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<ケセド編> 88.絶対に許さない

88.絶対に許さない


――偽善の街クルエテ内神託者教会本部 大会議室――


 神託者教会本部の大会議室に幹部たちが集まっている。

 幹部は全部で4名。

 全員4本線の入った黒いローブを着ている。

 その内のひとりはソニアだった。

 ソニア以外全員が元神託院フラターの司教であり当時からベルガー派として活動していた側近たちだ。

 全体を統括する総括司教、奉仕活動と称した実験や研究を指揮している奉活司教、布教活動を指揮している布活司教、そして神託者教会の目指す社会を作る上で阻害要因となる勢力を排除するための軍を統括する軍司教の4本柱で幹部は構成されており、ソニアは軍司教を担っていた。


 「神託者ベルガー様がお見えです」


 ババン!


 全員が一斉に起立した。


 バァン!


 勢いよく扉が開かれ、ベルガーが中へと入ってきた。

 4幹部は深くお辞儀をした。


 「楽にせよ」


 座ってよし、という合図である。

 ベルガーが座るのを待って、4幹部は着席した。


 「さて、皆を呼んだのは他でもない。神託が下された」

 『!!』


 4幹部は身を乗り出すように驚いた。


 「天使ハシュマル様は我らの努力を認められた上で、いよいよ総統勢力を打ち滅ぼす時が来たと仰ったのだ」

 『!!』

 

 アガスティア大崩落から数ヶ月、膠着状態が続いていたがいよいよ大きな動きがあるのだと皆緊張の面持ちでベルガーの話に聞き入った。


 「総統勢力の軍力は大きく二つ。ひとつは漆黒の騎士グイードが率いる元王宮騎士隊1,000名。そしてヴァティ騎士団300名、合計1,300名の規模だ。一見少なく見えるが、裏ではアガスティア最強と謳われたグイード、そしてやつの側近である金の騎士ローガンダー、銀の騎士ガーフの3名が鍛えた大隊だ。そして機動力も高い。おそらく1万の兵力で迎え撃っても全滅させられるであろう。それほどの敵と認識しておくがよい」

 『はい』

 

 ベルガーはさらに話を続けた。


 「そしてヴァティ騎士団だが、実際には補佐役が殆どという構成だ。従士、魔法使い、修道士が大半を占めるために、実際の戦闘力である騎士は30名弱だ。魔法使いも攻撃補助であるために直接的な攻撃力は持たない。従士や修道士などは論外だな。総長、副総長、騎士長クラスの戦闘力は高いが、グイードたちには及ばない。従って漆黒の騎士グイードの右腕の金の騎士、左腕の銀の騎士に劣る銅の騎士の部隊とでも思っておけばよい」

 「なるほど!流石の分析で御座いますベルガー様」


 総括司教がゴマスリを兼ねた反応をした。


 「ふん‥。そして我らは既にクティソスの部隊を整え終わっている。奉活司教、説明しなさい」

 「はい」


 奉活司教はクティソスを培養生成している地下施設で白ローブの者たちに指示を出していた幹部だった。


 「先の調査隊及び別動隊として向かわせたクティソス10体による漆黒の騎士グイード、金の騎士ローガンダー、銀の騎士ガーフ3名のデータを取得致しました。その中で2名のクティソスを失いましたが、生き残った者たちによる彼らの戦闘力の高さをデータ化しております。さらに調査隊で帰還した軍司教の戦闘力を考慮しデータを補正。それらをクティソス強化プログラムに反映し、甲殻硬度は10000Hvを超え、靭性は8を超える状態まで強化されており、おそらくどのような武器でも破壊することは困難ではないかというレベルに達しております」

 「ご説明が専門的過ぎてよく分からないのですが、つまりグイードと戦っても勝てる状態に強化された‥ということでよろしいのですか?」

 「その通りです。こちらが想定するグイードに対し3倍強いグイードが登場しても負けることはないでしょう」

 『おおお』


 ベルガーが軽く手をあげると幹部たちは沈黙した。


 「ベルガー様。恐れながら質問させて頂きます」

 「よい、申してみよ軍司教」

 「総統勢力への侵攻に勝機を見出せたのは吉報です。ベルガー様の仰る通り、勝利を得られるものと確信致しました。一方で東には大魔王ディアボロス率いるアディシェス勢力がおります。我らが進軍している隙をついて彼らが攻め込んでくる可能性も考慮すべきではないでしょうか?」

