<ティフェレト編>35.ムーサ・プレクトラム・マッカーバイ王
35.ムーサ・プラクトラム・マッカーバイ王
「わっはっは!愉快愉快!よくもここまで壊してくれたものだ!」
ムーサ王はエスティ、ゴーザと悪魔の戦闘によって壊滅状態となった王の寝室を見て腹を抱えて笑っている。
かつての豪華な装飾やベッドはおろか壁に大きな穴が開いており、床は下手をすれば崩れ落ち、遥か下の地面に真っ逆さまという状態だ。
落ちたら飛行魔法や風魔法を使いこなさない限りまず助からない高さだ。
「申し訳ありません!」
「申し訳ない!」
エスティとゴーザは90度以上腰を曲げ深々と頭を下げた状態で思いっきり謝る。
「気にするな!部屋など直せばよい!むしろここまで破壊してくれたほどの戦闘とは、そなたらに一生涯返しきれぬ借りができたというべきだ!しかし愉快だ!わっはっは!」
これまで接してきた位の高い貴族たちは私利私欲や地位名誉を優先し民衆に威張り散らす存在であったため、そういった雰囲気が微塵も感じられない王の姿を見て、ふたりはキョトン顔になっていた。
「と・・とにかく許されたようでよかったわ」
「だ・・だな」
ムーサ王は崩れそうな床に注意を払いながら壁伝いに進み、壁にあるスイッチを押した。
すると壁が動き出し部屋が出てきた。
「こんな仕掛けが?!」
「どうじゃ!すごいだろう?スメラギに作らせたのだ。何かあった際に隠れたり、盗まれてはならない宝物などをしまっておく部屋だ。ここは我とスメラギしか知らん。我の手のしわで反応する仕組みらしいのだが、難しくて原理は知らん!わっはっは!」
王は隠し部屋に入る。
その際、エスティたちにも入れと言わんばかりに手招きした。
部屋に入ると、王は立派な服に着替えていた。
入った部屋はもう一つの寝室といえるような広い空間で、服や装飾品、キッチン、風呂、ベッド等普通に暮らすにはなに不自由ない設備が整えられている。
「ほぉー、流石は王の部屋、ありえねぇ広さにありえねぇ設備。驚きだ!」
その奥にはさらに扉がある。
「あっちの扉はなんですかい?」
「おお、ここにきたもう一つの理由だ。一つはこのまま裸でいるわけにはいかんからな。レディの手前もある。そしてもう一つが・・」
王が扉を開けるとそこには様々な書籍やアイテムが並んでいた。
「そなたらに褒美を取らせたくてな」
王はそういうと、武器の並んでいる棚に歩いていく。
「王室クエストなどで取らせる褒美もそれなりの効果はあるが、あれば伝説級ではない。いわゆる希少価値の高いだけの金さえ積めば手に入れられる代物だ。だが、ここに納められている武具やアイテム、書籍の中にはいくつか神の時代の代物とされているものがある。言ってみれば金を積んでも手に入らない代物というわけだ。そのうちのふたつをそなたらに与える」
「い!い・・いえ、そんな高価なものを頂いても・・申し訳ないと言いますか・・恐縮してしまいます」
「いや、よいのだ。武具やアイテムは使われてこその価値がある。見て楽しむなら飾り物で十分だ。それにそなたらには何か運命めいたものを感じるのだ。何かこれから起こるよくない出来事を救ってくれるような感覚だ。それにエスティとかいったな。そなたには何か・・上手く言えぬがその・・他人のようには思えなくてな」
そう言いながらムーサ王は二つの武器をそれぞれ手に取った。
「まずは、ゴーザ、そなたに褒美だ」
ゴーザは片膝をつき、両手を王に向けて差し出し武器を受け取った。
粗暴な振る舞いやその見た目とは裏腹に褒美を受け取る姿は凛々しく高貴な雰囲気を放っていた。
「それはヤグルシュと言われる棍棒だ。元々は対になっておりもう一つあるのだが、はるか昔ドワーフと国交を開いた時に献上されたものらしくてな。もう一つはドワーフの街にあると聞いた事がある。名はなんと申したか・・」
「アイムールにございます」
ゴーザは手を引っ込めながら答えた。
「おお!そうだアイムール!ほう、そなた高貴な出であったか」
「いえ、私などしがない落ちぶれた末端貴族の末弟。そのような伝説の武器など触れる事もない存在でしたが、名はあまりにも有名でして、こんな代物をいただくわけにはいきませんや。わたしは王のお気持ちだけで十分すぎるご褒美でして、これは受け取れません・・」
