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<ケセド編> 139.生きていた仇

139.生きていた仇


 「僕には信頼する下僕がいるんだよ」


 そう言うと、アモンの従者と紹介された女がフードを外した。

 その姿はホムンクルスだった。


 「まさか‥‥」


 スノウは目を見開いてホムンクルスに視線を向けた。

 

 「その体にはね、ズールー、つまり頭応瑠美の意識が入っていて体の全てをコントロールしているんだ」

 「!!」


 スノウは全身の毛が逆立つのを感じていた。

 リリアラが樹木へと変えられた直接の攻撃はズールーによるものだったからだ。

 サンバダンがズールーの体を乗っ取った時点で彼女の意識は消滅したものと思い込んでいたのだが、生きていたのを知り、凄まじい怒りが蘇ったのだ。

 スノウのポーチに入っているウカの面がスノウの激しい感情の変化に反応し凄まじい怒りの鬼神面へと変わっていた。

 サンバダンはそんなスノウを見てほくそ笑みながら言った。


 「彼女がアモンを呼びだした。風を起こしている原因がエセ天使によるものだと裏情報を流してね。この街で網を張っていたアモンは嬉しそうに飛びついたよ。そして僕のいる場所へと連れて来た。その時、ズールーが魔法の鎖で全身を緊縛状態にした別のホムンクルスを呼び出し、ミネルデバイスを起動してアモンの意識をホムンクルスへと移したんだ。その時のやつの怒りの叫びと言ったら傑作だったよ。梟のくせにまるで猫が威嚇しているような声だったからさ。その後は君の胡桃ほどしかない脳みそでも分かるだろう?」


 サンバダンは、アモンの意識をホムンクルスへ移し、精神世界に意識がない空の状態のアモンに自身の意識をミネルデバイスで転送したのだった。

 そして、緊縛状態のホムンクルスからアモンの意識を緊縛の鎖で身動きが取れない状態のサンバダンの元の体、半身天使の精神世界へと転送したのだった。


 「さて、種明かしも済んだことだし、僕はそろそろ行くよ。元の場所へ戻らなければならないからね。ディアボロスが去り、ガアグシェブラによって破壊されたケセドはまさに僕の手によって再生されることを待っているんだ。これでやっと理想の世界を創ることが出来る」

 「おい!トーマはどうした?!風の原因を探っていた男がいたはずだ!」


 ジェイコブが叫ぶように言った。

 するとローブを着たホムンクルスの女性、ズールーが嘲るような笑みを浮かべて言った。


 「あぁ、あのお馬鹿さんか。ちょっと色目を使って声かけたらコロっと引っかかってくれた。あの者がお前達の仲間であることはすぐに分かったから、脳を弄って情報を聞き出したのだ。そしてスノウが間も無くやって来ることを知った」

 「貴様!まさかトーマを殺したのか?!」

 「お前、騎士のくせに女性に対しての口の聞き方がなっていないな。まぁもはや騎士と呼ぶに値しない地に堕ちたただのニンゲンだがな。安心しろ、殺してはいない。だが、脳を散々弄ったから、脳がほぼ液体状態になっていて最早まともに会話すら出来ない状態になってしまった。それでもよければ返してやろう。既に利用価値はないからな」

 「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

 「貴様ぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ジェイコブとアールマンは剣を抜いてズールーに斬りかかろうとした。


 ガシッ!!


 だが、ワサンとソニアがそれを止めた。


 「何故止めるワサン!」

 「行かせてくれ!これでは我らの尊厳が保たれぬ!」

 「冷静になれ。お前達が敵う相手じゃない。無駄死にだぞ。そんなことをしてもトーマは喜ばない」

 「敵う敵わないの問題じゃない!これは親友を傷つけた者への復讐だ!」

 「尚更だめだ。復讐なら、相手を殺されては意味がない。必ずその機会は来る。それまで備えて待つんだ」

 「は、放せ!!トーマは!トーマは‥‥」


 ジェイコブは涙と鼻水を垂らしながら叫んでいる。


 シュヴァン!ガキン!!


 隙を突くようにスノウが凄まじい速さでズールーに詰め寄りフラガラッハを突き立てたが、それをアモンの体を乗っ取ったサンバダンが防いだ。

 アモンが手にしているのは剣だった。


 「んん、流石に杖に比べると剣は攻撃も防御もしやすいな。そしてこの体、思った以上に役に立ちそうだ」

 「サンバダン!」

 「おお怖いねぇ。言っておくけど、僕はアモンよりも強いよ。肉体の持つ本来の力を限界以上に引き出す方法を既に見つけているからね。アモンは自分の体の7割も十分に使えていなかったようだから、僕は彼の倍は強いということになるかな。あ、それとこの剣、魔剣だけど元々は上位の天使が使っていた神剣だったものが嘗てのシシータナフで天使共が堕天したことで魔剣の位置付けになったものだからね。言うなれば堕天剣といったところかな。だから、君の持つ神剣をも防ぐことが出来るんだよ。まぁ種明かしすると、僕レベルが使わないと君の神剣フラガラッハを防ぐことは難しいん‥」


 ブワン!!ガキン!!ギリギリギリ!!


