<ケセド編> 115.皮肉まじりの手紙
115.皮肉まじりの手紙
スノウたちは禁樹海へと向かっていた。
スノウは終始考え事をしており心ここにあらずといった感じだった。
皆スノウがなぜそのような状態にあるか察していたため、敢えて声をかけることなく放っておいた。
スス‥‥
スノウはポーチに入っている封筒に触れていた。
この封筒は共闘解散する際にハチから手渡されたものだ。
“君がそれを開けるべきと思った瞬間に開けてほしい。それが君にとって最良の選択となるはずなんだ。様々な意志と選択の流れが、その封筒を開ける瞬間に影響している。僕は既にその予知を観ている”
(今がこれを開ける時なのだろうか‥‥)
ハチは予知能力者であり、おそらく何か未来を見たに違いなかった。
だが、明確にいつ封筒を開けろとも言われていないところを見ると、封筒を開けるタイミングがどの未来に進むのかに関わっているのではと思われたのだ。
それはタイミングによっては窮地に立つハチやクティソス達を救えることなのかもしれない。
または、タイミングによっては窮地に立つイリディア、カディールを助けることに繋がるのかもしれない。
予知能力のないスノウにとって、自分の選択が引き起こす可能性の大きさに押しつぶされそうになっていた。
(全く ”時” の樹縛でもがいている感覚だよ‥‥それにしても、この封筒そんなに重要なものなのか?!)
スノウは封筒をポーチから取り出した。
「‥‥‥‥」
スノウの脳裏にふとリリアラの樹が浮かんだ。
部屋の中庭にあるにも関わらず、強風で葉を揺らしている。
(おれにとって最も大切なのはレヴルストラの仲間だ。おれがすべきことは、仲間を信じ守ることだ。そのためには強くなければならない。そしてタイミングを逃してはいけない。リリィを失った時のようにおれがもっと強く、タイミングよく動けていればリリィをあのような姿にしてしまうこともなかったはずだ‥‥。シアが崩壊核に飲み込まれて数日経過している。これ以上待つことに何の意味もない!)
スノウは封筒を開けた。
「?!」
中には二つの封筒が入っていた。
「!!」
“先にこれを開けること”
ふたつのうちの一つにこう書かれていた。
しかも日本語で。
(やはりスメラギさんか!)
スノウと同様に日本から越界した男、スメラギ・ジョウタロウ。
このヒンノムに現れエレキ魔法と時計台に代表されるエレキ魔法を使用する文明の利器を数々残し、スメラギの遺言と称した謎のゲームまで残した人物。
彼はなぜかこの世界にスノウが来ることを知っていたかのように手紙を残したのだった。
ビリリ‥
先に開けるよう指示のあった封筒を開けた。
スノウはそれに目を通す。
“これを読んでいるということはおそらく半べそをかいているのではないか?”
(ふざけんなよ、スメラギさん!ふふふ)
スノウは懐かしさと、スメラギがシアの居場所のヒントをくれるのではないかという期待感とスメラギらしい皮肉った言い回しで覆わず目に涙を溜めながら笑った。
“そして君はどうしても禁樹海の大穴からとある場所へと辿り着きたいと思っているのではないだろうか?
その理由が何であれ、どうやら君はその世界へと足を踏み入れなければならないようだ。
全く君はいつも面倒なことに巻き込まれる星のもとに生まれたようだな“
(うるさいよ‥全く‥ふふふ)
“以下に列記したものを集めて禁樹海の中心を目指す必要がある。
あの場所には時空のつながりを食い荒らす異界の怪物神、崩壊核が巣食っている。
本来であれば今頃、ヒンノム、いやケセドはやつに飲み込まれていたはずなのだ。
だが、とある異界神と私はあの場に巨大な樹海結界を形成しやつの顕現を抑え込むことに成功した。
あれを消滅させる方法は、核を見つけて結晶化させることだと私は考えている。
具体的な結晶化の方法については試験段階ではあるが、とある者達に託してある。
君がそれの技術を活かして崩壊核を消滅してくれると有り難いのだが、今の君では無理かもしれないな‥‥“
(ムカ!この言い回しは明らかにおれの怒りを誘ってこれをやらせようとしているな?!その手には乗らないぞと思わせつつも、やらいでか!と思わせるところがイラつく!)
