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<ケセド編> 108.意外な来訪者

108.意外な来訪者


 サンバダン。

 下半身はないが、筋肉質の背中に美しい4枚の翼を生やし、荘厳なオーラを放っている天使だ。

 だが彼は、元々は人間だった。

 日本人で本名は瀬良 (ミナミ)と言うが、子供の頃に受けた父親からの虐待の影響で解離性同一性障害を発症し、(ダン)という人格が生み出された。

 知能が高く、何をするにしても落ち着いて行動が出来る人格で、主人格の(ミナミ)が生きやすい世界を作ることを目的行動しており、目的達成のためであればどのような残忍な行為も正当化されると信じている。

 その(ダン)という性格がミネルデヴァイスという特殊な精神体だけを異世界へ越界させる装置を使ってネツァクを守護していた白の天使マティエルの体を乗っ取ったのがサンバダンだ。

 ネツァクでスノウとの激闘の末、消滅寸前まで追いやられたが、同じく精神体を越界させた頭応瑠美が乗っ取っていた緑の天使ペネムに憑依し生き延びた。

 そして自身の放った時空を歪める技の影響でスノウと共にケセドへと飛ばされた。

 長く姿を見せていなかったが至る所でディアボロスに目をつけられるほどのことを行なっていたらしく、アリオクという魔王が刺客として送り込まれていた。

 その追われている身であるサンバダンが突如、シンザの前に現れたのだ。

 その戦闘力の高さは健在で、不意を突かれたとはいえシンザですら苦戦していたキラーマンティスを一撃で仕留めてしまった。

 彼から発せられるオーラは凄まじい威圧感とまるで首元にナイフを突きつけられているような恐怖感を覚えるものだった。

 サンバダンはシンザに背をむけつつ振り向いた状態で冷たい視線を向けている。


 「シャーヴァルの手下の銀の騎士か。鋭い眼光向けてくれるのは構わないけど、死にたくなければじっとしていることだね。そこから少しでも動いたら殺すから」


 そう言うと、浮遊しながら潰れたキラーマンティスの身体の一部を持ち上げた。


 バギィィ!!


 サンバダンはキラーマンティスの鎌を引きちぎった。


 ギュワァン‥‥


 真横に小さな魔法陣を出現させ、その中にキラーマンティスの腕の鎌を格納した。


 バギュィ!!


 もう一方の鎌も引きちぎって魔法陣の中に入れた。


 「そうだ。一応断っておくとしようか。銀の騎士、ホムンクルスを数体貰っていくよ」

 「!」


 シンザは思わず言葉を詰まらせた。

 声を出した瞬間に自分がガーフではないことを見破られてしまうのではと言う直感が働いたためだ。

 そして何か反論しようものなら一瞬で殺されそうな威圧感があった。


 「随分と大人しいじゃない。前に見た時は結構暑苦しい感じだった気がしたけど。まぁいいや雑魚は雑魚だからね」


 ガシ!ガシ!


 サンバダンはそれぞれの手でホムンクルスの頭部を掴んだ。

 ホムンクルスはバタバタと暴れ出したが、サンバダンが何かの魔法を放つと大人しくなった。

 そしてそのまま先ほどの魔法陣の中へと放り込んでいく。


 バッバッバッ‥


 5体ほどホムンクルスを魔法陣へ放り込むと満足したのか、魔法陣を消してシンザの目の前にやってきた。


 カララ‥


 サンバダンは服の内側から懐中時計らしきものを取り出した。


 「あまり時間がなくなってきたね。そろそろ行くか。君たち、この森抜けてディアボロスのいるアディシェスに奇襲でもかけようでも考えているのかもしれないけど、この森、舐めてかかると全滅するよ。まぁ僕の知ったことではないからどうでもいいんだけど。忠告だね。ホムンクルスをくれた礼とでも思っておいてくれていい。あまり期待はしてないけど、ディアボロスの戦力削ってくれると嬉しいんだが‥‥まぁ無理か」


 キュィィィィィィン‥‥


 突如全身を串刺されたような感覚に襲われた。


 「ちっ‥随分しつこいね」


 バッサッ!


 サンバダンは翼を広げた。


 ダシュン!


 凄まじい速さで空へ飛び立った。


 キュィィィィィィン‥‥


 刺すような感覚は消えた。

 シンザは数秒動けずにいたが、すぐに我に返ったように周囲を見回した。


 (サンバダン‥‥以前見た時よりも更に強く残忍になっている気がする‥‥。ここにスノウさんがいたら間違いなく戦闘になっていただろう‥‥。将来のために今ここで僕があいつを倒せれば良かったんだろうけど、流石に1人では傷ひとつ与えることができなかったよな‥‥)


 シンザは自分の戦闘力の低さを悔やんだ。

 実際にはかなり強いのだが、レヴルストラの対峙する者たちは人智を超えた力を持っている者が多く、シンザは自身を過小評価せざるを得なかった。


 (さて、任務に集中だ。ホムンクルスは2割ほどやられてしまったみたいだな‥‥)


 「整列!」


 シンザの指示でホムンクルスが整列した。

 合計で78体となっていた。

 本体と繋がっているロープが巻き付いているボビンを馬にセットし直して、再び進み始めた。


 (とにかくこの森、何があるか分からない。慎重に進まなければ)


・・・・・


 サンバダンが去ってから3時間ほどが経過した。

 ゆっくりではあるが着実に前に進んでいる。

 木々で陽の光は遮られているが、僅かに確認ができているため自分たちがどの方向へ進んでいるか辛うじて確認できていた。


 クイクイ‥‥


 タッタッタ!‥‥バッ!


