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<ケセド編> 104.銀の騎士

104.銀の騎士


――10日前――


 「さぁそろそろ喋りなさい。私の要求を断る度に指がなくなりますよ」

 「何をしても無駄だ。僕は絶対にシャーヴァル様とグイード様を裏切らない。さぁ、もっと切り刻め。その度に貴様が受ける報いは深く、強く、大きくなっていくぞ」

 「ふんぐぐ!やってしまえ!」


 ビギャァン!


 「うぐぁ!!」


 ここは偽善の街クルエテの神託者教会の本教会となっている建物の地下にある牢獄だ。

 牢獄といっても、元々はクルエテの公共施設であった場所のため、地下室を改装して牢獄にしたのだった。

 その場所で総統勢力の最高戦力のひとり、銀の騎士ガーフが拷問されていた。

 ソニアたちの立てた作戦に見事に嵌ってしまったガーフはソニアとの戦闘に破れ捕えられてしまったのだ。

 神託者のベルガーは大いに喜びソニアを評価した。

 それを妬んだ司教の取りまとめ役を担っている総括司教が手柄を立てようと、ガーフの拷問を買って出て総統勢力について情報収集しようとしていたのだ。

 だが、総括司教は自らの手は汚さず、拷問は全て部下にやらせている。

 自身はただ、目の前のガーフが痛みと恐怖に歪む顔を見て、精神的苦痛を与える言葉を浴びせるだけだった。

 野心的で嫉妬心が強いサイコパス気質な総括司教によって心を病んだ者や自死に追いやられた者は少なくない。

 そんな総括司教にとって拷問にはうってつけに思えるが、実際には逆だった。

 他者を痛めつけることで快楽を得る自身の性癖を満足させることが優先し、情報を聞き出すことに苦戦していたのだ。

 それだけ銀の騎士ガーフの精神力は強靭であり、総括司教にも交渉力がなかったのだ。


 「さぁ切る指も無くなってきたじゃないですか。これじゃぁどう考えても剣を握ることはできませんから、転職でもして下さい。もし生きて帰ることができたら‥‥ですけどね!ククク!」

 「世の中には高度な回復魔法がある。指を切ったところで剣士人生が終わることはない。僕は何度でも蘇って必ず神託者教会を潰す。だ‥だが、貴様のことは斬らない。僕の剣の錆にする価値もないからな」

 「クフゥゥ!これ以上私を焦らさないでくれますか?そう威勢が良いと絶望に堕ちた時の表情との落差が激しくなって私、イってしまいそうになるのですよ」


 バギン!!


「フグゥ!!」


 総括司教の指示で部下がガーフの腕を切り落とした。

 ガーフの眉間やこめかみの血管が浮き出ている。

 凄まじい激痛を必死に耐えているのだ。

 普通ならとっくに気を失っているはずだが、ガーフは意識をはっきりと保ち続けた。

 騎士としての誇りと意地だけだった。

 その姿を見て、総括司教の部下もこれ以上の拷問を嫌がるほどだった。


 「さぁ言うのです!総統勢力の戦力とシャーヴァルの居場所を!」

 「そ‥そうだなぁ‥‥兵力は100億‥‥シャーヴァル総統は‥‥どこにでもいらっしゃる‥‥この僕の心の中にもなぁ‥」


 パシィン


 総括司教はガーフの頬を叩いた。


 「フフ‥やっと‥殴ったか‥‥エラそうにしているが‥自分じゃ手を下せない臆病者の‥変態だ‥。貴様のような‥男は‥放っておいても‥‥自滅する‥それが‥世の常だ‥」

 「う、うるさいいぃぃぃ!!」


 総括司教は拷問器具を掴み、ガーフに突き刺した。


 ガス‥


 だがガーフの体には突き刺さらない。


 「騎士を‥舐めるなァ!」


 グググ‥


 ガーフは縛り付けられている状態から強引に抜け出そうとする。

 目は血走り、切断された箇所からは血が噴き出ている。

 まるで鬼のような形相で総括司教を睨みつけた。


 「ヒィィィ!!や、やれぇ!!」


 総括司教は部下に指示してガーフの心臓に剣を突き刺させた。

 部下もガーフのあまりの気迫に気圧され思わず全力で心臓を突いてしまったのだ。


 グザァァ!!」


 「ガッバァァ!!」


 ガーフは大量の血を吐きつつ目を見開いて笑みを見せつつ叫んだ。


 「フハハ!せいぜい残り少ない余生を楽しめ!間も無くグイード様がやってくる!ベルガーも貴様も終わりだ!フハハァ!!」


 グザグザグザ!!


