<ホド編 第2章> 2.カヤクとニトロ
<レヴルストラメンバー>
【スノウ】:レヴルストラのリーダーで本編の主人公。
【フランシア】:最初にスノウを越界させた謎多き女性。スノウをマスターと慕っている。どこか人の心が欠けている。
【ソニック/ソニア】:ティフェレトで仲間となったひとつ体を双子の姉弟で共有している存在。音熱、音氷魔法を使う。
【ワサン】:ホドで仲間となった根源種で元々は狼の獣人だったが、とある老人に人間の姿へと変えられた。
【シンザ】:ゲブラーで仲間となった。潜入調査に長けている。
【ルナリ】:ホムンクルスに負の情念のエネルギーが融合した存在。シンザに無償の愛を抱いている。
【ヘラクレス】:ケテルで仲間になった怪力の半神。魔法は不得意。
【シルゼヴァ】:で仲間になった驚異的な強さを誇る半神。
【アリオク】:ケセドで仲間になった魔王。
【ロムロナ】:ホドで最初に仲間となったイルカの亞人。拷問好き。
【ガース】:ホドで最初に仲間になった人間。ヴィマナの機関士。
2.カヤクとニトロ
ロムロナは三足烏のカヤクとニトロがなぜヴィマナに乗船しているのか説明し始めた。
・・・・・
時間はホドのダンジョンでレヴルストラ1stと三足烏・烈が熾烈な戦いを繰り広げていた終盤、スノウが切り札のリゾーマタ暴風雷雨系クラス5の魔法ウィリウォーを放った直後に遡る。
スノウの放ったウィリウォーの影響でダンジョン内は暴風と地割れで大きく崩れ始めたのだが、何とか脱出したロムロナの前に現れたのがカヤクとニトロだった。
最初はロムロナは警戒し戦闘体勢に入ったのだが、すぐに武器を下ろした。
何故ならカヤクはエントワの亡骸を背負っていたからだった。
「あんたどういうつもり?!」
「このおっさん、暴走した俺を救ってくれたんだ。勝つことが全て、負ければ死だと刷り込まれた敵である俺に、死んで勝つということを教えてくれたんだよ。こんな俺なんかよ、救う価値なんてねぇのにさ」
「あんた名前は?」
「カヤクだ。こっちは俺の部下のニトロだ」
「カヤクボウヤ。これだけは覚えておくことね。この世の中、価値のない者なんて誰一人だっていないのよ。だから2度と自分をそんな風に言わないことね。エントワの死を侮辱しているのと一緒だしね」
カヤクは目に涙を滲ませながら答えた。
「確かにな。その通りだ。俺はこれからこのおっさんに恥じない生き方をするぜぇ」
「はい、分かったらエントワの亡骸を置いて戻りなさいよ」
「戻るって?」
「はぁ?!あんた三足烏でしょ。そっちのニトロボウヤも」
カヤクはニトロの顔を見た後、エントワをロムロナの側に寝かせ、少し離れてから思い詰めたように話し始めた。
「本当に変なお願いをするんだが、俺とこいつをあんたの仲間に入れてくれねぇか?」
「はぁ?!」
ロムロナは目を見開いて怒りの表情でカヤクを睨みつけた。
「い、いや、と、当然だよな‥‥」
「当たり前ね。三足烏としてあたし達のトライブに潜入してまた罠に嵌めようって魂胆?ジライのように!」
「!!‥‥い、いや‥‥何を言っても信じてもらえないと思うんだがさぁ‥‥」
「信じないわよ!エントワを出しに使って侮辱しているのも同義!さっさと消えな!このあたしの怒りが爆発する前にねぇ!」
ロムロナは凄まじい殺気のオーラと共に魔法を詠唱し始めた。
「待て待て!だったらこれでどうだ!?」
ズバン!!
カヤクは自分の左腕を円月輪で斬り落とした。
「はぁ!!‥‥あんた何してんのよぉ!!」
シュゥゥン‥パシ!
ズバン!!