 ロープが巻き付けられているボビンを背負った馬に乗っていたホムンクルスが馬をとめ、シンザのところへ来て、何かを訴えるような仕草をした。


 「分かった」


 シンザは馬を反転させ、後方を進んでいたボビンの馬に近づいた。


 クイクイクイ‥


 「合図だ」


 シンザはロープをホムンクルスに引かせた。


 クイィ‥‥クイィ‥‥


 大きく2回引く。

 これが本軍が禁樹海へ入って良いという返答だった。


 「さぁ、我らは我らでこの森を抜けてアディシェス領に入るルートを示さなければならない。先を急ごう」


 シンザたちは先を急いだ。

 途中、巨大なムカデや人ほどある大きさのスズメバチなどに遭遇し苦戦を強いられた。

 なんとか倒したが、既にホムンクルスは50体以下となっていた。


 それからさらに4時間が経過した。

 禁樹海は虫系の魔物が支配しているのではと思うほど、虫系の魔物が襲ってきた。

何度も戦っている内に戦闘にも慣れてきたのか、ホムンクルスの動きが格段に向上されていた。


 (戦闘型魔導人造人間‥‥最初の動きはぎこちなかったけど、今は見違えるような連携攻撃とスピードで、魔物と戦って死ぬ者は殆どいなくなった。ホムンクルスは成長するってことか。これをレヴルストラの戦力に出来たらいいよな‥‥‥‥いや、スノウさんは “いらない” って言いそうだな。別に軍隊が欲しいわけじゃなく信頼できる仲間がいればいいって思っているはずだから。そもそもスノウさんの目的はホドやティフェレトみたいなこれまでスノウさんが辿って来た世界で出会った仲間の安否を確認して、必要あれば助ける、ってことだと思うし。でももし‥‥)


 シンザはそこで想像を止めた。

 スノウが仲間の安否を確認し、無事であることが確保できた後はレヴルストラが解散となるのではないかという想像が脳裏を過ぎったからだ。

 そうなればシンザはゲブラーに越界し、元々自分のいた場所に帰ることになるだろう。

 ゾルグ王国に戻ることも出来れば、スパイ活動の拠点であったハーポネス国の天帝の下で働くことも出来るだろう。

 だが、心から信頼し合える仲間に出会ってしまったシンザにとって、レヴルストラ以外に自分の満足できる居場所はないと改めて気づいたのだ。


 (とにかくまずは自分の役割を果たすことだな‥‥う‥うぅ‥な、なんだ?!視界がぼやけて来た‥‥)


 シンザは周囲を見回した。

 ホムンクルスは平然と歩いている。

 馬にしがみ付いていないと落馬しそうなほどふらつき始めた。


 「うぁぁ‥‥」


 (身体に力が入らない‥‥意識はしっかりしているのに、身体の至るところが思うように動かせなくなって来ている‥‥また胞子の毒か?!)


 シンザは馬にしがみつく力も無くなって来たため、必死に馬のたてがみを掴んで堪えている。


 ズル‥


 体勢を崩したがなんとか堪えた。


 (!!‥‥なんだあれは)


 体勢を崩したことで偶々視界が空に向いたのだが、そこで目に入って来たものを見てシンザは驚いた。

 空を巨大な蛾のような虫系魔物が飛んでいるのだ。

 シンザの視界にはその蛾がキラキラと輝いているように見えた。


 (これは鱗粉だ‥何か神経毒みたいなのがあるんだ。人体構造の違うホムンクルスには効かないといういうことか‥)


 「ジ‥‥ノ‥‥デ‥トフィ‥キ‥シケーショ‥ン‥」


 シンザの身体に回った神経毒が解毒され、一気に身体を動かせるようになった。


 「はっ!」


 シンザは手のひらを空に向けてファイヤーボールを放った。


 バシュゥゥ‥ボワッ!シュボワァァ‥‥


 「キシャァァァァァァ!!」


 ファイヤーボールは蛾に命中し、羽を中心に一気に火が燃え広がり少し離れた場所に落下していった。


 ズゥゥン‥


 「ふぅ‥‥」

 (ホムンクルスに影響がなくて良かった。これだけの人数に解毒魔法をかけるとそれなりに魔力消費もあるからな。こんな不気味で何が起こるか分からない森だから、魔力は温存しておきたいし)


 シンザたちは再び進み始めた。


 更に2時間ほど進むと突然目の前の視界が開けた。


 (抜けた?!‥‥いや違う‥‥)


 木々に遮られながら進んでいたのだが、突然視界が開けたため、森を抜けたと思ったのだが、単なる木々の生えていない広い空間に出くわしただけだった。


 「何だここは‥‥」


 かなり広い空間で、これまで鬱蒼と茂っていた木々が嘘のように思えた。

 シンザは周囲を見回した。


 「ここはどこなんだ?‥‥聞いていた話にはなかったぞ‥‥ざっと見たところ、直径1km以上はある空間だぞ」


 だだっ広い空間であるにも関わらず、生き物ひとついない。


 「鳥も飛んでいない。何だろう‥‥この冷たい感じは‥‥とにかく進むか。太陽が沈んでしまう前にこの樹海を抜け出さないと」


 シンザたちはゆっくりと広い空間を進み始めた。


 シュゥゥ‥‥


 「!!」


 ダシュン!‥‥ズタン!!


 突如シンザの足元に短剣が飛んできて地面に突き刺さった。


 「こ、この短剣は!」


 「それ以上進むな」


 シンザは剣が投げられた方へ向いた。

 木の上部にある枝に立っている人物が見えた。


 「ワサンさん!」


 そこにいたのはワサンだった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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