 無表情のままサンバダンが話している最中に長刀、獅子玄常を振り上げた。

 それもサンバダンは剣で受けきった。

 だが、剣と刀の接点から火花が散っている。


 「アリオク!」

 「なるほど。天使崩れはお前だとなれば、俺のターゲットはお前ということになる。お前から発せられていたオーラの中に天使崩れのものが混じっていたことに気づかなかったのは不覚だが、もう覚えた。次から間違えることはない。ここでお前には死んでもらうから次はないのだがな」


 ギュバン!!‥ヒュワ‥‥


 長刀、獅子玄常はサンバダンの剣をすり抜けてそのまま振り上げられたが、サンバダンはギリギリでそれを躱した。


 「流石はアリオク!これは部が悪そうだ。ズールーあれを出せ!」

 「はい」


 ズールーはしゃがみ込むと手のひらを地面につけた。

 すると地面に大きな魔法陣が出現した。


 「これは転移魔法陣!何かくるぞ!みんな下がれ!」


 スノウの言葉に皆後方へと飛び退いて防御体制を整えた。


 ズゥゥゥゥゥゥン‥‥


 禍々しいオーラが周囲に広がっていく。


 グヌゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‥‥


 魔法陣から4体の巨大な熊のような魔物がゆっくりと出て来た。

 

 「何だこれは?!」


 巨大な転移魔法陣から出て来たものが完全に姿を現したのを見て、皆驚きの表情と共に警戒心を強めた。

 4体の巨大な熊のような魔物だと思ったそれは、ダイオウイカの吸盤のついた10本以上の足の付け根の上に巨大な熊の魔物が四方に向いて生えていて、その中心からは巨大な1体の蛇が生えていたのだ。


 「ヒュドラだよ。僕のオリジナルの人格である(みなみ)は天才なんだ。そして僕はその(みなみ)を守るために生まれた人格だ。天才を守る役目を低脳では務められない。つまり、僕は(みなみ)よりもIQが高く天才で、機転が効き、強く、素早く、無慈悲に行動が出来る存在なんだ。シャーヴァルが数年かけた研究はその結果から僕にかかれば直ぐに応用することが出来るわけだ。これはね、僕が実験的に色々と掛け合わせて造った人造の怪物だよ。どうだい?この種族的に有り得ない組み合わせとそのアンバランスな見た目。でもね、機能は抜群だ。何者をも吸い付けたら離さず凄まじい締め付け力で潰すダイオウイカの足、強力な鉤爪と鋭い牙で何ものをも噛み砕く顎、そして素早い動きで噛みつき、数分で相手を死に至らしめる猛毒を持つ蛇。合理的で神秘的な構造だと思わないかい?」

 「狂人め!」

 「フフフ。最高の褒め言葉だよ。こんな世の中じゃ常人はモブキャラみたいなものだ。何も考えずに与えられたプログラムで動くだけ。常に考え、常に自分を否定して、さらに高みを目指し本質を掴みながら進む。こんなことが出来る者はマジョリティーである常人から見れば狂った者にしか見えないだろう?だがその狂者こそが真の強者であり、世界を手にするに相応しいんだ。さぁ、お遊びはここまでだ。僕らは次の計画に移るとするよ。せいぜいその神剣や魔剣を振り回して頑張るといい。じゃぁね」


 ビュワン‥ビュワン‥


 サンバダンとズールーは転移魔法陣の中へ消えた。


 「待て!!」


 スノウの叫びも虚しく転移魔法陣は消え去り、目の前のヒュドラが強烈な咆哮を放った。


 「ギャバガァァァァァァァァァ!!」


 耳を劈くような咆哮に体がビリビリと振動する。

 ジェイコブとアールマンは体が振動して立っていられないのか、その場に尻餅をついてしまった。

 驚愕の表情でただ目の前の光景を見ていることしかできなかった。


 「アリオク、シア、ワサン、カディールは0時、3時、6時、9時方向から挟み撃ちで攻撃だ。熊にヒットアンドアウェイで動きを止めずに攻撃し、隙があればイカの足を斬れ!機動力を失えば勝機が上がる!イリディアは後方から魔法攻撃を頼む!おれは隙を見て、中央の蛇を斬る!こいつは毒が最も面倒だからな!ソニア魔法で援護してくれ!」

 『おう!』


 スノウの指示で全員がヒュドラを囲み攻撃を開始した。

 




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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