カヤクは円月輪をニトロに向けて投げた。
円月輪を受け取ったニトロはそのまま自身の左腕を斬り落とした。
「へへ‥‥こ、これで俺は三足烏にはいられねぇ。お払い箱ってことだなぁ。もしくはホウゲキに殺されるかだ。あんたらのお仲間にしてもらえなくても仕方がねぇが、俺たちが三足烏に戻るつもりがねぇことだけは信じもらえるかい?」
「あんた達‥‥一体何がしたいのよぉ」
カヤクは脇を締めて血を止めながら両膝をつき頼み込むように頭を下げた。
ニトロも同様に膝をついて頭を下げている。
ふたりの左腕からは血が滴り地面に広がっている。
苦しい表情を押し殺すように笑みを見せながらカヤクが話し始めた。
「さっきも言ったが、俺はそのおっさんに救われたんだ。俺は元々戦争で親を殺された身でな。ホウゲキに拾われたんだが、常に勝つことを強いられて強さだけを追い求めてきた。そう育てられ、鍛えられ、体と心に勝てなければ死、っていう考えを植え付けられて生きてきたのさ。人の心なんてとっくの昔に壊れて無くなったって思ってたよ。だが、そのおっさんは俺の中にほんの少しだけ残っている人の心ってのに手を差し伸べてくれたんだ。その時俺の中で何かが変わったんだな。死なないように生きてきた人生が、生きたいように生きていいんだってさ」
「‥‥‥‥」
「こいつも同じだ。このおっさん背負って出る時、ニトロがレヴルストラの仲間に入りたいって言い出してな。バカ言うんじゃねぇって怒ったさ。どこに仲間を殺したやつを仲間にしてくれる場所があんだってな。だが、改心するには意地も恥もプライドも全て捨て去る必要があるって凄んで来たんだよ。確かに俺は全てを捨てることが出来てなかったって思ったんだ」
「‥‥‥‥」
ロムロナはカヤクの話を無言で聞いている。
「それでここへ来たってわけだ。頼む何でもする!俺を、ニトロをあんた達の船に乗せてくれ!」
カヤクもニトロも相当な激痛が走っているにも関わらず、真剣な眼差しでロムロナに訴えてきた。
「‥‥‥‥」
ロムロナは冷たい表情で無言で2人を見ていた。
「片足も差し出すぜぇ‥‥」
カヤクは円月輪を取り出して右足を太ももから切断しようと振り下ろす。
カカァン!
ロムロナは背中に背負っている槍を素早く手に持ち円月輪を止めた。
「あたしはね、四肢切断は好きだけど、自分で斬られるのは好きじゃないよ。今なら魔法で切断された腕も修復できるでしょう」
「?!」
「早くしなさいよぉ。片腕の男ふたりを抱えて置けるほどウチのトライブは裕福じゃないんだからね。しっかりと働いてもらうわぁ」
「ロ、ロムロナ!」
「ありがとうご!」
「気安く名前呼ぶんじゃないわねぇ。お姉様とお呼び!」
「姉さん!」
「姉様!」
「うわ!キモいわキモい!その呼び方は趣旨が変わってくるから止めて!」
「い、いや姉さんだ」
「俺も姉様と呼ばせてもらいたい」
「キモいわねあんた達。言っても聞かなそうね全く‥‥まぁ好きにすればいいわぁ。気に食わなかったら殺すけどね。拷問し尽くした後で。フフフ」
「ありがとう!」
「ありがとうございます!」
・・・・・
「という訳なのよぉ。だから剣を下ろして!そのボウヤがいなければエントワは今頃地の底だったのよぉ」
「‥‥‥‥」
スノウは無言で周囲を見渡した。
カヤクからは反撃するようなオーラは発せられていない。
ニトロも両手をあげて降参のポーズをとっている。
ロムロナもいつになく真剣な表情だった。
(何か弱みを握られていることもなさそうだ)
スノウは冷静に観ることに徹していた。
「ロムロナ。この船に乗っているのは他に誰がいる?」
「他にはガースボウヤだけよぉ」
「!!‥‥アレックスとニンフィーはどうした?」
「‥‥まずは剣を下ろしな、スノウボウヤ。それを話すのは剣を下ろしてからだよ。その後で作戦会議室に来て」
そう言うとロムロナはブリッジから出ていった。
スノウがこれ以上カヤクとニトロに刃を向けないと確信したのだろう。
ロムロナの真剣な表情を信じ、スノウは剣を下ろした。
「ありがとうな、信用してくれて」
カヤクの言った言葉にスノウは怒りの表情を見せた。
「お前らを信用した訳じゃない。ロムロナを信じて剣を下ろしただけだ。勘違いするな。少しでも怪しい動きをすればおれはお前達を躊躇なく殺す」
スノウはロムロナの後を追って作戦会議室へと向かった。
「おいニトロ」
「ええ。あのスノウってやつの変わりようですね?」
「ああ。あいつのオーラ、そしてあの動き‥‥人じゃねぇレベルだ。あの天変地異を起こしたのも頷けるが、あまりにも変わりすぎていて同一人物かどうか疑っちまったぁ」
「一体あのお人に何があったのでしょうね。強さだけじゃなく、相当な修羅場を潜ってきた凄みもありますよ。あの姉様が動けずにいましたらね」
「確かにな‥‥」
・・・・・
スノウは作戦会議室に入った。
懐かしい光景にスノウはホドに戻ってきたのだとふたたび実感した。
「そこに座りな」
