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<ケセド編> 165.並行世界の構造

165.並行世界の構造


 スノウはスメラギからの2通目の手紙に目を通した。

 かなりの枚数がある手紙だった。


 “全く君はすぐ私に泣きつくのだな”


 (ムカッ)


 いつものスメラギ節に分かってはいつつもイラッとしたが、1通目同様どこか懐かしい感覚になった。


 “この手紙を読んでいるということは無事に崩壊核(コラプシオン)から別世界へ行き、戻って来たようだね。そこにあった世界について私の理論を伝えよう”


 (私の理論?何を言ってんだこの人。あの口の先にあったのは遥か昔のヒンノムだぞ)


 “崩壊核(コラプシオン)の口、ゲートを潜りたどり着いた先は別の時間軸だと思っているのだろうが、実はそうではない。あれはこの世界線とは別の軸を辿る並行世界(パラレルワールド)だ”


 「はぁ!?」


 スノウは思わず声を出してしまった。


 (何言ってんだよ!あれはイシュタルがディアボロスに変わる前の時代、遥か昔だぞ!大骨格コスタだって無かったんだぜ?!)


 “私も行った時、最初は別の時間軸だと考えた。だが、説明がつかない人物と会ったのだ。彼の名は、イーギル・シャル・ギレンダイク。ケセドの地を治める若き王だ。だが、この世界にも同一人物が存在した。その名はシャルギレン。万空寺の大範士だ”


 「え?シャルギレン?!」


 “仮にこの世界を世界Aとし、崩壊核(コラプシオン)の先の世界、これを仮に世界Bとしよう。同姓同名が別の時間軸で存在する可能性は低くない。だが、同じ顔となれば話は別だ。同姓同名で且つ同じ顔を持つ者が違う時間軸で存在することは極めて稀だ。所謂空似というものだが、私はこの世界Aに帰還後、万空寺の書物を一通り調べさせてもらった。そこにあったのは王家の家系図だ”


 (この人、越界したい時に読めと書いておきながら一体何の話を書いてんだよ‥‥)


 “そこにあったのは王家とその関連一族がアガスティアに登る際に元々の王がその座を乗っ取られた家系図だったのだ。イーギル一族にはファーズ家、シャル家、フェル家、クゴル家、そして最も血筋の薄いグル家などがあった。初代王はファーズ家のフォルスという人物だったが、彼には嫡子が生まれず、最も血筋の近いシャル家が王となった。しばらくシャル家が王となっていたのだが、大骨格コスタが出現しアガスティアが誕生した際に内乱が起きた。その時に当時の王を暗殺し、その称号を奪ったのがグル家だ。グル家は他のイーギル一族を連れて暗黒の地となったヒンノムを捨ててアガスティアへと登った。アガスティアの王イーギル・グル・ドメルガーはその末裔だ。王の称号を奪われたシャル家は万空寺に拾われそこで細々と家系を繋いできた。そして今私と接点があるシャル家の者がシャルギレンだ。そして世界Bで会ったイーギル・シャルギレンダイク王は大骨格コスタが存在せず、グル家に王の称号を奪われなかったシャルギレンというわけだ”


 「‥‥‥‥」


 スノウは眉間に皺をよせて黙って手紙を見ていた。

 スメラギが何故このような話をし始めたのか理解出来なかったのだ。


 “ここからが本題だ。並行世界(パラレルワールド)とは何か。どのような構造なのか。これを私は深く考える必要があった。越界する中で辿り着く世界は一体どの軸なのか、別の世界線にある異世界へと越界した場合、オリジナルの世界線に戻れなくなる可能性があるからだ”

 「!!」


 スノウはようやくスメラギが王家の話に触れた理由を理解した。


 ”今回世界Bは大骨格コスタが存在せず、王家の乗っ取りもなかった。これは私が作り出した世界線ではない。私が崩壊核(コラプシオン)を経由して別の世界線を生み出したわけではないのだ”