 「ガブァァ!!」


 部下はあまりの恐怖で何度もガーフを刺した。

 ガーフは怒りの笑みを見せたまま絶命した。

 どのような脅しや痛みにも屈することなく笑顔のまま。

 総括司教の部下達は皆、涙を流していた。


 パシン‥


 総括司教は動かなくなったガーフの頬を再び叩いた。


 パシン‥パシン‥パシン‥パシン‥


 不気味な笑みを浮かべながら何度も叩いていく。


 「結局何の情報も喋らないなんて、よくも私の顔に泥を塗ってくれましたね!なんでしょうこのイライラは!わかりました。こやつの首を切り落とし、総統勢力に送りつけてやりなさい!」

 「し、しかし、そのようなことをすれば相手の怒りを買うのではないでしょうか?」

 「それこそ好都合ではありませんか。攻めてきたらまた捕えればよいのです。そのために軍司教がいるのですからねぇ。そしてまた拷問するのです!」

 「し、しかし‥」

 「よいですか?この私のイライラを鎮めるのが最優先なのですよ!貴方は私の指示に従っていればよいのです。それとも代わりに貴方の首を総統勢力に届けるおつもりですか?!」

 「い、いやだ!もうこんな仕事嫌だ!神託者様のお慈悲に縋り、神の教えを学ぶことです!」

 

 剣を持っていた部下は逃げ出した。


 「待て!貴様!殺してやるわ!そこのあなた!あなたがやるのです!」

 「わ、私も嫌です!」

 「いいのですか?!あなたの家族を拷問し皆殺しにしますよ!」

 「わ、わかりました‥」

 (く、狂ってる‥‥)


 その後、ガーフの首は兜ごと総統勢力に送りつけられた。


・・・・・


 ソニアはその時の反吐が出る状況を思い出し嫌悪感が込み上げるのを感じたが、それを打ち消してしまうほどの衝撃が目の前にあり言葉を失っていた。


 「あそこに立っている人物は誰なの?!」


 いるはずのない銀の騎士ガーフが舞台の上に立っていた。

 斬られたはずの指や腕もある。


 (まさか殺されていなかった?!‥‥いや、そんなはずは‥‥確かに確認したわ‥)


 式典は続き、いよいよグイードの挨拶となった。


 ヴワァァァァン!!


 凄まじい禍々しいオーラが広場の人たちを襲った。

 皆畏怖の念で体を震わせている。


 「間違いない。以前会った時のグイードとは明らかに違う」

 「はい‥」


 ズン!!


 「我はグイード。シャーヴァル総統の剣であり、盾である」


 皆喉を詰まらせたように声を出せずに辺りは静まり返っている。


 「神託者教会を滅ぼしたのは単なる一ステップに過ぎん。次なる相手は‥‥」


 広場にいる者達は緊張で体を強張らせた。

 グイードの凄まじいオーラに気圧されているのに加え、自分たちの生活が脅かされる恐怖が芽生えたからだ。


 「アディシェスだ!」

 『!!』


 ほぼ全ての住民が驚愕した。


 アディシェス。

 大魔王ディアボロス率いる悪魔の軍隊である。

 悪魔ひとりでも苦戦する戦力差があるのに対し、その数は万を超える。

 対する総統戦力はヴァティ騎士団を加えても1300程度だ。

 明らかに勝てる相手ではなく、それは逆に屍の街デフレテへの報復の可能性を示しており、まさに自分たちが悪魔によって蹂躙されることを意味していた。

 皆、漆黒の騎士グイードは血迷ったのかと思った。

 夢であって欲しいと願った。


 「出兵は3日後!我らは必ずや勝利をシャーヴァル総統へお届けする。諸君らも悪魔に脅かされる生活から解放される。吉報を待て!以上だ!」


 グイードたちはその場から立ち去った。

 去り際にグイードは拳を大きく振り上げた。

 金の騎士もそれに続くように拳を振り上げた。

 銀の騎士は両手を上げ、勝利宣言するかのように人差し指を立てた後建物の中へと去って行った。

 住民達は絶望感に押しつぶされそうな表情で広場から帰って行った。

 そこに残ったスノウとソニアは舞台を見ていた。


 「見えたか?」

 「はい」

 「とりあえず戻るぞ」


 スノウとソニアはイリディアたちのいる仮アジトへと戻って行った。


・・・・・


 ガタン!


