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<ケセド編> 91.血みどろの兜

91.血みどろの兜


 「逃げおおせると思っているのか」


 銀の騎士ガーフは凄まじい速さで100人小隊を追いかけていた。

 次第に距離が縮まっていく。

 4つに分割した小隊がいよいよガーフの攻撃範囲へと入ってしまった。

 ガーフには巨大なブーメランという飛び道具があり、攻撃のリーチが異常に長いことから早々に捕まってしまったのだ。


 フュシュルシュルシュルシュル‥‥


 不気味な回転する風切音が小隊の背後から迫ってきた。


 「皆屈め!」


 一番後方を走っている者が全員に指示をだした。

 皆一斉に倒れ込むようにして屈んだ。


 フュシュルルル!


 ギリギリでブーメランを躱すことができた。

 だが、次の瞬間ブーメランは攻撃ではないということを悟った。

 何故なら小隊の背後に剣を振り下ろそうと攻撃してきたガーフがいたからだ。

 ブーメランは相手を屈ませ、動きを止める効果があったのだ。

 足止めしている間に自身は相手との距離を詰めて、攻撃体勢の整わない相手を背後から攻撃するという姑息な攻撃だった。


 「ぐあぁぁぁ!!」

 「がっばぁぁ!」

 「うぐぁぁ!」


 小隊の数人がガーフの剣に斬られて死傷した。

 

 ズバババババ!!


 「もう終わりか?!あっけない最期ではないか。まぁいい他にも逃げた卑怯者共の小隊が3つあったはず。それらも追って斬り刻んでやろう」


 既に斬殺された小隊の者たちはこれ以上ないほどの恐怖に怯えた顔をしていた。

 これでシンザの100人小隊は70名ほどになった。

 一方偽善の街クルエテから遅れて出発した第2陣はデフレテとの丁度中間地点ほどまで進んでいた。

 第2陣を率いているのは軍司教のソニアだった。

 そこへ戻ってきた斥候が報告で駆け寄ってきた。


 「報告!第1人100人小隊は騎士と接触した模様。シンザ隊長は騎士によって討たれ死亡。ですが他小隊は4つに分散して騎士を誘き寄せる作戦を実行中。既に半分近くが騎士によって殲滅とのことです!」

 「それは誠か?!」


 側近たちはどよめいていた。

 神託者ベルガーが特別に起用したシンザが早くも死亡したと聞いて驚いていたのだ。

 あっけない討ち死に情報と同時に騎士の強さを見せつけられたのだった。

 だが、ソニアは冷静だった。

 それもそのはずで、シンザが昨晩の計画通りに進めてくれていると内心感心していたからだ。


 (流石シンザね。上手く騙して潜入したようね)

 (天使や悪魔ならともかく、今のシンザが人間と戦って負けることは考えられないからね。騎士がこっちへ戻ってくる小隊を追いかけている時点で作戦は成功だよ)

 (ええ)


 「全陣進行スピードを上げます!誘き寄せ作戦を実行中の第1陣小隊が全滅する前に我々は騎士に接触します!クティソス部隊、準備はいいか!」


 クティソス部隊を先導している白ローブの者は了解を示す青い旗をあげた。


・・・・・


 それから約半日。

 かなりの進行速度で前進しているソニア軍司教率いる第2陣の前方に20名ほどの黒いローブを来た者たちが走ってくるのが見えた。


 「報告!第1陣小隊の者が帰還!このまま合流させます!」

 「第2陣戦闘態勢!」


 クティソス部隊を後方に置き隠すようにして人間兵を前に配置した陣形でそのまま進む。

 そして第1陣合流まで後数百メートルのところで変化があった。

 第1陣の者たちの首が一斉に、そして同時に飛んだのだ。


 『!!』


 驚く第2陣の兵たちは、そのまま足を止めてしまった。


 「止まるな!進め!」


 後方にいる側近が叫ぶが前衛の者たちは恐怖で足が動かない状態となっている。


 シュルシュルシュルシュルシュル


 不気味な風切り音が前方から近づいてきた。


 「攻撃だ!!」


 巨大なブーメランが第2陣に向かって飛んできた。


 ガキィィィン!!


 巨大なブーメランを後方から飛び出てきたクティソス5体が自らの甲殻を盾にして止めた。


 ガシ!


 クティソスたちは巨大なブーメランを掴んだ。


 「コレで‥‥コノ武器使えナイ」


 ヒュゥゥゥ‥‥


 「上だ!油断するな!」


 クティソスを指揮している後方の白ローブの者が叫んだ。

 上空を見上げると陽の光が反射した眩い輝きを纏った者が剣を振り下ろしながら飛来した。

 銀の騎士ガーフだった。

 ブーメランを防いだクティソスたちはガーフの存在を確認した時には既にその攻撃から逃れられない位置におり、彼の攻撃を受けるしかなかった。

 とにかく両腕の甲殻で防御に徹する構えをとるクティソスたち。


 ガッキィィィィィン!!


