<ケセド編> 87.共闘解消と各々の進む道
87.共闘解消と各々の進む道
スノウは自室に戻ってイリディアとカディールを呼んだ。
そしてハチから聞いた話を伝えた。
話して良いかどうかについては既にハチから了解を得ている。
「なるほど。妾も長く生きておるがそのようなことがあったとは知らなんだ。確かに軟化病は厄介。妾も一度治癒を試みたが、妾の合成魔法をもってしても治癒させることが不可能であったからのう」
「それでハチたちとは別行動をとるということだが、行く宛はあるのか?」
「特に決めていない。ハチの話では南の街ヒジマは既に人族にあけ渡された小さな村らしいから、そこへ拠点を移して活動しようかと思っている程度だ。もしくは一気にコトを進めるために活動拠点を偽善の街クルエテに変える‥ ‥だな」
「そうか」
カディールはイリディアの顔を見た。
判断を仰いているようだった。
「ふん‥‥そうじゃな。スノウと一緒に行動すれば退屈も凌げよう。それに面倒な男と対峙する際に強き仲間は必要じゃ。そなたの仲間は強いのであろう?」
「レヴルストラのことか?ああ。とても強い。全員揃えば、この世界を破壊し尽くせるほどだと思っている」
「大袈裟じゃのう。だが、そなたが言うと嘘に聞こえん。いいだろう。妾とカディールはそなたと行動を共にすることにしよう」
「そうか。それは心強い」
カディールが一歩前に出て言った。
「だが忘れるなスノウ。俺とイリディア様はお前の仲間になるわけではない。あくまで共闘関係だ。お前が俺たちに害なす存在となれば共闘関係は解消。必要に応じて俺の剣がお前の喉元を切り裂く。肝に銘じておけ」
「その覚悟は出来ているよ。でもそれはあんたたちも同じだ。おれの進むべき道に立ちはだかるようなら、その場で斬り刻む」
「いい面構えだ。俺も肝に銘じておこう」
「それで今後の動きじゃが、当面の行動の目的はなんじゃ?」
「もちろん神託者教会の地下施設の調査だ。あそこに開かずの間があった。ソナー系魔法も効かない特殊な空間だ。おれはその中にアラドゥが閉じ込められていると推測している」
「なるほど。じゃがいきなりアラドゥを解放とは後先考えていない行動に見えるぞ」
「勿論そんなことはしない。解放はあくまであの組織を潰した後だ。だが、潰すためには黒幕を引き摺り出さなければならない」
「天使ハシュマルか」
「ああ。神託者ベルガーがハシュマルと繋がっている証拠を掴み、やつの嫌がる行動でハシュマルを引き摺り出す。そこでおれ達の要求を飲むなら生かすが、飲めないならその場で殺す。そしてベルガーたちを全滅させる。クティソスたちには悪いが、おれの邪魔をするなら葬る」
「分かった」
イリディア、カディールはスノウと行動を共にすることになった。
・・・・・
――スノウ達の出発前――
結局スノウは偽善の街クルエテに潜入することにした。
南の街ヒジマは他の主要の街へのアクセスに時間が掛かるためだ。
スノウ、イリディア、カディールの出発をハチと八色衆が見送ろうとしていた。
「スノウ。くれぐれも気をつけてよ?いくら君たちが強いからといっても相手は天使。大魔王ディアボロスと同等以上の力を持っている可能性だってあるんだからね」
「分かってるよ。それよりいいのか?納得してない顔のやつがいるぞ?」
不満そうな表情の八色衆がひとりだけいた。
ライドウだった。
「納得していないわけじゃない。俺たちの仲間だと言ってみたり、突然共闘をやめるとか、勝手すぎるだろ!俺はそういうころころと気まぐれに方向性変えるのだが嫌いなだけなんだよ」
真っ直ぐな性格のライドウは今回のスノウとハチの決断に納得できないようだった。
それに対し、ハチが前にでて説明し始めた。
「ライドウ。そしてみんなも聞いてほしい。スノウ、そしてイリディア、カディールが僕らとの共闘をやめるのは僕らのためでもあるんだ。今回、クルエテの地下でクティソスが造られている施設が見つかったんだ」
『!!』
皆驚いた。
「それってまさか?!」
イザナがアラドゥを示唆して言った。
「うん。でもまだ可能性の話でしかない」
「ゆ、許せない‥‥」
「天使のやろう‥‥言うてることとやってることがが違うやろが!どんだけ俺らを苦しめりゃ気が済むんやが!」
「誰も頼れないよ!みんなやつらの言いなりだって!この世界には弱者を救ってくれる者なんていないんだからさ!」
「だったら俺たちが!」
「だめなんだ」
ハチはいつになく声を張り上げた。
「なぜですか!?」
「裏で天使はシュマルが絡んでいる可能性がある。彼は絶大な力を持っている。その力を行使されたら正直僕らには勝ち目はない」
「くっ‥‥」
八色衆は言葉を詰まらせた。
嘗てクティソスたちに起こった悲劇を思い出したのだ。
「天使ハシュマルは僕らを監視し続けている。僕らは彼に目をつけられる行動を起こすことすらできない。何故ならアガスティアの葉という予言書を持っているからね。その予言書に何か書かれた瞬間に僕らは攻撃を受けることになる。それを理解してくれたスノウたちは敢えて僕らとは違う組織として活動する中で、クルエテ地下にある施設の調査や裏で神託者教会とハシュマルの繋がりも調べてもらう。僕らに代わってだ」