「まぁそう言うな。そなたには今後も我を守ってもらわなければならん。そのような者に戦って壊れるような武器を与えて我が身を守れようか。これは褒美ではなく命令だ。いや預かりしものをあるべきところへ返すというべきか。そしてこれを持って我を守れ。そしてこの国の民を守れ」
ゴーザは目に涙を浮かべて震えた手でヤグルシュという棍棒を受け取った。
「続いてエスティとやら。そなたにはこれだ」
ムーサ王はレイピアのような細身の剣をエスティに差し出した。
エスティは見様見真似でゴーザと同じ姿勢でその剣をうけとるべく手を差し出した。
「これはアウロ・ナソスというレイピアだ。これの素性はわからないがこの城の中でも最高峰の宝のうちのひとつになる」
「そ!そそそのような高価な代物は頂けません!」
「何度も言わせるな。そなたらは一国の王の命を救ったのだぞ?そしてこれからその王を守る責務を負うのだ。王が自分を守る物に最高の武具やアイテムを備えさせるのは当然のことだろう?」
「は、はい・・」
「エスティ。これからもよろしく頼む」
入り口付近で見張りをするレンが物欲しそうにその光景を見ていた。
「おお、すまぬ。そなたも我を救ってくれた功労者だったな。こっちへ来い」
レンは嬉しそうに王の前に来て、ゴーザやエスティと同様に片膝をついた姿勢を取る。
「そなたは音魔法でどんな者にも変化できる力があると聞いた。そなたに合うものはこれだろう」
そういって王が手に持ったのは小さな音叉だった。
レンは自分も立派な武器を与えられるものと期待していたので少し不満げだった。
「不服か?別のものにしてもよいが?」
「い・・いえ!滅相もないっすです、はい!」
「そうか。地味に見えるかもしれんがこれはすごいぞ?音魔法の持続時間が4倍に跳ね上がると言われているものだ。これが何を意味するかわかるか?爆ぜる音を閉じ込めた音魔法玉を飛ばす際、通常なら50メートルも飛ばせば爆ぜて消えてしまうが、これは4倍の距離、200メートルも飛ばせる代物だ。そなたの音変化魔法の持続時間も4倍ほどに伸ばす事ができるというわけだ」
内容を聞いたレンは目を輝かせた。
「あ、ありがたき幸せっす!!」
レンはとても嬉しそうだった。
「王様、あれは何なんすか?」
レンが馴れ馴れしく王に質問をしたが、王は面倒くさがることなくその問いに答えた。
「あれはキタラという楽器だ。あれはこの国、いやこの世界に伝わる最高の宝であり、ラザレ王国の歴代の王が使うことを許された楽器のひとつだ。あれを使うとこの世界の民全てに言葉を伝えたり、心を動かしたりできるものだ。王家の血を引いていないものが演奏すると奏でた音に体が耐えきれず粉々に砕けてしまうらしい。くれぐれも触るでないぞ?もし間違って音を奏でてしまったならそなたは無数の肉片と化して死んでしまうからな。わっはっは」
「笑い事じゃない気がするっす・・」
そのやりとりの一部始終を見ている存在があった。
1羽の鳥である。
その鳥は一連のやりとりを見終えたあと、どこかへ飛び去った。
怪しげな鳥の存在に気づくものはその場にはいなかった。
そうこうしているうちに夜が明けてきた。
翌日、側近たちが破壊された王の寝室へ呼ばれ、これまでの王が偽物であった事、そしてエスティとゴーザ、レンの活躍によって偽王が倒された事、本物の王である自身が救い出された事がムーサ王から説明された。
最初は側近たちは何のことか理解ができなかったようだったが、宰相が王の言葉を支持し、偽王の振る舞いがおかしかったことを伝えたため、側近たちは信じるに至った。
王は自身が側近たち含めて王室にいる者誰1人として入れ替わっている事に気づかず、地下で拷問を受けていた事実にも気づく事がなかった事態を憂いていた。
その事を側近や聖騎士隊へ伝え、今回悪魔の化けた偽王の存在に気づき撃退して自分を救い出した功労者であるエスティたち3名を国王直下近衛兵として王の側に置くことを決め通達した。
その立場は王国軍副総司令と同等の位置付けとされた。
「なんだか俺たちいきなり偉くなっちまったな」
「それだけの功績を残したってことよ」
「オイラのおかげっすね〜!お二人ともオイラをもっと尊敬してくれてよくってよってやつっす!」
