<ケセド編> 171.それぞれの道
171.それぞれの道
『アラドゥ!』
皆アラドゥの登場に驚いた。
「お前、いつから聞いていたんだ?ってかいいのか?こいつに話聞かれていて」
「大丈夫だワサン。彼には事前に相談しているんだが、スメラギさんのことは既に話をしている」
「シルゼヴァノ見解ハ非常ニ興味深イ。我モ同様ノ理解ダ」
「賛同者が増えたのはいいが、こやつが一体何をしてくれるのだ?」
シルゼヴァの相変わらずの物言いにスノウは苦い笑みを浮かべながら答えた。
「スメラギさんの手紙にある場所に古代の遺物があるらしい。それがどうやら越界装置らしいんだが、何やら特別なコードを打ち込む必要があるそうだ。そのコードを導き出す演算がとてつもなく難解らしい」
「難解ナノデハナイ。演算処理ニ膨大ナ時間ヲ要スルデータ量ナノダ。ダガ、我ナラバ造作モナイ」
「‥‥というわけだ」
「なるほど。それでスメラギとやらの謎解きか中にかの場所は分かってるのか?」
ヘラクレスが腕を組みながら質問した。
「ああ。それならば問題ない。これを見てくれ」
スノウは以前入手したツアーの羊皮紙を見せた。
・・・・・・・・・・・
【時計台ツアー】
・場所:ヒンノムの4大都市
・ツアー内容:現在のヒンノムに光をもたらした高度文明の
祖にして発明王であるジョタロの残した遺言の謎を解く
ヒンノム最大の難関であり最大のイベント。
既に数千人が挑んでいるが未だ謎を解いた者はいない。
貴方も是非チャレンジしてみては如何か!
このツアーでは4大都市に其々滞在期間10日で最高級宿を
確保している。
長旅の疲労や謎解きに疲れた脳を癒す最高の食事とスパを
用意。
世界最難関の謎解きに最高の環境は整えられた!
・発明王ジョタロの遺言:
同じ時刻に4つの街の時計台を同時刻に巡るのだ。
そうすればこの世の真実を手に入れられるだろう。
・エレキ魔法:100000チャージ
・・・・・・・・・・・
「高級宿!泊まりたいぞ!」
「そこじゃない」
「ジョタロって誰だ?」
「スメラギだ」
「最高の食事とスパだってよ!」
「そこじゃない」
「エレキ魔法10万チャージって?」
「それもどうてもいい。ってかお前らわざと見るとこ外してるだろ」
「ははは!冗談だよ!冗談!しばらく見ないうちに短気になったんじゃないのかスノウ!」
「お前はいい加減に人の話を真面目に聞く術を学んでくれヘラクレス」
「ぬ!」
「同じ時刻に4つの街の時計台を同時刻に巡るのだ、そうすればこの世の真実を手に入れられる‥‥同じ時刻に4つの街の時計台‥‥同時刻に巡る‥‥何か文章が変ですね」
「流石シアだ。このわざとらしいくどい表現に皆惑わされている。特にこの巡るという言葉。これは普通時計台のある場所を訪れなければならないと受け取るはずだ。だが、巡るという言葉には、“一点を中心として回転する” という意味もある。そして時計台の時間が実は微妙にズレていることに気づいた。そのズレは約15秒。これはイリディアに協力してもらって転移魔法陣で確認したから間違いない。そしてその順番は、並行世界と対になっている。人が生まれ、育ち、悟り、死ぬという流れがあったのを覚えているか?命の街アフレテ、喜びの街ウレデ、癒しの街リチユ、偽悪の街ミールだ。順番はアフレテ、ウレデ、リチユ、ミールだ。これらをこの世界の街に照らし合わせると、屍の街デフレテ、無感動の街アディシェス、痛みの街ポロエテ、偽善の街クルエテの順になる。15秒の差もデフレテに始まりクルエテで終わっていた。つまり、スメラギさんはこの4つの街を巨大な時計と見立てたんだ」