 「その通りだ軍司教。だが心配は無用だ。天使ハシュマル様率いる主天使軍(ドミニオンズアーミー)が睨みを利かせることになるだろう。流石に天使の軍勢を相手にディアボロスも無茶はすまい」

 「!!‥‥なるほど、そのような連携体制を既に構築されていらっしゃるとは、流石のご采配、敬服致します」

 「お前に言われると褒められている気がするな。さて、それで今後の計画だが、出兵は3日後の夜明け前とする。その前日に100名程度の小隊を出兵させ、誤認させる作戦だ」

 「100名程度であれば、総統勢力軍も兵力を結集することなど考えないでしょう」

 「それだけではない。漆黒、金、銀、ヴァティ騎士団の総長、副総長クラスの誰かが出向くであろうから、100名の軍で引きつけ後退させつつ本軍まで誘き寄せて叩く。それで相手の軍力の少なくとも5分の1程度は削ぐことができるはずだ」

 「素晴らしい作戦です!さすれば100名隊と本軍を率いるのは誰になりましょう。少なくとも軍司教はどちらかを指揮することになりましょうが、もう1隊は誰に?」


 総括司教、奉活司教、布活司教は自分たちが指揮役を押し付けられるのではないかと内心冷や冷やしていた。


 「ビクビクしおって。全く役に立たん奴らばかりだ。そんなこともあろうかと適任者を選んでおいたわ」


 そう言うとベルガーは手を2回叩いた。


 パンパン!


 会議室の外に人を待たせていたらしく、ベルガーの合図でその者が中へと入ってきた。

 ソニア以外の3人の司教はホッとした表情でど扉に注目した。


 「!!」

 (姉さん!)


 ソニアは驚きの表情を見せた。

 同時に精神の部屋でソニックも驚き、思わず叫んでしまった。

 何故なら入ってきたのはシンザだったからだ。


 (シンザ!何故ここへ?!)

 (単独で判断して潜入調査のためにここに?!)

 (あり得るよ。シンザは機転が利くし、そもそも潜入調査がずば抜けて得意だからね)

 (でもどこか様子がへ変だわ?まるで別人のようだけど‥‥もしかして記憶無くしているとか?!)

 (うん。でもまだ分からないよ。演技の可能性があるのと、僕らが今ここで潜入していることも気づいているのかもしれない)


 ベルガーは指をクイっと引き、シンザを隣に立たせた。


 「この男はシンザ。街外れに倒れていたのをクティソスが発見したのだが、ちょっとした戦闘になってな。その際、当時のクティソスを圧倒する強さを持っていたのだ。そこで我がこの者に洗礼を行い信徒へと変えた。この者に100名の斥候部隊の指揮を任せる」

 「!!」


 (姉さん!)

 (ええ。忘れていたわ。やつには洗脳のペンダントがあったんだった!)

 (出発前に洗脳から解かないと!)

 (でもピアスは一対しかないわよ?)

 (大丈夫だ。片方ずつに分けて付ける。僕らなら大丈夫だし、それはシンザも同じだよ!何故なら僕らには誰よりも信ずるべきリーダーのスノウがいるし、頼りになる仲間もいる。洗脳を打ち破るには十分だよ)

 (そうね。。それじゃぁ隙を見てシンザに接触しましょう)


 ソニアの脳内にある精神の部屋でそのような会話がなされているとは知らないベルガーは話を続けた。


 「思わぬ拾い物だったが、これで総統勢力の軍力を大きく削ることが出来よう。ビクついており貴様らより100万倍価値のある男だぞ、こやつは」

 「お、恐れながら意見させて頂きます」


 奉活司教が怯えながら発言した。


 「何だ。申してみよ」

 「あ、有り難う御座います!その者は本当に信頼できるのでしょうか?まさか総統勢力の放った間者では?仮に間者ではないとしても、先ほどクティソを圧倒したと仰いましたが、それはまだ強化前の低レベルバージョンです。それに勝ったからといって漆黒や金、銀の騎士を誘き寄せることが出来るとは思えません。」


 そうやら自分の育成しているクティソスを圧倒したというベルガーの言葉が納得出来なかったようだ。

 ベルガーは徐に胸に刺しているペンを取り出した。


 「シンザ」

 「はい」

 「手を出せ」

 「はい」


 グザァァ!!