 「なんじゃと?!」


 スノウがグイードの発言を伝えたところイリディアは怒り混じりに反応した。

 叩いた机には手の形をした焦げ跡が残っていた。

 思わず怒りで炎魔法を発動してしまったようだ。

 

 「血迷うたか!10人足らずで神託者教会を滅ぼしたことで過信しておるのか?!アディシェスは比較にならん規模だと知らぬわけでもあるまい!」


 いずれはアディシェスに挑むことは推測されていたが、それは総統勢力として戦力を強化してからだと思っていたのだ。

 3日後に攻め込んだところでアディシェス圧勝で終わり、結局アディシェスの戦力を削ることなく終わってしまう。

 その状態でハチたちクティソスと組んでアディシェスと戦ったとしても勝ち目がないことは明白だった。

 

 「イリディア。気持ちは分かるが、やつらが何を考えているのかをまずは把握してからだ。総統勢力の本来の戦力をおれ達はまだ把握していない」

 「それはそうじゃが把握したところで10倍以上の戦力、いや100倍以上と言ってもよい。そんな戦力差が埋まるとは思えぬ‥‥」

 「総統勢力にアディシェスを倒してもらうことなんて期待していないだろ。要はアディシェスの戦力をどれだけ削ってもらうかだ」

 「分かっておる‥‥それはそうとシンザとやらは見つかったのか?」

 「ああ」

 「どこにいるのじゃ。なぜ連れて来んのじゃ?」


 スノウはソニアの顔を見た後、イリディアの方を見て話始めた。


 「今すぐ連れてくることは出来ない。なぜならあいつは総統勢力の中枢に紛れ込んでいたからだ」

 「どういうことだ?はっきり言えスノウ」


 痺れを切らしたようにカディールが割って入った。


 「ソニアの耳につけられているピアス。これはベルガーの洗脳ペンダントの影響を受けないことは知っているな」

 「それが何だというのだ!結論を言え!」

 「銀の騎士ガーフの兜にソニアが付けているピアスと同じものが付けられていたのだ」

 「何だと?!つまり、シンザはガーフに殺されたということか?!話が見えんぞ?!」

 「いや、逆だよ。本物のガーフは既に死んでいる。ソニアが捕らえ、イカれた司教が拷問して殺し、首をグイードたちに送りつけている」

 「なんだと?!」

 「おそらくグイードは軍の指揮に関わるとしてガーフの死を隠したかったのだろう。既にガーフは亡くなっているにも関わらず、今日3騎士は舞台に登壇した。最高戦力の3騎士は健在だと示したかったんだ」

 「まさか!」

 「ああ。どう取り入ったのかは分からないが、現在の銀の騎士はシンザだ」

 『!!』


 イリディアとカディールは驚きを隠せなかった。

 伝え聞いている話では、漆黒の騎士、金の騎士、銀の騎士の3騎士の絆は強く、信頼関係は長年共に戦った経験とそれぞれの戦闘力の高さから培われたものであり、いくら3騎士健在を示したかったからといって突然現れたシンザを新たな銀の騎士に据えることなど考えられなかったからだ。


 「ありえぬ。いや、事実なのであろう。それであれば尚更状況を把握しなければならぬな。すぐにでもシンザに接触し、確認するのじゃスノウ」

 「ああ。とにかくやつらの出兵は3日後だ。シンザをアディシェスとの戦いにかり出すわけには行かない。それにこれを好機と捉えるなら、総統勢力の攻撃に乗じてディアボロスの勢力をより削る策も取れるかもしれない。この後シンザに接触する。あいつは敢えてピアスを見える場所に付けていた。おそらくおれとソニアが広場に来ると読んでいたんだろう。つまり接触の機会をあいつも作ろうとしているってことだ」

 「なるほど。優秀な部下を持っているようじゃな」


 スノウは嬉しそうな顔を見せながら頷いた。


 「今晩シンザに会ってくる。もちろんおれとソニアの2人でだがな」


 その日の夜、準備を整えスノウとソニアはシンザに会うべく出発した。





いつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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