「15秒の差、同時刻に時計回りに1回転‥‥60秒‥‥。まるで時計の針のようですね。ということはスメラギ氏の示した場所とは、時計の針の軸、4つの街の中心ということですね?」
「その通りだシア。4つの街を結んだ中心点がスメラギさんの指し示した場所なんだ。そこには15秒間隔で4つの街を指し示して開く扉があるに違いない」
「その中にさっき言っていた大昔の遺物の装置があるってことだな」
「そうだ」
「よし!それじゃぁ早速行こうぜ!」
「なぜお前が仕切るんだハーク」
「いいじゃねぇかよ!俺は早くそのホウゲキってやつと戦ってみてぇんだよ!スノウが言うんだ。相当な強さだろうからな!さぁアラドゥ、転移魔法陣出せるんだろ?今すぐ出してくれよ」
「ソレハ無理ダ。行ッタコトノアル場所デナケレバナラナイノダ」
「おいおい、使えねぇな。あ、そういえばあの美魔女はどうした?あいつなら転移魔法陣簡単に出せるんじゃないか?」
興奮しているヘラクレスに呆れつつスノウが答えた。
「美魔女っていったらちょっと意味合い変わるだろうに‥‥いや、案外的確か‥‥。イリディアだよな。彼女はカディールと共に悲鳴の谷クグカに残っているよ。どうやらあの場所が気に入ったらしい。それと別の理由であの場所をもう少し人々が生活しやすい場所へと造り変えてくれているんだ」
「別の理由?」
「ああ。いずれ分かるさ」
「まぁいいや、お前の言うことなんだ。重要な何かなんだろう。ってことは、中心の場所まで自力で行くってのか?」
「そうなるな」
ヘラクレスは嫌そうな表情で舌を出している。
「まぁそう言うなよ、ヘラクレス。せっかくレヴルストラが全員揃ったんだぜ?道中楽しもうじゃないか。最近魔物も増えているらしいしな。それに1日もありゃぁ着く距離だ」
「そりゃそうだな」
ワサンの言葉にヘラクレスは納得したようだ。
「よし、それじゃぁ午後には出発する。各自準備をしてくれ。おそらく出発したらここへは戻ってこれないはずだ。思い残すことがないように用事は済ませておいてくれ」
『おう!』
スノウ、フランシア、ソニアック、ワサン、シルゼヴァ、ヘラクレス、シンザに加えてルナリもレヴルストラの仲間となった。
各自それぞれ準備を整えるために解散した。
・・・・・
スノウはアラドゥにお願いしてイリディアとカディールのところへ来ていた。
ふたりはこの場所を有事の際の避難場所としてより快適に過ごせるように造り変えていた。
「なんじゃスノウではないか」
「順調だな」
「妾の魔法で殆どは対応できる。地盤は固いとはいえ、繊細な作業も必要じゃ。その部分はカディールが頑張ってくれておる。今は隣の部屋におるが間も無く終わる故、挨拶したくばしばし待つがいい」
「ありがとう。越界したら当分戻ってくることはない。もしかしたら2度と戻ってこられないかもしれない」