 『!!』


 突然ベルガーは持っているペンをシンザの左手に突き刺した。

 

 「見るがいい!これを表情ひとつ変えずに耐えられる間者がいるものか!」


 グザ!グザ!グザ!グザ!


 ベルガーはシンザの手にペンを何度も突き刺した。

 シンザの左手の甲は血だらけで抉れた肉の中から骨が見えていた。


 「どうだ奉活司教。これでも我の洗礼の力を疑うのか?何なら貴様にも洗礼を施してやってもよいのだぞ?」

 「め、滅相も御座いません。全ては神託者様のご意志のままに‥‥」

 「分かればよい」


 洗礼とは勿論ベルガーの持つペンダントクリスタルの力による洗脳のことである。

 奉活司教は自分の発言を後悔しつつ沈黙した。

 一方でソニアは全く違う反応をしていた。


 グググ‥‥


 ソニアの握る拳から血が滴っている。

 今にも爆発しそうな怒りでソニアは震え出した。

 仲間であるシンザが何度も傷つけられている様を見せられて我慢の限界を超えつつあったのだ。


 ポタン‥‥


 ソニアが強く握っている拳から一滴血が床に滴り落ちた。

 その音にはソニアの凄まじい怒りで発動した音熱魔法が込められており、音の波動と共に高熱が広がり始めた。


 (姉さん!‥‥ま、まずい!)


 会議室の温度が急激に上がり始めた。

 音熱魔法が会議室中に広がっていったためだ。


 「何だ?!急に暑くなりましたぞ?」

 「この建物は古いですからな。外気温が入り込んできているのかもしれません」

 「それにしてもこの暑さ‥‥外気温より暑い‥‥いや、それ以上だ!何か変だぞ?!」

 「扉を開けて熱を逃がせ!」


 フシュゥゥゥ‥‥


 突如室温が戻り始めた。 

 

 「暑くなくなりましたな」

 「なんだったんだ?一体‥‥」


 ソニックは怒りで我を忘れつつあるソニアと交代し、フードを深く被って顔を隠した上で、周囲に音氷魔法を展開し、室温を下げたのだ。

 その間ソニアには精神の部屋で落ち着きを取り戻してもらっていた。


 (ベルガー!!絶対に許さない!!レヴルストラの仲間を傷つけた報いを必ず受けさせてやるわ!そして最も残忍な方法で殺してやる!でもすぐには殺さない!泣き叫んで命乞いをしても殺さず全身に激痛を与え続けてやるわ!死にそうになったら回復魔法をかけて何度も何度も痛めつけて死にたがっても生かして痛めつける!)


 精神の部屋中至る所がソニアの放った音熱魔法の影響で燃えていた。

 そんな怒り狂ったソニアなど知る由もなくベルガーは話を続けた。


 「明後日シンザ率いる100人隊が出発する。軍司教、100人の人選を頼んだぞ。こやつらはあくまで斥候部隊であり使い捨てて構わん部隊だ。強いて言うなら足の速い奴らを使う。明日までに決めて通達しておくのだ」

 「は!」

 「それでは明後日、そして3日後、作戦決行とする。これは聖戦である。我が神託者教会が行う最初で最後の戦争だ。故に負けてはならない。直接戦闘に参加しないからといって気を抜くな。もしそのような怠惰者がいるなら我の(めい)でいつでも地獄に落とされることを心得よ。風呂だろうとトイレだろうと、遠くへ逃げようとどこ居ようが無駄だとし知るがい」


 『か、かしこまりました!』


 神託の共有と作戦会議は終了した。



いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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