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<ケセド編> 148.アリオクの推測

148.アリオクの推測


――数日後――


 スノウたちは命の街アフレデ内に家を借り受けた。

 シャルギレンが用意したもので、スノウ達にとっては活動拠点ができたことは有り難かったが、少し大き過ぎた。

 

 「おいこれ、まるで貴族の屋敷じゃないか」

 「100人以上が住めるぞ」

 「掃除が大変だわ‥‥」

 「どうせソニアさん掃除なんてしないじゃないですか」

 「何言ってんのよシンザ!私に掃除させたら右に出る者いないのよ!」

 「あら、やったことのない掃除に癇癪起こして音熱魔法で屋敷を燃やしかねない不安を抱くのは私だけかしら」

 「やったことわるわ!掃除くらい‥‥っていうかシア‥‥あなたこそ掃除なんてできるとは思えないわ。掃除も出来ない人が批判する権利はないはずよ」

 「私にかかればこの屋敷を掃除するなど訳ないわ。1時間も掛からないわね」

 「言ったわね!ここにいる者全員が証人だからね!」

 「そうね。貴方がこの屋敷を掃除で燃やしかねないということも全員が聞き認めたわ」

 「はぁ?!」

 「スノウ、そなたも偉くなったものじゃな。こんな屋敷を持ち恋仲をふたりも侍らせおって、ククク」

 「せいぜい上手く使いこなすんだな。カカカ」


 フランシアとソニアの言い合いを見たイリディアとカディールはまた面白がってスノウを揶揄った。

 それに苛ついたスノウは家を替えてもらうと言ってイーギル・シャル・ギレンダイク王に要望しに行ったが、老紳士の側近に即効断られたのはその日の午後の話だ。

 そのスノウの落胆姿を見てイリディアとカディールはさらに面白がっていた。

 一方、ワサンとシンザは負の核の力を取り込み話せるようになったルナリと会話していた。


 「ルナリ、お前、どんな力を使えるんだ?」


 ワサンの質問にルナリは黙っている。

 明らかにルナリはシンザ以外と口を聞きたがらない素振りだった。

 それを見たシンザは、察してワサンの聞き方とは違う言い方でルナリに質問した。


 「黒い手をたくさん出していたけど、あの力って何が出来るのかな、ルナリ?」

 「シンザ、あれは負のエネルギーを実態化させたものだ。実体化させないことも可能。つまり、壁や人体などを透過してその奥にあるものを掴む、破壊することも出来るという力だ。手の数はいくらでも出すことが出来るが制御が難しい。おそらく7本程度が限界だろう」


 ルナリの説明を聞いてシンザは納得して感心していたが、無視されたワサンは不機嫌になった。


 「他に出来ることはあるのかな?」

 「シンザ、他には黒い煙に変化(へんげ)すること可能だ」


 ボワァァァン‥‥

 

 ルナリはいきなり黒い煙へと姿を変えた。

 そして煙は徐々に形を変え、ワサンの姿になった。


 「このように黒色一色ではあるが、誰かに変化(へんげ)することも可能だ」

 「おお!凄いね!」


 それを聞いたワサンの姿をしたルナリは声をワサンの声にして言った。


 「声も真似することが出来る。この状態は形を自由に変えることが出来るから、声帯も模写対象と同じ構造を造り出し、そっくりに話すことが可能となるのだ」

 「凄い能力だね!」

 「これはシンザのために得た力。何かあれば遠慮することなく我に命令するがいい」

 「ありがとう」

 「礼など不要だ。シンザはシンザのやりたいことをやればよいのだ。我はそれを全身全霊を以って支えるのみ」


 そう言いながらルナリはシンザに背後から抱きついている。

 ワサンはそれを見て呆れた表情でため息をついた。


 その後、スノウはイーギル・シャル・ギレンダイクとの会話を他のメンバーに共有した。

 また、ワサンは負の核とその力を得たルナリについて説明し、遅れて戻ってきたジェイコブはアールマンとベルトランドと共に状況を共有した。

 フィリップはまだ修行半ばということで今回は一緒に戻ってこなかったらしい。


 「ということで、現時点での天使撃退ミッションにおけるこちら側の戦力は、イシュタル神を筆頭に、おれ達レヴルストラの面々、アリオク、イリディア、カディール、ジェイコブたちヴァティ騎士たち、そしてシャルギレンとその弟子達ということになる。特に大きな収穫はダブハバナの力を得たルナリと万空寺の全面協力を得られることだな」

 「我はシンザのために行動する。シンザを守る戦いなら、何でもしよう」


 この場にいる者達全員が、ルナリの声を話し方に違和感を感じていた。


 (慣れるまでに時間かかりそうだが問題ない。それより今はいつ襲ってくるのか分からない天使軍に対抗すべくさらなる準備を行うことだ。やることと分担を決めなければな‥‥作戦についてはイシュタルとも相談したい)


