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<ティフェレト編>34.救出

34.救出



 夜ということもあり衛兵が少なく、比較的スムーズに移動ができた。


 「しかし広い城ね」


 「嬢ちゃん、城は初めてか?この規模の城は、言ってみれば一般的なさいずだな。ドワーフの城を見たら驚くぞ?デカさもさることながら、構造の複雑さや空間の使い方なんかは人間には真似することの出来ねぇ代物だ。城だけにな」


 「・・・・」


 人間の作ったものを馬鹿にされたのと、さり気無くどうしようもないギャグを放り込んできたゴーザにエスティはうんざりした顔で返した。

 3人はやっとのことで地下までたどり着いた。

 汗だくだった。

 エレベータを使いたかったが行き先がわからないので現在位置を掴めなくなるという不安から階段を使って地下までやってきたのだった。

 ゴーザは出血量が多かったため、相変わらず顔は青ざめていおり動きもよろけながらになっているが、意識ははっきりしているようで、やれこの城のこの作りはダメだとか、階段一段の高さが気に入らないとか、エレキ魔法の電灯は便利だが明るすぎるとか、減らず口ばかりたたいていた。

 既に上官に音変化しているレンの姿を見たふたりの牢獄の門番が慌てるように立ち上がり敬礼する。


 「上官殿!こんな夜更けにお越しになるとは何かございましたか?!」


 門番は取り繕うように焦りながら挨拶をするが、目の前には何か賭け事でもしていたのかサイコロのようなものと、カードと何か点数をカウントするための木の棒が散乱していた。

 レンはそのテーブルの上のものをチラッと見る仕草をして言う。


 「貴様ら賊が入り込んだのを聞いていないのか?衛兵たちは逃げた賊の捜索と警戒に当たっているのだが、貴様らといったら聞いていないどころかあのような事をしていたとは・・。これは副総司令殿に報告せねばならん」


 そう言った瞬間、門番たちの顔面は蒼白となり、うちひとりは気を失ってその場に倒れ込んだ。


 「ど・・どうか!ご慈悲を!副総司令殿にこの状況が知れてしまったら私らはその場で斬首となりましょう・・。故郷に残した寝たきりの家族への仕送りも出来なくなり一家もろとも飢え死にとなります・・」


 「そのような事情があったのか・・」


 「はい!」


 嘘か本当かはわからないがレンは理解あるふりをした。


 「だが!規則は規則だ。報告はする。しかし挽回の余地がないわけでもない。賊が侵入している非常事態だ。貴様らふたりで城の裏手にある倉庫の警備にあたり、倉庫内の物品を賊から守り抜けば・・あるいは恩赦もあるやもしれんな・・」


 門番は考える間も無く一礼し、気絶した相棒を担いで急いで倉庫に向かう。


 「ここは私にまかせて・・・・おけー」


 「ぷっ!」

 「がはは」


 「見た?!あの2人の顔!」

 「レンのボウズの演技もなかなか迫真だったじゃねぇか!」


 「でしょー!褒めてくださいよーもっともっと!アネゴも!ほら!ほら!オイラに賞賛の言葉を!」


 「しかし牢獄の持ち場を離れる事に疑問を感じないなんてね!全く平和ボケもいいところねこの国は」


 「全くだ」


 エスティに軽く無視された事で拗ねるレン。

 しかしあまり時間がないため、3人は奥へ進む。


 「悪魔が冥府に還ったって事は仮に門番たちが洗脳させられていたとしても正気に戻っている可能性高いわよね?でももし洗脳されて本物の王様を投獄していたのなら、すぐさま助けると思うんだけど、あの通り賭け事に勤しんでいたって事は、門番たちが知らない牢がどこかにあるって事よね?」


