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<ティフェレト編>33.偽王の悪魔

33.偽王の悪魔



 「ふんぬ!獲奴手(エメシュ)


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!


 ゴーザは音土魔法をかけて王室内を土の壁で覆う。


 ゴォォォン!!!


 「おぉい!こんな泥壁で俺を捕らえたつもりかぁ?なめんな」


 悪魔は地面を蹴りゴーザの方に爪を立てて突進してくる。

 爪が凄まじい速さでゴーザに迫る。


 ガキィィン!!


 エスティがフルーレで爪を防ぐ。

 すかさずゴーザが剣を悪魔の腹に突き立てる。


 シュワン!・・ガギン!


 悪魔は瞬時に後退りし剣をかわす。

 エスティはゴーザの突き立てた剣を踏み台にして剣をかわした悪魔にフルーレを突き立てる。

 悪魔はそのフルーレを両手の爪で防ぐ。

 その隙にエスティの背後からゴーザが剣を振り上げてジャンプし、悪魔に切り込む。


 ガバァ!!


 「やった!」


 エスティが思わず叫ぶ。

 悪魔の首が切り落とされた。

 エスティとゴーザは後方にとびのいて距離をとる。


 「さて、こいつが偽物の王だってのは突き止められた訳だがよ、それじゃぁ本物の王はどこだ?」


 「ああ!!」


 ビクゥ!!


 「なんだぁ嬢ちゃん!いきなりびっくりさせやがって!」


 「ゴーザ!あんたが悪魔殺しちゃったから本物の王様が生きているのか、生きてたらどこにいるのか聞けなかったじゃない!生き返らせなさいよ!」


 「ほぁあ!!何言ってんだ?!できるわけねぇだろが!嬢ちゃん気は確かか?!悪魔生き返らすってよぉ!!自分で何言ってるか分かってんのかァ!?」


 「聞いたらちゃんと殺すわよ!」


 「そういう問題じゃねぇだろがァ!」


 ボゴ・・・ボゴボゴ・・・


 「!!!」


 エスティとゴーザは奇妙な音の方向を見てゾッとする。

 切り落とされた首のあたりから怪しく光目が見えていたからだ。

 次の瞬間首のあたりから大きなクチバシが飛び出てきた。

 そして皮膚を食い破るように鳥の足が現れる。


 ドッバァァァァ!!


 その姿はグリフォンだった。

 大鷲のような顔と前足の巨大な鉤爪、黒い翼、そして尾は大蛇で別の意思をもっているかのように蠢いている。


 「ガハァ・・・礼を言うぜ・・・ガハァ。人間の姿ってのは窮屈でな。しかもこの人間クセェから嫌だったんだ。だがオメェらが首を切り落としてくれたおかげでこの姿になれた。まぁこの姿も仮の姿なんだがなぁ」


 (確かスノウが悪魔は魔王とか最上級クラスじゃなければ本当の名前を言えば支配できるって言ってたね・・・。でも流石にグリフォンじゃないだろうし、仮の姿って言ってるし・・・)


 「どう倒す?嬢ちゃん・・・こいつ不死身なんじゃねぇのか?」


 「さぁ、どうだかね。でもこいつに本当の王様が今どうなっているか聞き出すチャンスができたって事よね?」


 「あんた度胸座っとるなぁ。よし!それじゃぁ聞き出して細切れにするか!」


 「そうね、流石に細切れにしたら死ぬでしょう」


 (それに聖なる力は効くはずだからあたしの聖剣技で攻める・・・だね!)


 「ごちゃごちゃ言ってると喰っちまうぜ!!」


 そう言い放つと悪魔はふたりの方に突進してくる。

 そしてより大きくなった鉤爪でふたりもろとも引き裂こうと豪快に振り下ろす。


 ガキィィィン!!シャヴァン!!


 エスティはフルーレで受け止めるが、力で押し負けてしまい防ぎ切る事ができず、あわや八つ裂き状態だったが、間一髪体をよじって受け流しなんとか致命傷は逃れた。


 「なんて速く強力な攻撃・・」


 だが、すかさずゴーザが反撃する。

 悪魔はそれを難なく鋭い鉤爪で受け払う。


 「ガハァ・・・さっきまでの威勢の良さはどうした?力も弱ぇし動きも遅ぇ。とたんに戦いがつまらなくなったじゃねぇか!」


 「ふん!ほざいておけ!これからとっておきの攻撃が始まる!なぁ!嬢ちゃん!」


 「え?!え・・・ええ!そ・・・そうだわね!」


 エスティはゴーザの後から攻撃を加えようとしたのだが、側面から素早く襲ってきた蛇に腕を噛まれてしまい攻撃できなかった。

 すぐさま解毒の魔法を施しながらかろうじて強気の発言を捻り出した。


 「ガッハハァ!息ぴったりじゃねぇか!万策尽きたって伝わってくるぜぇ!そりゃぁ!!」


 「ふぬぅ!天転陽流(テンテン・ヴィル)


