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<ケセド編> 109.ヴァティ騎士団の行末

109.ヴァティ騎士団の行末


 「ワサンさん!」


 そう叫んだシンザの目線の先にいたのはワサンだった。

 

 「お前、その声‥‥シンザか?!」


 トンッ‥‥シュルシュルシュル‥‥スタ‥


 ワサンは木の上から跳躍すると回転しながら静かにシンザの近くに着地した。


 「お前のその格好‥‥グイードんとこの嫌味なやつ‥‥確かガーフ、そう、ガーフの鎧じゃないか?」

 「ははは‥‥嫌味なやつ‥確かに評判は良くなかったようですけど‥‥」


 シンザは事情を説明した。


・・・・・


 「へぇ‥流石はシンザだな。いや、ソニアとの連携プレーって感じか」

 「そう言われればそうかもしれませんね。ソニアさんがガーフを捕らえて、バカな司教が殺してしまったことで僕がガーフになり代われたわけですからね。それはそうとワサンさん、なんでこんなところに?そういえばシアさんは?」


 ワサンは苦い表情を見せながらなぜここに1人でいるかの経緯を話し始めた。


 「オレとシアはヴァティ騎士団の一員として、この禁樹海に入った。お前も知っての通り、グイードの率いる軍がアディシェスに侵攻するのに禁樹海を抜けるっていう作戦のために、事前の調査とアディシェス領に抜ける通路の確保というミッションだ」

 「はい。グイードからその作戦は聞いていました」

 「だが、そのミッションは建前だ。どうやらグイードはヴァティ騎士団の裏切りに気づいていたようなんだ」

 「裏切り?!」


 シンザは理解できない様子だったが、ワサンはそれを当然の反応だと理解して説明を続けた。


 「総長のジェイコブと副総長のトーマはシャーヴァルがいずれヴァティ騎士団を糾弾し壊滅させるだろうと予測していた。これはやつらの会話を盗み聞きして知ったんだが、ジェイコブの前の総長だったティボー・コーズマンってのが、シャーヴァルに嫌われたことからヴァティ騎士団の立場が危うくなったってことらしい」

 「嫌われただけで?何で嫌われたんですか?」

 「すまん、オレの説明が悪かったな。アガスティアの先代の王イーギル・グル・ドメルガー王、つまりシャーヴァルの前の王だが、ティボー・コーズマン前総長は忠実な犬だったらしい。そいつだけじゃなくそれまでの歴代の総長は皆王に忠義を尽くしていたようだ。だが、ドメルガー王が突然逝去し、シャーヴァルが王位を継いだんだが、シャーヴァルがドメルガー王を暗殺したという噂が一部で流れたらしいんだ。その真相を突き止めようと率先して動いていたのが前総長のティボーだ。彼はどうやら真相を突き止めたらしいんだが、それを公表する直前に殺された。ジェイコブたちの推測じゃぁティボーを殺ったのは金の騎士ローガンダーらしい。それでジェイコブたちはヴァティ騎士団を独立した組織にするために活動し始めたんだ」

 「自分を疑ったヴァティ騎士団の総長を殺し、その真相を聞いているかもしれないジェイコブ率いる現ヴァティ騎士団も信用に値しないってことですね」

 「そうだ。表向きはシャーヴァル王に忠義を尽くしつつ、裏ではヴァティ騎士団を独立組織にするために暗躍していた。だが、そんなことはシャーヴァルも見抜いていたんだろう。そしてシャーヴァルはアガスティア大崩落の際、ジェイコブたちに踏み絵を踏ませた。裏切りを持ちかけた教皇を殺させ、ベルガーを裏切らせた。だが、それでもシャーヴァルはヴァティ騎士団を信用しなかったってことだ」

 「どういうことですか?」

 「今回のこのミッション。これは実質ヴァティ騎士団を壊滅させるためのものだったんだ」

 「一体何があったんですか?!」


 ワサンはこの禁樹海に入って以降の状況を説明し始めた。


・・・・・


 「一体何なんだ?!この樹海は!」

 

