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<ケセド編> 149.不信感

149.不信感


 イシュタルの城に到着したスノウたちはイシュタルにこれまでの状況を報告した。

 イーギル・シャル・ギレンダイク王に会って話した内容については頷くだけだった。

 そもそもイシュタルが話をつけていたこともあり、特に異議はなかったからとも言えるが、スノウにはイシュタル自身この件にあまり興味が無いように見えた。

 そしてルナリに起こったことも報告した。


 「何だって?!」

 

 イシュタルは驚いた表情で言った。


 「あの負のエネルギーを吸収し凝縮させている結晶体に自我があったっていうのか?」

 「そうらしい」

 「間違いない。俺はその場にいた。あれは禍々しい闇の気と共に自ら這い出てルナリの体を乗っ取った。そして俺たちを邪魔者として敵意を剥き出しにし、攻撃してきたのだ」

 「‥‥‥‥」


 イシュタルは無言で手で口元を抑えて何かを考えているような素振りを見せた。

 そして何か考えが纏まったかのように再び口を開いた。


 「ルナリはどうなったんだい?」

 「ルナリの中に入り込んだ負の核はルナリの体を得て自由の身になったと言った。だが、シンザを襲おうとした時、ルナリの自我もまた目覚め、負の核の自我を凌駕し、負の核の力を残して意識のみを体外に放出させた。ルナリが負の核の自我を実体化させたことで俺でも斬ることが出来、負の核の自我は消え去った。そしてルナリは自身の体に残った負の核の力を掌握したのだ」

 「!!」


 イシュタルは目を見開いて驚いていた。

 だが、アリオクとスノウはイシュタルが驚きつつも微かに笑みを浮かべたのを見逃さなかった。


 「そうか。ルナリには悪いことしたな。近いうちにここへ連れて来てくれないか?直接謝罪がしたい。あの負のエネルギーの結晶体は私が造り出したものなんだ。アリオクが話してくれたような自我が芽生えるはずはないのだけどね。おそらく人々の負の情念を抱え込み過ぎて凝縮されたことで何か予期せぬ変化が起こったのかもしれない」

 「なるほど。分かった。いずれ天使の侵攻に備え一箇所に集結することになるだろうから、その時にでも会いに来させるよ」

 「すまないね」

 

 イシュタルはそう言うと、窓から外を見た。

 その横顔は不敵な笑みを浮かべているように見えた。

 スノウはアリオクに目で合図した。

 アリオクは軽く頷いた。


 「それで今後の対応を相談したいんだが、まずは貴方の策があれば聞かせてもらいたい」

 「そうだな」


 イシュタルは以前出現させたように手を真横に動かすとホログラムのようにケセドの地図を出現させた。


 「以前説明した通り、この世界は人が生まれ死ぬまでの道筋を4つの街でさし示している。おそらくだけど、ザドキエルは配下のムリエル、キュリエル、ザフキエル、ガルガリエルと共にこの地に降り立つだろう。でもそれはいきなりじゃないはずだ。ガルガリエルの力で太陽を隠し、キュリエルが黒雲と共に雨を降らせ続け、この地を洪水で侵食するのだと考えている。そしてケセドの民が弱りきったところでザドキエルとムリエル、ザフキエルが主天使の軍勢ドミニオンズアーミーを引き連れ私を殺しにくる」


 イシュタルは地図の中に1点赤い箇所を出現させた。

 そこは時間軸を移動してくる前のケセド、つまりヒンノムの大骨格コスタがあった場所の丁度中心部分を指していた。

 

 「ここがどうかしたのか?」

 「ザドキエルの住まう天空神殿は丁度この真上にあるんだ。彼らはそこから飛び降りるようにしてこの地へ降臨するはず。そこで待ち構えて、戦闘に持ち込めれば勝機が生まれるはずだ」

 「どういうことだ?」


 アリオクが質問した。

 彼はやはり天使と相対する存在であり、天使と戦うことに何一つ躊躇はないようだった。


 「ガルガリエルとキュリエルを先に叩く」

 「なるほど。太陽の運行と雲を操ることの出来るやつらの動きを封じることが出来れば、暗闇の中で洪水を起こされることもないということだな」

 「そうだ。だけど、当然高い火力を有するムリエルとザフキエルも降臨するはずだ。2人を抑えてガルガリエルとキュリエルを倒す作戦が必要だね」

 「良い案はあるのか?」


 今度は若干威圧的な声でスノウが質問した。

 高火力を有するムリエル、ザフキエルを抑え込む役目をスノウ達に押し付けるつもりなら異議を唱えるつもりだった。


 「私が彼らの着地点で待ち受ける。私がいると知れば、間違いなくそこへ着地するはずだからね。そしてお前達にはアリオクが割った地面の影に隠れていてほしい。そして私が合図をしたらガルガリエルとキュリエルをお前達に倒してもらいたい。高火力のムリエルとザフキエルは私が抑える。そしてガルガリエルとキュリエルを倒したら私に加勢してもらいたい。そのままムリエルとザフキエルを倒す。そうすれば残るはザドキエルとドミニオンアーミーのみだ。総力戦となるが、私、魔王アリオク、そしてスノウたちがいれば問題なく対処出来るはずだ。単純だけどこれが私の策だよ」