 凄まじい金属音が周囲に響いた。


 クティソスにガーフの剣が振り下ろされる直前に凄まじい速さで割って入り、剣でガーフの攻撃を受けきった者がいた。

 ソニアだった。


 「僕の剣を受け切るとは中々の強さだ!‥‥ん?!貴様はあの男と一緒にいた以前攻め込んできた小隊を率いていた隊長ではないか!」

 「ソニア軍司教よ。よ・ろ・し・く・ね!!」


 グィィ‥ガキィィィン!!


 ソニアは力一杯押し返しガーフを吹き飛ばした。


 ヒュルルル‥‥スタ‥


 ガーフは空中で回転しながら、静かに地面に着地した。

 一方ギリギリでガーフの攻撃から救われたクティソスたちはソニアを羨望の眼差しで見ていた。


 「軍司教‥強イ」

 「カッコイイ‥ソノ強さ欲シイ‥」


 ガシ!ババッ!


 ソニアは手で合図した。

 その合図基づき白ローブがクティソスたちに指示を出した。

 クティソスたちはガーフを囲むようにして構えた。


 「貴方‥‥その銀の鎧からして銀の騎士ガーフね。さて、袋の鼠状態だけど、降伏するなら命だけは助けてあげるわ」

 「貴様、先ほどの力‥‥以前とは別人のようだな。あの時は手加減でもしていたか?」

 「調子が悪かっただけね。今は絶好調だから、この私に勝てるなんて思わない方がいいわよ」

 「そうか。それでは先ほどの僕の攻撃を防いだことに敬意を表して優しく殺してやろう」

 「あら、それはご丁寧に。でもそういう安い挑発は好きじゃないの。そういうことを言う者ほど長くは生きられないのよ」

 「口の減らぬ女だ。それはそうと、貴様とこの間のもう1人の強者‥‥どちらが強いのだ?」


 ソニアはガーフの言及した人物がスノウであると認識した。


 「あの方の方が私より遥かに強いわ。それこそこんな世界滅ぼせるほどの力を持っているわね。間違ってもあの方に挑もうなんて思わない方がいいわ。いや、もしそんなことを考えているなら、今ここで私が貴方を消し炭にしてあげる」

 「言うではないか!そうか!あの者はそこまで強いのか!話半分でも楽しめそうだな!いいだろう!あの者を引きずり出すためにはまず貴様をここで殺してその首をベルガーに届けてやる必要があるようだ。さぁかかってこい!貴様らが束になったところで所詮はゴミムシ集団。後悔するなよ!」


 銀の騎士ガーフとソニア率いるクティソス部隊との凄まじい戦闘が始まった。


・・・・・


 それから数日後。

 屍の街デフレテにある総統勢力の本拠地内の漆黒の騎士の執務室にとある箱が届いた。

 漆黒の騎士グイードと金の騎士ローガンダーが見ている前でその箱が開けられた。


 「ひえぇぇ!!」


 そこには血まみれになった銀色に輝く兜が入っていた。

 箱を開けた部下は思わず手を離して驚いた。


 「な、生首!!」

 

 その兜は銀の騎士ガーフのものだった。


 ガタン!!


 表情ひとつ変えずにローガンダーは腰を抜かしている部下を軽々と掴んで横へ放り投げ、箱の中の兜に手をかけた。


 ガタ‥


 ローガンダーが片手で兜を持ち上げてみると、それは生首ではなく兜だけだった。


 「情けないことです。勝手に行動した上に敗北し、さらには素顔まで晒したとは‥‥」

 

 グイードはそれを静かに見ていた。


 「グイード様。如何致しましょうか。ご指示とあればガーフ諸共神託者教会を殲滅して参りますが」

 

 グイードは腰に下げているナイフを取り出した。


 ビン!!‥‥バシュゥゥゥ!!


 グイードは小さなナイフで腰を抜かしている部下の首を刎ねた。

 部下の首から血が噴き出ている中、グイードはナイフについた血を拭き取って鞘に収めると静かに話始めた。


 「これは誰も見ていない。ガーフが捕まったことも問題はない。これは既にシャーヴァル様がアガスティアの葉で見られた予知そのものだ」

 「なんと!それではシャーヴァル様は既にこの状況を把握なされていた上で計画をお持ちということでしょうか」

 「そうだ。1週間後に我らは軍を組織してクルエテを滅ぼす」

 「なるほど。その予知を既にシャーヴァル様は見ていらっしゃるということですね。それはグッドニュースです。俺も準備することとします」

 「待て。お前はここで待機だ。とある鼠が入り込んだとのこと。そやつを殺すのがお前の役目だ。一方ガスティアの葉の予知では我がとある軍を率いてクルエテを滅ぼすとある」

 「グイード様自ら?!それにとある軍とはどう言ったものなのでしょうか?俺たちの軍ではないということでしょうか?」

 「そうだ。シャーヴァル様は(いにしえ)の技術を復活させ、禁断の秘術、不死人造兵(ホムンクルス)を生み出された」

 「!!」


 普段よりあまり表情を変えない感情表現の乏しいローガンダーは珍しくこれ以上ないほど驚いていた。


 


いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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