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<ケセド編> 174.レヴルストラの力

174.レヴルストラの力


 ヒュン‥‥


 空から超高密度のエネルギー体が地上に向かって落とされた。

 その座標はスノウたちのいる場所だ。


 「自分も死ぬつもりか?!」

 「私は神の力で守られていますから、滅祇怒(メギド)の影響は受けませんよ。貴方には瀕死状態になって頂きますがね。激痛で苦しむことになりますが、それはこれまでの報いと知りなさい。お仲間を一瞬で消し去って差し上げるのは神の慈悲です。感謝することですね」


 シュゥゥゥン‥‥


 ハシュマルは不気味な笑みを見せた。


 ドゴゴゴォォォ‥バシュワァァァァン!!


 「何?!」


 落とされた滅祇怒(メギド)は空高くに弾かれた。


 「何故滅祇怒(メギド)が?!‥‥貴方は!」


 黒い和装に蝙蝠の翼を広げて空中で浮遊している者がいた。 

 

 「遅かったじゃないか」

 「そう言うな。調査とは時間のかかるものなのだ」


 空中で滅祇怒(メギド)を弾き返したのは魔王アリオクだった。

 その手には魔刀・獅子玄常(ししげんじょう)が握られている。

 

 「魔王アリオク!あり得ません!魔王ごときが弾き返せるものではないのですよ滅祇怒(メギド)は!アガスティアを墜とすほどの力なのですから!」

 「あれが滅祇怒(メギド)?‥‥べレム・マグナ。唯一神軍とルシファー閣下軍で戦った大戦の際に放たれた滅祇怒(メギド)はこんなものではなかったぞ」

 「くっ!吠えていればよいでしょう!貴方は魔王の中でも下の下、故に魔王でありながら誰彼構わず依頼を請け負う殺し屋という下郎。異系の堕天使である貴方には最早神の慈悲もありません。ここでその存在、綺麗さっぱり消して差し上げましょう」

 「いいのか?俺に構っている暇などないと思うが」

 「フフフ。私にそのようなブラフは不要です。アノマリーと言えど所詮はニンゲン。貴方を消し去ってからでよい」

 「後ろだ」

 「?!」

 

 ガキィン!!


 突如スノウが背後から攻撃してのを辛うじてハシュマルは槍で受けきった。

 

 「アノマリー!」

 「その言い方好きじゃない!」


 ガキィン!!


 「こざかしい!ザサラ!」


 ギュドォン!!


 突如凄まじい重力波に襲われたスノウは地面にへばり付かされた。


 「うぐ!」

 「フハハ!無様ですね!貴方には串刺しになって頂きます!何度も何度も何度も刺して差し上げますよ!ですがご安心なさい。瀕死の状態で生かしてあげますから!その後アリオクを滅し、最後に貴方の目の前でお仲間をひとりひとり消し去って差し上げます!貴方の顔が苦痛で歪む顔を見ながらね!」

 

 グゴゴゴゴゴォォォ‥‥


 さらに凄まじい重力波がスノウを襲う。

 

 ギュゥゥン‥‥スタ‥


 ハシュマルはうつ伏せ状態で地面に押さえつけられているスノウの前に降り立った。

 そして金色に輝く槍を振り上げる。

 

 「痛みに顔を歪めなさい!体液を垂らして命乞いをしなさい!」


 ハシュマルは金の槍をスノウに向かって突き刺すべく刃先を突き下ろす。


 ガキン!


 「何?!」


 スノウはフラガラッハで金の槍の攻撃を防いだ。


 「何故です?!私のザサラの重力波で身動きが取れないはず!?」

 「お前、だんだん下品になってきたな」


 スノウの目が銀髪の隙間から光を放ちハシュマルを睨みつけている。

 そしてゆっくりと立ち上がる。

 

 「くっ!あ、あり得ない!何故ですか?!まさか!アリオク貴様!アノマリーに何か力を与えましたね?!」

 

 ハシュマルは空中に浮遊しているアリオクの方を見て言った。


 「俺は何もしていない。分からないのか?これはスノウが持つ6つの神格(ヘキサアポス)のひとつ、逆境に負けない心(インタビリス)の力だ」

 「な!なにぃ?!あ、あり得ないあり得ないあり得ない!あれはニンゲンごときが手に入れられるものではない!試練を受ける資格すらないはず!」


 バッ!


