<ケセド編> 101.神託者教会の消滅
101.神託者教会の消滅
スノウたちが約300のクティソスを連れてヒノウミに到着すると、ハチが既に未来を観ていたのか、ハチと八色衆が出迎えてくれた。
ハチ、八色衆はアラドゥとの再会を心から喜んだ。
表情が読めず、ぶっきらぼうな口調しか出来ないアラドゥも喜んでいたに違いない。
ベルガーの配下にあったクティソスたちは、最初は戸惑っていたが、徐々に心を開き始めた。
今まで戦うか培養槽で過ごすかしかなかった生活だったことから自分たちはどうすればよいのか分からなかったことと、ヒノウミにいるクティソスたちは味方なのか敵なのか分からなかったからだ。
言葉も上手く話せないクティソスたちは意思の疎通を図ることは得意ではないが、お互いが発する協調意思を感じることが出来る。
そのためヒノウミにいるクティソスの歓迎のオーラを感じ取り徐々に馴染むことが出来たのだ。
ハチはスノウに礼を言った。
「ありがとうスノウ。アラドゥを救ってくれて」
「おれだけじゃ救えなかったよ。礼ならイリディアとカディールに言ってくれ」
「そうだね」
「アラドゥが戻ったから、これからも軟化病患者を救うのか?」
「ううん。不思議と今は軟化病を発症する人族はいないからね」
「そうなのか?」
「うん。天からアガスティアが降ってきて以降軟化病患者は出なくなったんだ」
「どういうことだ‥‥軟化病って一体何なんだ?予知とかで分からないのか?」
「その秘密が明らかになる未来があれば知ることもあるかもしれないね。でも残念ながら観えていないよ。こればかりはアラドゥでも分からないんだ。ただ分かっているのは、人の体から全ての骨が消えてしまうということだけ。そもそも病気かどうかも怪しいね」
「そうだな。とにかく患者が出なくなって良かった。それでこれからどうするんだ?」
「ポロエテに戻るよ。あの街を守る必要もあるしね。再度ハシュマルが現れるかもしれないけど、それはここに居ても同じだからね」
「予知して回避する策を練ればいいんだろ?」
「そんな簡単じゃないんだ。未来は確定していない無数の選択だからね。何を選ぶかで変わってくる」
「でもだいぶ先の未来も観たことあるじゃないか」
「うん。どんな選択をしても行き着いてしまう収束点があるんだけどそういうのは観える。でも余程のインパクトだし、よくないことが多いからね。避けられない厄災とか観たくないでしょ?それに天使は上手く隠れることが出来るらしい。この世界にいてはならない存在なのかもしれないね」
「それじゃ、ハシュマルの出現は予知出来ないってことか?」
「分からないよ。でも警戒は出来る。前回は何の前触れもなかったけど、今回は違うからね。きちんと備えるよ」
「そうか。何かあったら呼んでくれ‥‥って言っても方法がないか」
「無くもないよ」
「どういうことだ?」
「実はね、僕に眷属が出来たんだ」
ピュン‥
「え!」
スノウは驚いた。
ハチの頭の上に赤い何かが急に出てきて乗っかったのだが、その姿が偽善の街クルエテの地下施設の開かずの間で開放した火の精霊にそっくりだったからだ。
「おい‥それ‥」
「フフフ‥驚いたかい?これは君がアラドゥを開放してくれた時に、一緒に開放してくれた存在だよ。これは僕の力の源みたいなものでね」
「もしかしてアラドゥが攫われた時に一緒に奪われたとかか?」
「まぁそんなものかな。これは分割が出来るんだ。そして意思の疎通も出来る。これを半分君に預けておくよスノウ。僕が助けを必要とした際はこれが僕の声を届ける。もちろん君の声を僕に届けることも可能だよ。試しにやってみるかい?」
ピュワァン‥‥
火の精霊はふたつに分かれた。
分裂するとそれぞれが人形に変化しそのうちの一体がスノウの肩に瞬間移動した。
「のわ!」
「ははは!熱くはないよ。さぁ、命令してごらん?」
「命令?何て命令すればいいんだ?」
「こんな風にだよ。スノウに声を伝えてくれるかい? “こんにちは”」
“こんにちは”
「!‥‥こいつから声が聞こえた!なるほど‥‥それじゃ、ハチに声を伝えてくれ。 “おつかれさん”」
“おつかれさん”
「大丈夫だね、しっかりと聞こえたよ。それは僕が回収しない限り君から離れることはないから安心してくれていいよ。どんな戦闘になろうと何に巻き込まれようと君から離れないから。でも見た目が炎だからといって何か炎の攻撃とかが出来る訳じゃないからね」
「分かった」
スノウは少し安心した。
天使ハシュマルがハチのところへやって来たとしてもすぐに気づくことが出来るし、何が起こったかについてもハチからリアルタイムで聞けるからだ。
何かしらの対処が出来るか、次の一手をいち早く打つことが出来る。
これまで遭遇した天使たちは皆自分の味方か或いは無関係の存在だったが、この世界では敵対する位置にあると思っていたからだ。
天使の強大な力は十分に知っている。
魔王もそうだが、自分ひとりでどうこうできる相手ではないことも分かっていた。
嘗ては翻弄されるばかりだったが、今は違う。
いずれ合流するであろうレヴルストラの仲間もいるし、イリディアやカディールもいる。
仲間を犠牲にする判断はあり得ないが、自分を信じてくれる者にはスノウに出来ることは精一杯対処したいと思っていた。
スノウ、ソニア、イリディア、カディールの4人は翌日ヒノウミのクティソスの住処をあとにした。