 ヴァティ騎士団は苦戦を強いられていた。

 恐ろしく強力な魔物が次々に現れて来たからだ。

 アガスティアにいた魔物は比にならないほどの強さだった。

 斧のように変形したかぎ爪を持つ巨大な鋏虫のソーサーギー、巨大な角を持つ凶暴な虫のデスビートル、強力な毒を持つ蜘蛛のレッドジャグスパイダーなど虫系の恐ろしい魔物が次々に襲いかかって来たのだ。

 総勢約300名のヴァティ騎士団の中で従士と修道士が真っ先に殺されていった。

 次に餌食になったのは魔法使いだったが、騎士も必死に食い下がり何とか魔物たちを退けた。

 ジェイコブ、トーマ、4騎士長と剣豪ベルトランド・ブランシュフォール、そしてフランシアとワサン、フィリップの活躍が大きかった。


 「まだ魔物はいるか?!」

 「いや、全滅させた。ソナー魔法にも反応はない」

 「点呼だ!」


 ジェイコブとトーマは騎士長たちに生き残った者たちの人数を確認した。

 300名いたヴァティ騎士団は3分の1にまで減っていた。


 「総長!こんなミッション、これ以上続ける意味はありますか?!」


 騎士長のホノがジェイコブに訴えた。


 「そうだ!これはミッションという名の殺戮行為だぞ!今すぐこのイカれた森から出るべきだ」


 騎士長アールマンも声を荒げて訴えた。

 他の騎士長たちも頷いている。

 だが、ジェイコブとトーマは首を縦に振らなかった。


 「だめだ」

 「何故ですか!」

 「戻っても我らに生きる道はないからだ」

 「どういうことですか!」

 「きちんと説明すべきだ総長!」


 ジェイコブは騎士長たちの顔を見ながら言った。


 「この世界には最早我らの居場所はない。人智を超えた存在の悪魔を率いている大魔王ディアボロス、そして死人を操るグイードを率い古代の怪しい妖術を操るシャーヴァル総統。この2大勢力はあまりにも強大だ。我らには教皇から奪い隠した軍資金があるが、そんなものは何の役にも立たない。ヴァティ騎士団を独立組織として確立し、我らの平穏を得る目的はこの地では果たせないことが分かったのだ。だが、唯一この世界から抜け出る方法を我らは見つけた」

 「何なのですか?!この世界から抜け出る方法とは?!」


 ジェイコブに代わってトーマが説明し始めた。


 「この禁樹海の中央にある巨大な穴は別の世界に繋がっているという噂があるんだ。俺たちはそれに賭ける」

 「馬鹿馬鹿しい!どこからの情報だ?!」

 「聞いたことがあります!街の噂ですよね?それ!クルエテの住民たちの中で実しやかに噂されている話ですよね?!そんな何の確証もない話に僕らは乗せられて仲間を失っているということなのですか?!」

 「いくら総長のご判断であってもそれは許容し難い話です!」

 「その通りだ!既に3分の2の人員を失っているだぞ!」


 騎士長たちは声を荒げてジェイコブとトーマを責めた。


 「お前たちの言い分もよく分かる。だが、他に選択肢はあるのか?!このまま逃げたとしてもグイードに追われるだけなのだぞ?!しかもやつは死人を操る術を手に入れたのだ。これが何を意味するか分かるか?!我らに死人が出てみろ、嘗て仲間だった者たちは死を冒涜され、我らに襲いかかってくるのだ!」


 ジェイコブの言葉を聞いて皆黙ってしまった。


 「これだけは信じてくれ。この困難を乗り越えた先には必ず良いことがあるはずなんだ!」

 「信じられませんよ!ここにある現実はこの場にいれば全滅するということだけです!」


 その光景をワサンとシアは少し離れた場所で見ていた。


 「仲間割れか」

 「所詮は弱者の集まり。それに加えてリーダーは小細工ばかりで強力なリーダーシップもない。リーダーシップが発揮されない組織は進むべきベクトルもバラバラになり信頼感も失われるわ。この騎士団は終わりね」


 ワサンの反応にフランシアが答えた。


 「となればオレたちもここには用はなくなったと見ていいだろうな。さっさと離脱してスノウと合流するか」

 「ええ。おそらくこの禁樹海を生き残れる者はいないわ。騎士道とか言いながら基本的に常に補助を必要とした戦い方だもの。その補助というのもレベルは低いわ。身体強化系の魔法しか使えない魔法使いと、効果の低い回復魔法しか使えない修道士、荷物運びや雑用しか出来ない従士。こんなのに頼って戦っている時点で弱い。さらにその戦い方は補助を守りながら戦うのと同義。遅かれ早かれ消滅する組織ってことね」