 「隠れてもおれ達の存在はやつらに知られてしまうんじゃないのか?相手は天使だし?」

 「大丈夫だ。天使達の持つ魔法や探知センスを防ぐアイテムがある」

 「そんなアイテムがあるのか?」

 「ああ。ギレンダイクの部屋にいくつか古代文明の遺物があっただろう?あの中に天使から身を隠せるアイテムがあるんだ。ギレンダイクに用意させるから安心してくれ」


 スノウとアリオクは顔を見合わせた。

 そしてスノウは再度若干威圧的に言った。


 「本当にそれが有効なのか、おれ達はどうやって確認すればいい?」

 「疑うのかい?」

 「そういう訳じゃないが仲間の命がかかっているんだ。当然の行為だと思うが」

 「それもそうだ。それならばお前達で確認すればいい。最も感知能力の高い者が感知出来るかを確認するんだ。そうだな、魔女イリディアの魔法が最も天使の感知能力に近いと思う」


 スノウは説得力あるように聞こえるイシュタルの返答に軽く頷くだけであった。


 「私は天使達に動きがあり次第、着地点へと移動する。転移魔法陣を使うから、一瞬で着地点に行き待ち構えることが出来る。その時お前たちに念話を送るからすぐにアリオクの作った地割れ部分へと移動し待機してくれ。イリディアなら転移魔法を使いこなせるから移動に時間はかからないはずだが、分担上難しいならすぐにその場に行けるように近くで野営を張ってもらっても構わない。ギレンダイクが所有している感知防御アイテムは、直径20メートルはカバー出来るはずだからね」

 「分かった。それじゃぁ準備をするよ。また何かあれば呼んでくれ」


 そう言うと、スノウとアリオクはその場を後にした。


・・・・・


 喜びの街ウレデを出て、スノウ達はイリディアの絨毯で命の街アフレデの屋敷への帰路についていた。

 その道中でスノウはイシュタルとの会話を共有した。


 「ふむ。イシュタルめ、いい加減なことを言うものじゃ」

 「どういう意味だ?」

 「妾は魔女だが、基本は精霊魔法を使う。だが、天使は階級にもよるが、神世魔法を使う。そもそも魔法式の複雑性が違うのじゃ。魔法は複雑な魔法式であればあるほど威力を増す。一方で複雑化することによる魔法発動失敗などが頻繁に発生するとも聞いておる。失敗にならない、いや出来ないほど完全な形で、複雑な高度魔法を発動できるのが神世魔法だと聞いておる。つまり、魔法の破壊力、持続力、発動スピードなどが一気に向上しつつ、失敗がない魔法じゃな。そしてその神世魔法を使えるのが唯一神や天使ということじゃ」

 「なるほど‥‥」


 スノウのイシュタルに対する不信感がさらに高まった。


 「まぁ妾も最大出力で感知魔法を使ってやる。とにかくそれで検証するしかあるまい」

 「分かった。それじゃぁシャルギレンの所へ行ってその貴重なアイテムとやらを入手してくる」


 スノウはシャルギレンから古代の遺物の中で失われた技術によって作られたオーパーツの一つである特殊な音叉受け取った。

 その音叉は振動させているうちは直径20メートルほどの範囲にいる者を如何なる感知魔法から守り存在を消し去ることの出来る代物だった。

 屋敷に戻って来たスノウは早速イリディアの最大出力の感知魔法でオーパーツのお音叉の効力を試した。

 見事に音叉の直径20メートル以内にいる者は感知されなかった。


 「これは本物じゃな」


 イリディアが感心しながら言った

 続けてカディールも驚いた様子で言った。


 「感知魔法に引っかからないばかりか、視覚や嗅覚、聴覚でも認識出来ないとはな。本当に素晴らしいアイテムだ。だが、音叉の振動が消え掛かっていくにつれて認識できるようになる。音叉は鳴らす時一瞬だけ振動が途切れる。そこだけ気をつければ問題ないはずだ」

 「分かった。ありがとう」


 イリディアは転移魔法陣も作り出すことが出来るため、イシュタルから合図が来たら、転送してもらうこととして、準備をすることにした。


 それから数日間、イシュタルからの合図は来なかった。

 さらに数日が経過し、気が緩み始めた矢先に突然イシュタルから念話が繋がれた。


 「間も無くだ。間も無く空から天使が降り立つ」


 スノウはフラガラッハを持ち戦闘準備態勢に入った。


 




いつも読んで下さってありがとう御座います。

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