<ホド編 第2章> 4.3つのミッション
4.3つのミッション
「スノウじゃねぇかでガース!」
「久しぶりだなガースのおっさん!」
ガシィ!
「いでで!離さんかいボケでガース!お前本当にスノウでガースか?!」
スノウはガースのいる機関室へ訪れていたのだが、彼の顔を見て嬉しさのあまり彼の腕を掴んだ手に力が入り過ぎてしまったようで、悲鳴をあげたガースはスノウの手を振り解いて自身の腕を摩って痛がった。
「痛てぇでガスなぁ!」
「すまない‥‥」
「まぁええよ。そんで、お前さん何をしてたんでガースか?」
話すと長いため、スノウは簡単に越界して戻ってきたことだけを伝えた。
「なるほどでガースな。まぁとにかく、一緒にアレックスを救ってくれるでガスな?」
「勿論だ。絶対にアレックスを救い出す」
「ガスガスガス!まぁひ弱なスノウが増えたところで大した戦力にはならないかもでガースけどな」
(あ、そうかガースの記憶ではおれはまだホドに来たばかりの状態だったな。てか今の笑い声なのか?!)
スノウは苦い笑みを見せながら言葉を返す。
「安心してくれ、ワサンも生きてこの世界にいるはずだ。他の仲間もいる。全員揃えば絶対にアレックスは取り戻せる」
「まぁ、わしは期待せんでやれることをやるだけでガース。さて、とにかくこの船に乗ったら働くでガースよ。早速動力システムの再設定を手伝うでガースよ」
「ははは、分かったよ任せろ。それはそうと、おれ、例の飛翔石を持っているんだ。これがあればヴィマナは飛ぶんだろ?」
そう言ってスノウはフェニックスから入手した飛翔石であるタガヴィマをポーチから取り出してガースに見せた。
アレックス達が長年探し続けて、スノウと共に入手したタガヴィマは巨大船ヴァマナを飛ばすために必要なアイテムだ。
「おおおおお!!」
ガースは飛翔石を触ろうと手を出したがすり抜けてしまった。
「な!何でガースか?!」
「何で?ってかガース!これ確か放射能が出てるはずだから近寄らない方がいいぞ!」
「お、おお‥‥」
ガースは驚きつつも距離を取った。
スノウは普通に触れることが出来るのだが、ガースは触れることが出来なくなっていた。
「主人よ」
突如マダラがスノウに話しかけてきた。
「これは我の知り得る貴重な情報だが聞きたいか?」
「何だよ突然。今忙しいんだ」
「タガヴィマに関する情報なのだが、聞きたくないということなら黙っていよう」
「面倒くさいな。さっさと教えてくれ」
「おいスノウ!何か声が聞こえたが何でガースか?!」
「ああ、そっか普段は見えないんだったな。マダラ、姿を見せてくれ」
「承知した」
マダラは透過擬態状態を解いて姿を現した。
突如スノウの体に巻き付いた蛇の姿を見たガースは後方に飛び退くように腰を抜かして尻餅をついた。
「なんじゃ!ほえぇぇ!」
(ガースつけるの忘れるくらい驚くよなそりゃぁ‥‥)
「こいつはマダラ。元々は世界蛇ヨルムンガンドの分霊体だったんだが、戦って勝ったことでヨルムンガンドから引き離されて独立した存在になったんだ。それ以降、行動を共にしている」
「貴様、名はガースとか言ったな。我はマダラ。主人スノウ・ウルスラグナより下僕の命を拝任した。貴様もまた主人の下僕であろう。下僕間における序列は力の差によって決まるものだ。見るからに弱そうな貴様は我の遥か下の階級となろう。精々我が主人のため精進するのだな」
「‥‥‥‥スノウ、こいつしめ殺していいでガースか?」
「好きにしていいが、情報を聞いてからだ。マダラ、タガヴィマについて何か知っているのか?」
「タガヴィマについては詳しくはない。だがフェニックスについては多少知識がある。以前オボロに聞いたことがあるからな」
「何だよ、お前発信の情報かと思ったらオボロからの又聞きかよ。それで?」
「何と残念な物言いか。ならば我は口を閉ざそう」
「分かったよ!お前の情報をおれにくれ」
「よし、それで良い」