 「だろうな」


 「ちょっと待って」


 エスティはロゴスのライフソナーを唱える。

 半径10メートル範疇の生命体を感知する魔法だ。


 「あれ?」


 エスティは生命反応を感じるのに壁で進めなくなっているところを見つけた。


 「ここおかしいわね。向こうに生き物の気配感じるのに壁が邪魔で通れない感じになっている」


 「確かにな。おう、ここの隙間から風が通っているのがわかるぞ?ちょっと待て」


 ゴーザは周囲を調べる。

 すると何かスイッチのようなものに気づき押してみた。


 ゴゴゴゴゴゴ


 「おお!すげぇ!秘密基地みたいっすね!」


 「そうだな!こりゃぁ面白いからくりだぜぇ!」


 はしゃいでいる男ふたりをよそにエスティは慎重に前に進む。

 開いた扉の先には真っ暗だが廊下が続いているようだ。

 一歩踏み出すと廊下の壁面の上の方にある灯りが自動的に点灯する。


 「おお!」

 「すげぇ!」


 エスティを先頭にゴーザ、レンの順番で廊下をすすむ。

 しばらく進むと前方に扉が見えた。

 ライフソナーで扉の向こう側に声明反応がある事を既に捉えている。


 「おそらくここね」


 「しずかに!」


 レンの声で3人は黙り耳を澄ます。

 どうやら入ってきた牢屋の入り口の方から足音が聞こえる。


 『門番が戻ってきたのかしら?』

 『いや、足音はひとりだ』

 『ここはオイラが食い止めるっすからおふたりは中に入って下さいっすよ』


 エスティとゴーザはそーっと中に入る。

 門番の上官に扮している自分であれば何かしらの言い訳もできるだろう、レンはそう思ってとりあえずふたりを中に入れ、鍵を閉めた。


 コツ・・コツ・・コツ・・


 足音が近寄る

 明らかにこの閉ざされた壁の奥の通路を知っている足音だった。


 (偉い人っすかね・・この廊下を知ってるってことは本物の王様がいる場合、ここに隠してる事知ってるってことっすよね・・。って事はつまりあの悪魔の仲間?!)


 レンは勢いで食い止め役を買って出たが後悔した。

 廊下の入り口の方からゆっくりと足をすすめて近寄ってくる存在はほぼ間違いなく敵だったからだ。


 (誤魔化すしかないっすね・・」


 コツ・・コツ・・コツ・・


 影が見え始める。


 コツ・・コツ・・コツ・・


 「おや、こんな所に入り込んでいる者がいるとは」


 声の主は宰相だった。


 「おお!こ、これは宰相様!こんなところまでお越しになるとは何かございましたか?」


 「このような夜更けに少し騒々しかったのでな。しかし牢獄の奥にこのような存在の廊下があり、そしてそこにいる貴様は一体何者だ?」


 完全に怪しまれているが、宰相はさも自分はこの廊下の存在を知らなかったという話ぶりにレンは少し安堵した。


 「宰相様、私も見回っていたところであるはずのない所にこのような廊下がある事を発見し、ちょうど確認していたところでした。ですが、この扉の中は何もありませんでした。恐らく、極悪人を閉じ込めるものかもしくは有事の際に隠れる秘密の部屋として使われていたものかと想像します」


 「質問に答えないのはなぜだ?」


 レンはしまったと心の中で思った。

 焦るあまり質問に答えず、聞かれてもいない状況説明をしてしまったからだ。


 「申し訳・・」

 「まぁいい。貴様レベルの兵の素性を聞いたところで覚える価値もない情報だ」


 そう言うと宰相は、レンにどくような手振りをし扉の方に向かう。


 (やべぇーーー!!っすよーーー!!!)


 宰相は鍵を開け、扉を開く。

 中にはちょっとした生活スペースがあり、書斎のような作り、そして奥の部屋は寝室になっていた。

 宰相は中を見渡す。

 人の気配はなかったが、誰か使っていた痕跡はあった。


 「ふむ。・・貴様、この部屋の存在は忘れろ。よいか?今日見たこの部屋のことは忘れるのだ。この部屋のことを2度と思い出してはいけないし、誰かに言ってもいかん」


 「は・・はい!」


 そう言うと、宰相は部屋を出て鍵を閉めた。


 「よいか?3度念押ししたぞ」


 そう言いながら宰相はレンの肩を掴むように叩いた。

 そしてそのまま入り口の方へ足を進めた。

 ホッとするレン。

 なんとかやり過ごせたようだった。


 (アネゴたちうまくやったようっすね・・・)


 「ん?」


 宰相は何かに気づいたような表情をして足を止めた。


 (ドキッ!!)


