<ケセド編> 157.引き摺り出す!
157.引き摺り出す!
イリディアより借り受けた魔法の絨毯でスノウ達は小片の破壊者に向かって進んでいた。
「流石にデカいな。どう攻めるんだ?」
飛行に慣れて来たワサンがスノウに言った。
「ノーアイデアだ。あれが一体何なのかもよく分かっていないしな。とにかく観察する。シャーヴァルが起動させているって話だからシャーヴァルを引き剥がせるか、あれそのものに弱点がないのかを探る。相当荒い飛行になるが大丈夫か?」
「ま、任せておけ!って振り落とすような真似だけはやめてくれよなスノウ!」
「あの光線に当たると蒸発して即死するかもしれないからな。避けるのに必死になるだろうから、振り落とされないように掴まっていてくれとしかいえない」
「マジか‥‥分かったよ‥‥それでどこかに潜んでいるシャーヴァルを引き剥がすか殺すかしたらあれは止まると思うか?」
「さぁな。あの無差別に光線放っているようすからシャーヴァルがあの力を制御できているとは思えない。つまりシャーヴァルをひっぺがしてもあれは止まらない可能性があるな。最悪シャーヴァルは既に死んでいるかもしれない」
「じゃぁ倒すしかないってことか」
「まさか弱気になってんの?」
「ば、バカ言えソニア!オレはケテルでクロノスとも戦っているんだぞ!怖気付くわけがないだろ!」
「あら、あの中であんたがどれだけ活躍したのかはハテナ?らしいじゃない」
「う、うるせぇ!見てねぇくせにいうんじゃねぇよ!」
「ふたりとも戯れ合っている場合じゃないわ。間も無くやつの攻撃圏内に入るわ」
フランシアの言葉に反応して全員小片の破壊者に視線を向けた。
鈍い動きだが巨大な蛇のような白く長い生物は周囲を確認するように顔の向きを変えている。
「不気味な生き物ね」
「あの顔はなんだ?」
「シャーヴァルの顔ね。髪も眉もないから分かりづらいけど」
ソニアの指摘通り、小片の破壊者はシャーヴァルが契約した古代の巨大な破壊兵器で、その顔は骨のような材質で髪も眉もまつ毛も髭もないシャーヴァルの顔そのものだった。
その巨大な頭部の付け根から先には脊柱のような骨が伸びており、大骨格コスタに繋がっている。
その長さは1000メートルを超えるほどだ。
「あの顔の中に生命体反応がある」
スノウはライフソナーを展開した。
「シャーヴァルか?」
「おそらくな」
「どの辺りでしょうか?我々はシャーヴァルがいる場所を突き止め、シャーヴァルを引き剥がす必要があります」
「額の辺りだな」
「分かりました。私がシャーヴァルを引き摺り出して来ます」
「待て待て、早まるな。とにかくやつの動きや能力を把握するんだ」
「分かりました」
「よし、まずは近づくぞ!」
スノウは絨毯を操作し小片の破壊者の頭部に近づく。
ギュゥゥゥゥゥゥン‥‥
頭部の上前方をゆっくりと飛行する。
ギョロリ‥
小片の破壊者の目がスノウ達を捉えた。
まるで生きている石像のような巨大な顔は動かさずに眼球だけがスノウ操る絨毯を追って動いている。
その無機質な巨像の動きは不気味だった。
キュゥゥゥゥゥゥン‥‥
小片の破壊者の付け根から脊柱ひとつひとつが光を放ちはじめた。
「ぬちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‥‥」
眼球だけはスノウ達を捉えながら、口を裂けるほど大きく開いた。
「スノウさん!例の光線が来ます!」
「ああ!」
脊柱ひとつひとつを辿って来た光が頭部に届いた瞬間、口から空気を劈くような波動が放たれた。
その直後、白熱光線が放たれる。
バフォォォォォォォォォォォ!!
