<ケセド編> 150.ドミニオンズ
150.ドミニオンズ
空が突如黄金に輝き出した。
スノウたちが崩壊核に飲み込まれる前の時間軸であるヒンノムに聳え立つ大骨格コスタがあるはずの場所から真上に、まるで台風の目のような空間があり、そこを中心として巨大な雲の渦が形成されている。
台風の目のような空間だけは澄み渡る空が見えており、その中心から眩いほどの黄金の光が降り注いでいる。
そこから真下の地面には1人の人影があった。
豊穣と慈愛の神イシュタルだ。
「さて、大人しく帰ってくれるといいだがねぇ」
イシュタルは腕を組んで空を見上げている。
ファン‥‥ファンファン‥ファン‥
不思議な共鳴音と共に空が光を放った。
次の瞬間。
ズン!‥‥ズンズン!‥ズン!
4つの光が地面に降り立った。
凄まじい速さで重量感のある何かが落下してきたのだが、地面が抉れるどころか、砂埃ひとつ立たずに4つの何かが着地した。
眩い光ではっきりとは見えなかったが、徐々にその姿がはっきりと見えてきた。
直立した状態で4人の人影が立っている。
無表情でまるで人形のように直立した人影は4人揃ってゆっくりとイシュタルの方へと向いた。
「豊穣と」
「慈愛の」
「神」
「イシュタル」
「我らの」
「要請に」
「応じない」
「罪に」
「より」
「貴方の作りあげた」
「この世界を」
「破壊」
「する」
「こととする」
4人の光を放つ存在はひとりずつ一つのフレーズを単語毎に区切って話し出した。
「ドミニオンズ‥‥ザドキエルの配下の4人が直々に降臨かい?ムリエル、キュリエル、ザフキエル、そしてガルガリエル。いよいよこの私を殺しに来たか」
イシュタルの目の前に現れたのはザドキエルの配下である4天使、ムリエル、キュリエル、ザフキエル、ガルガリエルだった。
イシュタルの言葉に無表情で無機質に感じられる天使たちはお互いの顔を見合わせた。
「いかにも」
「貴方に」
「永遠の」
「救い」
「を」
「与える」
「永遠の救いか。それは困るね。つまりそれは死ということだ。生憎この世界を私は気に入っているんだよ。私がいなくなることによってこの世界の円滑な循環が滞る。お前達の主人である唯一神が作り上げた人族の殆どは、私の作り上げた生の循環で幸せを悟り、一生を終える覚悟を持って土に還ることができている。私を殺すということはその世界を壊すということだ」
ズザザザ!!
天使たちは無表情のままイシュタルを四方から囲んだ。
「全く会話にならないな」
イシュタルは4天使から繰り出されるであろう攻撃に備える。
一方それをスノウ達は少し離れた場所から見ていた。
「あれがザドキエル配下の4天使か」
スノウは4天使一人ひとりをスメラギスコープで確認した。
(やはりあの中にはハシュマルはいない。ザドキエルと同等で、こいつら4体を倒すと登場してくるパターンか?いずれにしてもイシュタルから合図が来るはず。雲を操るキュリエルと太陽を管理するガルガリエルが4体の中のどれなのかが分かり次第攻撃だ)
スノウは頭の中で手順を確認し、他のメンバーに指示を出す。
「そろそろおれ達の出番だ。イシュタルからターゲットであるキュリエルとガルガリエルという天使が示唆される。おれ達が倒すべき相手はその2体だ。他はどうでもいい。もし攻撃が飛んできてもイシュタルとアリオクが防いでくれるはずだ。合図が出次第、おれ達はキュリエルとガルガリエルに総攻撃を仕掛け、速攻で倒す。その後、残った2体を攻撃だ。準備はいいか?」
『おう!』
この場に来ている者達小声で返事をして頷いた。
アリオクが作り出した地割れ部分で待機しているのはスノウ、フランシア、ライドウ、アリオクの4人だった。
スノウの作戦はスノウ達一団を二つに分けるものだった。
ひとつめはイシュタルと共に4天使に対処するチームでスノウ、フランシア、ライドウ、アリオクの4人だ。
基本的に個の強さで対処するもので、火力優先の人選だった。
ふたつめの隊である第2陣は、スノウ達の戦いが佳境を迎える頃にやって来るはずのザドキエルとドミニオンアーミーを迎え撃つチームだ。
