<ケセド編> 120.アーリカの火
120.“アーリカの火
ビカァァァァァ!!
小片の破壊者の付け根部分から大骨格コスタが光り始めた。
青白く、生命力を吸い取るのではないかと思える不気味な光がヒンノム全体に発せられた。
光る度にその光を見た者たちは体から力が抜けるようにして皆、バランスを崩してよろけるか、倒れたりした。
方々の街でこの世の終わりだと叫ぶ者も出てくるほどだ。
そしてその光は小片の破壊者の付け根部分に徐々に集まっていく。
ヴァンヴァンヴァンヴァンヴァンヴァン‥‥
ギュシュン‥
光が胴体の脊柱の骨のひとつ、椎骨に移ったその瞬間、光っている椎骨に破裂したのではないかという衝撃と共に歪な棘が出てきた。
ギャバン!
ギュシュン‥‥ギャバン!
大骨格コスタの光を吸い取るようにしてひとつひとつの椎骨が光り始め、光る度に歪な数本の棘を出現させて、その形を変形させていく。
ギュシュンギャバンギュスンギャバン!!
そして徐々に椎骨が光る速さが上がっていく。
ギュワン!!
小片の破壊者の頭部が無感動の街アディシェスの方向を向いた。
無表情の顔に突如亀裂が入り始めた。
ビギン‥ビギン‥‥バキバキ‥ブギン!!
口の部分に裂け目が出来た。
無理やり皮膚を引き剥がすような痛々しい音と共に口ん部分が大きく裂けたのだった。
「ぬちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‥‥」
すると突如口がゆっくりと、そして大きく開いていく。
裂けた部分も開き始める。
辛うじてくっついていた皮膚も口が大きく開き裂けていくのに影響を受けて引きちぎられていく。
そしてもはや顔の体をなさないほど大きな口が開けらた瞬間。
「ああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
凄まじい音量で悲鳴にも唸り声にも聞こえる不気味な不協和音の声が小片の破壊者から発せられた。
その声はヒンノム全土に響き渡った。
あまりの不気味な声なのか、それとも声事態が脳に悪影響を及ぼす周波数を含んでいるのか分からないが、多くのもの達が発狂し始めた。
それは人族の住まう街だけに留まらず、無感動の街アディシェスに住む悪魔達にも同様の影響を及ぼした。
頭を壁に打ち付ける者。
耳を引きちぎる者。
指を思い切り耳の中に突き刺して鼓膜を破る者。
喉から胸にかけて掻きむしり皮膚が肉ごと剥がれ裂けている者。
悪魔に至っては自ら角を折って、それを耳に突き刺す者までいた。
その様子をディアボロス、ベルゼブブ、ザドキエルの3名は冷静に見ていた。
「予想以上だな」
「いや、想定内だ。アーリカの祖先が生み出した技術にコスタで穴埋めしたんだからな。イポスも既に計算値の3倍以上の影響値で準備をしている」
「なるほど。抜かりないと言うわけだな」
「ああ」
ディアボロスとベルゼブブの会話にザドキエルが割り込んできた。
「しかし、哀れな悪魔があんなにも苦しんでいますね。苦楽を共にした部下たちがあのような状態にあるのに随分と冷静なのですね。いよいよ覚悟が決まったということでしょうか?」
ジャキン!!
ディアボロスは腕を横振りすると同時に出現させた剣でザドキエルの首元を斬った。
「喋るなザドキエル。貴様の声は吐き気を覚えんだ。覚悟と言ったか?そんなものとうに出来てんだよ。
「ザドキエル。お前こそ覚悟できてないんじゃねぇのか?未だにハシュマルを生かしておきやがって。あれの役割は既に果たされ用済みだろうが。次の段階に移行する前に殺してこい」
ディアボロスとベルゼブブはザドキエルに視線を向けることなく言った。
ススス‥‥
斬られた首は血も出さずにすぐに塞がった。
「おやおや随分と厳しいお言葉ですね。ですが、私はあなた方の上役にあたる立場。口を慎むのはあなた方ですよ。それと、ハシュマルの役目はまだあります。あれはあれで使いやすいのでね」
「ちっ!」
「雑魚が。クロエマがなけりゃただの人形のくせによ」
「さぁそろそろ備えた方がよいのではないですか?来ますよ。古の火が」
「ああああああああぁぁぁぁぁ‥‥‥‥‥」
小片の破壊者の叫びが消え、ヒンノムに一瞬静寂が訪れた。
だが、小片の破壊者の頭部、口元には凄まじい光の収束がなされていた。
ビキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン‥‥
ヒンノム全土に頭が割れるのではないかと思われるおどの高周波の波動が流れた。
次の瞬間。
シャヴンン‥‥シュヴィィィィィィィィィィィィィィィ!!!
凄まじい破壊光線がアディシェスに向かって放たれた。
“アーリカの火。
シャーヴァルたちが古の技術を発見した中に記されていたかつて世界を焼き尽くしたと言われる破壊波である。
その白熱光線は超高熱の魔力によって生み出された、物理的に消し去ることの出来ない炎だ。
それがアディシェスに向かって放たれた。
ジュババババババァァァァァ!!