 ハシュマルは右手を高らかと天に向かって振り上げた。


 「いいでしょう!貴方は計画の駒ですが、私は貴方をこの世界の害悪と判断しました。全身全霊を注いだ滅祇怒(メギド)で滅ぼして差し上げます。滅祇怒(メギド)!!」


 バヒュン!‥‥ヒュゥゥン‥‥


 天から光弾が落とされた。


 バシュカァァン!!


 「またしても!!アリオク貴様!!」


 アリオクが滅祇怒(メギド)の光弾を魔刀で弾いた。


 「現実を受け入れろハシュマル。この世界の守護天使ではない者が神の加護を受けることはない。そんなお前がインタビリスを打ち破ることなどできないし、そもそも滅祇怒(メギド)をまともに扱えるわけがない。大方アガスティアを墜した際の滅祇怒(メギド)は守護天使のザドキエルが発動したのだろう。お前の言う通り、本来は滅祇怒(メギド)は俺程度が弾くことのできる代物ではないのだ」

 

 ザン!


 ハシュマルは目を見開いて絶望の表情を見せた。


 「‥‥いいでしょう‥‥。せめて貴方には永遠の後悔と苦しみを与えてやります。ザサラ!」


 ギュゥゥゥン!!


 スノウにさらなる重力波が襲いかかる。

 そしてハシュマルは左手のひらから7つの光の玉を出現させた。


 「死になさい!」


 バヒュゥゥン!!


 7つの光の玉はフランシア、ワサン、ソニア、シルゼヴァ、ヘラクレス、シンザ、ルナリに向かって飛んでいく。


 ズバババババババン!!


 「!!」


 7つの光の玉が全て弾き返された。


 「馬鹿な!動けないはず!あり得ない!!」

 

 フランシア達全員が動きハシュマルの放った光の玉の攻撃を弾いたのだった。

 

 「あなた、こんな脆弱な緊縛の技で私たちの動きを封じられると思ったの?」

 「お前は主天使なのだろう?つまらん演技までして見せたんだ。せいぜい俺たちを楽しませてくれハシュマルとやら。俺の本気の一撃は世界を破壊しかねんからな。5割程度の威力には耐えてくれるのだろう?」


 グギギギ‥‥


 フランシアとシルゼヴァの言葉にハシュマルの無機質で無表情な顔が怒りのそれに変わっていく。


 「貴様ら八つ裂きにしてやろう!その後意識を引き抜いて、煉獄へ送り煉獄魔どもに食わせ永遠の苦痛を味わわせてやる」


 ズバァァ!!


 「がっは!!」


 突如ハシュマルの左肩から刃が腹部辺りまで振り下ろされた。

 スノウの振り下ろしたフラガラッハの凄まじい一撃だった。

 ハシュマルの左腕から左脇腹にかけた部分は垂れ下がった。



 「ひ、卑怯な‥‥背後から斬るとは‥‥」

 「相手の動きを止めて槍で串刺しにするのは卑怯じゃないのかい?」

 「ぐはぁっ!」


 天使の血が周囲に飛び散る。

 

 ズン!


 ハシュマルは両膝をついた。

 体の左側は力なく垂れ下がっている。


 「ぬぁぁぁぁ!!」


 突如ハシュマルの体が輝き出す。

 

 ギュファァァン‥‥


 ハシュマルはこれまでの薄汚いローブ姿から天使へ姿を変えた。

 スノウの攻撃によって垂れ下がった左腕も元通りに修復されている。

 背中には美しい翼が生えており、神々しい光が周囲を照らす。

 

 「私をこの姿にさせたこと、褒めて差し上げましょう。この姿は人族に植え付けられた天使のイメージで真の姿ではありませんが、真の姿に近い力を発揮することが出来ます。これで貴方がたには万に一つも勝ちはなくなりました」


 ヒュン‥ズバァ!

 シュン‥シュヴァン!

 

 シルゼヴァとフランシアが凄まじい速さでハシュマルの背後に周り右腕と左腕を翼ごと斬り捨てた。


 「グァッ!」


 バシュォォォン!!