レンのドヤ顔のコメントを軽く無視した2人はその場に居合わせた者たちの視線から多くの懐疑の目で見ている存在を感じていた。
それもそのはず、いきなり現れて自分たちより身分が高いと言われ、その中にはティフェレト人でもなく、ましてはついこの間まで犯罪者であったドワーフまでいる訳だから納得しない側近や騎士たちも多数いるのも頷けた。
騎士隊を代表して王国軍総司令のアルフレッド・ルーメリアが挨拶をする。
「よくぞ我らが王を救ってくれた。王が入れ替わっている事に気づかずにいた我らに代わり王を救ってくれた事、騎士隊、そして王国軍全体を代表して礼を言う」
3人は畏まった表情を浮かべ不恰好に会釈した。
その場には副総司令のザリウスの姿はなかった。
・・・・・
・・・
当のザリウスは今、スノウと共に少数の部隊を引き連れてホワイトドラゴン討伐に向かっていた。
―――6時間前―――
「おや、不安で判断しあぐねている顔だな」
スノウはスメラギのいる領主邸に来ていた。
領主邸を尋ねた理由は情報を得るためだ。
ユーダから王が偽物だと聞かされて、その背後にスメラギがいると匂わされていたからだ。
ホワイトドラゴン討伐の先にはマクロニウムという強力な音伝導率をもつレアメタルを入手するという目的があり、それを手に入れられれば世界を滅ぼしかねない武器も作ることができる。
その武力を持ってこの世界を支配しかねない、というのがユーダの想定だった。
だが、スノウ自身前回スメラギにあって話をした感触から、ユーダの話に100%賛同はできていなかった。
仮に彗星が本当にこの地に落ちてくる場合、大切な仲間も死ぬ。
いや、王に謁見した際に宰相から感じた強烈な邪悪な波動が示す通り、潜入させたエスティたちに既に大きな危険が迫っているかもしれない。
全て自分の判断が招いた結果であり、これ以上間違えるわけにはいかないプレッシャーからスノウは不安を隠しきれない表情のままスメラギを訪ねていたのだ。
「流石は巨大な街の領主ともなると、相手の微妙な表情の変化も見逃さないというところですか」
「いや、君の表情は非常にわかりやすい。園児でも心配するレベルだよ」
「ははは・・そうですか。まいったな・・」
「それで?何となく察しはつくが、彗星衝突が本当なのかどうか確信を持てず確かめにきたというとこかい?」
「ええ。でも他にもあります」
「ほう、何かね?」
「ラザレ国王が偽物でおそらく悪魔が偽王になりすましていると考えています」
「・・・・」
「そしてその背後にあなたがいるのではと推測しています」
「君はなかなかの情報収集力と分析力を持っているようだ。さしずめ誰かにこう言われた、もしくは君自身でそう仮説を立てたのかもしれないが・・私がマクロニウム欲しさに悪魔と手を組んで王をすり替えホワイトドラゴン討伐に行かせたが上手く行かないので、彗星衝突話をでっち上げて、より強い冒険者たちにホワイトドラゴン討伐に行かせるよう仕向けていると・・」
「・・そうです。簡単に言うと・・」
「だが、君はその仮説を完全には信じきれていない・・そうだね?」
「・・はい」
「なるほど。ではひとつひとつ答えよう」
意外とストレートに物をいい、且つ包み隠さずといった姿勢に驚きつつもスメラギというキャラクター上納得もしていた。
「まず、彗星衝突だがこれは本当だ。君が信じるにたる証拠は現時点では示すことは不可能だが、あと数日もすれば空にその姿が肉眼で確認できるほどになるだろう」
「!」
「次にマクロニウム獲得のためホワイトドラゴン討伐だが、私が依頼したものだ。元々は王室クエストとしてだがね。今回君が王宮に招かれて改めてクエストを受けた形になってしまったが、依頼元は同じ私だ」
「!!」
「そして偽の王の話だが、それは正直私も知らなかった。だが、事実を伝えると悪魔の存在は知っている。実際この地位に就くまでに悪魔の手を借りたことは何度かあるからね。元々神や悪魔といったものは時の権力者が勝手に生まれた信仰を利用して作らせたいわば小説のような架空の存在で、自分たちの都合の良いように民衆を操ったり、他国を引き入れるための精神操作のために都合よく使う単なる言葉に過ぎないと思っていたのだが、この世界に来て魔法に触れ自分の認識や常識が覆された」
(やっぱり・・悪魔と繋がっていたのか・・ユーダの言う通りなのか?)