 「その通りだな。陽の光の位置からすればここを右方向に進んでいけば樹海から出られるはずだ。ここはコンパスも効かない。闇雲に進んでも時間を浪費するだけだ。どこに出るにせよまずはこの樹海から出ることが先決と見た方がいいだろうな」

 「賛成よ。さぁ行きましょう」


 フランシアとワサンは自分たちの荷物を担いでヴァティ騎士団を去ろうと歩き出した。


 「おい!どこへ行くのだ弟よ!それにフランシアまで」

 「悪いなフィリップ。オレたちはこの樹海を出る」

 「馬鹿な!そのような勝手が許されるはずもなかろう!」

 「お前、あれを見て何とも思わないのか?」

 「我らは今は騎士団存亡の危機に立たされているのだ。難しい決断を迫られている。この決断を誤れば待っているのは死だ。だが、騎士たるもの、死を恐れ立ち止まることが許されるはずもない。結論は見えている。我は総長のご意向に従う。お前たちもそうするのだ」

 「おめでたいやつだな。嫌いじゃないが、長生きしないぞ。達者でな」

 「待て弟よ!」


 タッタッタ!


 「報告!」


 周囲探索に出向いていた1人の騎士が戻って来た。

 揉めていた総長や騎士長たちも口論を止め、その報告に耳を傾けた。


 「ここから100メートルほど先に大きく開けた場所を発見!まずはそちらへ避難されたし!」

 『!!』


 ジェイコブとトーマは顔を見合わせた。


 「それはどれくらいの広さだ?!」


 慌てたようにジェイコブが質問した。


 「わ、分かりませんが、相当な広さです。最初は樹海から抜け出たのだと勘違いするほどでした。遥か先に木々が見えましたが、霞んで見えるほど遠くに見えます。そしてしばらく周囲を見回しましたが魔物らしき存在も確認できませんでした」

 「本当ですか!」


 騎士長のジルベールが叫びながら言った。


 「総長、まずはそこへ出向くべきです!ここにいては全滅するのみ!」


 ジェイコブはトーマの顔を見た。

 トーマは軽く頷いている。


 「よし分かった。その広い空間へ案内せよ。全員移動する!動ける者は動けない者を補佐すること!」


 全員が辿々しい足取りで広い空間の方へと向かった。


 「弟よ、そしてシア。我らも行くぞ。戦線離脱するにしても、この先の状況を確認してからでも遅くあるまい。まぁ離脱はさせぬがな」


 ワサンはフランシアの顔を見た。

 フランシアは目で合図した。


 「いいだろう。だが、危険が訪れてもオレたちは戦闘に加わらない。そのまま騎士団を去る。この意志は変わらない。これ以上お前の意見も聞かない」

 「くっ‥‥弟の分際で兄に何たる言種だ。ま、まぁよい。どうせ戦線離脱することなどないだろうからな、はっはっは!」


 話の通じないフィリップを見てワサンは苦い顔をした。

 ワサンたち3名は他の者たちと同様に広い空間のある方へと向かった。

 傷を負って思うように歩けない者たちも仲間の助けで何とか全員広い空間の方へと進んでいった。

 それをジェイコブとトーマは見届けた。


 「これで全員だな」

 「ああ。命を落とした仲間たちを弔えないのが心残りだ」

 「ネームプレートは外して持って来ている。今はそれで十分だろう」

 「‥‥本当にこれで良かったのだろうか‥‥」

 「ジェイク。お前が迷ってどうする?俺たちが生き残るためにはこれしかない。生きてさえいればいくらでも再興出来る。まずは進み切ることだ。悔やむならその後でいい」

 「フッ‥‥お前にはいつも助けられる。礼をいうよトーマ」

 「気持ち悪いぞジェイク。お前らしくもない。常に周囲に気を配り、冷静な判断が出来る悩めるリーダーなんだ。相談こそしてくれて構わんが礼など止めてくれ。蕁麻疹がでる」

 「ははは‥‥、そうだな」


 ジェイコブとトーマは騎士たちの後を追って進んだ。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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