 「今後の作戦と役割分担、決戦までの準備とその分担については、イシュタル神とも相談して決めたい。明後日まで待ってくれ」


 スノウの言葉に皆頷いた。

 その場は一旦解散となったが、アリオクは表情を変えずにやって来てスノウに耳打ちした。


 「スノウ、話がある屋敷の裏へ来てくれ」

 「?」


 スノウは言われるままに屋敷の裏へとやって来た。

 そこで待っていたアリオクは周囲を確認しながら話し始めた。


 「先ほどのシャルギレンの話だが、シャルギレンにダブハバナを消滅させる力がないことを憂いていたイシュタルがルナリを利用したのではないかと思っている」

 「え?」

 

 スノウは突然のアリオクの突飛な推測に驚いた。


 「どういうことだ?」

 「イシュタルの創り上げた人族の循環のしくみに綻びが出始めているのではないかということだ」

 「それはつまり、人族が悟りを得て恐れのない死を迎える代わりに捨て去られた負の感情エネルギーが増えていき、そのバランスを崩して収拾がつかなくなってきたということか?」

 「その通りだ。そこでイシュタルは万空理を体得しているシャルギレンを使って負のエネルギーを抑えるべくダブハバナを消し去ろうとした。だが、シャルギレンの万空理の悟りが浅いのか、魔剣を持ってしても負のエネルギーを斬ることができず、困っていた。そんな時に我らが来たのだが、ちょうど溢れんばかりの負のエネルギーを取り込む器‥‥つまりルナリがいた」

 「まさか‥‥イシュタルは天使撃退の話を持ちかけておれ達を乗せつつ、この人族の生の循環システムの綻びを修復させようと利用したってことか?」

 「ああ。俺はそう考えている」

 「それじゃぁ天使達が襲ってくるって話は嘘か?」

 「分からん。それはそれで事実なのかもしれん。だが、少なくともこの状況の中で自ら創り上げた世界の綻びを修復させる誘導があったとすれば、イシュタルは信用に値しないということになるな」

 「ストレートにおれ達に頼めば良かったんじゃないか?‥‥いや、それは意味がないか‥‥。仲間を犠牲にするような真似はおれが先ず断っているし、仮におれが説得されたとしてもシンザは絶対にOKしない」

 「そうだ。それを見越して俺たちには分からないようにルナリを誘導したのではないか?」

 「だが、あのチーム編成を組んだのはおれだぞ。おれはイシュタルの味方ではないんだぜ?負の核の調査のミッション編成を運に任せたっていうのか?」

 「あれは本当にお前の選択か?」

 「はぁ?!」


 スノウは一瞬苛立ちを覚えたが、冷静に考えてみた。


 (イシュタルは神だ。おれを知らず知らずの内に操り自分の都合のいい編成にすることは容易いのかもしれない‥‥)


 「或いは、今回は外したため次に負の核に接触させるつもりだったのかもしれん。今回は元々偵察のみだったからな。改めて行く際にルナリが同行すればいいだけのことだ。お前の言う通り運に任せたのかもしれん」

 「‥‥‥‥」

 

 スノウは返す言葉が出てこなかった。


 「いずれにせよイシュタルは信用出来ない。俺たちは警戒しつつイシュタルの作戦に乗るフリをしつつ自分たちの最良の道へ進む判断をすべきだ。俺が言いたかったことは以上だ。考え指示を出すのはスノウ、お前なのだからな。じっくりと整理し、考えを纏めろ。イシュタルの言うことを鵜呑みにし、信じ行動することでお前の仲間が窮地に立たされる可能性もあるのだからな」

 「今回、ルナリが負の核の取り込みに失敗したなら、おれはシンザとワサンを失っていた可能せもある‥‥そういうことだな」

 「ああ」

 「‥‥‥‥」


 スノウは何も言わず軽く頷いた。


 (イシュタル神‥‥確かに信用は出来ないのかもしれない。明日作戦を相談するが、裏で何を考えているのかも探る必要があるかもしれない)


・・・・・


――翌日――


 スノウはイリディア、カディール、アリオクと共に喜びの街ウレデにあるイシュタル神の城へと向かった。

 イシュタルの部屋にはスノウとアリオクだけで向かうことにし、イリディアとカディールは念の為、城の外で待つことにしていた。

 信用ならないイシュタルを警戒してのことだった。

 イシュタルの部屋に到着したスノウとアリオクを見て、イシュタルは優しい笑みで出迎えた。


 「よく戻って来てくれた。さぁ状況を聞かせてくれ」


 スノウはイシュタルの様子を勘付かれないように見逃すことなく観察しつつ話し始めた。

 



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。感謝です。

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