<ケセド編> 175.0時0分0秒
175.0時0分0秒
「助かったよアリオク」
地上に降りてきたアリオクに向かってスノウが言った。
「いや大したことはしていない」
「滅祇怒を弾いてくれたじゃないか」
「あれはスノウ、お前でも容易に弾くことができたはずだ。お前達も気づいているだろうが、天使が持つ力は神の恩寵の量によって大きく変化する。ハノキアに配置された守護天使は恩寵の量が本来の量の数倍から数十倍となっている。もしこの場にいたのが、ハシュマルではなく神の意志に忠実な守護天使ザドキエルであったなら結果は違っていたかもしれんな」
「だが、ザドキエルはディアボロスと共にオルダマトラの中にいて越界したんだよな。それでも神の意志とやらに忠実なのか?」
「おそらく神を裏切ったのだと思われる。俺の依頼主はサンバダンの捕縛に加え、オルダマトラ追跡のミッションも依頼してきた。お前達にはまだ理解できないだろうが、レメディウム計画ケセド書というものがあり、その中に今回のアガスティア大崩落、反転アガスティア形成、そしてオルダマトラ顕現が書かれていたらしい。その目的までは聞かされていないが、オルダマトラの顕現は今後のハノキアに大きな危機を齎す可能性がある。故に俺はあれを追跡し、所在を知らさねばならないのだ」
「レメディウム計画ケセド書‥‥何だよそれは‥‥ディアボロスがそれに噛んでいるってことなのか?」
「おそらくな。そしてザドキエルもだ」
「一体何が起きているんだ‥‥」
スノウとアリオクの会話を聞いていたレヴルストラの面々の中で興味を示したシルゼヴァが嬉しそうに話しかけてきた。
「いいじゃないか。オルダマトラは見つけて叩き潰せばいいだけのこと。重要なのはあやつらが何をしようとしているかだ。その目的はおそらくハノキアの破壊などという単純なものではないだろう。オルダマトラを破壊する手段はあるだろうが、オルダマトラがあやつらの目的を果たす唯一の手段ではない可能性もある。とにかくあやつらの目的を掴むことだ。楽しくなってきたなスノウよ、やはりお前と共に旅は刺激的だ。早く次の世界へと向かおう。もっと俺を楽しませてくれ」
「はっはっは!シルゼヴァよ、面白いなお前は。まるで破壊神が好奇心旺盛な赤子に生まれ変わったかのようだ。当面の目的は同じ。俺も是非レヴルストラの仲間に正式に加えてもらいたい」
アリオクは頭を下げた。
「おいおい、魔王が頭下げるってどういうことだよ」
ワサンが笑いながら言った。
「まぁいいんじゃない?元々暫定的に一緒に行動するって聞いていたわけだし、そもそも並行世界では世話になっているんだから」
ソニアも笑顔で言った。
他の面々も異論はないという表情で頷いている。
「アリオクを正式なレヴルストラのメンバーとして迎えよう。魔王が仲間とは心強いしな」
ズン!
アリオクの前にヘラクレスが立ちはだかった。
「お前、もし俺たちを裏切るようなことがあったらただじゃおかねぇからな」
いつになく凄まじい威圧のオーラが周囲に広がる。
スノウ達はそのオーラを感じ取り、改めて魔王という存在を簡単には信用してはならないと戒めた。
(ヘラクレスは正しい‥‥おれは簡単に信用し過ぎる。過剰ポテンシャルが働いているのか、仲間への信頼感が強いせいか、仲間のように接している者を信用し過ぎる傾向がある‥‥気をつけないとな‥)
ズボッ!!
『!!』
「何やってんだよてめぇ!」
アリオクは自分の胸部に手を突き刺して中から何かを取り出した。
ギュワァン‥ギュワァン‥ギュワァン‥
その手には野球ボール大の赤く輝く玉が握られていた。
「これは俺のコアだ。魔王や悪魔、天使にはこのようなコアがある。これはこの世界に肉体と意識を定着させるために必要なものだ。これをお前に預けよう。万が一俺が裏切るようならこのコアを破壊すればいい。破壊と同時に俺は消えてなくなる」
「‥‥‥‥」
ヘラクレスはアリオクのコアを受け取るとスノウに手渡した。
「こういうのを持っているのは俺の性に合わない。これはお前が管理してくれ」
「分かった」
スノウはアリオクを見た。
「スノウ。仮に俺の依頼主がお前達の抹殺をミッションとして依頼してきたとしても、お前達に危害は加えない。危害を加えれば俺は冥府へと堕とされる。依頼主を説得し、断りきれない場合は自ら消える。これは契約だ」
「分かった。お前がレヴルストラを抜ける時にこのコアはお前に返す。それまではお前はおれ達の仲間だ」
「ありがとう」
アリオクは礼を言って頭を下げた。
自分を信じさせるための動作なのか、礼儀正しい性格なのか分からなかったが、スノウは推測するのをやめた。
アリオクの態度で自分が理解していくしかないのだと思ったのだった。
「よし、それじゃぁ早速スメラギさんの謎解きと行きたいんだが、もう一度チャレンジだな」
