<ケセド編> 105.総統勢力の計画
105.総統勢力の計画
夜の22時5分前。
スノウとソニックは街の中心にある時計台に来ていた。
時計台の建物の影に隠れて周囲の様子を窺っている。
この時間になると街の内部というより高電圧フェンスの周辺の警備が主な見張りエリアになるらしく、時計台周辺には殆ど人がいなかった。
アガスティア大崩落前はカップルのデートスポットになっていたのと、スメラギの遺言クエストで盛り上がっていることもあり、それなりに人がいたのだが総統勢力に占拠されてしまった今は殆どいない。
騎士や警備の者たちに見つかると面倒だということもあり、皆夜出歩くのは控えていたのだ。
コンコロロン‥‥
石ころがスノウの近くの壁に当たって転がった。
スノウはライフソナー魔法を展開した。
「どうやら来たようだ」
ガシッ
スノウはソニックを抱き抱えると風魔法を発動し一気に上昇した。
スタ‥‥
スノウは時計台の屋上に静かに着地した。
精神の部屋で見ていたソニアはスノウに抱き抱えられているソニックに代われと叫んでいたがあっという間に屋上に着してしまい交代が間に合わなかった。
「ごめん」
「ん?どうした?」
「あ、いえ、何でもないです」
「?」
スノウはソニックの様子がおかしいと思ったがよく分からず流し、周囲を見回した。
ソニアは “絶対に許さない” と精神の部屋で怒りそこら中の壁を蹴りまわっており、ソニックは収拾がつかない状態で困っていたのだがスノウがそのような状況に気づくはずもなく一人静かにあたふたしていたのだ。
「お待ちしていました」
バッ!
背後から声がして振り向くとそこにはフードを深く被った小柄な人物がいた。
ファサ‥‥
フードをゆっくり外すとそこにあったのは懐かしい顔だった。
「シンザ!」
「シーッ、一応小声で話しましょう」
「おお、悪い」
シンザが嬉しそうな顔でスノウとソニックを見ていた。
「スノウさんお久しぶりです。ソニックも‥それとソニアさんもね。やはり理解してくれましたね、僕の合図」
「勿論だ今日の式典の最後の退場時にとった両人差し指を高らかに掲げるポーズ、あれは歓声に応えるものじゃない。時間だ。それも二つの意味を含んでいたな。ひとつは時間そのもの。1と1、つまり11。午前11時は流石に目立つ。となれば夜の11時だ。そしてもうひとつは場所だな。時間を場所にも掛けていて時間といえば時計、つまり時計台だ。今日の夜11時に時計台で‥‥となる。これはおれ達にしか分からない暗号だな」
「その通りです。長居はできないので手短に伝えますね」
シンザは今彼が持っている情報を説明し始めた。
・・・・・
「ということなのです」
「ヴァティ騎士団含めて1300だった兵は今や1万を超えるというのか。1300からホムンクルスが500。そして謎の不気味な兵が突如急に増え、残りの約8500が軍に加わったということか。全く信じられない状況だな」
「普通の反応はそうですね。でも実際にはもっと恐ろしく悍ましいものです。その兵達は死人なんです」
『!!』
聞きなれないワードが出て来てスノウ達は面食らった。
「死人‥アンデッドってことか?」
「ほぼそれに近い状態です。死んで腐食した程度によって違いがありますが、いわゆる死んで間もない者は生者と然程違いはありません。ですが皮膚が腐食した者達はグールのようになっています。さらに白骨化している状態の者たちはスケルトンらに変わっています」
「ベルガーのペンダントの効果でしょうか?」
「有り得なくはないが、あのペンダントはあくまで洗脳効果を発揮するものであって、死者を甦らせる効力はないと思うんだがな」
「スノウさんの言われる通りだと思います。しかもグイードやシャーヴァルはあのペンダントを持っていないようです。僕が見ていないだけの可能性はありますが」
「そうか」
「兎に角、この間スノウさんたちと戦って帰還したグイードは別人のようになったんです。いえ、別人というより何か異様な雰囲気を漂わせるようになったというか‥‥。8500の部隊はデフレテの街から北に5kmほど行った場所に大規模な野営キャンプを張っているようでそこにいるみたいです。グイードも今日は式典後そちらに向かいました」
