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<ケセド編> 154.イシュタルの策

154.イシュタルの策


 ザドキエルの号令でドミニオンズアーミーが徐々に迫ってきていた。

 イシュタルの号令の下、全員作戦に基づいて体勢を整える。

 その時スノウがイシュタルの背後に詰め寄った。


 「イシュタル。お前の作戦は破綻する」

 

 スノウは他の者に聞こえないように小声でイシュタルに言った。


 「何を言っている?しかもこの状況で‥‥お前の作戦?私たち全員で立てた作戦だろう?」

 「違うね。お前の本当の狙いと作戦のことだよ。お前、おれ達を利用してこの世界を破壊しようとしていたな?」

 「何を言っている」

 「気づいているんだろ?お前の創り出したライフサイクルの循環世界が末期だってことを。ルナリを使って人々の負のエネルギーを吸い取っても、いずれ結局また同じ状態を迎えることになる。その時ルナリのような器が現れるか保証など全くない」

 「何の話だ?」

 「お前は主天使とおれ達を利用してこの世界を一度破壊するつもりなんだろ?破壊から人々が立ち直ろうとするベクトルには負のエネルギーは極めて小さくなる。その中で今とは全く別の世界を作ろうとしている。そうだろ?」

 

 「‥‥‥‥」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 「無言か。それがお前の答えってことだよな」


 「‥‥‥‥」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 イシュタルから冷たく重苦しいオーラが放たれた。


 「全く‥もう少しお前が馬鹿なら良かったんだがなぁ。いつから気づいていたんだ?」

 「最初に気づいたのはアリオクだ。流石は魔王だ。神の中に巣食う邪心を捉えていたよ」

 「やはりもっと早くに殺しておくべきだったな。全く勘の鋭いやつは嫌いだよ。だが、もっと早くに殺しておくべきだったんだが、お前やアリオクがいなければ今のこの状況もなかったはず。最初から無茶な作戦だったのかもしれない」

 「いつおれ達を利用する策を思いついたんだ?」

 「最初に会った時だよ。お前達の戦力の高さと騙して動かすのに丁度良い人数、そして自我の芽生え始めていたホムンクルス。それを見て最初はこの世界のキャパを超えてしまった負の感情エネルギーをホムンクルスに吸収させる計画を立てたんだ。ホムンクルスが1体で足りなければ、お前のいた世界からまた持ってくればいいとも思っていた。だが、その時気づいたんだ。お前の言うとおり、それを何度繰り返してもいずれは破綻するのだと。世界は正の感情と負の感情のバランスを保つことが重要であり、どちらかに偏らせてしまうと世界がその偏りを解消しようと大きな反動を起こす。おそらくその反動はこの世界を数百年程度混沌の世の中へと変えるか、この世界の生物を抹殺し、リセットするかだ」

 「そこでお前は世界が均衡を保つための反動を起こす前に、自らの手でこの世界をリセットしより均衡の保たれた世界を創ろうとしたってことか」

 「その通りだ」

 「だが、自ら破壊することなど出来ない。お前はこの世界を創り直す神でなければならないからな。そこでおれ達の戦力を使って天使達にこの世界を破壊させようとしたってことだな?」

 「ほぼ正解だ。見事に見破られてしまったな」

 「ああ、結果的にな。だがおれには完全に確信が持てていなかったんだ。アリオクに忠告されていたんだが、確認が持てなかった。どこかでお前を信じたかったのかもしれない」

 「そうか‥‥いつ確信を持ったんだ?」

 「怪しい瞬間は何度かあった。だが決定的だったのはアリオクが刺された時だ。お前の動きがぎこちないというか、わざとアリオクが刺されるのを阻止しなかったように見えた瞬間だ。それまでは別の策を講じるつもりだった。だが、あの時のあんたの動きと表情‥‥おれには分かる。誰かを陥れようしている者がその感情を押し殺して演技をしているのがな」

 「随分と洞察力が高いじゃないか」

 「長い間人間不信だったもんでな。自己防衛本能とでもいうのか、自分に何かをしようとしている者をいち早く察知するために常に人観察していたんだよ。目の動き、表情筋の変化、息遣いの荒さ、言葉遣いの抑揚、さまざまな要素が複雑に絡んでいても大体分かるようになった。いいことじゃないんだろうがな」

 「フフフ‥‥その割には色恋には鈍感なようだが」

 「?!」

 「まぁいい。それで今この戦い真っ只中、大軍が攻めて来ようとしている直前にこの話をしたと言うことは私に選択肢を与えずに何かをさせようとしているんだろう?大方ホムンクルスの代わりに私本体があのドミニオンズアーミーの大群の中に突っ込めとでも言うのだろうが」

 「ご明察。おれ達は元の世界へと戻らせてもらう。だが安心しろ。ザドキエルは請け負ってやる。ザドキエルがいなければ指揮命令系統を失うドミニオンズアーミーは退却するか暴走するか、いずれにしても新たな指揮官を任命して何らかの行動の変化を生じさせるはずだ。その状況を利用出来るかはお前次第ってことになる。上手く利用して世界を破壊して創り変えることも出来るだろう。失敗してもこの世界は破壊されるのだろうがな」