「それなんですがスノウ。天使が出てくる前に一度この時計の針を動かした時、何の反応もありませんでした。何か秘密があるのではと思うのですが‥」
「確かにな。何か解決方法でも浮かんだのかソニック?」
ソニックは顎に手を当てて少し考えた後、考えを話し始めた。
「これはスメラギ様‥スメラギさんの謎かけですが、きっと僕らにしか解けないように仕組まれた謎かけですよね。万が一にも僕ら以外がこの先に進まないようにいくつかの条件をクリアしなければならないと思うんです」
「いくつかの条件?例えば?」
「そうですね。スノウが既に明らかにした、デフレテから15秒間隔で針を1周させるといった条件です。だが、条件はこれだけではない。おそらく開始時間が関係しているんだと思います」
「なるほど。闇雲に回しても開かないってことか。開始時間‥‥スタート場所は屍の街デフレテ‥‥並行世界では命の街アフレテ‥‥生と死‥‥無から生まれ無に還る‥‥もしかして?!」
「そうです。生と死が無だとしたら‥‥数字はゼロ。0時0分0秒をスタート時間として回すのだと思います」
『!』
皆目を見開いて納得の表情を見せた。
「全く面倒臭いなスメラギさん!とりあえず夜中までこの場で野営だな‥‥」
「まぁいいじゃねぇかスノウ!新しいメンバーも増えたことだしよ、今日の夜もパーティーと洒落込もうぜ!」
先ほどのアリオクの対応を信頼したのかヘラクレスの変化にスノウは苦笑いしつつも、気が楽になったのを感じた。
(そういえばヘラクレスはこんな感じだが、おれ達の心境を誰よりも察してくれてるよな。疑うべき時は疑い、信じるべき時は信じる。中途半端は良くないよな。そして焦る気持ちはあっても急いても意味はない。ならばそれまでの時間は楽しめばいい。今はアリオクを信じて肩の力を抜いて楽しめ‥‥そう言いたんだろヘラクレス)
ポン‥
スノウはヘラクレスの肩を軽く叩いた。
「よし!それじゃぁスタート時間までは盛大に盛り上がろう!まずは分担して食材集めだな!」
「酒が切れてるぞスノウ!酒がねぇと始まらないんだが!」
「ヘラクレス、俺に任せておけ。酒の調達は新人の役目。俺が調達して来よう」
そう言うとアリオクは凄まじい速さで飛び立った。
「今回の新人は気が効くじゃないか!」
ヘラクレスはルナリの方をチラ見しながら言った。
「あぎゃぎゃぁぁ!」
ルナリから無数の手が出現しヘラクレスに構造が分からないほど複雑な関節技をかけた。
それを無視するかのようにスノウ達はそれぞれの分担を決めて食材探しやテント張りなど行動を開始した。
・・・・・
スノウ、フランシア、ワサン、ソニア、ソニック、シルゼヴァ、ヘラクレス、シンザ、ルナリ、炎状態のバルカンに加えアリオクが加わり、現在のレヴルストラのメンバーは11名となった。
普通であれば人数が増えるにつれてグループが出来るのだが、レヴルストラにはそれはなく、一体感あるトライブとなっていた。
宴は笑いの絶えない形で盛り上がった。
アリオクが調達してきた酒は格別で量も尋常ではないほど持ってこられていたため最初は飲み干せるのかと思ったが、ヘラクレス、ソニア、シンザ、ルナリが大量に飲んだこともあってあっという間になくなってしまった。
表情のないアリオクも楽しいのか、要所要所で笑みを見せており、酔ったソニアに突っ込まれては無理やり無表情を作っていた。
そしていよいよ0時を迎えることとなった。
「よし、それじゃぁ準備はいいな?」
「おう!」
「あんた大丈夫?あんなに飲んでさぁ。力入んないんじゃないのぉ?」
「おいソニア。お前酔っ払ってんな?俺は酔わねぇから安心しろ。見ろやこの筋肉。カッチコチだろ?」
ヘラクレスは上腕二頭筋を異常なまでに盛り上がらせて自慢げに言った。
「キモいんだよ肉団子!早く準備しろ!」
バシ!バシ!バシ!
酔っているソニアは力瘤を見せているヘラクレスの尻を何度も蹴っている。
「うぉし!それじゃぁ行くぜ!スノウ、合図してくれ!」
ヘラクレスは針を掴み、全身の筋肉に力を入れた。
体の筋繊維と血管が浮き上がり、体が1.5倍ほどに膨れ上がる。
「よしカウントダウンだ!5‥4‥3‥2‥1‥」
「ふんぬ!!」
グギギギィィィ‥‥
時計の針が回り出す。
15秒間隔でアディシェス跡地、ポロエテ、クルエテの方向に向けて回し、1回転させた。
ドゴォォン!!
突如針の付け根を中心に直径5メートルほどの地面が浮き上がった。
バシュゥゥゥゥゥ!!
浮き上がった地面の側面から蒸気が噴き出る。
ヘラクレスはさらに針を回していく。
すると、せり上がった地面がさらに上がっていく。
もう1回転すると、せり上がった地面の下に螺旋階段が現れた。
「開いたな」
「ああ」
「下へ降りてみよう」
スノウ達は慎重に階段を降りていった。




