<ケセド編> 123.遥か昔のヒンノム
123.遥か昔のヒンノム
バシュゥゥゥン!!
キラーマンティスの鎌、アガスティアの大地の削り粉、ザーグの歯、、赤い魔力石、悪魔の角、マグマ石が光始めた。
ヴアァァァァン‥‥
崩壊核の口の中が禍々しい咽喉から小宇宙へと変化した直後、スノウたちは崩壊核の口の中へと吸い込まれた。
バジュガァァァァァァン!!
その直後、小片の破壊者の放ったアーリカの火が崩壊核を破壊した。
小片の破壊者の暴走は止まらず、怒りの表情のまま方々無秩序にアーリカの火を放ちまくってった。
屍の街デフレテも破壊され、さらには悲鳴の谷クグカの西側にある街のカーサまでもが一瞬にして破壊された。
ヒンノムの大地はほぼ壊滅状態となり、この日までにヒンノムの生物の約9割が失われた。
・・・・・
バフォォォォォ!!
『!!』
スノウたちはどこかの空に放り出されていた。
かなりの速さで落下している。
おそらく1分も経たない内に地面に激突する。
スノウやシンザ、ソニアは風魔法や炎魔法で浮遊できる。
イリディアも同様だ。
だが、リゾーマタ魔法が得意ではないワサンはこの速度では飛行制御が難しい。
カディール、ライドウ、ルナリに至っては飛行することすらできないため、地面に激突必至だった。
バサァァァ!!‥‥フワァン!
イリディアは大きな絨毯を広げた。
皆その上に乗っている。
「何だこれは?!」
スノウは驚いている。
「スノウ、そなたは自分の言ったことを覚えていないのか?そなたが全員を崩壊核のいる場所までひとっ飛びで向かう手段を考えよというたのじゃろうが」
「空飛ぶ絨毯‥‥なるほど‥‥って絨毯はどこから?!」
「絨毯を持ち歩くのは当たり前のことじゃ」
「え?」
「野営の時、そなたは地面に寝るのか?そなたのような低俗な生活が染み付いている者はそうかもしれぬが、妾のような高貴な者が地面に寝るはずもなかろう?」
「はぁ‥‥って誰が低俗な生活がしみつているやつだ!」
『ははは』
全員落下の恐怖が取り除かれたこともあり、スノウとイリディアのやりとりを聞いていて笑った。
「お前、あの絨毯を常に持ち歩いているのか?」
ワサンが小声でカディールに質問した。
「当たり前だ。絨毯だけではない。テーブルも椅子も大きなテントもイリディア様が快適に過ごすためのものは全て俺が運んでいる」
「どこに?!そんだけのものがどこにあるんだ?!」
「この中だ」
カディールは背中に背負っている小さなリュックを親指で指差した。
「はぁ?!」
「驚くのも無理はないな。イリディア様の魔法で全てのものが小さく大きさを変えられているのだ。イリディア様が呪文を唱えると元の大きさになる」
「ほえぇ‥‥それならば何でも持ち歩けるな」
「イリディア様の偉大さを思い知ったかワサン」
「偉大とは違う気もするが確かに凄いな‥‥流石は魔女だ」
ヒュゥゥゥゥゥン‥‥
「さぁそろそろ地上に降りたつぞ。準備せい」
絨毯はゆっくりと地面に降り立った。
全員降り立つとイリディアは小さな魔法陣を出現させて、そこに何か特殊な文字を書き、魔法陣を動かして絨毯に付与した。
すると絨毯はみるみるうちに小さくなり、ハンカチ程度の大きさになった。
『おお!』
スノウ達は驚きの声をあげた。
「イリディアこんなことができるのか!」
「当たり前じゃ。妾は偉大なる魔女じゃぞ」
「じゃぁ人を大きくしたり小さくしたりもできるのか?!」
「できる。理論的にはな。じゃが生き物には使わぬ。物体の組成を組み替える行程があるのでな。大きさを変えるとその者はすでに別の存在に変わっているかもしれぬ。これはそういう魔法じゃ」
「なるほど。細胞のサイズを変える際に細胞の結合を解き、再構築する感じか。その時に生命体としては瞬間的に生物学的には死亡状態になるんだろうな。細胞を再結合する際に蘇生する形になるんだろうが、その状態はオリジナルの存在とは違う、見た目は同じでも別人になっている可能性があるということか‥‥」
「ほう。中々理解が早いではないか。低俗だが馬鹿ではないようじゃな」
「イリディア、スノウを馬鹿にするなら私が許さないわ」
突然ソニアが割って入ってきた。
「ソニア貴様、イリディア様に敵意を見せるのか?俺が相手になるぞ」
「いいわよ?今ここで殺してあげるわ」
「おいやめろ!おれは何とも思っていないから落ち着け」
スノウは慌てたように2人を制した。
一方イリディアはその様子を見て楽しそうに笑っている。
「フフフ‥中々よいリーダーシップではないか」
「おい、いい加減にしろ!」
ライドウが叫んだ。