「だがそのような非科学的な事象や存在も私の科学を突き詰める信念を覆すものではないし、科学がそのような事象や存在に脅かされるものではないという気持ちに変わりはない。だから想定内の範疇で彼らを利用したのだ。まさか王を偽物にすり替えているなどとは思わなかったがね」
「・・・・」
「最後にマクロニウムの用途だが、これは以前説明した通り彗星を宇宙空間で大破させ、衝突させないようにするために使う。これは変わっていない。当たり前だが。おそらく、このマクロニウムを使えば世界を支配できるだけの力を得るとかなにかで私を信じられなくなっているのではと推測するが、私にはこの世界を支配するとかには一切興味はない。むしろ消滅してもらっては困るという感情だけだ。それはあと数日もすれば肉眼で確認できる彗星を見れば証明となるだろう」
説得力があった。
科学者らしい論理的な説明だし、日本にいた当時から科学者として名を馳せながらも研究費用を捻出するためにビジネスに利用させられていたふりをしながら名のある経営者達を手玉にとっていたという交渉力も頷ける。
この世界にきて金の亡者の資本主義者たちが悪魔に代わっただけか。
いや悪魔は科学を何かに利用しようとはしない分心情的には気楽であっただろうし、音魔法そしてゼロから科学を根付かせられるこの環境の方が遥かにスメラギの科学者としての興味を満たすことだろう。
スノウは納得した。
「ありがとうございます。いずれにしても数日後には空を見上げれば自分の進むべき方向がわかるということですね」
・・・・・
・・・
そして今、ホワイトドラゴン討伐隊に志願してきたザリウスとその取り巻きのような騎士隊の精鋭と魔法に長けた金目当ての冒険者を含めた10名で禁断の地と呼ばれる場所へ向かうため、一路この世界の西端を目指していた。
「鬼神殿!これはスメラギという怪しげな錬金術師が作った乗り物でな。この速さなら明日には豪雪地帯に到着するだろう。そこから禁断の地までは悪路になるから多少時間がかかるが2日後には到着する。いやぁこの乗り物はすごいぞ!馬車なら1ヶ月はかかるだろう道のりがあっという間だ!はっはっは!」
「あの・・ザリウス副総司令・・」
「なんだ?鬼神殿?」
「いやその鬼神殿ってのはやめていただけませんか?スノウで結構ですから。なんともそんな呼ばれ方をする程の実力はないので気恥ずかしいというかでして・・」
「わっはっは!鬼神殿はなんとも謙虚なお方だ!よろしい!だが、俺のことも気軽にザリウスでよい!敬語もいらないぞ!俺はそういうのが大嫌いでな!強いものが好きだし強ければ奴隷だろうと対等の立場だと思っている!」
ザリウスは面白い男だった。
名門の出だけあって、威圧的な態度が多く見られる粗暴な振る舞いに納得していたが、実は違っていて彼の対応は戦闘力の高さによって決まるというとてもシンプルなものだったのだ。
威圧的な態度は弱いものに対してだけで、強い者には子供だろうと、女性だろうと、奴隷だろうと貴族だろうと敬意を払う。
それは戦闘力の高さだけではなく、精神的な強さも含まれていた。
もちろん、弱い者に対して威圧的といってもそれは戦士に対してだけで、民衆に対しては分け隔てなく豪快に接していた。
そのため、民衆のザリウスに対する評価は親近感のある頼れる騎士、といった感じだったのだ。
一方人格者と言われるザリウスの父、アルフレッドは礼儀を重んじる性格でザリウスとは正反対だったが、名門の出を鼻にかけるわけではなくとにかく規律を重んじる堅物だった。
そのため、民衆との接点も少なく世の中のウケとしては息子のザリウスの方が格段によく、そう言った状況もまた親子の確執を広げていたようだった。
