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<ケセド編> 96.ネクロマンス・ナイト

96.ネクロマンスナイト


 ビギィぃィィィィィィィィィン‥‥


 ボワン‥スタ‥スタ‥スタ‥スタ‥スタ‥


 「また派手にやってくれてんじゃねぇかよ、アノマリー」


 耳を劈くような奇怪な音が発せられたと同時にその場にいる者全てが動きを止め、その奥から現れた大魔王ディアボロスが言った。

 ディアボロスは自身が展開した時ノ圍(トキノイ)で周囲の動きを止めた中、悠然と歩きスノウの前に立った。

 ディアボロスは不敵な笑みを浮かべながらスノウをじっと見ていた。


 「お前自身の意図なのか。それとも何かに導かれているのか。いちいち俺の進む方向の前に立ちやがって。今ここでお前の首を刎ねることができたら最高の酒が飲めるんだがな」


 スゥ‥‥


 ディアボロスは手刀をスノウの首元に当てた。


 「まぁいい。所詮は我らの計画を為すための駒だ。お前が果たすべき役割を終えたら殺してやる。それまでせいぜい勘違いして特別感を味わっていろ」


 そう言うとディアボロスは、カディールによって首を斬られたグイードの方へと歩いていった。


 ガシ‥‥


 ディアボロスが落下途中で宙に浮いている漆黒の兜を掴んだ。

 兜の中にはグイードの生首がある。


 「さて。お前は何者になるのか。このままデュラハンにでもなるなら、お前の馬の首も落としてやる。まぁ何になるにせよ、この場をひとりで切り抜けるだけの力を得るだろうがな」


 ディアボロスは真横の空間に小さな魔法陣を出現させた。

 その中に手を入れ、何かを取り出した。

 取り出した手に握られていたのは小瓶と深い紅の魔力石だった。

 小瓶の中には黒いドロドロとした液体が入っている。


 「こいつは超希少な魔具だ。深層心理の奥底に眠る望みを現実のものとするこの魔具をお前ごときに使うのは勿体無い気もするが、彼の方の指示でもある。しっかり弾けろ」


 ディアボロスは小瓶の蓋を開け、中に入っている黒くドロドロとした粘性の高い液体をグイードの首の切断面にかけた。

 すると黒い液体はみるみるうちにグイードの体内へと染み込んでいった。

 

 グジュルル‥‥


 もう一つの魔具である深紅の魔力石を、今度はグイードの頭部の首の切断面の中に強引に押し込んだ。


  バジュア‥‥


 そしてグイードの首を漆黒の兜ごと、グイードの体の首の切断面に近づけた。

 

 シュルルルル‥‥・


 首の中に染み込んだ黒い液体が、まるで生きいるかのように頭部の首の切断面に伸びていく。


 ジュルル!グィィ‥‥


 黒い液体が頭部を捕えると強引に引っ張る様にして頭部を胴体に引き寄せた。

 そして黒い液体は糸のような細い触手を伸ばして切断面を縫い付けていった。

 

 ジュグジュグジュグ‥‥


 そして漆黒の鎧の隙間から僅かに見える肌には黒く滲んだ血管が浮き出ていた。


 ビグビグビグビグビグ!!


 グイードは突如あり得ないほどの速い動きで痙攣し始めた。


 ビタッ!


 そして何かを完了したかのように痙攣が止まった。


 「変態が完了したか。お前が何者になったか確認することになっている。お前だけがこの緩やかな時の中で動くことを許可しよう」


 ディアボロスは人差し指と中指の2本の指を揃えて伸ばし、グイードの漆黒の兜の額部分に指先を当てた。


 ビギィィン!!


 するとグイードはゆっくりと動き出した。


 「カハァァァ‥‥」


 ドクン‥ドクン‥ドクン‥


 速く大きな心音が聞こえる。

 その音が鳴るたびに周囲の空気が歪み波を生じ始めた。

 

 「ほう‥‥これほどのオーラを発するとはな」


 バッ!


 そしてグイードは両手を広げ始めた。

 すると、禍々しい波動が周囲に広がった。

 

 ビギィィィィィィィィィン!!


 機能停止し動かなくなったホムンクルスや既に絶命している騎士たちの中心にいるグイードから発せられた禍々しい波動を受け、倒れ込んでいるホムンクルス、騎士たちが波紋のように畝り出した。


 ダダダダダダダダダダダ‥‥


 皆上空から糸で引っ張られているかのように300体のホムンクルス、200体の騎士の死体が一斉に立ち上がった。

 立ち上がったが、全員力なく項垂れている。


 ババ!!


 まるでオーケストラの指揮者のようにグイードは両手を振った。

 次の瞬間、ホムンクルスと騎士たちは精気を帯びた様に直立した。

 両腕を広げているグイードの目の前にディアボロスが立った。


 「ほう。お前はそれを望んだか」

 

 ディアボロスは小さな魔法陣から布のようなものを取り出した。


 バサッ!!