 心臓が止まるかと思うほど驚きつつもレンは表情に出さなかった。


 「どうかされましたか?」


 「貴様・・。貴様からなぜか懐かしくも吐き気のする雰囲気を感じる」


 「???」


 「やはり貴様。今ここで死ね」


 そう言うと、宰相は黒い手袋を外しレンの頬に手をあてた。

 次の瞬間、レンは一瞬で意識を失ったようにその場に崩れ倒れた。

 レンは息をしていなかった。

 瞳孔も開き、血の気が感じられない状態と化していた。


 レンは死んでしまった。


 「気のせいだったか」


 宰相はそのまま帰ろうとする。


 「!」


 しかし、死体となったレンの体になんらかの異変を感じ振り向く。

 確認するが動きがない。

 精気もなく、ただの物体と化しているだけだった。


 「念の為・・だな」


 そう言うと人差し指を風を読むように目の前に突立てる。

 その指をレンの死体の方に向けた瞬間、黒い光の線がレンの体を貫く。

 当たった衝撃で死体は波打ったが、その後は動かない。


 「・・・・」


 宰相はしばらく死体を見つめたあと、振り向いて帰ろうとする。


 コツ、コツ、コツ


 「!」


 宰相はやはり何かを感じたのか急いで振り返る。

 するとそこにあるはずの死体がなくなっていた。



 「冥界を統べる者がこんなところに何の用ですか?」



 耳元で囁かれているのか、頭に直接語りかけられているのかわからないような不思議な声が宰相に向けられた。


 「その声、話し方、そしてさっきから感じている懐かしい吐き気・・やはりお前だったか」


 宰相の声色が変わり、話し方も変わる。

 渋く落ち着いた、引き込まれるような声になっている。


 「ミカエル」


 「おや、やっと気づきましたか」


 「上手くそのニンゲンの深層に紛れ込んだものだな。迂闊だったよ、昔から臆病で隠れるのが上手だったことを忘れてしまうとは」


 「相変わらず負け惜しみというか見栄っ張りですね。まぁそんな事はどうでもいいのですが、なぜ貴方がこのような場に来ているのですか?ベルフェゴールを率いているのは貴方なのですか?まさかあのような低俗な者をサポートしながら行う企みなど貴方のやり方とは思えませんが」


 「相変わらずイラつかせる物言いしかできんのだな。お前が言う通りベルフェゴールが何をしようと私の手のひらの上を飛び出る企みなどありえん」


 「ではなぜ?場合によっては貴方を還さねばなりません」


 「出来もしない事を簡単に言えるようになったものだ。まぁいい。少しだけ教えてやろう。この多次元宇宙をいよいよ喰らい尽くそうとまた侵略が始まりつつあると私は睨んでいるのだ」