 ソニアとシンザの炎魔法によってハシュマルの両腕は焼き尽くされ一瞬で灰と化した。


 シュババババン!


 すかさずワサンがハシュマルの斬られた翼を細切れに斬り刻んだ。

 

 ガシガシガシガシガシ!!


 「なっ!」


 ルナリは黒い手を6本繰り出し、ハシュマルの全身を掴んだ。


 「ぐっ!!う、動けぬ!」

 「さて。歯を食いしばれ‥‥ってそもそも天使に歯はあんのか知らねぇが」

 

 ヘラクレスが身動きの取れないハシュマルの前に立った。


 「今までその天使の力とやらで嫉妬に塗れた自分の感情の赴くままにこの世界の者達を弄びやがって。神や天使ってのは自身を満足させる思いつきを計画と称して地上の者達に押し付けやがる。まるで支配者気取りだな。だが、栄枯盛衰っつって、いつかは滅ぼされる側に回るってのを知っとけ」


 モリモリモリモリ‥‥


 ヘラクレスの体中の筋肉が急激に盛り上がる。

 筋組織と血管が浮き出てくる。


 「な‥‥」


 天使は恐怖という感情を知らない。

 神に作られた際、そのような感情を備えられていなかったのだ。

 だが、ハシュマルに僅かながら恐怖の感情が芽生えた。

 自分が破壊され機能停止となる未来が観え、それに抗う気持ちが恐怖へと変化したのだった。


 「や、やめろ!」


 ファァァン‥‥

 

 ヘラクレスは右腕を大きく振りかぶった。


 「やめねぇよ」


 ボッゴォォォォォォォン!!


 「ぐべぇ!!」


 ヘラクレスの拳が凄まじい破壊力と共に叩き込まれ、ハシュマルの下顎が抉れて吹き飛んだ。

 

 ギュシュルル‥‥


「あがぁ‥‥」


 ハシュマルは治癒の魔法を発動したのか、下顎は再生されたが、両腕、両翼は再生されなかった。

 恐怖のあまりすぐさま再生魔法を詠唱したのだが、すぐに再生される治癒量には限界があるようだった。


 「な、何故動けるのだ?!私の緊縛の神世魔法ゼルビタが効かないなどあり得ない!」


 スタスタ‥


 ハシュマルの真横に立ったスノウが話始めた。


 「お前の力はひとり、多くて2人なら押さえ込んでいられるかもしれない。だが、おれ達全員を押さえ込んでいられると思うのか?仮にお前が神とやらの加護を100%得られていたとしてもおれ達全員を抑え込むなど不可能なんだよ。ましてや神に見放されている状態のお前が放つ神世魔法など、おれ達の誰ひとりとして抑え込むなど()()()()()んだよ」

 「ば、馬鹿な!あ、あり得ん!」

 「信じなくて構わない。だが、お前の犯した罪は償ってもらうぞ。アラドゥを拐い、その際多くのクティソスたちをツァラトゥへと変えた。アガスティアを墜とし多くの罪なき人たちの命を奪った。さらにハチやクティソスたちが命を落としたことも間接的にはお前に責任がある。これからヘラクレスが殴り続ける。お前の再生が早いか、ヘラクレスの殴打でお前を壊すのが先か。せいぜい抗うといい。人々が天使の力を行使して不条理な仕打ちに必死に抗おうとした気持ちが少しは理解できるだろう」

 「まぁ理解したところで、壊れちまったら終わりだがな」


 ヘラクレスは再び全身に力を込めた。


 ハシュマルの無機質な顔が恐怖で歪み、言葉すら発することのできない状態で、ヘラクレスの殴打のラッシュに耐えきれず粉々に砕けて機能を停止した。


 「なんだ随分と呆気なかったな」

 「主天使をここまで圧倒できるんですね、僕らレヴルストラは」

 

 ソニックの言葉に皆笑みを見せた。

 シャルマーニの王政が始まったが、阻害要因として考えられていた最後のひとりであるハシュマルが消えたことで、それを阻む勢力は無くなった。


 「ヒンノム、いやケセドとしてこの世界は新たな一歩を踏み出せるはずだ」


 スノウは空を見上げて言った。





いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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