「何をしんみりしておる?妾の婿にでもなりたいのか?」
「ははは!あんたみたいな高貴で頭脳明晰、魔法ピカイチな人におれが釣り合うわけないから!」
「分かっておるわ。フフフ‥‥」
イリディアは優しい笑みで返した。
「この世界は散々傷ついたがこれから大きく変わっていくだろうな」
「そうじゃな。それを見届ける務めも大魔女の役目か‥‥いや、寧ろ妾くらいにしかできなそうな役目じゃな。当分退屈せずに済みそうじゃ」
「シャルマーニを、そして八色衆たちを支えてやってくれ」
「言わずともよいわ。否応なくあやつらは妾を頼ってくるであろうしな。ライドウたちもカディールを師と仰いでいるようじゃし、上手く転がしてやろうぞ」
「ははは、流石だなぁ。それじゃぁ行くよ」
「カディールには会わなくてよいのか?」
「おれがここに来ているのを知っていてここに来ないってのは、そういうのが嫌いってことなんだろう。既に言いたいことは伝わっていると思うしさ」
「ふふふ‥‥なるほどのう。カディールが認めた男、スノウよ。達者でな」
「ありがとう。あんたもいつまでもその美貌でいてくれよな」
「言うではないか、フフフ」
スノウは後ろ姿のまま片手を上げて挨拶した後、転移魔法陣の中へと消えた。
・・・・・
次にスノウが訪れたのはヒノウミの地下にあるクティソスたちが暮らしていた場所だった。
現在ここには誰も住んでいない。
なぜスノウは無人のこの場所を訪れたのか。
それはこのヒノウミに住まう精霊に挨拶をするためだった。
「いるんだろ?少しでいいんだ。話をさせてくれ!」
スノウの声が誰もいない地下空間にこだまする。
“スノウだね”
スノウの脳裏に聞き馴染みのある声で何者かが答えた。
「そうだ」
“どうしてここに僕がいるって分かったんだい?”
「お前こそ、なんでここにいるのに皆に知らせないんだ?ハチ」
声の主はハチだった。
“僕は僕であって僕でないからさ。この地に飛ばされ瀕死状態から救われた際に陽之宇美の神の一部と融合して生きながらえたんだ。僕の予知の力もその時に授かった。そしてその後、僕は体を失ったことで陽之宇美の神に力を返して消滅するはずだったんだけど、この場所で陽之宇美の神の一部として生きることになったんだ”
「そうだったのか」
“それで、もう一度聞くけどどうしてここに僕がいるって分かったんだい?”
「おれに火の精霊を貸してくれたよな?その浄が残っていてさ。おれは特殊な、そして最も大切な炎を持っていてその炎が火の精霊の浄に反応して脳内にビジョンを送ってくれたんだ」
“なるほど、その背中に背負っているものだね。それは君の親友だね”
「そうだ。おれが今生きていられるのは彼のおかげなんだ」
“そうだね。でもその炎の彼はいずれ新たな姿で君とともに歩むことになると思うよ”
「え?!」
スノウは予想外のハチの言葉に驚きを隠せなかった。
「どういう意味だ?」
“そのままさ。炎の彼は生きているからね。陽之宇美の神の予知の力で見えた一つの選択肢だよ。スノウ、君は炎の彼と常に一緒でなければならないよ?”
「そっか‥‥教えてくれてありがとう、ハチ」
“礼には及ばないよ。それより、僕がここにいることは秘密にしておいてくれるかい?”
