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<ケセド編> 155.帰還

155.帰還


 スノウたちはイリディアの転移魔法の連続発動で空を転移を繰り返しながら進んでいる。

 向かっているのは崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口が開いているはずの場所だ。

 そしてスノウ達の後を追っているのはザドキエルだった。

 途中までスノウ達と同様に転移魔法で転移して追いかけていたが、スノウ達の進む方向がほぼ一直線であったことから高速飛行に切り替えて追ってきた。


 「チッ‥数を揃えたところで模倣品は模倣品。やはり耐久強度不足です。しかも融通の効く動きが出来ない。仕方ありません。イシュタルを逃す訳には行きませんから」


 ザドキエルは一瞬止まって後方を振り返り、自分についてくるよう指示をしたドミニオンアーミーの半数が全く付いてきていないことに苛立ちを覚えたが、すぐに向き直って凄まじい速さで再び飛行し始めた。


 ドヒュゥゥゥゥゥゥゥン‥‥


 一方のスノウ達は順調に崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口に向かって転移を繰り返して進んでいた。


 「ふぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥」


 ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥


 その間ワサンがずっと叫んでいる。

 イリディアの転移魔法陣は地面とほぼ並行の位置に発動しており、その魔法陣に降りる形で入り込むと、数百メートル離れた前方に出現させた転移場所の魔法陣から落下するように出現し、再びイリディアが発動する下方にある転移魔法陣に落ちていく形で移動している。

 つまりずっと落下し続けているのだ。

 落下がトラウマになっているワサンはそれに堪えるのに必死で情けない声を出していた。


 「ワサン。呼吸を整えれば心身も落ち着くぞ」

 「う、うるへはぁぁぁぁぁぁ‥‥」


 ジェイコブの言葉にワサンはイラつきながらも落下の気持ち悪さに勝てずさらに奇妙な声を出し続けていた。


 「イリディア追いつかれそうだぞ!」

 「心配するでないわ!やつの飛行速度を計算して転移魔法陣を発動しておるのじゃ!あやつを誘い出さねばならないからこのような面倒なことをしているのじゃぞ!本来なら目的地の近くに一度で飛べば良いのだからな!」

 「す、すまん」

 「マスター!間も無くです!」

 「スノウさん!あれでしょうか!見えてきましたよ!」


 シンザが落下しながらとある方向を指差した。

 空に直径5メートルほどの紫色の渦が見える。

 弓の名手でもあるシンザは目が利くため、いち早く崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口を見つけることが出来たのだ。

 だが、転移魔法陣が紫の渦の上に出現した際に確認すると、あるはずの紫の渦はなく、落下と共に渦の下に来ると渦が見え始めた。


 「あれだわ!」

 「入り口が下を向いているみたいだぞ!」

 「あれでは入ることができんな」

 「慌てるでないカディールよ。この転移を行っているのは妾じゃ。あの程度の状況を対応出来ぬわけがなかろう」


 イリディアは転移魔法を連続で発動しつつ追ってきているザドキエルを見た後、振り返って崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口を確認した。


 「何ですかあれは?」


 ザドキエルも崩壊核(コラプシオン)の異界への入り口である紫の渦を確認した。

 ザドキエルの目が赤く光る。


 「なるほど、こことは別の世界へと飛ぶつもりですか。いいでしょう。どこの世界に飛ぼうとイシュタルを滅せればよい。その後にこの地へ戻ってくればよいのですから」


 ザドキエルは表情を変えずにさらに飛行スピードを上げた。

 一方落下し続けているスノウ達の中で、イリディアが声を張り上げて指示を出す。


 「次の次の落下時に飛行絨毯を広げる!皆手を掴んでおれ!合図するゆえしっかりと絨毯に着地するのじゃ!カディール!そなたはアリオクを抱えて離すでないぞ!」

 「承知した!」


 ヒュゥゥゥゥゥン‥‥

 

 「次じゃ!」

 『おおおお!』


 バサァッ!