 それは漆黒のマントだった。

 ディアボロスはグイードにそのマントを装着した。


 「ハッピーバースデー。それは俺からのプレゼントだ。受け取れ」


 両腕を広げているグイードに漆黒のマントが取り付けられ、さらに禍々しいオーラが広がった。


 「死人だけでなく、ホムンクルスまでをも蘇らせ使役したか。それはネクロマンサーの力‥‥だが、お前は騎士の力も失ってはいない。面白い。お前は騎士として死人を使役するのか。なるほど、言うなればネクロマンス・ナイト。自らが剣を握り、死人の軍を操って戦う。こんな時勢だ。死体などゴロゴロと転がっている。お前はたった1人で一国をも滅ぼすことのできる軍に値する存在となったのだ。その力を使いお前は何をするのか。だが、忘れるな。お前は既に俺たちの配下にあるということをな」

 

 ディアボロスはグイードの動きを止めた。


 「これから事態は大きく動き出す。お前はそれを成功に導く重要な歯車だ。しっかりと働いてもらうぞ」


 そして転移魔法陣を発現させた。


 コツ‥コツ‥コツ‥コツ‥


 ディアボロスはその場から立ち去るために転移魔法陣へと進む。

 そしてスノウの前を通り過ぎようとしたとい。


 クク‥


 「!」


 スノウの目が動いたように思えた。


 「‥‥‥‥」


 ディアボロスはスノウの前に立った。

 スノウはディアボロスの時ノ圍(トキノイ)の効果で停止しているように見える。


 (気のせいか‥)


 「!!」


 ディアボロスはスノウの目線の先を見た。


 (こいつの目線‥‥さっきまでは吹き飛んだやつの首を見ていた。だが今はグイード本体を見ている‥‥)


 ディアボロスは悟られないようにゆっくりと体の向きを転移魔法陣へ変えた。


 (まさかこいつ、魔眼でも持ってやがるのか?!‥‥いや、魔眼だけでは機能するのは視界だけ。読唇されていなけりゃ問題ない。‥‥だめだ、どんな些細なバグも見過ごすわけにはいかない。俺の話はこいつに聞かれてしまったと思った方がいい‥‥。計画に支障をきたすくらいなら、ここで殺しておくべきだ。こいつの役割は別の誰かに肩代わりさせりゃぁいい。彼の方の逆鱗に触れるかもしれねぇが、計画を破綻させるよりはマシだ)


 ディアボロスは悟られないように力をため、凄まじい速さでスノウの首元に向けて手刀を放った。


 ハシュゥゥ!!‥‥ズバン!!


 ディアボロスの手刀がスノウの首元に触れる直前、スノウの胸元から突如腕が出現しディアボロスの手刀の手首を掴んだ。


 「何?!」


 グググ‥‥!!


 「何ぃぃ!!」

 

 ディアボロスは突然の出来事に驚いた。

 スノウの大胸筋から全く異質な者の腕が生えており明らかにこの手がスノウのものではなく、別の存在の手であったからだ。

 そしてその手の握力は異常なほど強く、ディアボロスの腕はその不気味な手によって握り切られそうになっていた。

 しかも、ディアボロスの腕に突き刺さっている爪からは毒が注入されているのか、血管が徐々にどす黒く変色し始めた。


 「こ、この感触‥‥そして伝わるオーラ‥‥貴様‥忘れ去られた一族の残骸か?!」


 ズバァン!!


 ディアボロスは自身の腕を自ら斬り落とした。

 傍に手を挟んでディアボロスは止血した。


 (とんでもないやつが紛れ込んだもんだ。おそらくこいつの影響でアノマリーは一瞬動いたんだろう。つまりアノマリー本人の意識があったわけじゃねぇ。腕だけの存在だ‥‥精々アノマリーの体に寄生し、動かす程度が関の山のはず。それにこいつ‥‥アノマリーを守っているに見える。攻撃を加えなきゃ何もしない反射的に動いている感じだな。だとすれば放っておいて構わねぇ。いざとなりゃ、ザドキエルあたりに処理させりゃぁいい」


 ズリュリュリュ!!


 ディアボロスの切断した腕が生え元通りになった。

 そして転移魔法陣の中へと消えていった。


 ビギン!!


 ディアボロスによって展開された時ノ圍(トキノイ)が解け、全てが一斉に動き出した。


 『!!』


 スノウ、イリディア、カディールは驚愕した。

 カディールによって首を刎ねられたグイードが一瞬で復活し、先ほどまでなかった漆黒のマントをつけて立っているのだ。

 それだけではなかった。

 倒したはずのホムンクルスや騎士たちが直立しているのだ。


 「一体どうなっている?!」

 「時が飛んだ?!」

 「それは後!構えるのじゃ!」


 スノウ、イリディア、カディールは戦闘体勢をとった。

 グイードは片手を上げ前に突き出した。


 「来るぞ!」


 バッ!


 グイードが手を前に出した瞬間、ホムンクルスと騎士たちが一斉に攻撃を仕掛けてきた。


 バキィィィィン!!


 「クティソス?!」


 突如倒れ込んでいたクティソスたちが一斉に立ち上がり、ホムンクルスと騎士たちの攻撃を防いだ。


 「クティソス‥‥茹で蟹にしたはずだがどういうことだ?」


 ヒュゥゥゥゥン‥‥


 クティソスたちの背後から幾何学模様の物体が浮遊してきた。


 「まさかこやつがクティソスを操っているのか?!」

 「おそらくな。ハチの話で言えばこいつが軟化病の者をクティソスに変え救ってきた存在、アラドゥだ」

 「私ヲ救ッタ貴方ニ恩ヲ返ス。ソレガコノ次元デ学ンダ礼儀」

 「アラドゥとやら、クティソスたちを下げさせよ。スノウ、そなたも合わせよ」

 「分かった」「了解シタ」


 クティソスが一斉に後方へと下がったのに対し、イリディアとスノウが前に出て魔法を発動し始めた。


 「雷蘭奏舞槍」

 「ジオライゴウ」


 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 凄まじい稲妻の束がグイードたちに向かって落ちてきた。


 バフォォォォォォォォォ!!


 爆風が周囲に広がる。


 「!!」


 巻き上がる砂煙が風で流された。


 「逃げたか」


 スノウとイリディアの連携稲妻魔法で壊滅させたと思っていたが、そこにはグイードはおろか、ホムンクルス、騎士たちの姿さえなかった。




いつも読んでくださって本当にありがとうございます。

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