先ほどまでの鈍い動きと打って変わって恐ろしく機敏な動きで胴体を動かし、スノウの絨毯に白熱光線を向けてくる。
ヒュン!ヒュヒュン!バシュン!!
白熱光線の複雑な動きをスノウ操る絨毯はギリギリで躱していく。
凄まじい高熱が絨毯とスノウ達を焼きつさんと迫っているが、フランシアとソニックが水と氷の壁を作って燃焼を防いでいる。
「なかなか近づけない!光線もそう長くは続かないはずだ!みんな耐えてくれ!」
『おう!』
バフォォォォォォォォォォォ!!
ヒュン!ヒュヒュン!バシュン!!
脊柱が複雑に動くのだが、まるで別の生き物のように頭部が個別に動くため、予測不可能とさえ思える動きとなっており、スノウの絨毯に向かって白熱光線を放つ小片の破壊者の動きがさらに避けづらくなっている上、速さも増して来た。
白熱光線が止まるまで避け切れるかの勝負だったが、いずれ止まるはずと思っていた白熱光線は一向に止まる気配がなかった。
「スノウさん!!」
シンザが何かに気づいた。
「どうした?!」
「大骨格コスタの地面の付け根を見てください!」
「すまん、光線から目が離せない!どうなってる?!」
「付け根部分の大地が枯れているんです!」
「本当だ!まるで大地の養分を吸い取っているように見えるぞ!」
シンザとワサンは大骨格コスタの付け根部分の周囲の草木が枯れ果て、大地も干魃状態のように干からびてひび割れている状態が徐々に広がっているのを確認した。
「まさかこの光線、大地の力を吸い取って放っているのではないでしょうか?!」
『!!』
全員シンザの言葉に驚愕しつつも納得せざるを得なかった。
(この光線はヒンノムの大地が死地となるまで止まらないってことかよ!)
スノウは白熱光線を避けながら思案を巡らせた。
バフォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ヒュン!ヒュヒュン!バシュン!!ヒュン!ヒュヒュン!
複雑な動きはさらに速さを増し、スノウの操縦も徐々に光線を避けきれなくなってきた。
その度にフランシアとソニックの氷のバリアでなんとかダメージは防いでいるが、それも限界に近づいている。
(これしかない!)
「シンザ!すまないが絨毯の操縦を変わってくれ!」
「ええ?!」
「ほんの十数秒だ!お前なら出来る!」
「お前はどうするんだ?!」
ワサンが割って入って来た。
「おれはここから飛び降りてやつの額に降りる!そしてなんとか破壊してシャーヴァルを引き摺り出す!」
「バカか!自殺行為だぞ!」
「ワサン!マスターに向かってなんて言い草?!死罪に値するわ!」
「罰ならなんでも受けるが、スノウがここから奴の額に飛び降りるってのは認められねぇ!」
「このままじゃいずれおれ達は全員光線にやられて死ぬ。耐えられたとしてもヒンノムの大地が死ぬ。今止めなければ手遅れになっちまう!」
「だったらオレが行く!お前が死んだらレヴルストラはリーダーを失う!そんなことは認めねぇ!」
「ダメだ!悪いがワサン!お前を行かせるわけにはいかない!確実にシャーヴァルを引き摺り出せる者が飛び降りなければならないからだ!そしてそれが出来るのはこの中でおれだけだ!」
「‥‥!!」
スノウは敢えて自分だけがこの任務を遂行できると言い切った。
無論フランシアでもワサンでもソニックでも可能であったかもしれないが、仲間を危険にさらすことはスノウの選択肢にはなかったのだ。
「か、かもしれねぇがオレは許さねぇ!だったらオレも行くぜ!囮くらいにはなる!お前の生存確率が上がるならそれでいい!」
「ダメだワサン!任務に集中出来なくなる!」
「ふざけんじゃねぇぞスノウ!」
ワサンはスノウの襟首を掴んで怒りの表情を向けた。
ガシ‥
「?!」
ワサンの肩を掴む者がいた。
ルナリだった。
「スノウを石像頭部の額に降り立たせればよいのだな?我ならば可能だ」
「ルナリ!!」
シンザが叫ぶ。
「シンザ大丈夫だ。あの光線は大地の力を熱変換したもの。我の力は人の負の情念がエネルギーとなったもの。地中にあった負の情念の核がそのエネルギーを吸い取る際に大地のエネルギーにも触れていた。我の中にも若干だがあのエネルギーが存在するということ。従って我はあの光線を若干だが中和することが可能。スノウひとりなら、我の造り出すエネルギーの障壁で石像の額へと届けることが出来る」
「でも‥‥」
「我の願いはシンザの幸せであり、守ること。それが遂行できない行動は取らない」
「分かったよ‥」
「理解に感謝する。スノウ準備はよいか?」
「おれは大丈夫だ!シンザ、操縦を代われるか?」
「はい!やってみます!」
バフォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ヒュン!ヒュヒュン!バシュン!!ヒュン!ヒュヒュン!