 「確かに‥‥そして、おれが訪れた世界はスメラギさんが行った世界のおそらく十数年後あたりだ。あの世界は誰が作ったんだ?!」


 ”君も気づいただろう?どこかに世界Bを創生した者がいるのではないかと”

 「‥‥‥‥」

 ”つまり私は、並行世界は存在不明の何者かが創り出したものだと仮説を立てた。それはひとつかもしれないし、複数かもしれない。ここで一つの疑問が浮かぶ。自分は一体どの世界線で何を成しえる者かという疑問だ。ティフェレトは私の理想の世界だった。その世界へ私が戻れたとしても別の世界線だとすれば、私の作り上げた街も信頼関係を築いた人も存在しない可能性がある。残された人生の中でこれほど徒労なことはない。だが、私はオリジナルの世界と同様の状態にしようと足掻くだろう。そこでもう一つの疑問が生まれる。世界Bで私が何か歴史を変える行動をとった時、世界線は増えるのか?”


 (一体何の話をしてんだよスメラギさん‥‥おれはただ越界したいだけなんだぜ?)


 “越界したいだけなのに、何の話をしているのか理解出来ないといった君の表情が眼に浮かぶが、この仮説を理解しなければ君は大きな過ちをおかす”


 「!!」

 (読んでいるおれの心を見透かしている‥‥)


 “答えは増えない、だ”

 (どういう意味だ?)

 ”東京から大阪まで向かうのに、飛行機で行く手段もあれば新幹線を使う手もある。車の手段もあれば、走る奇特な者もいるだろう。手段は色々あるが、結局は大阪に到着する。到着するタイミングが違うだけだ。この時世界線の分岐が起きているとしても悠久の時を考えれば、変化がないに等しい。つまり世界線を分岐させるほどの事象など起きないということだ”

 「おかしいぞ?車が故障して辿り着かない可能性だってあるし、そうなれば結果は変わる。大阪に着かないんだからな」

 ”君は捻くれているから、車が故障したらその者は大阪に到着できず、歴史が変わるのではと思っているのだろう?”

 「う‥‥」


 ことあるごとに見透かされているような文章にスノウは恥ずかしくなってきた。


 ”確かに結果は変わるだろう。ただそれは大阪に着けなかったというだけのこと。悠久の時の中では取るに足らない出来事なんだ。君は蚊を殺して歴史が変わるとは思わないだろう?バタフライ効果というカオス理論は君も知っていると思うが、時間はそう優しくないのだ。カオス化する影響範囲を押し返すように、大きな変革に及ばない力が働く。だがそれも悠久の時のなかでは取るに足らない些細な出来事であり、並行世界(パラレルワールド)の世界線を分岐させるほどの衝撃にはなり得ない”


 「それで一体何が言いたいんだよ。越界する時にパラレルワールドに行かないように気をつけろとでも言うつもりか?」


 ”これらを踏まえた私の考える並行世界(パラレルワールド)の構造の仮説。それはとある特定の者だけがそれを作ることが出来る。仮にタイムリープやタイムマシンで過去へ飛び歴史を変えたとしても新たな世界線などは生まれない。生む力は並行世界(パラレルワールド)の創造者にのみ保持されている。故に過去に戻った者が何をしようとその者が死んだ時、その者の爪痕は時が掻き消してしまう。つまりいくら過去に戻り世界線を作ろうとしても、そこで自身の人生を変えたところで掻き消されるというものだ。過去に戻って当たりの宝くじを買ったとして、それに当たって賞金を得ても瞬間的に金は手にするのだろうが、どこかでオリジナルのシナリオへと収束されてしまう。時を管理している者がおり、シナリオ通りに動かない者を異物として処理するようにその者が改変しようとする事象をオリジナルのシナリオに近づけ元に戻してしまうのだ”


 「‥‥‥‥」

 (難しい話だが、何となく理解は出来る。でもこれが今後のおれの旅に何の影響があるっていうんだ?)


