＜ケセド編＞ １５１．予期せぬ来訪者
１５１．予期せぬ来訪者
「ハシュマル！！」
スノウは凄まじい速さでハシュマルに突進しフラガラッハの強烈な一撃を放つ。
「！！」
ガジュバァァァ！！
ハシュマルはそれを受けようと右腕を受けの構えで振り上げると、スノウのフラガラッハの一振りがハシュマルの腕ごと縦に真っ二つに斬り裂いた。
ジュババババババババン！！
スノウはそのまま細切れになるまで斬り刻んだ。
シュバン！
「スノウ！後ろだ！」
「！！」
トォン！‥‥スタッ！
アリオクの声もあったが背後から恐ろしい殺気と共に攻撃が放たれたのを感じ飛び退いたスノウのすぐ背後にハシュマルの手刀が見えた。
スノウは着地するとすぐさま防御の体勢をとった。
（何が起こった？！‥‥確かにハシュマルを斬り刻んだはずだ！）
ダシュン！！
スノウはすぐさまハシュマルに詰め寄り再び凄まじい攻撃のラッシュを放った。
だが、その姿は消えている。
「！！」
今度は背後に殺気を感じたスノウはそちらに向かってフラガラッハを振り上げたが、空を切った。
（どうなってる？！）
「スノウ！お前さっきから剣を振り回して何をしているんだ！」
「遊んでる場合じゃねぇだろう！ダンスならこいつらぶっ殺してからにしろ！倒したはずの天使が復活しているんだぞ！」
アリオクに続きライドウまで理解し難い反応で声をあげた。
スノウは2人を見るとアリオクがムリエルと戦っており、ライドウがザフキエルと戦っていた。
フランシアはガルガリエルと戦っており、イシュタルはキュリエルと戦っている。
（３体の天使はバラバラにしたはずだぞ？！）
ヒュン！
「？！」
スノウは慌てたように周囲を見回した。
だが、誰もいない。
スタ‥
「ハシュマルは！？」
「何を言っている？早く加勢しろ！」
「ライドウとか言ったわね、マスターへの無礼、この戦いが終わったらきっちりと償ってもらうわ！」
「うるせぇ！お前は目の前の天使に集中しろ！」
（一体何が起こっている？！）
スノウは目を瞑って意識を落ちつかせた。
「‥‥‥‥」
ライドウやフランシア、イシュタルがスノウに向かって何かを言っているが、スノウは集中力によって聴覚が薄れていき、次第に声が届かなくなっている。
「‥‥‥‥」
スノウはライフソナー、マジックソナーを展開し、周囲への感知感覚を研ぎ澄ませた。
シィィィィィィン‥‥
ドクン‥ドクン‥ドクン‥ドクン‥
自身の心音が大きく響く。
感覚がさらに研ぎ澄まされ心音以外は聞こえなくなっていた。
「‥‥‥‥」
ズバァン！！
ドッバァァァ！！
スノウは突然右側の何もない空中を斬った。
すると何もない場所から青い液体が飛び散る。
ブワァン！！
スノウは飛び散った液体をフラガラッハを一振りしてその風圧で飛ばし返す。
ドッバァ‥
青い液体が見えない何かに当たった。
「姿を見せろ」
スノウはフラガラッハを構えて、青い液体の被さった見えない物体に向かって言った。
すると徐々にその姿が露わになった。
「よく分かりましたね」
姿を見せたのは天使だった。
だがその背中には不気味な黒い翼が生えている。
天使のようだが悪魔にも見える得体の知れない存在だった。
青い液体はその天使から飛び散った血だった。
黒い翼の天使は回復魔法を唱えたのか、スノウの攻撃で深く抉れた胸と腹の傷を治し、青い血も消し去った。
「お前は誰だ」
スノウの鋭い眼光の冷静な問いに黒い翼の天使は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
「私の名はマスティマ。ザドキエルがいよいよイシュタルを滅ぼすというので遠くから見物と洒落込みに来たのですが、いきなり４天使の内３体が敗北する結果となりました。それを受けて遠くから見ているだけでは勿体ないと思い、この場に確認しに来たというわけです。どのような者が天使を相手に３体も破壊したのかをね」
「お前もザドキエルの仲間か？」
「ファッファッファ！面白いことを言いますね、貴方。無知とはいつの時代であっても無邪気で愉快です。私は半天半魔。いわゆる中途半端な存在です。でも、中途半端とはいわゆる何にも固定されていない自由な存在。今までハノキアをふらふらと漂っていましたが、何者にも与せず、時間からも解き放たれた貴方は一際目立っていますから、興味が湧いたんです。それで探していたんですがね。何と、ザドキエルの配下の天使をあっという間に３体破壊した者がいるのを探知して急いできてみたら探し続けていた貴方に辿り着いたというわけです」