 イリディアは一気に魔法の絨毯を広げた。

 かなりの落下速度になっており、その衝撃で絨毯はスノウ達を包み込むようにして落下した。

 それを見たザドキエルは凄まじい速さで、スノウ達を包んだ袋状になっている魔法の絨毯に向かって近づいてきた。


 「ぬぅぅぅん!!」


 イリディアは魔法威力を高めて絨毯を引き上げようとするが、あまりの落下衝撃で上がらない。

 その間もザドキエルは凄まじい速さで近づいてきている。


 「理解不能です。自ら攻撃を望んでいるとしか思えませんが好都合です。全員まとめて消し去ってあげましょう」


 ザドキエルは右手に金の弓矢を出現させ矢を放った。


 ビュゥゥゥン!!


 「ぬぅぅぅぅぅん!」


 イリディアは落下する絨毯の下に転移魔法陣を出現させて、その中へと入っていく。

 スレスレで金の矢を躱すことができた。


 「ちっ!」


 イリディアは転移魔法陣を崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口の上に出現させた。

 そこから勢いよく落下してくる。

 崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口の下方へ落ちていくと紫の渦がすぐ近くに見え始めた。


 「いい加減にいうことを聞かぬかぁぁ!!」


 イリディアの叫びが周囲の空気を震わす。


 ギュワン!!


 突如絨毯は息を吹き返したかのように広がり、一気に上昇した。


 「入るぞ!」

 『おう!』


 ギュゥゥゥゥン!!


 「逃しません」


 ザドキエルも魔法の絨毯を追ってくる。


 ギュゥゥゥゥゥゥン!!


 スノウたちを乗せた魔法の絨毯は崩壊核(コラプシオン)の異界の入り口である紫の渦の中へと入っていく。

 その直後、ザドキエルも異界の入り口へと入っていった。


・・・・・


 キュィィィィィィィィィィィィィン‥‥


 耳鳴りがするほどの静寂がスノウ達を包んだ。

 紫のマーブル状の畝りが果てしなく広がっており距離感が掴めていないせいか、速く進んでいるのか遅く進んでいるのか分からない状態だった。


 「何だここは?!」


 スノウ達は周囲を見渡した。


 「ここはおそらく時空が歪んだ場所だわ、とある時点と時点を強引に繋いだワームホールのようなものだと思う」

 「どこに元の時間に戻る出口があるんだ?」

 「シンザ何か見えないか?」

 「いえ、何も‥‥」

 「向こうに何かあるぞ。我には見える。異質な波動が噴き出ている」


 イシュタルに変化(へんげ)しているルナリが指差した。

 スノウはスメラギスコープを取り出してルナリが指さす方向を確認した。


 「間違いない。ルナリの指さす方向に光が見える。イリディア、ルナリの指差す方向へ向かってくれ」

 「既に向かっておるわ」

 「ありがとう。それじゃぁおれはザドキエルを未来へぶっ飛ばしてくる」

 「どうするのですか?」

 「大丈夫よシンザ。マスターだから」

 「どこからの自信?!でもまぁスノウさんなら大丈夫ですね」

 (いやいや、お前こそどこからの自信だよ)


 スノウは苦笑いしながらフランシアとシンザを見ていた。


 「私も行くわスノウ」

 「いや、ここにいてくれソニア。この絨毯から離れるとそれだけバラバラになるリスクが高まる。大丈夫だ。ちゃちゃっと片付けて戻ってくる」


 スノウは絨毯から静かに飛び降りた。

 まるで宇宙空間のようにその場に浮いている。

 魔法の絨毯はかなりのスピードで飛行していたようで、スノウを置いてあっというまに光に向かって進んで行った。

 スノウは炎魔法で手のひらから炎を噴射させて移動する。


 「移動は出来そうだ。さて、来たか」


 後方に翼を羽ばたかせながらスノウの方へと向かってくる存在が見えた。

 ザドキエルだった。


 「忌々しい次元の狭間ですね。通常の飛行ではスピードが出ないようです‥‥なるほど、炎エレメントであれば飛行が可能ですか」


 炎魔法を操って自由に動いているスノウを見てザドキエルも同様に炎魔法で飛行し始めた。

 凄まじい速さでスノウへと迫ってくる。


 「そうだ、付いて来い」


 スノウは魔法の絨毯が進んでいる方向とは別の方向へと進み始めた。


 「罠ですか。私にそのような罠など無意味ですがまぁいいでしょう。貴方を消し潰してからイシュタルを追うとしましょう」


 スノウは飛行しながら周囲を見回す。


 (時の綻びを見つけろ‥‥目で見えるものだけに惑わされるな‥‥)