スノウはロムロナの言われるままに座った。
ロムロナは中央にあるテーブルの上に何かの機械を置いた。
スイッチを押すと、空中にホログラムが映し出された。
「!」
ハノキアのそれぞれの世界はマルクトと呼ばれる地球の文明レベルに対しだいぶ遅れているのだが、世界に存在する古代の遺物にはマルクトの文明レベルを遥かに超えるものが存在する。
目の前のホログラムもそれに該当するが、そもそもこの巨大な船ヴィマナもまたどのようなカラクリで動くのか不明であった。
「ガースは元気か?」
「ええ。後で会わせてあげるわぁ。相変わらずこの船はガースボウヤにしか扱えないわねぇ。あたしは操舵するだけ。元々のレヴルストラメンバーはあたしとガースだけだから、流石にふたりでヴィマナを動かすことは出来ないのね。だからカヤクとニトロが来てくれて正直助かっているのよぉ」
「‥‥‥‥」
ロムロナはスノウの複雑な表情を汲み取った。
「まぁすぐに仲良くしろなんて言わないわよぉ」
「‥‥それで、このホログラムがどうかしたのか?」
「ええ。その前に、まずニンフィーだけど、あの子はスノウボウヤが起こした天変地異に巻き込まれて消えてしまったわ。消える寸前にあたしに念話を送ってきたんだけど、必ず戻るから気にしないでって言ってた。あの子が大丈夫って言っているのだから大丈夫なのだと思うわぁ」
「ニンフィー‥‥」
(まさか、おれが越界した時に巻き込まれてどこか別の世界に吹き飛ばされたとか?!ニンフィーはカルパの魔力に耐えられないはずだ‥‥大丈夫なんだろうか‥‥)
「心配する気持ちも分かるわ。あんたはあの子に惚れてたもんねぇ」
「は、はぁ?!」
「ふふふ、冗談よ。相当強くなったみたいだけど、ウブなところは変わってなくて安心したわぁ」
「揶揄うなよ、ドS女」
「ふふふ、褒め言葉ありがとう」
「褒めてねぇし。それで他の仲間は?」
「エントワボウヤはあの時命を落として、今は蒼市のヴェルドロワール一族のお墓にいるわね。折りを見て挨拶にでも連れて行ってあげたいんだけどちょっと事情があって今は無理そうね。このあたりの状況は後で話すわぁ」
「ああ‥‥」
エントワはスノウに冒険者としての心構えを教えてくれた紳士であり騎士だ。
スノウにとって生き方の手本でもある存在だ。
今のスノウの剣技の基本はエントワに叩き込まれたものだ。
「そして、ワサンボウヤとエスティだけど、ニンフィーと同様に消えてしまったわね。あたしにはスノウボウヤと一緒に地面の亀裂に吸い込まれていったように見えたけど、それっきりだわね」
「ワサンとエスティなんだが‥‥」
スノウはエスティと共にティフェレトへ越界し、彼女がティフェレトの王女となったこと、そしてその後ゲブラーでワサンと再会し、それ以降一緒に旅をしており共にホドに戻ってきていることを伝えた。
はぐれてしまってはいるが、レヴルストラの面々は間違いなくホドにいるとなぜかスノウは感じ取っていた。
「そうなのね、よかった‥」
ロムロナは目に涙を滲ませている。
彼女が涙を流すことなど滅多にない。
それだけ嬉しいのだろう。
「しかしウルズィーボウヤがティフェレトとかいう世界の出身で越界者だったとはねぇ」
「ああ。おれの仲間のゴーザっていうドワーフの王子がいるんだが、そいつが信頼してエスティを託したのがウルズィーだったって話だ。不思議な縁だよな」
「そうね‥‥。あの時ウルズィーと一緒に援軍としてきてくれていたパンタグリュエルのグレゴリボウヤも元気だわねぇ。今も頼りないけど一生懸命パンタグリュエルの団長として頑張ってるわねぇ。たまに揶揄いに行くけど。あの子もスノウボウヤと同じでウブだから可愛いのよ」
「その表現やめろ‥‥それでアレックスは?」
スノウはロムロナが中々アレックスの名を出さないことから彼に何かあったのだと察し躊躇していたが、勢いで質問した。
「‥‥これが何を表しているかは分かるわね?」
ロムロナはホログラムを示して言った。
「ホドだろ?4つの点はホドカンだな?」
ホドカンとは陸地のないホドで人が住むことが出来る唯一の場所である巨大な人工島の都市だ。
元々レヴルストラが拠点としており、元老院が支配している蒼市、ホド最大キュリアのガルガンチュアが拠点としている緋市、今は規模が小さくなってしまったが嘗ては第二の規模を誇っていたキュリア、パンタグリュエルの拠点である素市、そして今は滅んで殆どが海底に沈んでしまった膝市の4都市が存在する。
「もうひとつの点は分かる?」
「これか?‥‥微妙に動いている‥‥もしかして巨大な亀の化け物か?たしかギボール‥‥ロン・ギボールだったか」
「そう。そしてアレックスボウヤは今この亀ボウヤの中に囚われているのよ‥」
「!‥‥なんだって?!」
スノウはゆっくりとした動きをみせる点を見つめていた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