「ここは一体どこなんだ?!お前ら、俺を一体どこに連れてきたんだ?!さっさとハチ様のところへ送り帰せ」
ライドウの叫びに全員改めて周囲を見回した。
『?!』
「どこだここは‥‥」
皆自分たちがいる場所に見覚えがなくどこなのか見当もつかない状態だった。
天には青空が広がっていた。
真っ青な空に真っ白な雲がゆっくりと動いており、陽の光の心地よい眩しさがあった。
どこにいても見ることのできる巨大な白壁の大骨格コスタもない。
反転アガスティアもなかった。
周囲に木々はなく、禁樹海の中にいるはずだが、美しい草原が広がっているだけだった。
遠くに山脈とその端に富士山のような形をした大きめの山が聳えていた。
「‥‥‥‥」
皆無言になっていた。
「待てよ‥‥」
(崩壊核の口に見えたのは確かに宇宙空間のようなものだったが、どこか異質な感じたした。それにカルパならとてつもない魔力毒によって蒸発するはずだが、全員生きている‥‥つまりあの宇宙空間のような通路はカルパじゃない。それって‥‥越界していないってことだな‥‥)
スノウが言った。
「もしかするとここは‥‥」
スノウは周囲を見渡した。
「きっとそうだ。ここはヒンノムだ」
「え?」
「全然景色が違うが?」
皆スノウの言葉に怪訝そうな表情を見せた。
だが、イリディアが言った。
「いや、スノウの言う通りやもしれぬぞ」
「どういうことでしょうかイリディア様」
「無いものを見ていては気付かぬ。有るものを見るのじゃ」
「そうだ。太陽の位置からするとあっちの方角は南西だ。あそこに山脈が見えるだろ?あれは悲鳴の谷クグカだった場所だと思う。そしてその南にある美しい山。あれは活火山のヒノウミだった場所だ。こっちには街が見える。位置的には無感動の街アディシェスだ。少し霞んでいるがあっちとあっちに街らしきものが見える。位置的に屍の街デフレテと偽善の街クルエテだと思う。つまり、ここはヒンノムだ。はっきりとは言えないが、はるか昔のヒンノムにいるんだと思う」
『!!』
「遥か‥‥」
「昔の‥‥」
「ヒンノム‥‥」
「確かに、ハチ様とアラドゥがこの地に飛来された時の凄まじい衝撃で美しい悲鳴の山脈クグカが大きな谷に変わってしまったと聞いた。あの山脈はその前の状態ということなら納得出来る。!‥‥い、いや別に俺はスノウに賛同したわけじゃないからな!そもそも過去にいるんなんてありえないんだ!」
ライドウはバツ悪そうに言った。
「ライドウの言った話が本当なら、ここはヒンノムってことになりますね。でも大骨格コスタがないなんて‥‥ここはどれくらい前なのでしょうか?」
スノウたちレヴルストラの面々はネツァクで別々の時間軸を生きた経験があるため、何かのきっかけで未来や過去に飛ばされることには拒絶感はなく、すんなりと理解できたのだが、カディールやライドウ、ルナリには理解ができない話だった。
「おれがハチから聞いた昔話というか御伽噺で言えば相当前だ。ここはおれも半信半疑だが、ディアボロスがまだ大魔王になる前、豊穣と慈愛の神イシュタルだった時代なんじゃないかと思う。おれ達の知る4大都市は屍の街デフレテ、偽善の街クルエテ、痛みの街ポロエテ、無感動の街アディシェスだった。だが、御伽噺では命の街アフレテ、偽悪の街ミール、癒しの街リチユ、喜びの街ウレデという街だったらしい。大骨格コスタについては分からないが」
「それなら、あの一番近い街らしき場所に行ってみるというのはどう?そこで街の名前を聞けばスノウの言っていることが正しいと証明されるはずだから」
ソニアはスノウを全く疑うことなく、彼の言っていることの正しさを如何に証明するかしか考えていなかったが、ソニアのいうことは理にかなっていた。
「それはよい考えじゃな。位置からすればあの場所はアディシェス。スノウの推測‥‥いや妄想が外れればディアボロスや悪魔どもと戦うことになるやもしれんリスクはあるがのう」
「その時はオレ達がディアボロスと悪魔どもをボコボコに叩きのめせばいいだろ?迷う必要などないな」
ワサンの言葉に皆頷いた。
「無事であればシアも4つの街のどこかにいるはずだ。とにかくシアを見つけるまでしらみつぶしに街の中を探索する。それでいいか?」
皆頷いた。
「よし。それじゃぁ出発しよう」
スノウたちは無感動の街アディシェスの場所にはる街に向かって進み始めた。
スノウの推測が正しいとすればその街は喜びの街ウレデという名前のはずだ。
(シア‥‥)
スノウは崩壊核に自分たちより先に飲み込まれたフランシアは必ずどこかの街にいると確信していた。
いつも読んで下さって本当に有り難うございます。