 スノウは目を瞑った。

 100メートルほど背後にザドキエルが迫り徐々にその距離を縮めている。


 「視界を遮るとは血迷いましたね。いいでしょう、この距離であれば間違いなく仕留められます」


 ザドキエルは金色に輝くシェキナーの弓を構えた。


 「‥‥‥‥」


 スノウは目を瞑って周囲に意識を集中させた。


 (‥‥‥‥ぼんやりと感じる‥‥)


 ザドキエルが50メートルまで距離を縮め弓を放った。


 「消え去るがいい」


 フュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥シュゥゥゥゥゥゥ!!


 ス‥‥


 「何?!」


 スノウはザドキエルの放った矢を半身ずれて躱した。

 そしてそのまま倒れ込むようにして仰向けで下の方へと飛行していく。


 「ちっ‥逃しません」


 凄まじい速さで移動するスノウを追いかけるザドキエル。


 「!!」


 突如スノウは止まりザドキエルの方に向いた。

 そして両腕を広げた。


 「さぁ来い!その矢ではおれは殺せない!直接攻撃で来い!」


 スノウは士気高い笑みで挑発した。


 「小賢しいですね。いいでしょう。この神話級武具神棒ルーゲンで粉々にしてあげましょう」


 ザドキエルは凄まじい勢いでスノウに向かって飛行しつつ、右手に金色に輝く長棒を出現させ大きく振りかぶった。


 「さぁ滅しなさい」


 ブワン!‥フシュン!!


 金色に輝く長棒がスノウに振り下ろされる直前、突如スノウの目の前でザドキエルが消えた。

 スノウの目の前に光の筋が見える。

 光の筋はゆっくりと小さくなり消えた。


 ス‥‥


 「じゃぁなザドキエル。何だか呆気ない気もするが、うまく行ったな。数百年先になるがせいぜい嫉妬心を解消できるよう頑張ることだ。だが、こっちはこっちで準備させてもらうがな」


 スノウはザドキエルを別の時間軸へと送った。

 視界に頼らず、精神統一して意識の波を周囲に展開することにより、次元の綻びを見つけることができたのだった。

 その次元の綻びは数百年先の時間軸である、時の呪縛から解き放たれているスノウにとって、ブロック状に立ち並ぶ時間のセルを自由に選び開くことができたのだ。

 スノウの中では推論でしかなかったが、それが見事に的中し別時間軸のポータルを開いたことでザドキエルを追いやることに成功したのだった。


 「おっと、いけねっ!」


 スノウは魔法の絨毯の方へ凄まじい速さで飛行した。


 「おい!あれスノウじゃないか?!」

 「はい!スノウさんです!」


 魔法の絨毯にいるワサンとシンザがスノウを見つけた。


 「遅いわ。全く妾達をここまで待たせるとは高くつくぞ」


 イリディアは嬉しそうに言った。

 スノウが魔法の絨毯に合流した直後、イリディアは魔法の絨毯を操作して元の時間軸の光の中へと入っていった。


 バシュュゥゥゥゥゥゥ‥‥ドボォォン!!‥‥ズン!ズズン!


 スノウたちを乗せた魔法の絨毯は地面に着地した。


 「いてて‥ここは?!」

 「マスター!」


 目の前に半身が溶けてなくなっている崩壊核(コラプシオン)が機能停止した状態で直立していた。

 遠くでは光線が暴れるようにして放たれていた。

 古えの技術を使いシャーヴァルを贄にして顕現した小片の破壊者(ガアグシェブラ)の放ったアーリカの火(アグニマ)だった。


 「戻ってきた‥のか?」

 「ああ、間違いない」


 スノウ達は元の時間軸へと帰還した。




いつも読んで下さって本当に有難う御座います。

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