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<ケセド編> 114.意地悪なやつ

114.意地悪なやつ


 「無事だったようねって当然か」


 スノウはワサンたちをハチに会わせようとしていたが、丁度所用で街を出ていたソニア帰ってきたため、ワサンたちはソニアとの再会を果たした。

 ソニアはワサンとの再会を喜んでいたがどこか腑に落ちないような表情を見せており、ワサンはそれを感じ取っていた。

 

 「ソニア‥‥実は‥‥」

 「シアのことね?」

 「あ、ああ」


 流石に察しがよいとワサンは思った。

 ワサンはソニアにもシアに起こったことについて説明し始めた。


・・・・・・


 「というわけだ。すまない‥‥全てはオレの責任だ。オレが弱いばかりに、シアを‥‥」


 スノウは一部始終を黙って見ていた。

 部屋の温度が急激に上昇しソニアの感情が昂っているのが分かった。


 「確かにそうね。あなたは弱いわワサン」

 「ああ‥‥オレがもっと強ければあんなことには‥‥」

 「そうかもね。でもそれはあなただけじゃない。もしそこに私がいたとしても同じことが起こっていたと思うわ。ソニックでもシンザでもシルゼヴァでもね」

 「‥‥‥‥」

 「世の中にはまだまだ私たちの想像を超える存在が山ほどいるはずよ。でも私たちはそれと互角以上に渡り合えるように強くならなければならないわ。でもその前にシアを絶対に救い出す。いいわね!」

 「あ、ああ」

 「何よそのだらしない返事は。私たちでシアを救ういいわね!」

 「おう!」

 「ふふふ」


 スノウはその光景を見て嬉しい気持ちもあったが、少し複雑な感情もあった。


 (ソニアはおれなら崩壊核(コラプシオン)からシアを救えたはずだと思っているんだろうなぁ‥‥)


 先ほどソニアがあげた名前にスノウの名が出てこなかったため、スノウは苦い表情になっていた。


 (かいかぶり過ぎだっての‥‥どこから来るんだよその自信‥‥)



ーーとある場所ーー


 「へっぶしょ!!」

 

 ガァン!


 「うるさいぞハーク。俺の許可なく近くでくしゃみをするなと言ってあるだろう」

 「いやな?なんかどこかで俺の噂をしているんじゃないかってよ」

 「いや逆だろう。誰もお前のことなど覚えていないんだから噂をするはずもない」

 「んなことあるか!少なくともレヴルストラメンバーは俺に頼りきってんだからよ!」

 「ふん」


 そんなことは ”あった” 。


・・・・・


 スノウはワサンとシンザをハチたちの下へと連れていき、紹介した。

 ハチは既にこの光景を観ていたようで、ワサンたちが名乗る前から歓迎の言葉を言ってワサンたちを驚かせた。

 また、アラドゥにも驚いていた。

 今まで見てきた中のどの生物にも当てはまらない見た目だったからだ。

 八色衆も歓迎ムードこそなかったが、ハチが歓迎しているのを受けて、事務的に挨拶をしていた。

 ただ1人ライドウを除いてだが。

 イリディアとカディールとも顔合わせしたのだが、カディールの悪い癖が出てしまい、ワサンに対して腕試しだと言って、試合を申し出たのに対し、ワサンは快くそれを受けてしまったため、歓迎ムードから一変してお祭りのようになってきた。