 「全くお前は頭の回る悪魔だな」

 「お互い様だ」

 「フフフ、そうかもしれないな。神も悪魔も人も、感情に振り回されている時点で同じ存在なのやもしれない。万物が幸せに暮らせる世界の均衡など存在しないのだからな」

 「世界の均衡なんかに興味はない。おれはおれの仲間が幸せであってくれればそれでいいんだ」

 「なるほど。お前が唯一手に入れた信頼と安心か。だが、それにも正と負、陰と陽は存在する。永遠に一緒であることなどあり得ない。如何に範囲が限定的であったとしても、それはこの世の物理法則原理の枠から見た視点に過ぎない。未来永劫変わらないものなどない。それをよく肝に銘じておくんだな」

 「余計なお世話だ」

 「フフフ‥‥そうかもしれないね」


 イシュタルはそう言うと振り向いて手をあげた。


 「これより作戦実行に入る!私はドミニオンズアーミーに突入する!」

 『!!』


 突如の作戦変更に皆驚いたが、フランシア、ワサン、ソニアはこの状況変化がスノウの考えに基づくものだと理解していた。


 「スノウを始めとする私以外全員はザドキエル討伐に専念してほしい」

 「イリディア様!何を仰っているのですか?!」


 シャルギレンが不安そうな表情で声を荒げて言った。

 続いてカディールが表情を変えずに言った。


 「いくらお前が神だからと言ってもあれだけの大群を1人でどうにか出来るものでもあるまい」


 だが、それをイリディアが制するようにカディールの胸に手を当てて一歩前に出て言った。


 「分かった。そなたがあの軍に突入して以降、妾達は一切の援護が出来ないと思うがいい」

 「問題ない。後はスノウの指示に従うといい。彼にはこの作戦変更の内容全てを伝えてある。それでは作戦開始だ」

 「イシュタル神」


 スノウが最後の言葉のように改まって言った。


 「ご武運を」


 スノウの言葉にイシュタルは言葉を発することなくわずかに微笑んで返した。


 ダシュン!!


 イシュタルは大きく跳躍して光の筋となっているドミニオンアーミーの方へと向かった。


 「さて、どうしたものか。まぁ7割程度は何とか出来るかね」


 ヒュゥゥゥゥゥゥン‥‥ドッゴォォォォォォォン!!!


 「!!」


 ドミニオンズアーミーの方へと向かって飛行しているイシュタルを追い越すようにして無数のエレメント魔法の塊が凄まじい勢いでドミニオンズアーミーに向かって飛んでいき、とてつもない破壊の爆発を引き起こした。

 振り向いたイシュタルの先にいたのはスノウたちだった。

 スノウ、フランシア、ソニア、イリディアが強力な爆裂魔法を繰り出したのだ。

 そしてそれをイリディアが魔法式で融合して個々の魔法威力を数倍にまで引き上げていた。


 (イシュタル。手向けだ)


 スノウはイシュタルを見ながら心の中でつぶやいた。


 (何とも味な真似をしてくれる)


 だが、凄まじい魔法の複合効果により多くのドミニオンズを破壊したが、まるでなかったことのように無尽蔵に主天使(ドミニオンズ)が出現して光の筋を地上に向かって伸ばしている。

 イシュタルは笑みを浮かべた後、ドミニオンズアーミーの方へと進んでいく。


 「さぁ!私は豊穣と慈愛の神イシュタル!私の首が欲しいのだろう?取ってみるがいい!取れるものならばな!」


 イシュタルは凄まじい魔力の破壊波を生み出しドミニオンズアーミーに向かって放射した。


 ドッゴォォォォォォォォン!!


 その破壊波には黒い稲光を放ちながらドミニオンズアーミーの光の筋の前方に直撃しとてつもない爆発を見せた。

激しい爆風がスノウたちのいる場所にまで届いた。


 「よし、おれ達の作戦を実行する」

 『おう!』

 「スノウ!俺たちは残る!お前さん達はお前さん達の出来ることをやれ!」


 シャルギレンがスノウに向かって言った。

 スノウはそれ握り拳を軽くあげて、反応した。

 シャルギレンはそれに笑顔で返して仲間達と共に武器を構えた。


 既にイシュタルに変化(へんげ)しているルナリを隠すようにしつつ、スノウたちはドミニオンズアーミーへの魔法攻撃を続けながらその場から離れていく。


 「!!」


 ザドキエルがルナリの変化(へんげ)したイシュタルに気づいた。


 「‥‥‥‥」


 ザドキエルはドミニオンズアーミーの大波に向かって破壊波を放っているイシュタルを見た。


 「‥‥‥‥」


 ふたたびザドキエルはルナリの変化(へんげ)したイシュタルを見た。


 「‥‥‥‥」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 「主天使(ドミニオンズ)たちよ!半軍私に付いてくるのだ!」


 ダシュゥゥン!!


 ザドキエルスノウたちの方へと凄まじい速さで進んできた。


 (釣れたぞ!)


 「よし、イリディア頼む!」

 「綱渡りの連続じゃぞ。しっかりとついてくるのじゃ」


 イリディアは目の前に転移魔法陣を出現させた。

 スノウたちはその転移魔法陣の中へと入っていく。


 ビュゥゥゥン!


 かなり離れた上空に転移魔法陣が出現する。

 転移魔法陣から落下するようにスノウたちが出てきた。

 そしてイリディアは落下する自分たちの下方に再び転移魔法陣を出現させた。

 転移魔法陣を連続で出現させて目的地まで瞬間移動を繰り返して進む作戦だった。


 「小癪な真似をしますね!ですがこの大天使たる私から逃れることは出来ない」


 バヒュン!!


 ザドキエルも転移魔法陣を出現させてその中に消えた。



いつも読んで下さって本当に有難う御座います。

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