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<ケセド編> 137.魔王アモン

137.


 「このような場所で何をしているアモン」


 目の前に現れたのは魔王アモンだった。

 人型で黒いスーツを着ているが、明らかに人間と違うのは頭部が梟であることだった。

 魔王アリオクのオーラのように、狙われたら間違いなく逃げることが出来ないという圧倒的な力で追い詰められるようなものとは違い、魔王アモンのオーラは無差別に、そして無慈悲に切り刻まれ殺されるような理解の及ばない恐怖を感じるものだった。

 おそらくアリオクもアモンも今の姿は変身しており、真の姿は別にあるのだろうが、それでもアモンの姿には隠しきれない不気味さがあった。

 丸い目は全てを見ているようで一点を見つめているようにも見える。

 視線を変える際は頭部を対象に向けて素早く動かす。

 頭部だけ梟そのものだった。


 「アリオク。誰にでも尻尾を振る殺し屋。追ってくると思いましたよ。狙った獲物を逃したことはないと噂ですからね」


 梟の顔であり表情の分からないアモンから発せられた声は高く丁寧な口調なのだが、言葉の奥にある差すような感覚でスノウたちは警戒を解くことができない。

 いつも冷静で身の危険が迫った時は躊躇なくその場から退却するイリディアですら、警戒するしかないという諦めと緊張が走っていた。

 普段なら冷静さと好奇心が入り混じった感覚で周囲を観察し判断するフランシアもさすがにこの場をどうこう出来るとは思っていないようで、いつでもスノウを庇うことのできる体勢をとるしかなかった。


 (魔王が2人。これまでこんな状況はなかったか。おれ達は強くなったとはいえ、こいつらには到底及ばない。これまでディアボロスに食ってかかって来たが、やつは大魔王級だ。もしかするとこいつらよりも強いのかもしれない。感覚的にディアボロスには何故か殺されないとうのがあったように思える。だが目の前のこの2人はその感覚が全く持てない。目的が違えば無慈悲に殺しにかかる冷酷さがある。いや、そもそも魔王や悪魔はそういう種族なんだ。ディアボロスには何かの目的があり、おれに利用価値があったから生かしていただけなのかも知れない‥‥)


 スノウはレヴルストラは自分を筆頭にもっと強くならなければならないと痛感した。

 今まで大きな犠牲なくここまで来たのはある意味奇跡だったのかもしれない。

 こめかみから汗を滴らせながらスノウは全身に波動気を練りつつそう思っていた。


 「俺たちを待ち伏せしていたということか」

 「ご明察。ちょっと厄介なことになってね。まぁこんなところで立ち話も不粋ですね」


 パチンッ


 そう言うとアモンは指を鳴らした。

 すると地面に魔法陣が現れそこからテーブルと椅子が昇降機で持ち上げられているように出現した。

 そしてその横にはローブを着た者がテーブルと一緒に現れた。

 フードではっきりと見えなかったが女性に見える。

 スノウたちはさらに警戒を強めた。


 「この者はただの私の従者です。気にする必要はありません。ティーとケーキを用意するためにいる者ですから」


 ローブの女は一礼すると、真横に小さな魔法陣を出現させ、ティーポットとケーキを取り出した。

 テーブルの上にケーキを並べたあと、ティーカップに紅茶らしき飲み物を注ぎ始めた。

 そして角砂糖を3つ掴むとアモンは再び話し始めた。


 「ニンゲンの食べ物というのは実にバラエティに富んでいます。糖分は堕天魔族にとっても思考を活性化するのに役立つ成分だと分かりました。とびきり美味なケーキです。紅茶と一緒に嗜みながらお話ししましょう。さぁお座りなさい」


 アリオクは無言で座った。

 警戒を解けないスノウたちは動けずにいた。


 「おや、情けないニンゲンたちですね。ディアボロスと因縁があると聞いていたので、肝の座った者たちかと思いましたが、このケーキよりも甘いディアボロスの手のひらで踊っていただけですか。いいでしょう。少し動きやすくしてあげましょう」


 アモンはオーラを抑えた。

 スノウたちは一気に気分が楽になった。

 だが、それが逆にアモンの恐ろしさを認識させることにもなっていた。


 (警戒心は持っておかなければならない。最悪おれの全力でこいつに攻撃を仕掛けて皆んなを逃す。イリディアがいればスピードは稼げる。何とかイシュタルの城まで行く時間くらいはおれひとりで持ち堪えてみせる‥‥)


 スノウたちは椅子に座った。

 何一つ変わらない様子のアリオクが話し始めた。


 「それで、待ち伏せた目的は何だ?」

 「君にはティータイムを楽しむ余裕はないのですか?」

 「ティーは得意だ。だが相手による」

 「面と向かって言う言葉ですか。まぁいいでしょう、私もあなた方と分かり合えるとは思っていません。私の求める世界にあなた方は不要ですから」

 

 アモンは手を軽く横に動かすと、ティーカップとケーキが消えた。


 「さて、要件ですが、まずあの風の発生源について説明が必要です。あれは私が追い詰めたエセ天使が起こしている風です」

 『!!』


 (アモンがサンバダンを追っていたのは知っていたがやはり既に捕らえていたってことか?!だがこいつはサンバダンを殺したかったはずだ。何故生かしているんだ?!)


