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<ケセド編> 146.命の街アフレデ

146.命の街アフレデ


 スノウたちは命の街アフレデに到着した。

 アフレデもまた大きな街だった。

 中央に広場があり、その奥に時計台がある。

 さらにその奥に大きな城があった。


 「随分と子供が多いな」

 「ここが人が生を受ける最初の場所だからだわ。皆ここで生まれ、ある年齢まで育つから子供が多いのだと思う」

 「なるほど。街を順番に見ていくと徐々に平均年齢が上がっていくっていうことだな」

 「ええ。スノウ、このまま城へ行きましょうか?イシュタル神が話をつけているでしょうし、王に会うのに面倒な手続きもないでしょうから」


 スノウとソニアの会話にフランシアが割り込んできた。


 「マスター、やはりここにも時計台があります。城に行く前に見ておいた方がいいですね」

 「そうだな。時計台に何か情報があるかもしれない」


 フランシアの提案に賛同したスノウにソニアが話しかけてきた。


 「ですがスノウ。先ほど言った通り、イーギル王には既に話はついているわ。情報収集して対策する必要もないと思う。そのまま城へ向かい、王と十分に会話してからゆっくり街で情報収集した方が効率的だと思う」

 「そうかもな。じゃぁ先に城へ行くか」

 「マスター」

 「スノウ」


 フランシアとソニアが睨み合いになった。


 「私の意見に賛同してくれたスノウに余計な情報で混乱させるのはやめてもらえる?シア」

 「ソニア。時計台が何故この世界にもあるのか気にならないとは相当鈍感だわね。ここが私たちのいた時間軸から遥か昔なのであれば、時計台は存在しない。でも時計台が存在していることとシャルギレンの話にあった通り、スメラギがこの時間軸にもいる、もしくはいたことになるの。そこに重要な情報が隠されている可能性は十分にあるわ。今はマスターの寛大な心で天使撃退ミッションに取り組んでいるけど、本来は元の時間軸へと戻ることが目的なのよ。その情報を先に入手し、イーギル王に聞く。これを優先すべきだわ」

 「あら、イーギル王には既に話がついているのよ。つまり王家は私たちに友好的だってことでしょ?だったら、新たな情報が入った時点でまた謁見でもして話を聞けばいいじゃない。何でもかんでも合理的に進めようとするのは人間らしくないわ」

 「感情的になれば人間らしいなんて定義初めて聞いたわね。あなたの理屈で言えば、癇癪を起こして襲ってくる魔物も人間らしさを持っているということになるわ。論理の破綻ね。そんな簡単な整理もできないのにマスターに進言するのは不適切だわね」

 「くっ!あたしは人と人との会話に合理性だけでは上手くいかない感情のやり取りがあることを言っているのよ!そうやって理屈で追い詰めて会話をしてもせっかく友好的な王もイライラするに決まっているわよ!」

 「貴方みたいなヒステリックな者なら王は友好的になるのかしら」

 「いいわ。どっちが正しいのかスノウに聞いてみましょうよ!」

 「珍しく意見が合うわね。私もマスターに判断してもらうのが良いと思っていたところだわ」


 「‥‥‥‥」


 スノウは目の前でやり合っている2人をみて汗を流しながら困っていた。

 それをイリディアとカディールは面白そうに見ていた。


 (しまった‥‥人選間違えた‥‥ここはワサンかシンザを同行させるべきだった。イリディアもカディールも止めるどころか楽しんでいるし‥‥)


 「スノウ、あたしの意見に賛同するわよね?」

 「マスター私の意見が理に適っていると思われますよね?」


 ふたりはスノウに顔を近づけて結論を迫った。


 「ち、近いぞ‥お前ら‥」

 『どっちが正しいですか!!』

 「〜〜!!」


 スノウはふたりのプレッシャーが限界に達したのか、突然逃げ出した。


 タッタッタ!