 勝敗は結局決せずとなった。

 使っている木剣が直ぐに壊れてしまい木剣のストックがなくなってしまったからだ。

 最後は素手での戦いとなったが、実力は互角だった。

 お互い本気は出していなかったが、互いを強き者と認め合ったようで、最後は握手で試合を終えた。


 「いい戦いだったね、ふたりとも」


 ハチが労うようにふたりの側に寄って言った。


 「こやつ中々やるぞ。ワサン、俺はお前を気に入った」

 「それは光栄だ。あんたはこの世界の大剣豪なんだろ?」

 「称号など何の価値もない。俺のいる世界は勝者が正義、敗者が悪、それしかない。まぁ今回は引き分けだから何れ白黒つけねばならんがな」

 「嫌いじゃないぜ、そういう世界は。正々堂々と小細工なしで戦っている限りはな」

 「ほう、分かっているじゃないか。世の中の善悪は下劣な策略と小細工、騙し合いの上に成り立っているからな。それとは全く違う世界だ。純粋な武と武、力と力のぶつかり合いだ。圧倒的な力の前にはくだらん権力など無意味だからな」

 「益々気に入ったぜ」


 ワサンとカディールは完全に意気投合したようだ。


 「それはそうと、ハチ、なんであんたは獅子の姿をしているんだ?元々は獅子の神か妖怪だったのか?」


 ワサンの質問にスノウが答える。


 「ハチは元々冥府の番のケルベロスだったんだ。詳細は分からないが、ヘラクレスに思い切り殴られて瀕死になりつつこの世界に飛ばされたらしい。その時にアラドゥに救われたってわけだ」

 「え?!」


 ワサンは目を丸くしてハチを見た後スノウの顔を見た。


 (ヘラクレス‥‥のこと知っているのか?オレたちの仲間だってこと‥‥)


 ワサンは目でスノウに話しかけたのだが、スノウは “しまった” という表情を一瞬見せつつも平静を装い目で答えた。


 (いや‥‥)

 (マジか‥‥)


 「どうしたんだい?何か企みでも?」

 『!!』


 ビクゥ!!


 「企みってなんだよ。今の会話からそうなる根拠が分からん」

 「そうだな。企みなどないし、するはずもない」


 怪しさが上塗りされたような不器用な会話だったが、ハチはそれを笑って流した。


 「それでハチ、一つ訊ねたいことがあるんだが」

 「何でもどうぞ。僕にわかることなら答えるよ。いつもの通りね」

 「ありがとう」


 スノウは禁樹海での状況をワサンとシンザに説明してもらった。


 「すごい経験だったね。なるほど禁樹海の中心にある大穴があると言われている場所はその崩壊核(コラプシオン)ってのがいるのか。残念だけど僕は何も知らないし、未来でも関わることがなさそうだ。従って今回は何もアドバイスはできないな‥‥」

 「いいんだ。それじゃおれ達はボチボチ出発する。以前話した通り、別行動の方がいいからな」

 「そうだね。スノウ、ちょっといいかい?」

 「ああ」


 ハチは自身の執務室にスノウだけを呼んだ。


 「先ほど崩壊核(コラプシオン)の話が出たけど、あれは本当に何も観えていなかったからああ言ったんだけど‥」

 「ああ。何も疑っていないけど?」

 「ううん、それだけじゃないんだ」

 「?」


 スノウは要領を得ず怪訝な表情を見せた。


 「しばらく、ある一定の時間が経過した先が観えない状態が続いていたから僕が近いうちに死ぬのだろうと思っていたんだ」

 「‥‥‥‥」

 「でもね、それは半分アタリで半分ハズレだった。ちょっと手を僕の額に当ててみてくれるかい?」

 「ああ」


 スノウの脳裏に映像が映り出した。

 ハチは何か特別な未来が観えたらしく、それをスノウに脳裏に投写される映像として伝えたのだ。


 「!!」

 「驚くのも無理はないね。僕も最初は信じられなかったから」

 「黒幕は誰なんだ?!今からそいつをぶっ飛ばしに行ってくる」

 「ははは‥‥ぶっ飛ばすね‥‥君ならできるかもしれないね。でも分からないんだ。僕の関わる領域の中でしか未来は映し出されないからね。でも、この状況が避けられないのであれば、君は仲間のフランシアを探しに行くのがいいと思う。この世界を救うとか、どうこうしようなんて考える必要はない。もちろん僕らを守ろうとする必要もない」