 「!!ま・・まさかあの七千年前の再来・・?」


 「そうだ」


 「信じられない!あれは我が主人によって退けられ1万年かけても復活などできない状態だったはず!」


 「お前、あれが虚無の本体だと思っているのか?」


 「ば・・ばかな!!」


 「その証拠に近々その予兆が現れるだろう。私はそれを見届けに来ただけだ」


 「我が主人に伝えなければ・・」


 「やめておけ。腕一本動かすのがやっとだろう。せいぜいお前たち兄弟でなんとかするんだな」


 「貴方は何を?!」


 「それを言うと思うのか?」


 そう言うと宰相の姿をした何かはコツ、コツと歩き始めた。



・・・・・


・・・



 「危なかったな」


 「間一髪ね」


 エスティとゴーザはたまたま見つけた床にある地下への入り口の蓋を見つけて潜り込んでいた。

 誰かの気配を感じて急いで地下への入り口に入り蓋を閉めたが、部屋を出ていったところを見ると、無事にやり過ごせたようだ。

 レンが対応していたはずだったが、それでも部屋に侵入してきたと言う事は恐らくレンが音変化している者より偉い人物なのだとふたりは理解していた。

 雑魚なら捉えて縛っておいても良いがある程度上位の人物となると、所在不明になった瞬間に騒ぎ出す可能性が高いため、やり過ごせてふたりはホッとしていた。


 「しかしこんなところに階段とはなぁ。隠し扉にさらに隠し扉という2重の隠し部屋っていうからには相当なものがこの先あるってことだな」


 「間違いなく本物の王様がこの先にいるわね」


 「よし進んでみよう」


 階段を降りると直線の10メートルほどの廊下が続く。

 その先に扉がある。

 ゴーザはそれを慎重に開ける。

 鍵はかかっていなかったが、何かが外れる音がした。


 「これはおそらく魔法による施錠がなされていたようだな。感覚でわかる。つまり簡単に開いたようだが、中からは開けられない状態だったってことだ」


 「いよいよね」


 部屋は薄暗かった。



 「何者だ?」



 低く荘厳な声がエスティとゴーザに問いかけた。

 エスティはかろうじて見える中で灯りを見つけスイッチを入れた。

 部屋が一気に明るくなる。

 声のした方向に目をやると1人の男が見える。

 明るさに慣れていなかったのか、手で灯りの光を遮る仕草をしている。

 髪は白髪混じりで長く無造作な状態、明らかに身分の高い者とと思わせる服装だったが上半身は裸で無数の傷が見える。

 まだ癒えていない傷からは血が滴っている。

 首に鉄の首輪がつけられており、その首輪は鎖で部屋の隅の頑強なフックに繋がれていた。

 手足は自由だが、ちょうどこの部屋の扉にたどり着けない長さになっている。


 「あたしはエスティ、そしてこのドワーフはゴーザ。貴方は本物のムーサ王とお見受けします」


 「何を今更。いかにも我はこの国の王のムーサだ。ん?貴様らは我を拷問しに来た者ではないのか?」


 「拷問?!そんなことたぁしませんよ。俺たちはあんたを助けに来たんだ」


 「キタラ教会の司教のユーダさんから依頼を受けて、この国の王様は偽物になっている可能性が高いという事で、確認のため潜入したのですが、貴方様の居場所が分かったのでお救いするため参上したのです」


 「それを信じるに足るものは何か?」


 「相当ひどい拷問を受けなさったようですな」


 「正直ございません。信じていただくしかありません」


 「まぁ俺のようなドワーフがこの城に入っている事自体やばい事だってので信じて頂けねーですかね?」


 「はっはっは!面白い!確かにそうだ。それに下手に証拠など見せられたらそれこそ怪しいというものだ。我が死んで喜ぶ輩が多くてな。それで聞いたわけだが、そういう奴らほど我を信用させるための手紙やらなにやらを用意するものだ。だが貴様らは何も持たずわざわざ傷だらけでこんなところまで来たという事だ。それだけで信用できる」


 ふたりはホッとした。

 ゴーザは持っていた剣で鎖切った。

 首輪は鍵がかかっており、剣でねじ切るわけにもいかず、鍵も見当たらないため外す事ができなかった。


 「よい、この場から出られれば首輪など問題ではない」


 「そう言えば、失礼ですが王様は言霊と言われる発した言葉を現実にする力をお持ちだと聞いたのですが、そのような感じはしませんね。能力を抑えて話されているのですか?」


 「はっはっは!そんな便利な力があったらこんなところで捕まっているはずはないぞ!我の能力は特殊な楽器を使う事によって人々の心に語りかけたり、音の素晴らしさによって人々の心を突き動かしたりするものだ。我に化けた悪魔のように人の心を強制的に操るものではないのだよ」


 「そうなのですね」


 「さぁ我の寝室に向かうぞ」


 「いや・・」


 「その・・」


 まさか自分たちが破壊しましたとは言えないまま、部屋をでた。



 「アネゴー!ゴーザのだんな!」


 「レン、良くやったわ。今回はあなたの一番の功労者よ!」


 エスティは思わずレンを抱きしめた。


 「あれ?妙に冷たいわね。ここ冷えるのかしら?帰ったら好きなだけお風呂で温まればいいわ。じゃぁ行きましょう!」


 とは言うものの、王の寝室は破壊尽くされているため、王の逆鱗に触れる可能性があるが、王がどうしても寝室に行くというため、一行は寝室に向かった。





12/30修正


次は土曜日のアップですが、時間作れたらその前に1話アップします。

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