 「スノウ!」

 「マスター!」

 「わっはっは!」

 「ぷくくくはっはっは!」


 カディールとイリディアは腹を抱えて笑っている。


 「と、とりあえず飯だ飯!そこのレストランで飯だ!」


 スノウは叫びながらレストランへと入っていった。


 「いいわ、腹ごしらえの後に結論づけましょう」

 「そうね。それがいいわ」


 ソニアとフランシアはスノウの後を追ってレストランへと入っていった。


 「モテる男は辛いものですね」

 「だが、当の本人はバカがつくほど鈍感なようじゃな。それがまた面白いのじゃが」

 「ですね。それでは我らもレストランへ行きましょう。この後の展開も面白そうです」

 「そなたも好きじゃのうカディール」

 「あのスノウが眉をハの字にして困っている姿を肴に食事ですからね。これほど楽しいことはないでしょう」


 イリディアとカディールはレストランへと向かった。


・・・・・


ーー1時間後ーー


 「さて、それじゃぁ出発だ」


 スノウはひとつ大きな仕事をやり抜いたような達成感ある表情でレストランを出て言った。

 結局あの後、スノウが折衷案を提示して、フランシアとソニアがそれに頷く形でケリがついたのだった。

 スノウの提示した別の案とは、 “城に向かって進む。途中に時計台があるから時計台を見て回る。そしてその後城に向かう” というものだった。

 城に向かうことを優先するが、途中に時計台があるので、時計台によってから城に向かうというソニア、フランシアどちらの意見にも賛同していることを説明できるという単に屁理屈で固めた案だった。

 

 (我ながら上手い説明を思いついたな)


 上機嫌なスノウを後ろから見ているイリディアとカディールはつまらなそうだった。


 「くだらん理屈で勝ち誇った表情をしておるな」

 「別にどうでもよいことではありますが、何故か苛立ちます」

 「そうじゃな。スノウが凹みに凹む姿を期待してただけにのう。じゃが安心しろカディール。まだまだチャンスはあろう」

 「そうですね」


 その後からソニアとフランシアがバチバチの状態で歩いている。

 ソニアックの精神の部屋ではソニックが渋いため息をついていた。


 (全く姉さんにも困ったものだよ。どうでもいい話でシアに突っかかって‥‥)

 (聞こえてるんだけど。あんたどっちの味方よ!)

 (両方の味方だよ。2人が喧嘩すれば困るのはスノウだよ?)

 (私が正しいの!)

 (はいはい‥)


 スノウ達は時計台に到着した。

 

 「やはり見たことのあるコメントが書かれていたり、彫られていたりしている。筆跡や一言一句同じかどうかは確かめようがないが、どうも不可解だな」

 「スメラギがこの時間軸に訪れ、この世界に元の時間軸と同じような情報やエレキ魔法科学を浸透させていれば、この時間軸の人々が同じような反応をする可能性も理解できますが、4大都市にはエレキ魔法科学が浸透している度合いは元の時間軸に比べて低いですから、考えにくいです」

 「そうなんだよ。それがどうも引っかかるんだよな‥‥」

 

 スノウは一応時計台を全体的にざっと調べた。


 「他には特におかしなところはなさそうだ。時計台は他の街も含めて改めて調べよう」

 「はい」

 「ではスノウ。城を目指して出発しましょう!」

 

 ソニアはとたんに元気が出てきたようで笑顔で先頭を歩き出した。

 苦笑いしながらスノウはその後について歩き出した。


・・・・・


――ケセド城――


 巨大な城は少し変わっており、通常あるはずの門がなかった。

 城の1階には巨大なホールがあり、そこには多くの人々が自由に出入りしていた。

 とある場所に十数名の行列ができており、並んでいるのは主に夫婦と思しき男女で、女性は赤子を抱いていた。


 「たしかレストランで話を聞いた限りではこの城で王が直々に赤子に名前をつけていると言っていた。あの行列の先に王がいるのではないか?」

 「いや、その場で名前をつけていればいるかもしれないが、その子の情報を登録し、後で王がつけた名を伝えるという形式であれば、王があの場にいる必要はない。むしろ、公務があるはずだから常に民の前に姿を現し続けることも難しいのだろうからな」