「何にしてもグイードは何か強力な力を手に入れたって事だな。もしその力が死者を甦らせ使役するものなら戦場に死者が出れば出るほど総統勢力は有利になるということだ」
「アディシェスの悪魔が殺された後に使役されると更に厄介だな」
「それを狙っているのかもしれませんね。だから今攻めるのが勝機だと思っている。シャーヴァルとグイードの見立てではアディシェス軍の兵力も1万強。少しでも悪魔を殺せればすぐに自分達の兵力に加えられる」
「確かに強力だが、ディアボロスも馬鹿じゃない。グイードの力だと分かれば真っ先にグイードを殺しに来るだろうな」
「はい。それを守るのが金の騎士ローガンダーと僕です」
「そういうことか。そして真っ先にシンザを盾にして使い捨てるつもりだな。ところでこんな短期間でどうやって取り入ったんだ?銀の騎士なんて相当信頼されていなければ難しいと思うんだがな」
「そこが僕のすごいところですよ!‥なぁんて言うのは冗談です。偶々、選抜試合があったんです。本物のガーフは死んでいますが、グイードたちはそれを隠そうとした。士気低下に繋がりますからね。でもガーフ程の実力者などいません。そのため、街の冒険者や腕に覚えのある者にまで範囲を広げて第2のガーフ選抜テストを行ったと言うわけです。勿論ガーフが死んだことは伏せられていました。現在は隠密ミッション中で、急きょ代役が必要になったって言う荒っぽい理由でしたけどね」
「なるほど」
「ある程度手を抜いても勝てました。スノウさんやソニックと行動を共にしていると自分の実力に気づかないばかりか、自分の弱さを痛感しますが、それはあくまでレヴルストラ内での話で、普通に考えたら僕もそれなりに強いらしくて。騎士の中でも上位の人が選抜テストに参加していましたがあっさり倒してしまって。それで僕がガーフになりきって行動する、ってなったというわけです」
「ヴァティ騎士団は何をしているんだ?そこにはシアやワサンがいるんだろ?」
「実はヴァティ騎士団は現在遠征中でして、禁樹海と呼ばれる場所を探索中なんです。そこにルートを築いてそこから軍を進めるというのがグイードの立てた作戦なんです」
「なるほど」
「そろそろ僕は戻ります。新参者の僕はまだ完全に信用されているわけではないので」
「シンザ。出兵時は参加していいが、禁樹海とかいう場所に入ったら戦線離脱してレヴルストラへ戻れ。アディシェスとの戦いに参加する必要はないからな」
「分かりました!それではギリギリまで情報収集して戻ります!」
スノウが合流場所を伝えるとシンザはその場から消えた。
スノウとソニックも周囲を警戒しつつ仮アジトへと戻った。
・・・・・
翌日。
スノウはシンザから入手した情報をイリディア、カディールに伝えた。
「ネクロマンサーじゃ」
「ネクロマンサー?」
「ああ。死人を甦らせ使役する特殊な力を持った存在。ダークサイドに堕ち、大きな犠牲を払って得る力じゃな」
「犠牲?」
「ああ。これは魔法の類とは違う。黒魔術などと誤解されておるが、ネクロマンシーはスキル、お前の持つ天技のようなものじゃ。代償を伴う分少し違うがな。魔力消費はない。代わりに凄まじい精神力を要する。念を送り死人の体と繋がる。意識体と肉体が精神の糸で繋がっているのと同じ原理じゃな。ネクロマンサーは数える程しか存在しないと聞いておる。妾の知る者の中で最も強力な力を持った者は1000程度の死人をアンデッド化し操ったが通常は100〜200程度が限界と聞いておる」
「だがグイードは8500だ。殺した悪魔を仲間に引き入れる作戦だからもっと増やせるのかも」
「ふむ。何にしても異常じゃな。相当な代償を払っておるのじゃろう。例えば一生回復魔法が効かないとか、治癒できない体の欠損とかじゃな。何かを得るなら何かを差し出す。これが闇堕ちした者の払う代償じゃ」
「代償か‥‥」
最後に会った時のグイードの姿を思い出しているスノウにイライラしたのかカディールが割って入った。
「ブラフかもしれないぞ」
「かもしれんのう。じゃがそれは確かめてみればよいこと」
「確かめるなら、今日がいい。明後日には出兵するからな」
「善は急げじゃな」
スノウ達はデフレテから数キロ北に向かった場所にあるアンデッド達が待機している野営拠点を目指し出発した。
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