲間がいるとすればホドカンだと思うんだ」
「了解したでガース」
スノウの指示に従ってヴィマナは進み始めた。
現在地から近い緋市へと向かうことになった。
・・・・・
緋市まで後30キロメートルの地点でヴィマナが緊急停止した。
ブリッジないが非常警報で証明が赤く変化している。
「何だ?!何が起こった?!」
警戒態勢は滅多に発生しない。
近距離でロン・ギボールと遭遇した際に発動する程度だ。
ロムロナ、カヤク、ニトロは慌ただしくスクリーンやソナーをチェックしている。
どうやらロン・ギボールではないようだが、3人は険しい表情でコントロールパネルを操作している。
タタン!‥ビンッ‥‥
スクリーンが切り替わり何かが映った。
「フォルネウス!」
「う、迂回だ!ニトロ!ガースに繋げ!エンジン出力全開だ」
「面舵全開よぉ!緊急退避!」
3人は慌てて退避コースを取り始めた。
「おい、フォルネウスってのは何なんだ?」
「海の悪魔‥‥地獄の侯爵と言われる魔王。海獣を従えて船を襲う恐ろしい存在よぉ‥‥1ヶ月前に突然現れたのだけど、あの元老院が軍を出して壊滅させられているわぁ。海獣たちも相当手強いのよねぇ。あたしでも数体が限界。でもフォルネウスの力はその数百倍‥‥元老院が蒼市にエネルギー障壁を張り巡らせた理由にもなっているの」
「姉さん!喋ってる暇はねぇぞ」
「ええ!」
ガッ‥
スノウがロムロナの肩を掴んだ。
「時間が勿体ない。迂回の必要はない」
「何のつもり?」
「おれが何とかする」
「はぁ?!いくらあなたが強いからって分を弁えなさい!」
スノウは無言でブリッジを出て行った。
「ちょっと!」
「姉さんどうする?!俺たちじゃあいつを止めることはできないぜぇ!」
「とにかく迂回するわ!」
“おい!誰かハッチを開けとるでガースよ!これじゃ潜航できんでガース!開けとるバカは誰でガスか?!”
ガースが伝令管で話しかけてきた。
「スノウ‥‥」
ロムロナは怒りの表情でスクリーンを見た。
ヴィマナの上部を映す映像にスノウが映っている。
甲板の上にスノウが腕を組んで立っていた。
「どうするんすか?!」
「見守るしかないでしょ!」
3人はスクリーンでスノウを見守るしかなかった。
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