 「変な話だな。お前はあの天使崩れを消し去りたかったのだろう?お前を再起不能にしかけた相手だからな。それを何故生かしている?」」

 

 スノウは自分の言いたかったことをアリオクが言ってくれたため、ホッとした。


 「それをこれから説明します。実は特殊な鎖で繋いでるのですが、ここはイシュタルが結界を施している場所です。エセ天使を捕らえた際、その結界を一部破壊し、その破片を自身に纏わせているのですよ。私はイシュタルといわば対局に位置する身。結界が過剰に反応するので、捕らえたエセ天使にとどめを差すことが出来ないというわけです」

 「なるほど。それであの天使崩れは何故風を発生させているのだ。体力や魔力を温存するなら機会を待って大人しくしているのが定石だ。」

 「恐らくですが、自分の居場所を知らしめているのでしょう。あの者は何やら怪しげな肉体弄りの趣味があるようです。風を起こし近寄る者を捕らえて鎖を解く方法にでも使おうと考えたのでしょうね。まぁ何をしても私の放った捕縛の鎖は解けませんがね」

 「そうか‥‥そういえば先ほど、イシュタルの結界を纏っていると言ったな?お前が手出し出来ないということは俺にも出来ないということになる。イシュタルは豊穣と慈愛の神。どちらかといえば土地に力を発揮する守りの神だ。その結界術はそうそう破ることは出来まい。となればお前が何かを頼みたい相手は俺ではなくここにいるニンゲンだな?」

 「ご明察。それもかなりの力の持ち主でなければなりません。私の調べでは、そこにいるアノマリーならばあれを殺すことが出来るはず。そしてお前、あのエセ天使に対して恨みを持っていると聞き及んでいます。つまりあれを殺す力も動機も持ち合わせている。断る道理はありませんね。そしてアリオク、貴方にとっても目的を完遂できるわけだ。邪魔する理屈もないでしょう?」


 アリオクはスノウを見た。

 スノウは思考を巡らせた。

 

 (これは一体どういう展開だ?‥‥アモンとは何者なんだ。おれ達に危害を加えようとするならこんな回りくどいやり方はしないはず。アリオクがいるからあからさまに攻撃もしないだろうし。いや、アリオク自体も信用に値するのか?!‥‥こいつらは2人とも魔王級の悪魔。悪魔はどこまでいっても悪魔だ。だが、やっぱり解せない。こいつらが結託しているのなら、2人がかりでおれ達を襲えばいい。おれ達もそれなりにダメージは与えるだろうが、それが怖いわけでもないだろう‥‥となればやはり、あの風の発生源にサンバダンがいるということなのか?そして結界でおれしかやつを討てないと‥‥)


 スノウはアモンの申し出を受けることにした。

 アリオクに軽く頷くとスノウはアモン登場後初めて言葉を発した。


 「おれは何をすればいい?」

 「グッドですよ。私の申し出を受けるということですね。なぁに簡単です。貴方の持つ神剣であの風の発生源にいるエセ天使を突き刺せばよいのです。今は結界の影響でその姿は見えませんが、近づけば徐々にエセ天使の姿が見え始めるでしょう。私の放った鎖で動けなくなっていますからエセ天使から攻撃を受けることもありません。ただ、あれの巻き起こしている風には強力な魔力が込められています。結界から吸い上げている神聖なる力と大地から吸い取っている負の力の入り混じったものです。貴方ならば耐えられるはずです。まぁ痛みは伴いますがね。見たところ回復の魔法も使えるようですから、自身の体を回復させ続けて近づくことです」


 スノウは静かに立ち上がった。


 「アリオク。すまないがおれの仲間を守ってくれ。それを条件におれはサンバダンを討つ」

 「もちろんだ。目的を果たすためのパーティだったが、目的が果たされた途端に無関係などとは考えていない。イシュタルのところへ戻る約束もある。この場でお前の仲間が傷つくことはないと約束しよう」

 

 スノウは軽く頷いて風の発生源の方へと向かった。

 徐々に風が強くなる。

 

 ジュグゥゥ‥‥


 「うっ‥」


 スノウは頬と腕に熱さと寒さが同時に感じられた後に激痛に襲われた。

 腕を見ると火傷で爛れたようになっている。

 急いでウルソーの回復系クラス2魔法のジノ・レストレーションの回復効果を痛みのある箇所へ付与した。

 だがすぐ別の場所に激痛と共に火傷のような爛れ傷が発生する。


 「くっ‥‥」

 (なるほど‥‥これがアモンの言っていた風に込められている魔力の影響か‥‥確かにこれはきつい)


 進むにつれて爛れが発生する箇所が増え、もはや全身に魔法を付与し続けなければならない状態となった。


 (流石に限界が近いぞ‥‥)


 風が強くなったこともあり、中々前に進めなくなって来た。

 一歩ずつゆっくりと足を前に出し、地面を踏み締めて、さらに一歩踏み出してを繰り返していく。

 そしてついに前方に見たことのある姿が見えて来た。


 「サンバダン‥」


 両手、首、胸、胴と鎖で頑強に括られている上半身しかない天使が翼を激しく羽ばたかせているのが見えて来た。

 スノウはフラガラッハの柄を握った。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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