 悪魔が土壁を蹴って突進しようとする直前に壁がまるでミキサー車の回転するコンクリートタンクのように回転し始め、バランスを失ってしまう。

 それを逃さずエスティは凄まじい速さで切り込んでいく。


 「聖魔斬!!」


 聖なる刃を体勢を崩した悪魔に叩き込む。


 「グバァァァァ!!」


 悪魔は思わず悲鳴をあげた。

 エスティの聖魔斬によって右手と右の羽根を切断されたためだ。


 「やったかぁ?!」


 「いえ、致命傷にはなってない・・・」


 「うがぁぁぁぁ!くそったれ・・!テメェ聖なる力をやどした技を使いやがったなぁ!?痛てぇじゃなねぇか!ガバァ!冥界の外に出ちまうと感じる痛みってのはクソみてぇだな!しかも土壁動かしてバランス崩させるとかよぉ、小賢しいマネしやがって!」


 そういうと悪魔は何かを詠唱し始めた。


 「まずい!」

 「マジか!」


 エスティとゴーザは悪魔に突進する。

 悪魔のクチバシに黒い光の渦が集まっている。

 エスティはフルーレの聖なる突きをそのクチバシに向けて放つ。

 悪魔は鋭い鉤爪で難なく弾くが、エスティの背後から現れたゴーザの回転蹴りは避けられず、顔面にヒットする。

 悪魔の顔面が真横に向いた瞬間に魔法詠唱が完了し、強力な闇の力の咆哮が繰り出されゴーザの作り出した土壁を突き破り大きな穴を開けた。


 「なんて魔法・・・!?」


 「くそったれ・・・!まぁいい。次は確実に仕留めるからなァ!」


 エスティとゴーザはさらに危険な雰囲気を感じ取り、攻撃の手を止めず突進しフルーレによる聖なる突きと、剣撃を繰り出す。

 しかし悪魔はその攻撃を冷静に避けながら言う。


 「平伏せ」


 その言葉を聞いた瞬間ふたりはよろめき前のめりに倒れ込んでしまう。


 「くっ!言霊か!」

 「こいつはやべぇぞ?!」


 「グハァハァ!俺としたことが冷静さを失っていたようだ。最初から動きを止めてじっくりとはらわたを取り出して痛みと恐怖で泣き叫ぶ姿を見ながら楽しめば良かったんだなぁ!」


 そういいながら、悪魔はさらに形態を変化させる。

 右手と右の羽根を失っているグリフォンの姿から醜い悪魔の姿に変わる。

 人型ではあるものの皮膚は黒くただれており、目は赤く怪しく光っている。

 右腕と右の翼はエスティの聖魔斬が効いているようで再生できていなかった。


 「押し潰れろ」


 続いてでた言霊によって、エスティとゴーザはまるで重力で押しつぶされそうな状態になってしまう。


 「ぐぇ・・・」

 「おおお・・・」


 ガボォ!


 そして、悪魔は左手を自身の腹の中に抉るように突っ込む。

 中から黒光りしている剣を取り出した。

 腹の傷はみるみる内に塞がっていく。


 「よぉし、これから解体ショーを始める、グバァ!楽しみでよだれが出ちまうなぁ!」


 そう言いながらふたりに近寄ってくる悪魔。


 「まずは、威勢の良かった女からだな。よくも俺の右腕と羽根を消し去ってくれたな。再生に時間がかかっちまう恨みを早速晴らさせてもらうぜぇ」


 そういいながら左手でエスティの紫髪を掴み持ち上げる。

 悪魔は食材を吟味するようにエスティの全身の匂いを嗅ぐ仕草をする。


 「ん?もしかしてお前処女か?!」


 その悪魔の言葉に顔を赤らめ目をつむるエスティ。


 「こりゃぁラッキーだ!とんだご馳走にありつけるって訳だ!よぉし変更だ。まず先に不味そうなドワーフから解体してその後にメインディッシュの女を切り刻んでやろう。いや、次の体として使ってやってもいいな」