反転アガスティアの縁の部分に白熱の破壊光線が届いた瞬間に、何かに阻まれたように光が方々へ散っていく。
それを間近で見ていた者たちがいた。
「グイード様!ここにいては危険では?!」
漆黒の騎士グイード率いる1万の総統勢力の軍勢だった。
「大丈夫だ。シャーヴァル様よりお預かりしている特殊な魔具がある」
グイードはポーチから奇妙な形をした歪な球体の何かを空に向かって投げた。
ジュバァァァァァァァァァァァァン!!
空に投げられた魔具は空中で大きく爆ぜ、グイード達を覆うドーム状のバリアを形成した。
「我らはいつでもアディシェスに向けて突入できるように待機だ。準備を怠るな。シャーヴァル様の力によってこの忌々しい見えない障壁は必ず取り除かれる」
『はっ!』
ジュバババババババババァァァァ!!
方々に散っている白熱破壊光線が徐々に集まり始めた。
「グイード様!見えない障壁が、光線が反射して見え始めました!」
部下の報告通り小片の破壊者の放った“アーリカの火の特殊な魔力の光によって見えない障壁がうっすらと見え始めた。
「あ、あの障壁、形を変えているようです!」
障壁はまるで生きているかのように、ひとりでに障壁の形を複雑に変化させている。
“アーリカの火が衝突している部分が徐々に溶け始めているため、それを補強するかのように何枚もの障壁が重なるようにして配置された。
その間、周囲の障壁も変化していた。
ジュバババァァァァ!!バリィィン!パリィィン!
1枚、また1枚と障壁が破壊されていく。
「グイード様!障壁が破壊され始めました!」
「よし戦闘体勢を整えよ!ローグよ!お前は騎士とホムンクルスを後方へ回してこれまで通り指揮を取れ!我はアンデッドを従えてアディシェスに攻め入る!」
総統勢力軍の士気が一気に高まった。
次の瞬間。
パリィィィン!!ギュワァァァン‥‥ヴィン!ヴィヴィン!ヴィィヴィヴィン!!
“アーリカの火の光線が複数の角度を変えて配置された障壁を反射するようにジグザグに進み始めたのだ。
そして徐々にアディシェスに近づいていくかに見えた次の瞬間。
ドバババァァァァ!!!
“アーリカの火が神の塔アーサードに直撃した。
まるで障壁に誘導されているかのようにジグザグに進んで行った白熱破壊光線は神の塔アーサードの中腹あたりに直撃したのだ。
“アーリカの火の凄まじい魔力超高熱によって焼かれていく神の塔の表面は真っ白な状態から徐々に赤く変化していった。
焼いた鉄のように真っ赤になっていくにつれて、神の塔アーサードが徐々に変形していく。
現在反転アガスティアを支えているのは、右山脈と神の塔アーサードだ。
反転アガスティアのとてつもない重量の半分近い重量を神の塔アーサードの細い円塔が支えているのだ。
それが今、“アーリカの火の魔力超高熱を浴び続け徐々に変形し始めていく。
「一体何が起こっているのだ?!」
「あれではあの白い塔は白の大地を支えきれなくなります!」
「分かっている!」
金の騎士ローガンダーは軍の後方からその様子を見ていた。
「障壁は破壊できるのだろうな‥‥」
ジュバババババババババ!!!‥‥ギュワァァァン‥‥‥
そして“アーリカの火はエネルギー切れのように一旦止まった。
グググ‥‥ググギギギ‥‥‥グオォォォォォォォォォォォォ‥‥
神の塔から巨大な何かが軋むような凄まじい音が発せられた。
バッキィィィィィィィン!!!
軋み音が響いた直後に凄まじい破裂音のような爆音と衝撃波が広がった。
神の塔アーサードが折れたのだ。
グオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ‥‥‥‥
支えを失った反転アガスティアがとてつもない轟音と共にゆっくりと動き始める。
ドッゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
反転アガスティアは神の塔の支えを失い、そのまま落下し、左山脈がヒンノムの大地に突き刺さる形で着地した。
凄まじい爆音と共に土を巻き上げ、衝撃波が土や岩などと共に広がった。
しかもただの土や岩ではない。
“アーリカの火の魔力超高熱の炎と共に広がっていったのだ。
まるで超広範囲にガトリングガンのような攻撃が放たれたように、さまざまなものが桁違いの速さで飛ばされた。
ドガガガガガガガガガガガガガガガ!!
漆黒の騎士グイード率いる総統勢力軍は古の魔具のバリアによって守られたが、痛みの街ポロエテ、南にある港町ゲゼーは壊滅状態となった。
禁樹海も南東部分の数キロメートルに渡って木々が粉々に破壊され、一瞬にして荒地になってしまった。
ポロエテにいるはずのハチ、アラドゥや八色衆、クティソスたちの安否も分からなくなるほどの一瞬で起こった大破壊だった。
ものの数分の出来事であったが、ヒンノムの10分の1程度の国土が灰と化したのだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