“いずれにせよ、核に近づくためには以下に列記したものが必要だ。これ無しに飲み込まれても崩壊核の闇の胃袋の中で死ぬだけだからな。
<用意するもの>
・赤い魔法石
・キラーマンティスの鎌
・アガスティアの大地の削り粉
・悪魔の角
・マグマ石
・ザーグの歯
以上だ。
健闘という根拠のない祈りは私の主義に反する。
きちんと対象のデータ、戦う相手のデータを入手し、それを踏まえて乗り越える策を講じてその通りに実践するのみだ。 スメラギ“
「‥‥‥‥」
何ともスメラギらしい文章でどこかモヤモヤするのだが、それがまた懐かしい感覚でもあり逆に心地よかった。
「ん?」
“P.S. もうひとつの封筒は君が越界したいと思った時に開くのがいいだろう”
「あぶね。開けてしまうところだったぞ。って、別に見てもいいような気もするが、スメラギさん、どんなトラップ仕込んでいるのか分からないしな‥‥。さて、じゃぁ、まずこの6つのアイテムを集めるところから始めるか。おい!みんなちょっと来てくれ」
スノウは全員を呼び集めた。
「すまないが、おれ宛の手紙に大きなヒントが書かれていた。この出元は信じていい。手紙を書いた主はスメラギ氏で、どういう経路かは聞いていなかったが、この手紙の入った封筒をハチから貰った。おれ宛だということでな」
「ほう。それは面白い。あのスメラギは未来も予知できたというのか?」
「まぁ、予知というより行動操作みたいなもんかな。でも色々とヒントをくれた。ここに6つのアイテムが書かれている。このアイテムを持って、例の崩壊核に吸い込まれると、死なずにどこかへ飛ぶらしい。おそらくシアやサンバダンもどういう手段かは分からないが同じ情報を持っていてこれらのアイテムを集めて飲み込まれたはずなんだ。シアは多分知らなかったんだと思うけどな」
「どれどれ‥‥この文字‥‥読めません‥‥」
シンザが手紙を見るが、日本語など読めるはずもなく諦めた。
「流石スノウさん。こんな古代の文字みたいなのを普通に読めるなんて‥‥」
「古代の文字じゃと?!妾に見せてみよ!」
古代魔法式や古代呪文に目がないイリディアが食い気味で手紙を読み始めた。
「!!‥‥な、なんじゃこれは‥‥全く読めぬわ!スノウ、これをスメラギが書いたというのか?!そしてそなたはこれを読めると?!」
「ははは‥‥ま、まぁね。昔ちょっと‥‥」
「何という屈辱!この文字、妾にも教えよ!よいかこれは命令である!」
バァァン!!
凄まじい威圧のオーラが広がった。
「分かった分かった。時間がある時に教えるから」
「分かればよい」
「それでスノウ。6つのアイテムとは?」
ワサンが痺れを切らしたように話題を戻した。
スノウは6つのアイテムを読み上げた。
「え?!」
シンザが驚いたような声をあげた。
「なるほど!これ正しいですよ!たぶん!」
「どうしたシンザ?!」
「僕、禁樹海で崩壊核のいる広い空間に行き着く前にサンバダンに会っているんです。キラーマンティスに不意を突かれてしまって‥‥かなりのピンチだったんですけど、その時に現れたのがサンバダンで、キラーマンティスを倒すと、その両腕をもぎ取っていって消えたんです。それでこの中にもキラーマンティスの鎌があるんですよね?!」
「ビンゴだな。サンバダンは確実にこの6つのアイテムの必要性を知っていて、集めた上で崩壊核に飲み込まれてどこかへ飛んだってことだ」
ワサンは拳を強く握った。
フランシアを救う方法が見えてきたため闘志がみなぎってきたのだ。
「となると、キラーマンティスの鎌は禁樹海に行って調達だな」
「スノウ、先ほど言われていた赤い魔法石ですが、これではないですか?」
ソニアは自分につけている赤いピアスをスノウに見せた。
「確かに!」
「これでふたつ解決か」
「悪魔の角なら持っているぞ」
カディールが言った。
「この間、アディシェスで捕まり逃亡した際に悪魔をボコ殴りにした際に折って持っておいたのだ。これは使えるのではないか?」
「カディール!」
スノウはどんどん足りないピースが埋まっていく感覚になって気分が高揚し始めた。
「では残るは、アガスティアの大地の削り粉、マグマ石、ザーグの歯の3つになるな」
“マグマ石なら僕が持っているよ”
「!!」
突如スノウの肩に乗っている火の精分霊が話しかけてきた。
もちろんトランシーバー的な役割であり、話しているのはハチだ。
“悪いね。君たちの会話、聞いてしまったんだ。でも僕にも役に立てそうな言葉が聞こえてたからさ。マグマ石、これはヒノウミの火山の中で年に1度しか取れないマグマの結晶石なんだ。強力なマグマエネルギーが凝縮されているから取り扱い注意なんだけどさ。君たちにひとつ分けてあげるよ”
「すまないハチ」
“でもこれ、特殊な石でね。誰でも持てるわけじゃないんだよ。持つための資格が必要なんだ”
「何だよそれ」
“ははは‥‥そうなるよね。でも安心してくれていいよ。マグマ石を持っても平然といられる子がいるからね。その子に届けさせるよ。そのまま同行してもらわないとならないかもしれないけどね”
「あ、ああ、それは構わない。何かすまないな」
“気にしなくていいよ。それじゃぁ回線切るね。明日には追いつくと思うから”
ハチとの回線が切れた。
「となると、残るはアガスティアの大地の削り粉とザーグの歯ですね」
「ザーグってのは海の魔物だよな。確かゲゼーの名産だったからあの街に行けば手に入りそうだな。少し距離があるからおれが魔法で飛行して入手してくる。ついでにアガスティアの大地の削り粉ってのもおれが取ってくる。本当についでで入手できそうだならな。ということでお前達はゆっくりと禁樹海目指して進んでいてくれ」
「分かりました」
ソニアが答えた。
自分がスノウの代役を勤めると言わんばかりの刺さるような眼力だった。
スノウは軽く頷いて、すぐさま風魔法を使って遥か彼方へ飛んでいった。
「さて、行きましょう!」
皆、しぶしぶソニアのあとについて歩き始めた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