 ”だが私の伝えたい本筋は、自分がオリジナルの世界線にいるのか、並行世界(パラレルワールド)にいるのか、それを把握することが重要、ということだ。並行世界(パラレルワールド)はリアルだが、所詮はオリジナルではない。時間的連続性も確認できてない。常にオリジナルの世界で行動しなければならないということだ”


 「だからどうやってオリジナルか、パラかを見分けるんだよ!」


 “私がハノキアで君と接点が持てるポイントはそう多くない。情報量が多くなってしまったが、君に情報を与える機会が少ないためにこの手紙の枚数が増えてしまっていることを理解してもらいたい。これからこのケセドから越界する手段を君に伝える。だが、気をつけるのだ。繰り返しになるが、君が辿り着くのはオリジナルの世界なのか、異端の力を持った何者が作り上げた並行世界(パラレルワールド)なのか、それを意識して旅をする必要がある。そしてもし並行世界(パラレルワールド)に行き着いてしまったと思ったなら、必ずオリジナルの世界へ戻る手段を探せ。でなければ、オリジナルの世界を正そうとする行動は並行世界(パラレルワールド)においてはシナリオ通りに動かないバグと見做され、時の管理者から攻撃される可能性がある”


 「何だよそれ‥‥」


 スノウの手紙を握る手から汗が滲んでいた。


 “それでは越界の方法を教えよう。私の遺言クエストは知っているね?その場所へ行き、そこにある装置に特殊なコードを打つ必要がある。その装置とは古代の遺物で、打ち込むコードを導き出すためには特殊な演算が必要だ。私ならその演算が出来るのだが、とてもこの手紙で書けるものではない。君のいる時代で演算能力ある者を探し越界のコードを導き出してもらうのだ。私はこれからティフェレトへ戻るつもりだ。だが君は来るな。君が来るべきタイミングはもっと後になるのだと思う。別の優先すべき世界へまず行くべきだ。再会の機会があるかは分からないが上手く立ち回るといい。  スメラギ”


 手紙はここで終わっていた。


 (結局謎解きすんのかよ‥‥しかもオリジナルかパラかの見分け方、教えてくれてねぇし‥‥パラレルワールドがオリジナルと見分けつかないくらい似通っていたらどうすんだって‥‥だいたいシナリオってなんだよ。誰が作ってんだ?攻撃ってなんだよ‥‥)


 情報量の多さにスノウは整理が必要だった。

 度数の高い酒を1杯飲み干し、スメラギの手紙を何度も読み返した。

 一応スメラギの言いたいことは理解できたが、やはりどこか納得がいかない。


 「あぁぁぁ!」


 頭を掻きむしるスノウ。


 (おれ達が行った世界が並行世界(パラレルワールド)だったってのか?!ルナリは何だ?あの世界から負の情念のエネルギーを体内に宿してこっちに戻って来たんだぜ?!時の管理者かなんだかしらないが、それは何らかの罰を受けることなのか?!おれ達があの世界からこっちに戻ってくる時に強引に誘き寄せたあっちの世界のザドキエルはどこに行ったんだよ!時のブロックがあったんだぜ?!夢じゃない、確かに吹き飛ばした!あれは何だったんだよ!あれにも何らかのペナルティが与えられるとしたら、せっかく救ったあの世界にザドキエルが戻り、ドミニオンアーミーによって滅ぼされてる可能性があるってのか?!)


 「ふざけんじゃねぇ!」


 ドン!


 スノウは壁を叩いた。

 その後のイシュタルのいるあの世界がどうなったのか、確認しに行きたい気持ちはあったが、既に崩壊核(コラプシオン)は破壊されてしまっており、行くことは叶わない。


 「考えても仕方ない。こんな時は行動あるのみだ。スメラギさんの言っていることで確認できることとなると、これしかない!」


 スノウは翌日、ソニア、シンザ、ルナリを連れてとある場所へと向かった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

今回のパラレルワールドと何者かによって書かれたシナリオで世界が動いている話は後々に大きく関わる重要な点になります。

より物語が面白くなり、楽しんで頂けるように頑張ります。

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