「どうしてだ?皆喜ぶと思うけどな」
“僕の友人や子供たちは僕の死をきっかけにして大きく成長し始めたんだ。ここで僕が生きていると知ったら甘えてしまうじゃないか”
「そうでもないと思うがな」
“きっと甘えてくるよ。そして僕はそれを受け入れてしまう。僕も甘えてしまうと思うんだね。だから僕はこの場所からそっとこの世界の行末を見守ることにするよ”
「そっか、分かったよ。それじゃぁそろそろ行くよ。当分戻ってくることはない。場合によっては2度とこの地を踏むことがないかもしれない」
“そうだね。そこまでは観ることができないけどなるようになるね、きっと。スノウ、ありがとう。君と君の仲間たちの無事を祈っているよ」
スノウは笑顔で手を上げて応えるとその場を後にした。
・・・・・
最後に訪れたのは屍の街デフレテだった。
この街は4大都市の中で最もダメージを負った街であり、ほぼ全て瓦礫の山と化していた。
その中で必死に復興作業を行なっている者たちがいた。
「スノウじゃないか!」
「元気そうだなみんな」
その場にいたのはヴァティ騎士たちだった。
「スノウこそ!よく来てくれたね!」
ジェイコブは嬉しそうにスノウの肩を掴みながら言った。
彼はシェキナーの矢に塗布されていた神の毒をアリオクの体から取り除くために口で吸い出したのだが、その毒を受けて心臓機能が停止した。
だが、心肺停止状態にも関わらず普通に生きていた。
シルゼヴァ曰く、ジェイコブの体は天使と同じような人体構造になり、不老不死の状態らしい。
「なぜここで復興作業を行なっているんだ?あんたたちだけじゃ到底終わらないと思うが」
スノウの問いかけにジェイコブが答えた。
「私たちはヴァティ騎士団を蘇らせたいんだ。今は4人になってしまったが、これから1人ずつ増やしていくつもりだ。かつては王の剣として活動していたが、結局権力に紐づいた瞬間に騎士道は死んでしまった。我々の教え込まれた騎士道は忠誠と武勇、神への奉仕であり、故に高い地位が与えられ権力争いや、汚職に塗れ不信感を持たれることもあった。思えばそもそも騎士道などなかったのかもしれない。誰かに仕え、誰かに忠誠を誓う時点で仕える対象の意向によって正義にも悪にもなる不安定な存在となる。新たな王は生まれたが、神は存在しない。我らが忠誠を誓うとすれば、この世界に生きる者全てなのだと思う。いや、彼らが紡ぐ意志に対してと言った方がいい。弱きを助け強きをくじく。世界を忠誠を誓い弱者救済を愚直に行い続ける騎士団でありたい、そう思ったのだ」
ジェイコブの言葉にアールマン、ベルトランド、フィリップは誇らしげな表情を見せた。
「この世界は広い。いつどこでどんな敵が現れるか分からない。ポロエテ1拠点では救える者も救えない可能性がある。我らはこのデフレテから復興を始めて、クルエテも復活させて、かつての賑わいを取り戻したいのだ。だからまずは我らがこの地の復興をやり続ける。剣を振るだけが騎士じゃないからな」
「そうか。立派な理念だ。やがて君らの姿に感銘を受けて復興を手伝う者だって現れるだろうな」
「ありがとう。デフレテとクルエテの復興が終わったら、ムフウに行ってみようと思っているよ。あの地には遥か昔に眠りについたトーマがいる。復興が進んだ報告に行きたいからね。それと、北の湾の沿岸部に建ち並んでいた不気味な家々がどうなったかも確認したいしな」
「そうだな‥」
スノウはトーマのことを思い出して胸が痛くなった。
それと同時にジェイコブたちには並行世界のことは伝えないようにしようと思った。
こことは別の世界で命を落としたと言ったところで、ショックを受けるだけだったからだ。
(そういえば、あの不気味な家々って本当になんだったんだろう。根源世界が並行世界に干渉したのかもしれない。あそこには元々何もなかったのが突然家々が出現したと言っていた。おそらくこの世界のムフウの湾岸には家々が建ち並び人々が生活しているのかもしれない。それが並行世界に干渉し、ポルターガイスト現象みたいなのが起こる不気味な家々が出現したんだろう‥‥)
スノウは機会があれば調べに行こうと思った。
「それじゃぁそろそろ行くよ」
「スノウ、もしかしてどこか遠くへ旅立とうとしているんじゃないか?」
「え?」
「やはりそうか。まるでお別れの挨拶のような雰囲気だからもしやと思ったんだが」
「お察しの通りだ。おれ達はこれから遠いところへ旅立つ。ディアボロス達が生み出したオルダマトラを追う必要もあるしな」
「そうか。我らには想像もつかない旅になるのだろうな。ならば、我らはいつ君たちが帰ってきても良いように復興を早めに終えることを約束しよう」
「ありがとう」
スノウは礼を言うと、そのまま風魔法で浮上し、とてつもない速さでポロエテの方へと飛んでいった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