「よし!3つ数える!ゼロで交代だ!ルナリ、代わった瞬間におれをやつの額へと送ってくれ!」
「はい!」
「承知した」
「3!」
バフォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
ヒュン!ヒュヒュン!バシュン!!ヒュン!ヒュヒュン!
「2!」
バブオォォォォォォォォォォォォォ!!
ギュン!ヒュヒュン!ギュゥゥン!
「1!」
「ゼロ!」
シンザはスノウと絨毯の操縦を代わった。
一瞬ぎこちない動きとなったが、フランシアとソニックが魔力を振り絞って氷結バリアを放ちなんとか光線を防ぎ切った。
同時にルナリは右手を黒い煙状に変化させ、スノウを包む球体を作り出した。
「行くぞ」
「おう!」
ギュワァァァァァァァァン!!
小片の破壊者の放つ白熱光線の複雑な軌道をルナリは正確に捉え避けながらスノウを額部分へと送っていく。
シンザはルナリを補助するようにさらに小片の破壊者の頭部に近づいていく。
「シンザよ、あまり近づいてはならん。我なら大丈夫だ。光線の動きは見切っている」
「分かってるよ!」
バビュビュビュビュゥゥゥゥゥン!!
凄まじいスピードでスノウをつつでいるルナリの球体は額へと迫っている。
そして後少しというところで、突如小片の破壊者の目が光り出した。
バフュゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
『!!』
両目からも光線が放たれたのだ。
「小癪な真似を!」
ルナリの球体は直に目から放たれた光線を受けてしまう。
「うぐっ!」
「ルナリ」
「大丈夫だシンザよ」
「マスター!!」
ルナリの球体がスノウごと白熱光線に焼き尽くされてしまうと思われた。
だが、球体から一筋の黒い触手が伸びていた。
その先端にはスノウが掴まっている。
「ナイスだルナリ!」
トォォン‥‥ヒュゥゥゥゥ‥‥ガシッ!
スノウは小片の破壊者の頭部の額に着地した。
そして絨毯を操るシンザに離れるよう指示を出した。
シンザは右拳をあげて返事をしてそのまま小片の破壊者から離れ始めた。
「大丈夫かいルナリ!」
「問題ない。ほんの2秒間光線を受けただけだ。ダメージはあったが回復可能なレベル。それより気を抜くでないぞシンザ。石像の表情が変わった」
ルナリの言葉を受けて皆小片の破壊者の頭部の表情を見た。
オルダマトラを取り逃した時に見せた怒りの表情を見せていた。
その額部分にしがみついているスノウはフラガラッハを抜いて振りかぶっていた。
「さて、そろそろ大人しくなってもらうぞ」
スノウは全身で波動気を練り螺旋の波動を両腕に流していく。
ガキィィィィィィィィィィィィィィン!!!
凄まじい衝撃音が響いた。
いつも読んで下さって本当に有り難う御座います。