「ありがとうござ・・ありがとうザリウス」
「よろしく頼むぞ!スノウ!」
ザリウスの言う通り、エレキ魔法で動く大型のEVは馬車よりも速く効率的に動いており、今日中に豪雪地帯に到着するだろう。
魔法で電気を発生させる仕組みであるため、止まって充電する必要もない。
10名程度の部隊で移動した理由はとにかく速く移動してホワイトドラゴンを倒すため、このEV車輌に乗れる人数という制限もあったのだが、過去幾度と強者と呼ばれる部隊を派遣して帰ってこなかった状況から数でどうにかできる存在ではないとも認識されていたため、10名という部隊でホワイトドラゴンの元に向かっていたのだった。
(あと数日で肉眼で彗星が確認できるはず・・。その時におれの行動が決まる。エスティたちは大丈夫だろうか・・。連絡が取れないのがなんとももどかしいし、心配だ・・・・)
スノウは、自分の判断で仲間を危険に晒してしまっている状況にどうしても拭えない不安感を抱いたままになっていた。
道中、魔物が出てきたがザリウスと数名の騎士たちで簡単に一掃できた。
力を持て余しているようだった。
日も暮れた頃、豪雪地帯に到着した。
「よし!これから車輪の交換だ!雪道用の車輪への交換を急げ!時間はないぞ!」
ザリウスの指示でタイヤ交換が行われている。
スメラギの登場によってこの世界の生活は一変している。
もしこの世に神がいて(おそらくいるのだが)、スメラギを何らかの意図でこのティフェレトに呼んだのなら、彼に何をさせようとしているのだろうか。
便利になる生活は確かに人々にとってとても喜ばしいことだが、一方で環境破壊や貧富の差の拡大等人々にとって必ずしも有益ではない状況にも繋がっていく。
そして便利な生活に寄与するほとんどのものがスメラギの研究や指示で生まれている生産物であり、それがどのような原理で動いているかを理解している人は多くない。
理解はできてもスメラギと同様に一から作り出す発想力や教養もなかった。
つまりスメラギがいなくなればこの科学力によって生み出された生活はすぐに廃れる事だろう。
スノウのいた日本のように、世界全体が急激な科学の進歩によって生活を変えたような事象はない。
スノウにはスメラギがこの世界に来たのには何らかの理由があったのではと、何らかの意志が働いているのではと思わざるをえなかった。
おそらく何度か練習したのだろう、スムーズにタイヤ交換が行われ雪道走行ができる状態となったため、出発した。
どこまで聞かされているのかわからないが、急ぐミッションとして車内で交代交代で休む形でとにかく進み続けた。
道中豪雪地帯ならではの魔物が何度か現れた。
あまり人が足を踏み入れない地帯であり、魔物の強さも平地とは比べ物にならないレベルだったが、ザリウスたちもそれなりの精鋭だったため、怪我もなく倒す事ができた。
そして出発から2日後、一行は禁断の地に到着した。
「なんだこれは?!」
スノウは驚きを隠せなかった。
なぜなら荒廃が進んでいるが近代的であったであろう建物などが不規則に並び、明らかに文明があった事を示している光景が広がっていたからだ。
その中には見知らぬ文字が見受けられた。
このティフェレトの文字でもなく、ホドや当たり前だが日本にいた頃に目にした日本語や英語でもない見知らぬ文字だった。
ザリウスたちも古代遺跡とばかりに若干興奮していたが、文字そのものは読めなかった。
だが、スノウだけは驚きの表情を見せていた。
スノウが驚いた理由はスノウにはその見知らぬ文字は読めなかったがなぜか意味を理解できたからだ。
(星の観測所・・転送ステーション・・学校・・なぜだ?!読めないのに分かる・・。頭にイメージが飛び込んでくる・・どういうことなんだ?!)