相当な数が襲ってくる可能性が高いため、複数への攻撃を得意とするイリディア、ソニア、そして負の核の力を得たルナリの3人を中心に、それぞれを守る役割をカディール、ワサン、シンザが担う。
ヴァティ騎士のジェイコブ、アールマン、ベルトランド、そしてシャルギレンとその弟子達は援護に回る。
第1陣が突撃した後、命の街アフレデのスノウ達が借りている古い屋敷に待機している第2陣がイリディアの転移魔法陣を通って、スノウの指定する場所に降り立ち、ドミニオンズを迎撃する。
4天使から破壊のオーラが展開された。
イシュタルは両手を広げそれをかき消すように慈悲のオーラを放った
「多勢に無勢だけど本気でいかせてもらう。だがその前に、今更だが改めて問う。お前達がこの地に降り、私を殺した後何をするんだ?この世界をどうするつもりだ?」
4人の天使は無表情のまま単語一語ずつ分担するように話し始めた。
「お前の」
「穢した大地を」
「浄化し」
「我らが神が」
「お喜びになる」
「世界に」
「造り変える」
「お前達にとって穢れた大地とは何だ?」
「ヒト族を」
「太らせるために」
「大地を痩せさせてまで」
「食料を」
「過多に与えている」
「それにより」
「大地は」
「穢れた」
「この地のヒト族は」
「既にケセドを破壊する」
「ウィルスと」
「成り果てた」
「放置すると」
「刹那に増殖し」
「大地を枯渇させ」
「ケセドをしの大地と変える」
「大地が枯渇しているだって?私は豊穣の神だ。そんなことにはならないし、仮になることがあろうと肥沃な大地に生まれ変わらせる。碌に調べもせずに決めつけるあたりがお前達天使らしい」
4天使はイシュタルの言葉に反応することなく無表情で話を続けた。
「そして」
「悟りと称し」
「神の教えから」
「遠ざかった」
「ヒト族の思想」
「この二つの」
「不敬な行いが」
「この世界における」
「悔い改めることを」
「許さない」
「穢れだ」
「馬鹿馬鹿しいね。この世界に生きる者達を何だと思っているんだ。やはりお前達とは相容れない。私はお前達を破壊してこの世界を守ることにする」
イシュタルは広げた両手の人差し指をキュリエルとガルガリエルに向けた。
「審判は」
「下された」
バッ!!
4天使は両手を前に出した。
両掌に光が収束していく。
バリババリバリバリ!!
4天使の両掌に収束された光が各天使と繋がりイシュタルを囲む光の輪を形成した。
「アウレオラが」
「貴方を」
「捕らえました」
「このリングに」
「捕らえられた者は」
「決して」
「抜け出ることはできず」
「蒸発する」
光の輪が4天使の手のひらから離れ、徐々に小さくなっていく。
「さぁイシュタルよ」
「最期の時だ」
ヒュゥゥゥゥゥゥン‥‥
光の輪が溜めていたエネルギーが一気に放出するかのようにイシュタル目掛けて収束していく。
ジャジャジャジャギキィィン‥‥ドサドサドサ!
『‥‥‥‥』
突如4天使たちの両腕が斬り落とされた。
ズザザァ!
斬り落としたのはスノウ、フランシア、ライドウの3人だった。
4天使たちは表情を変えることなく、斬られた腕の断面を見ている。
そしてゆっくりと、スノウ達へと視線を向けた。
だが、光の輪は消えることなく、徐々に輪の直径を狭めながらイシュタルに迫っている。
シュヴァァァン!
『!!』
光の輪が突如切断され、切れ目から消え去り始めた。
そして光の輪は消え去った。
「アウレオラを」
「消し去ったのは」
「誰だ?」
4天使達は一斉にアリオクの方へと目線を変えた。
そしてその表情はこれまでの無表情な状態から、まるでお面を変えたかのように怒りの表情へと一瞬で変化した。
「貴方は」
「アブディエルによって」
「地に堕とされた」
「アリオク」
「穢れた魔王」
「仲間を」
「幾体も破壊した」
「悔い改めても」
「その罪は」
「許されることは」
「決してない」
両手を失った4天使は怒りの表情でアリオクの方へと向きを変えて翼を広げて空中を浮遊しながら4方を囲む陣形をとった。
「まずは」
「お前から」
「消滅させる」
ズリュリュン!!