「スノウ、お前、それ本当にお前のペットでガースか?」
マダラの話には大きなヒントがあった。
フェニックスとは元々日の鳥の一枚の羽だった存在らしい。
その時は羽としての実態があったのだ。
だが、自分も日の鳥と同様に鳥になりたいと太陽神に懇願したのだそうだ。
願いは叶ったのだが、羽一枚の持つ力では実体化することができず、エネルギー体となったらしい。
岩や鉄など物質を取り込んで実体化しているように見せることが出来るが、通常本体には触れることが出来ない。
なぜかスノウだけは触れることが出来、フェニックスを倒してタガヴィマを手に入れることが出来たのだが、金属の塊に見えるタガヴィマもまたフェニックスの一部であるためスノウ以外には触れられない状態らしいのだ。
放射能が放出されていることからアレックスたちは触ることがなかったため触れられないことに気づけなかっただけで、今回勢いでガースが触れようとして初めて触れられない物質なのだと知ったのだ。
ちなみに放射能はスノウが持っている限りは抑えれているらしい。
どのような構造なのかはマダラも知らないそうだが、とにかくスノウが持っている時は何かの膜に包まれているように放射能が抑えられているらしい。
ガースには影響がないと分かりスノウはホッとした。
「ヴィマナの飛行装置を調べるでガス。触れない状態でも機能するならそれでいいでガースからな」
「確かに。飛行装置にセットするのはおれがやればいいしな」
「わしは今から飛行装置を調べるから、坊主は動力システムの調整をやるでガスよ」
「了解した」
そう言うと、スノウは一晩中ヴィマナの動力システムの調整を行った。
ガースは嬉しそうに飛行装置のしくみを確認していた。
・・・・・
翌日。
会議室に全員が集まった。
ガースが一晩中飛行装置を調べた結果を全員に共有するためだった。
カヤクとニトロは何のことだか分かっていなかったが、ロムロナはスノウが飛翔石を持ち帰ったことを思い出して驚いていた。
ガースの調べた結果では、飛行装置に飛翔石をセットしても飛行機能は起動しないとのことだった。
「何が足りないんだ?」
「温度でガスよ」
「温度?」
「そうでガス。約6000度の温度の炎を焚べる必要があるでガス。その温度の炎に飛翔石が反応して飛行エンジンが稼働するでガース」
「6000度?!」
スノウは目をまるくして驚いた。
だが、他の者はあまりにも現実とかけ離れた温度によく分からなくなっている。
「6000度ってどれくらいだよぉ。検討もつかねぇな」
「マグマくらいじゃないですか?」
「マグマくらいかぁ‥‥そりゃぁ熱そうだなぁ」
「ですねぇ」
「お前ら‥‥勉強したこと無いのか?」
「ベンキョウ?何だそれは。何かの訓練か?」
「きっと特殊な武器を使った試合ですよ。鞭の強いやつですね。間違いない」
カヤクとニトロの会話にスノウは頭を抱えた。
「マグマは確か1000度くらいだ。6000度が如何に高温か分かるだろ?6000度ってのは太陽の表面温度だったはずだ。確か太陽は1億5000万キロメートルくらい離れた場所にあったはずだが、とてつもなく遠い距離にも関わらず暖かい温度が届いているってところからも6000度ってのが如何に高温か分かるだろ?」
「なるほどねぇ」
「なるほどですねぇ」
「‥‥お前ら絶対分かってないだろ‥‥」
「ウフフ‥まぁそんなに目くじら立てる必要もないでしょう?このボウヤたちにそんな知能があるわけないんだからぁ。このボウヤたちは知能が低いから戦うしか能がないのだし、知能が低いから戦っても負けてしまうこともあって、知能が低いから何で負けたかも気付けないのだしねぇ」
『‥‥‥‥』
ズゥゥゥゥン‥‥
カヤクとニトロはロムロナの激しい言葉の暴力に両手両膝をついて落ち込んだ。
(そういえば、どの世界にも太陽と月があるよな‥‥マルクトとはどういう位置関係なんだ?同じ場所にあって違う次元に存在しているとかか?)