 悪魔はエスティの紫髪を離し、ゴーザの方に向きを変えた。


 「ふんぬぅ・・・闘裏昏(トリグラ)・・」


 「だまれ」


 「げばぁ・・・」


 音土魔法を詠唱しようしようとするゴーザを悪魔は言霊で黙らせた。

 そして悪魔は手に持っている剣をゆっくりとゴーザの腿に突き刺していく。


 「んーんーー!!!」


 「ゴー・・ザ!!」


 「おお、すまねぇ。せっかくいい響きを奏でてくれてるのにその口閉じさせちゃだめだな。この俺としたことが。口を開け。ただし喋ってはだめだ」


 「ぐあぁぁぁ!!」


 「んんんーーーいい響きだぁ!」


 そう言いながら今度は足で仰向けにさせ、腹に剣を突き刺す。


 「がぁぁぁ!!!!」


 悪魔はその突き刺した剣をスープでもかき混ぜるようにグリグリと回し内臓を抉る。


 「ドワーフ・・相変わらずこの匂いは好かんなぁ。巨人族の末裔だけあって臭くてかなわねぇ。」


 続いて剣を左腕に向けて一気に振り下ろす。


 ザッバァ!!!


 ゴーザの左腕が吹き飛ぶ。左腕は切断された。

 血が吹き出す。


 「あががぁぁぁ!!!」

 

「おお、ここを切るとそう鳴くのか・・グハァ!」


 悪魔はまるで観察するかのようひとつひとつ確認しながらにゴーザを切り刻む行為を続ける。


 「次は先ほど剣で突き刺した足をきちんと切断してやろう。俺は一応冥界では几帳面で通っているからな。グハァ」


 悪魔は先ほど剣を突き刺した腿の部分に再度剣を突き刺し、抉るように切断する。


 「あああがががぁぁぁ!!」


 ゴーザの悲痛な叫びが部屋に響く。


 「おお!いい鳴きっぷりだぁ!グハァ!俺は満足し始めている!よし次はもう片方の足だな!」


 そう言いながら悪魔は剣を振り上げる。

 ふと、悪魔はエスティが立ち上がっている事に気づく。


 「ん?なんだ?お前の番じゃねぇぞ?ひれ伏せ」


 エスティの紫髪は逆立ち、目は黒目が消失して光っている。

 体からは紫の輝くオーラのようなものを発している。

 悪魔の言霊は効いていない。


 「おい、ひれ伏せ!ひれ伏せと言っている!」


 全く効いていないとばかりに悪魔に近寄ってくるエスティ。


 「馬鹿な!ひれ伏せ!俺の靴を舐めろ!」


 悪魔は剣でエスティを切ろうとするがゴーザがその剣を掴み離さないので振り上げられない。


 「この死に損ないのドワーフが!!」


 悪魔の目の前に顔を近づけて別人のようなエスティは囁くように言葉を発した。


 「本物の王の居場所を言いなさい。そしてあなたの真の名前を言いなさい」


 「王は地下牢に閉じ込めてあるに決まっているだろうが!・・・はっ?!」


 エスティの言葉に従って答えてしまっている自分に気づき恐れ慄く悪魔。


 「お、俺の名前は・・・グググハァァ・・・」


 抗う悪魔だが、完全に気が動転しているようだった。


 「な、なんだこの答えたくなる感覚は・・・まるで人間たちが好む麻薬のようだ・・・グハハァ・・・・」


 「あたなの真の名前を言いなさい」


 気を紛らわしてやり過ごそうとする事を許さず2つ目の言霊を繰り返すエスティ。


 「お・・・おおおおおぉぉれぇぇぇのぉぉぉぉ名ぁはぁぁぁ・・・あがーー!!」


 「言いなさい」


 「マルコシアス・・」


 「マルコシアス。地獄の業火に永遠に焼かれ続けるがいい」


 エスティがそう言うと、マルコシアスと名乗った悪魔はまるで燃え尽きていくように体が消え始める。


 「貴様いったい何者だ?いや、まさか、あいつが言っていた通り・・ミカエルの仕業か・・?クソしくじったぜ・・。オメェを喰え・・・・なくて・・・・残・・・・念だ・・・・」