スノウはフラガラッハを構えて警戒しつつ応えた。
「お前が何者かは知らないが、おれ達は今忙しいんだ。邪魔する気がないなら、とっとと消えろ」
「ファファファ‥‥忙しいとは何にですか？」
「？！」
スノウは周囲を見回した。
他の者達の動きが止まっている。
（何が起こっている？！）
「時ノ圍ですよ。時を極限まで遅くさせる能力です。元々は神だけが使える力ですが、今では天使や悪魔でも最上位種になり覚醒すれば使えるものです。‥‥さて、探し続けた貴方に辿り着いて私はとても気分がいい。ですので少し情報をお渡ししましょう。ザドキエルの配下の４天使の中で最も恐ろしいのはキュリエルです。彼の正体は雲。雲とは蒸気。今降っている雨は彼の力の一端ですが、この雨の中はいわば彼の作り出した檻の中にいるのも同じ。今貴方のお仲間は一体何と戦っているのか。よぉーく観てみることですね」
「雲‥‥蒸気だと？」
「ええ。さて、それでは私はひとまずこの場を去ります。間も無くザドキエルがやって来ます。彼は少し苦手でしてね。あの顔は見たくないのです。それでは」
「ま、待て！」
マスティマと名乗った黒い翼の天使は砂が滲んで溶けていくように消え去った。
消え去った瞬間、止まっていた時が動き出した。
アリオク、イシュタル、フランシア、ライドウが４天使たちと戦っている。
スノウはその様子を観た。
そして空を見上げる。
「‥‥‥‥」
スノウは何かを悟ったように小さく頷くと、大きなボールを抱えるように両手を前に出した。
ボッ‥
両手のひらの間に小さな炎が発生した。
炎の球体は渦を巻きながら温度を急激に高めている。
スノウはそれをさらに凝縮するように小さく圧縮していく。
パァァァァ！！
激しい光が炎の球体から発せられたが、それと共に熱量を上昇させて大きくなっていく。
スノウはそれをさらに圧縮した。
そしてゴルフボールほどの大きさに圧縮させたかと思うとそれを一気に空へと放り投げた。
「みんな伏せろ！」
『？！』
アリオクたちはスノウの言葉に反応し、屈んで姿勢を低くした。
ヒュゥゥゥゥゥ‥‥ドッゴォォォォォォォォォォォォォン！！
上空でスノウの放った超高熱が凝縮された炎の球体が超爆発を起こした。
「アトミックデトネーション‥‥」
スノウは超高熱の爆発魔法を放ったのだった。
アトミックデトネーション。
それは通常ジオエクスプロージョンの十数倍の威力を放つ炎魔法だが、スノウは圧縮に圧縮を重ねて、その威力を数十倍にまで引き上げて放った。
その超高熱の爆発はこの周囲に吹き荒れている暴風雷雨を一瞬にして蒸発させて消し去った。
バシュゥゥゥゥゥン‥‥
『！！』
アリオク達は先ほどまで戦っていた天使たちが消えたことに気づいた。
「まやかしだったか」
「どうなっているんだ？！」
「なるほど。私たち、幻影と戦っていたようね。マスターの魔法でその幻影が消し去れられたということだわ」
「情けない限りだな。天使にいっぱい食わされたということだね、小賢しい。そしてそれを作り出していたのは‥‥」
イシュタルたちは空を見上げた。
そこにいたのは半身に激しい火傷を負った状態で浮遊しているキュリエルだった。
「蒸気を操って幻影を見せていたが、その蒸気を蒸発させてしまえば、幻影も消える。さぁチェックメイトだ」
スノウは風魔法で浮遊してキュリエルに詰め寄った。
「分析に、必要な、時間は、稼ぎました。貴方がたは、終わりです」
キュリエルはそう言うと離れていく。
「逃すか！」
スノウがキュリエルを追いかけようとした瞬間。
ヒュゥゥゥゥゥゥン‥‥ズザァァン！！
上空から光の矢が飛んできた。
スノウはそれをギリギリ躱す。
砂埃ひとつ巻き上げることなく地面に突き刺さった光の矢は次第に光を強めていく。
「まずいな。イシュタル」
「ああ」
アリオクはイシュタルに合図を送り凄まじい速さでフランシアとライドウを担ぎ、光の矢から離れていく。
イシュタルも同様にその場から凄まじい速さで離れていく。
シュゥゥゥゥゥ‥パァァァァン‥‥ドッゴォォォォォォォン！！
光の矢は激しい発光と共に超爆発を巻き起こした。
その上空には巨大な翼を４枚もつ天使がいた。
主天使を束ねる大天使ザドキエルだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。