 「ハチ‥‥」

 「避けられないのならば‥‥だけどね。物事には重要な分岐があって、無数にある未来の選択肢にはこの時点でこの事象が起こったら、無数にある未来の中で、分岐する未来の束が限定されるしくみなんだ。だからその分岐点の事象が何でいつ起こるのか。これを掴むのが重要なんだよ。でもね、先ほど見せた未来はおそらく直ぐそこまでやってきている。遠くない未来に起こる事象なんだ。これは直感だけど、相当確定度の高い直感だよ」

 「つまり、お前は‥‥お前だけじゃないアラドゥや八色衆たちまでも変えることのできない未来で死ぬとでも言いたいのか?」

 「そうだよ」


 ドォォン!!


 スノウは机を叩いた。


 「そんなもん、おれが捻じ曲げてやるよ」


 スノウは静かに感情を荒げていた。


 「うんざりなんだ。誰かが決めたシナリオで知らぬ間に大切な誰かが苦しむのがな」

 「スノウ‥‥」

 

 スノウは表情を変えずに話してはいるが明らかに怒りの感情が溢れている状態だった。


 「おれやハチ、他の者達が自分たちが滅びる選択をいつしたっていうんだ。意識できない間に何かの地雷を踏んだっていうのか?だとすれば、それは ”時” がおれ達に強いている脅迫だよ。そんなものに素直にはいそうですかって従えるわけないじゃないか」


 ハチは目を丸くして驚いたような表情を見せた。

 そして我慢できないといわんばかりに吹き出した。


 「プッ!プハハ!ハッハッハ!」

 「なんだよ、バカにしてんのか?」

 「いや違うよスノウ。ハハハ‥‥ ”時” が僕らを脅迫しているって表現さ。まさにその通りだなって思ったら思わず笑けてきてしまったんだよ。僕は未来を観ることができるけど、結局それは時が僕に気まぐれにちょっとだけ部分的に未来を見せていることで、それを観た僕がどう慌てて狼狽えて、足掻くのかをみて笑っているんじゃないかって想像したらさ、何だかどうでもよくなってきてさ」

 「ふん‥‥確かにそうかもな。未来を観ることができない普通の生き物は未来に対して答え合わせなんてできないんだ。慌てたり悔しがったり喜んだりはするけど、それは答え合わせした結果の感情じゃない。“時” にしてみれば面白くないんだろうな。だから面白く踊ってくれそうなやつに “時” は予知の力を与えた。成功している絵を見せられればそうなるように奮闘し、失敗したら悔しがる。失敗している絵を見せられれば成功するように足掻く。必死にな。足掻いて足掻いて必死になっているのに成功の道から遠ざかっているなんて場面を見た日にはこれ以上ないほど腹抱えて笑っているんじゃないか?」

 「ははは‥‥スノウ、君にかかると普遍的事象の “時の流れ” も意地悪なやつになってしまうんだね」

 

 スノウはハチの姿を見て少し安心した。


 「僕も足掻いてみるよ。でもクールに足掻く。どうせどこか意地悪な “時” がいるなら、彼が拍子抜けするように立ち振る舞ってみせるよ」

 「そのいきだ。おれは仲間のシアを救う方法を探す。そして救ってくる。お前はあの凄惨な未来の中でも生きられるように足掻け。もちろんおれが救ってやる」

 「うん」


 スノウとハチは拳を当てて約束した。


・・・・・


 ――翌日――


 「本当にいいのか?」

 「当たり前じゃ。ディアボロスを倒すのに協力すると言ったはずじゃ。だが少しでも失敗する雰囲気が感じられたら妾はお前を見捨てる。それがお前と交わした約束であったであろう?」

 「そうだな」


 スノウはイリディアに笑顔を見せた。


 「よし、それじゃ出発だ」

 

 スノウ、ソニア、ワサン、シンザ、そしてイリディア、カディールの5人は痛みの街ポロエテを出発した。






いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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