 そう言い終えるとマルコシアスは消滅した。

 別人のようなエスティはゴーザに治癒魔法をかける。

 切断された手足や抉られた腹の傷はみるみる内に治っていく。

 重傷だったゴーザを治し終えるとエスティは崩れるように意識を失ってその場に倒れた。



・・・・・


・・・



 「ア・・・ゴ・・・」


 「んん・・・」


 「アネ・・・」


 朦朧とする意識の中大きな声がこだまする。

 頭痛のようでその甲高い大きな声が苦痛になっていた。


 「アネゴーー!!」


 「・・うるさい・・わね・・」


 「アネゴ!良かった!目を覚ましたんすね!」


 甲高い大声の主はレンだった。

 姿は王からいつもの容姿に戻っていた。


 「大声で喋らないで・・頭が痛いのよ・・。そ、それよりゴーザは?」


 エスティは状況がわからず、朦朧(もうろう)とする中であたりを見回す。


 「大丈夫っすよ。今は眠ってますが、特に傷はないっす」


 「あ・・悪魔は?!あの残虐な悪魔はどこにいったの?」


 「え?アネゴとゴーザのだんなで倒したんじゃないんですか?オイラが部屋の外で見張ってたから見てなかったっすけど、物音がしなくなって静かになったんで入ってきたらお二人が倒れてたっすよ」


 「うう・・う・・うがぁぁぁ!!!」


 ゴーザが飛び起きる。


 「うわぁ!びっくりさせるじゃないっすか、ゴーザのだんな!大丈夫っすか?!」


 ゴーザはあたりを見渡し状況を把握している。

 そしてゆっくりと立ち上がり、自分の足と腕が動く事を確認し、腹のあたりも(まさぐ)って傷がない事を確認している。


 「一体どうなってんだ・・・・」


 そう言うと、エスティに気づいたゴーザは横たわっているエスティの側に近づいた。


 「嬢ちゃん・・すっかり助けられちまったな・・俺が不甲斐ないばっかりによ・・・・。だが一体あの力はなんだったんだ?まるで嬢ちゃんも悪魔みてぇに言霊使ってたように見えたが」


 「え?!お、覚えてない・・・・。あの悪魔があなたの手足を切断し、お腹の部分をぐちゃぐちゃ抉って内臓が飛び出て血が噴き出て、ひどい事になってたところまでは覚えてるんだけど・・」


 「ええ?!なんすかそれは?!おえぇぇ」


 レンは部屋の隅に行き嘔吐した。


 「ああ。確かに俺ぁあのマルコシアスって悪魔に言霊ってやつで抑え込まれて、いいように切り刻まれちまってたなぁ・・。だが、その直後にまるで別人みたいな嬢ちゃんが立ち上がってこう言ったんだ」


 その状態を真似するような仕草でゴーザは説明を続ける。


 「本物の王の居場所を言いなさい。そしてあなたの真の名前を言いなさい、ってな。白目向いて髪なんて2倍くらいに膨れ上がってたぜ?とてもいつもの嬢ちゃんには見えなかったな。俺のことを魔法で治してくれたんだろうがいつもの力を遥かに超えた治癒能力だったぜ?」


 ゴーザは白目を向きながら説明している。


 「ちょ、やめてよ・・。あたしそんなブサイクじゃないわよ。あんた馬鹿ね、馬鹿だわよ」


 「いきなり馬鹿とはなんだよ、嬢ちゃん!俺ぁ本当のことを言ってるだけだぜ?」


 「そ、それでおえぇぇ・・・・本物の王様の居場所ってどこだったんすか?おえぇぇ」


 レンは吐きながら質問を投げかけている。

 器用な青年だ。


 「あぁ、地下牢だって言ってたな。おそらく普通の地下牢じゃなくて、王宮内の者たちが知らない場所にいるんじゃねぇか?知ってたら、さすがに助けるだろうからな」


 「もしくは言霊で門番たちを操って王を閉じ込めているとかね・・」


 「おお、なるほど。白目ばーじょんじゃねぇけど冴えてんな!嬢ちゃん」


 「馬鹿すぎだわよ、ゴーザ。治さなきゃよかったわ!」


 「がはは!冗談だ冗談!」


 ゴーザは、豪快に笑いながらも出血がひどいので顔面は青ざめて少しよろけ気味だった。


 「それじゃぁ地下牢に行きましょう」


 「動けるのか?」


 「王が偽物だとわかった以上、スノウたちも危ないはず。一刻も早く本当の王様を救出してスノウに合流しないと・・」


 「そうだな」


 レンはゴーザとエスティを抱えながらゆっくりと地下牢へと向かった。





12/30修正

・・・・・

次は水曜日のアップの予定です。ティフェレト編は後半に突入します。

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