目的地は屍の街デフレテだった。
・・・・・
スノウが出発した翌日、早速火の精霊を経由してハチから情報が入った。
偽善の街クルエテに残って情報収集に務めていた八色衆のひとりのベンテからの情報で、神託者教会が壊滅したとのことだった。
予想通りではあったが、壊滅させたのはシャーヴァル率いる総統勢力とのことだった。
驚くべきはたった10人でベルガーの勢力を壊滅させたとのことだった。
クティソスがいなくなったとはいえ、たった10人に壊滅させられるとは思えなかった。
戦火は激しく、街は半分以上が瓦礫の山とかしたらしい。
残念ながら一般民の約3分の2が犠牲となったとのことだった。
ユキノミコが避難を呼びかけたが、信じてもらえず多くの者が街に残っていたのが原因だったのだが、ベルガーの持つペンダントの洗脳効果の影響だったようだ。
スノウたちは屍の街デフレテに向かう前に、クルエテに寄ることにした。
翌日、スノウたちはクルエテに到着した。
「10人でここまでの状態になるとはな‥‥」
「何と酷い‥‥あの街がこんなにまで破壊されるなんて‥‥」
ソニアは苦しそうな表情で破壊され尽くした街並みを見て言った。
よくよく思い出せば、大きな農村の中心にネオン街があるような歪な街であったが、そこに暮らす人々の笑顔をみていたソニアにとっては複雑な心境なのだ。
「ベルガーは時計台の近くにある大きな公共の建物を根城にしていました。丁度その地下に地下施設が広がっている状態です。地下施設だけは残っているかもしれませんね」
「分かった。行ってみよう」
スノウたちは慎重に瓦礫の山と化した街の中を進んでいく。
街の防衛の要である高電圧フェンスがあったはずの場所は見るも無惨に破壊されていた。
高電圧フェンスを破壊する方法があるとすれば、強力な魔法か、かなりの重量級の投擲具くらいしかない。
だが投擲があった形跡は見受けられなかった。
「おかしいな」
カディールが言った。
「ああ」
スノウも同意見だったのか周囲を見渡しながら反応した。
「周囲に‥‥死体がありません」
ふたりと同様にソニアも理解して言った。
街には死体どころか血痕や戦闘の跡らしきものすら無かった。
「ここら辺の住民は皆避難出来たということか?」
「いや、ユキノミコの話では高電圧フェンス外の住民が中心に避難していて、フェンス内の住民の約3分の2以上が拒絶したということだったから、この辺りに死体がないのはおかしいんだ」
「なるほど。ベルガーの持つ洗脳のペンダントの力か」
「そうだ。おそらくな‥」
「街全体にソナーを張り巡らせたが、この街に生存者はおらぬな」
イリディアは異常なほど広範囲でソナー魔法を展開していた。
合成魔法によって通常の数倍の効果を発揮することができる。
「皆殺しか‥‥総統勢力もえげつないな」
「もしくは捕虜として連れて行ったか。上手く寝返られれば兵にでもなれるかもしれないが、奴隷化させられるのがオチだな」
スノウは戦争の現実を思い出した。
(平和な時代はどこにもないのか‥‥。まだ日本は平和だったってことか。いや、戦争に負けたことで実際には隷属させられている。国民が気づかないレベルで‥‥戦争に負けるということは命だけで無く、文化も信念も信仰心すら奪われる。そして殺さないように生かされる‥‥ほんの一握りの権力者の都合で‥‥)
スノウは抑えようのない苛立ちを覚えたが、表情には出さなかった。
「間も無く時計台です。あ、時計台は壊されていないようですね」
「プロジェクターで時間も示されている。エレキ魔法は途絶えていないということか」
昼間であるため見えにくかったが、時計台にはプロジェクターで時間が表示されており、そこだけが怪しく光っていた。
「時計台が見えるということはベルガーが根城にしていた建物もそろそろ見えてくるはずなのですが‥‥!!」
ソニアは驚愕の表情を見せた。
『!!』
スノウたちも同様の表情を見せた。
ベルガーが根城にしていたはずの建物は崩壊し、そこに数本の柱が建てられていたのだが、そこに人が磔になっていたのだ。
「ベルガー‥‥」
その中心で磔にされていたのは神託者教会を率いていたマーティス・ベルガーだった。
体中切り刻まれた跡があり、拷問を受けたように見える。
動きがなく、大型の鳥が啄んでいることから既に事切れていると窺えた。
周囲には総括司教、奉活司教、布活司教や、その配下の者たちが磔になっていた。
「やはり住民の死体はないぞ」
「一体どうなってる?生存者を捕虜にしたとしても死体がゼロというのはおかしい。弔ったとでもいうのか?」
「そのような善意ある者総統勢力にはおりませんよ」
『!!』
突如背後から、荘厳で刺すような落ち着いた口調の声がしてスノウたちは振り返った。
そこにいたのはボロボロのローブを纏い、フードを深く被り中から光る鋭い目で前を見据えている不気味な人物がいた。
「お前は誰だ?」
カディールが庇うようにイリディアの前に立って言った。
「哀れな子羊たちに祈りを捧げに来たのです」
「スノウ‥おそらく天使ハシュマルです」
ソニアがスノウに小声で言った。
「こいつが」
スノウたちは警戒心を強めた。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