スノウは今更な疑問に気づいたが、考えても答えは出ないのでいつかスメラギと再会した時に聞いてみようと決めて考えるのをやめた。
「とにかくだ。6000度の火力をどこかで調達しなければならない。ホド中をくまなく探して入手する。ガース、ヴィマナでホド中を巡りたいんだがいけるか?」
「誰にもの言っているでガスか?どこにだって行けるでガスよ」
「それじゃぁおれの立てた計画を伝えたい」
「まるでリーダー気取りだなぁ」
ギロリ‥‥」
「あ、いや、まぁ俺たちは新参ものだからお前の指示に従うぜ。なぁニトロ」
「ええ。俺たちはスノウさんの指示に従いますよ。何でもしますんで、遠慮なくご指示ください」
「‥‥‥‥」
スノウはふたりを数秒無言で睨みつけた後、話を続けた。
「おれ達のミッションはとりあえず3つだ。ひとつはおれの仲間を探すことだ。そしてふたつめは三足烏のジライを捕らえて元老院と三足烏について全て吐かせる。大した情報を持っていない役に立たないやつらのせいもあってこんな面倒なミッションになっているんだが!」
スノウはカヤクとニトロの顔を見て言った。
ふたりはバツ悪そうに苦い表情を浮かべた。
「そして最後は囚われているアレックスを救うことだ。無事にアレックスを救い出しミッションを完了した後、6000度の炎を手に入れてヴィマナを飛ばす。そして亀を叩きのめす。これはアレックスの悲願でもあったからな。アレックスを救い出してあいつと共に亀をぶちのめす」
「スノウボウヤ。異論はないわ。だけど、あなたのお仲間達のことはワサン以外知らないのね。一応どんな子たちなのか教えてくれる」
「そうだな。おれの仲間は全部で9人。おれは越界してこれまで幾つかの世界を巡りながらレヴルストラのトライブを作って仲間を増やしてきた。ひとりは元々このホドでレヴルストラの一員だったワサン。昔は銀色の狼の顔をした獣人だったんだが、とある世界で姿が変わったのか今は人の姿になっている」
「ええ?!そうなのぉ?!」
「あのワサンが人に?!でガスか?!」
「ああ。だが会ったらすぐにワサンだって分かるはずだ。雰囲気は変えられないからな。そして元々おれのいた世界で一緒だったフランシア。とても強い女性だ。それとティフェレトで会ったソニック‥‥たまに姉のソニアに代わる。双子の姉弟なんだが体はひとつだ。まぁ彼らも会ったら分かる。あと、潜入調査が得意な炎使いのシンザ、そして特殊な力を持ったホムンクルスのルナリ、レヴルストラの中でダントツの戦闘力を誇る半神のシルゼヴァ、怪力ならホウゲキ以上の同じく半神のヘラクレス。それと、魔王のアリオクだ。そして今は炎の姿になっているがおれの親友バルカン。彼は今おれの背中のケースに入っているからそれ以外の9名だ」
「へぇ‥随分と仲間ができたのねぇ‥」
(さらっと言ったけど、ホムンなんとかって何?それに半神とか‥‥挙げ句の果てには魔王?!あんた一体どこで何してたのよぉ‥‥)
驚き方が分からないロムロナは混乱しつつも少し嬉しそうに言った。
卑屈で人間不信だったスノウが強さだけでなく、信頼できる仲間を自分で作っていたことが嬉しかったのだ。
「な、何だよ‥」
「ううん、何でもないわよぉ」
「変なやつだな相変わらず‥‥それでふたつめだが‥‥」
カヤクとニトロが何かを言いたそうな表情をしているためスノウは一応聞いてみることにした。
「何だよ。何か言いたいなら言ってみろ」
「い、いやさ、その、ヘラクレスとかいう半神はホウゲキより力が強ぇってのは本当かい?」
「ああ。だが、シルゼヴァ、そして魔王のアリオクはもっと強い」
「そうかい‥‥」
「何だよ」
「いやな‥‥ホウゲキを止めてくれる存在がいるかもと思ったら鳩尾のところがざわついてな‥‥」
「ホウゲキ‥‥何でお前がやつを止めて欲しいなんて思うんだ?」
「実はな‥‥」
カヤクはホウゲキについて話し始めた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