スノウの驚きをよそにEVは禁断の地の奥へと進んでいく。
生きて帰ってくるものがほぼいないとあって、今回ホワイトドラゴン討伐に臨んだメンバーは初めてこの地を訪れたわけだが、みな見た事のない文明の成れの果てを見て物珍しそうにキョロキョロとあたりを見回している。
基本的に荒れ果てているものの舗装されていたであろう道があるため、車輌でも走行できるが途中ところどころで瓦礫があり、都度降りて瓦礫をどかしながら奥へと進んでいった。
「ちょっと止めてくれ」
スノウは車輌を止めさせて一旦降りる。
瓦礫のところどころにある金属部分が以前みたマクロニウムではと思い確認する。
指では弾いてみるが音はすぐに消えた。
どうやらマクロニウムではないようだが、見た事のない不思議な金属でどれほどの長い期間放置されてるのか不明なほど荒廃した中で一切の錆がない金属だった。
「錆びない金属ってどういう事だよ・・」
スノウは首を横に振って車輌に乗り込む。
周りを注意深く見渡しながらさらに奥へ進む。
4時間ほど進んだあたりで車輌を止める。
数百メートル前方に白く輝く塊が見えたのだ。
ザリウスはスメラギスコープを取り出してその白く輝く塊が何かを確認する。
「間違いないな。やつだ!」
EV車輌は走行音がほとんどしないため、物音を立てずに進む事ができており気配に気づいていないのだろう。
「よし止めろ」
一行は車輌を止めた。
あまり近づき過ぎて車輌そのものを破壊されてはまずいためだ。
「よしここからは徒歩で近づく。いいか?声を出すな。物音も立てるなよ?」
ここは音の世界。
音が視覚で確認できるため、音そのものだけでなく視覚としても位置がわかってしまうリスクがある。
ゆっくりと進む一行。
すると突然目の前に宙に浮いた丸い物体が前方からこちらに向かって進んできた。
スノウが手を挙げ、それを合図に一行は物音を立てないようにその場で静止する。
丸い物体は一行の前でとまり、モゴモゴと動き出したかと思うとその球体の中に人間の顔を作った。
男性とも女性とも若いとも老齢とも言えない中性的なマネキンのような顔だ。
『#$(“###)$(&‘$’24342(#‘$”))』
球体に現れた顔は聞いた事のない言語で話始める。
一行は声を出さずにその状況を見守るが理解できない為、次のアクションが起こせないでいた。
だが、スノウだけはなぜかその言葉の意味を理解していた。
(・・認識コード?・・答えよ?なんだこの物体は?日本にだってこんな高度なものなかったぞ?これは明らかに高い文明じゃないと作れない代物だし・・そもそもなぜおれは聞き取れないこの言葉を理解できるんだろうか・・)
しばらく沈黙が続く。
物体の顔は目を閉じて何かを計算しているような様子だった。
『あなたたちをこの地に訪れた外敵と認識しました。排除します』
「!」
そう言うとその物体は自身の影の中に沈むように消えた。
そして前方に見える白く輝く物体が音を立てて動き出す。
丸まっていたところから長く伸びた首が天に向かって立ち、顔をザリウス一行の方に向ける。
鱗は全て美しいほどの白で、曇って白んでいる空に溶け込むように見えた。
その中で怪しく金色に光る目とゆっくりと開いた口の中の赤い部分だけが強調されて吸い込まれるような感覚に陥る。
ザリウス一行は彼の合図に応じて一斉に構える。
「$#()“#$‘’$($(”))」
その大きさとは裏腹に甲高い声が響くが先ほどの物体と同様に聞き取れない言語だった。
「みんな、くるぞ!攻撃が!奴はやる気だ!」
スノウが全員に話かけ戦闘体勢を取るよう促す。
(この地に足を踏み入れ調和を乱す害悪を排除する・・だって?!)
まるで機械の語りのような印象を受けたその言葉通り、ホワイトドラゴンがその巨大な姿の全貌を表す。
少しの沈黙の後に再度言葉を発した。
「この地に足を踏み入れ調和を乱す害悪を排除する」
12/30修正
・・・・・・・・
次は月曜日アップの予定です。