 カディールとスノウが話していると、その間にソニアが城の受付で手続きを済ませたようで笑顔で戻ってきた。

 一緒に城の受付を担っている者がやってきた。


 「スノウ、このまま直接王への謁見の間へ行って良いとのことよ?もちろん話は通ってるって」

 「分かった。それじゃぁ行こうか」

 「スノウ様御一行ですね。ご案内致します。こちらへどうぞ」


 受付の者がわざわざ案内してくれるということでついていく。

 王への謁見の間は3階にあるらしく、豪華な階段を登って3階に向かった。

 3階に上がってくるとそこには広く長い廊下があり、まっすぐ歩いていくと大きな扉があった。


 「王はこちらにいらっしゃいます。皆さんをお待ちかねです」

 「?」

 (おれ達を待っているってどういうことだ?)


 イシュタルから話が通っているとは思っていたが、どこまで話されているのか分からずスノウは上手く噛み合っていない感覚を持った。


 ドン‥ギュゥゥァ‥‥


 重たい扉が開いた。

 中に入ると側面に多くの大きな窓があり陽の光がふんだんに入ってくる明るく広い空間だった。

 その先に5段ほどの段差があり、玉座がある。

 その玉座に王が座っていた。

 横には側近と思われる威厳あるオーラを放っている男が立っている。


 「王の御前である。控えよ」


 側近の男は年老いているが、太く張りのある声で言った。


 ズ‥‥


 スノウ達はカーペットが敷かれている端まで歩いていくと、一応礼節を重んじ、イーギル王に敬意を表して片膝をついて首を垂れた。

 その時思わず吹き出しそうになってしまった。

 何故なら、この世界を守護しているイシュタル神には片膝を付くことも首を垂れることもなかったのに対し、人間の王には片膝をつき首を垂れていたからだ。


 (ははは、敬意を表する優先順位が違うな)


 「顔を上げよ。スノウ・ウルスラグナとその一行の者たちよ」


 王の威厳ある言葉が広い部屋に響いた。

 スノウ達はゆっくりと顔を上げた。

 立派な王服に王冠をつけたイーギル王が玉座から見下ろしていた。

 だが、横から差す陽の光によって顔ははっきりと見えなかった。


 「イシュタル神からお聞きおよびかと存じますが、とある密命を受けてここへやって来ました」

 「知っておる」

 「どこまで話をお聞きかどうか分かりませんのでご無礼を承知でこちらの情報から話をさせて頂きたいと思いますがよろしいですか?」


 シーン‥‥


 王からの反応はなく、数秒沈黙が続いた。


 (何か変なことを言ってしまったのか?)


 スノウはフランシアの顔を見たが、何か怪訝そうな顔でイーギル王を見ている。

 徐々に陽の光にも慣れ、イーギルの王の顔がはっきりと見えてきた。

 その顔は何かを企んでいるかのようにうっすらと笑みを浮かべていた。


 (何だ‥‥変な王だな‥‥何がおもしろ‥?!)


 スノウは奇妙な感覚になった。

 玉座に座っている王に見覚えがある気がしたのだ。


 (どこかで見た顔に感じる‥‥)


 「どうしたスノウ。まだ気づかんのか?」

 「?!」

 (間違いない!王はおれ達のことを知っている!つまりおれはこの王に会ったことがある!)

 「お前、意外と鈍感なんだな。しかたねぇなぁっと!」


 イーギル王は王冠を脱ぎ、玉座の後に置いてあった刀を持って構えた。

 刀は怪しく光っている。

 見覚えのある魔刀だった。


 「ま、まさか?!」

 「やっと気づいたかい、スノウ。久しぶりじゃねぇの」

 「シャルギレン?!」

 「おうよ!」


 目の前にいるイーギル王は何とシャルギレンだった。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。感謝です。

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