4天使の腕が一瞬にして生えてきて、元通りとなった。
「アウレオラ」
「発動」
キュウィィィィィィィィィン‥‥
4天使は両手を前に出すと、再び光の輪を出現させた。
ズバババババァァン!!‥‥ズズズズン‥‥
スノウたちは4天使の腕をふたたび斬り落とした。
今度は光の輪が手のひらから離れていなかったことで、4天使の両腕が斬り落とされたことで、腕のと共に光の輪も地面に落ちて消えた。
「貴方達は」
「何者ですか」
「何をしたのか」
「分かっていないようです」
「穢れた大地に住まう」
「穢れたニンゲン」
「万死に値します」
ズリュリュリュン!!
4天使の腕が再度生えてきて元通りになると、スノウ達に一斉に飛びかかってきた。
スノウはフランシア、ライドウに目線を送る。
それを受け取ったふたりは飛びかかってきた天使の攻撃を避けて、キュリエルとガルガリエルに攻撃を繰り出した。
ドガガァァン!!
ムリエルとザフキエルが素早い動きでフランシアとライドウの前に立ちはだかり2人の攻撃を受けた。
その隙にスノウはガルガリエルに攻撃を加える。
ズジャジャジャジャジャジャ!!
「スノウ!主天使には高い再生能力がある。俺の魔刀、獅子玄常で頭部と腹部を斬れ!」
アリオクが魔刀をスノウに投げてきた。
『させない』
ムリエルとザフキエルが凄まじい速さでガルガリエルの前に立ち防御体勢を整える。
「お前らの相手は!」
「私たちだわ!」
ライドウとフランシアがムリエルとザフキエルの背後に周り髪の毛を掴んで思い切り投げ飛ばした。
シュドドォン!
その隙に魔刀を受け取ったスノウはガルガリエルの頭部と腹部を斬り刻んだ。
ズジャジャジャジャジャジャジャバァ!!
ギリリリギリリリ!!バリバリバリバリリリィ!
斬り刻まれた箇所から火花と電光が発せられた。
バシュゥゥゥゥゥゥゥ‥‥
バラバラになったガルガリエルはその場に散らばり、動かなくなった。
「我らは」
「貴方達を」
「破壊します」
素早い動きでムリエルとザフキエルがキュリエルの前に立ち防御の体勢をとった。
背後にいるキュリエルは両手を天に翳して空を見上げた。
ドッゴォォォン!!ゴゴゴゴゴォォォ‥‥バリリィィ!!
突如空に黒雲が発生し始めて轟音と共に稲妻が走った。
ズザァァァァァァァァァ!!
太陽が隠された暗雲の空から凄まじい豪雨が降り注ぎ始める。
ドッゴォォォォォォォン!!
凄まじい稲妻がスノウ達を襲ったがかろうじて避けた。
「これは雲を操るキュリエルの力か」
ボゴオォォ!
突如ムリエルの腹部から腕が出てきた。
「お前達を止めるのは私の役目だからね」
背後からイシュタルが手をムリエルの背中に突き立て、そのまま腹部を突き破ったのだ。
バッゴオォォ!
アリオクも同じようにザフキエルの背後から正拳付きを放ち、腹部を突き破った。
「アリオク!」
スノウは手に持っていたアリオクの魔刀、獅子玄常をアリオクに向けて投げた。
ガシッ!
ズバババババババアァァン!!
ザフキエルの頭部と腹部が細切れ状態となり地面に散らばった。
火花と電光が走った後、動きが止まった。
ガシッ!!
今度はイシュタルがムリエルの頭頂部を掴み腹部を突き破っている腕と強烈な力を込めてプレスするように掴み潰し始めた。
グズズズズジャジャジャジャジャジャドゴン!!
ムリエルの腹部から頭部が潰された空き缶のようにひしゃげて、地面に転がった。
「何ということだ。これは一大事」
ひとり残されたキュリエルは空を見上げた。
そして口を大きく開けると、打ち上げ花火のように空に向かった発光体と飛ばした。
ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥パァァァァ!!
黒雲で覆われている空が一気に明るくなる。
数秒後、空から一筋の光が差し込んできた。
光の筋はキュリエルの手前に光を落としている。
ズン‥‥
突如何者かが土埃ひとつ巻き上げずに降り立った。
「ムリエル、ザフキエル、ガルガリエル。イシュタルと魔王ごときに破壊されるとはなんたる失態でしょうか。貴方達の主天使の位を剥奪します。転生後、最下層からやり直すことです」
空から降臨した何者かはバラバラにされ散らばった天使達の残骸を見て言った。
その姿にスノウは怒りの表情を見せながら言った。
「ハシュマル!」
現れたのは主天使ハシュマルだった。
いつも読んで下さってありがとう御座います。