『!!』
「だからみんな、納得して僕らのやれることをやろう。今この世界には大きな3つの勢力がある。僕らが生き残るためにはひとつひとつ僕らのやれることをやっていくしかないんだ」
『‥‥‥‥』
「分かってくれたかい?」
皆無言だった。
無言で納得するしかなかった。
「お前らが納得しようがしまいが関係ない。おれはおれのやるべきことをやる。神託者教会だろうとディアボロスだろうとおれが全て潰す。もうこんな強者が支配するくだらない世界はまっぴらごめんなんだ」
『‥‥‥‥』
皆スノウの言った言葉に言い返すことができなかった。
なぜなら皆それを主張したかったからなのだ。
キッ‥‥
ライドウはスノウを睨んだ。
「失敗したら俺がお前を殺す。必ず潰せ‥」
ライドウが言った。
スノウはそれに目を見開いて笑顔で返した。
・・・・・
――神託者教会 ベルガーの執務室――
ベルガーに4本線の黒ローブの者が報告している。
「間も無く完成致します」
「たかだか1度戦っただけではないか。それで十分なデータが取れているのか?」
「はい。調査小隊で唯一生き残ったソニア軍司教の戦闘力を考慮の上、3倍の戦闘力を想定し補正しております。甲殻強度はさらに5倍の衝撃に耐えるところまで向上しております」
「そうか。それはいい報告だ。漆黒の騎士グイードとその両腕、ローガンダー、ガーフの3人さえ攻略できれば総統勢力など敵ではないからな。ヴァアティ騎士団も今や牙を抜かれた狼。長いものに巻かれてのらりくらりとしている徒に武装しているだけの集団だ。クティソスならば一掃できる」
「仰る通りで御座います。作戦はどのように致しましょう?」
「待て。間も無く神託が下される。それまでいつでも出撃できるように準備を怠るな」
「承知致しました」
4本線の黒ローブの者は執務室から出て行った。
「それはそうと何故‥‥」
執務室にひとりとなったベルガーは言葉を止めた。
(いかん。どこで誰が聞いているかも分からんからな。しかし何故ハシュマルは姿を見せんのだ。ここまでの筋書きを描いておいて、この我を捨てるなどあり得んぞ‥‥)
「部屋に不安が満ちていますよ」
「!!」
ベルガーが振り向くと、背後に天使ハシュマルがいた。
「ハシュマル様!一体どちらへ行っていらしたのですか?!」
「貴方にそれを言う必要はありません。貴方もそれを聞くことを許しません」
「も、申し訳ございません」
(ちっ‥‥)
ベルガーはイライラを心の奥底へと押し込んだ。
「アガスティアの葉による予言が出ました」
「そ、それはどのような予言なのでしょうか?!」
「それを聞くことも許しません。貴方は私の指示通りに動けばよいのです。それが主の思し召しです」
「も、申し訳御座いません」
「予言とは世界の選択を観ることです。世界の凡ゆる複雑な事象の影響を繋ぎ合わせた選択を観ることなのです。従って結果を観ることにはなり得ないのです。人族には預言者と呼ばれる者が山ほどおりますが、その全てが選択を観ることのできない、自身が持つ知識から想像しうる事象を可能性の限り発言し、当たったものだけを主張しているに過ぎません。人族のチカラで世界の繫りとその選択を観ることなど到底不可能なのですから」
「お、仰るとおりです」
ベルガーはハシュマル自身も予言するチカラがなくアガスティアの葉と呼ばれる予言書を頼っているじゃないかと思ったが、その思考も読み取られるのではと危惧し、心の奥底へと押し込んだ。
「貴方の総統勢力への接触の指示はとてもよい方向性を導き出しました。私の生み出した下等生物の進化行程が進んだことによって、総統勢力を打破する予言が新たに書かれたのです」
「!!‥‥そ、それは‥なんと言う良い結果でしょう‥‥」
ベルガーは結局自分の努力が良い未来を導き出しているのであり、ハシュマル自身が何かしたわけではないだろう、という意見が脳裏を過ぎったが、それも心の奥底へと押し込んだ。
「総統勢力を滅し、次いで大魔王ディアボロスのアディシェス勢力をも潰し、我が主をお迎えする世界、神の国を創造するのです」
「お、仰る‥‥通りですが‥‥ハシュマル様、その神の国には私も住まうことができるのですよね?」
「不敬なことを言うものではありません。貴方は只のニンゲンです。神の国に住まうことなど出来るはずがありません。それを想像することすら大罪に値します。今回は無知ということで許しますがね。貴方には千年王国を用意すると言ったはずです。そこで神に選ばれた者たちと共に暮らすことになるでしょう。ひとりのニンゲンとして、神に仕えるのです。そこでは上も下もありません。神への信仰だけが存在します。それほど幸福なことがありましょうか?」
「お、仰るとおり‥‥で‥ございます‥‥」
「分かればよいのです。それでは3日後、クティソス兵を集め屍の街デフレテへと出発なさい。そこで総統勢力を滅し、私に良い知らせを届けるのです」
「ハシュマル様はお出にならないのですか?」
「ニンゲン同士の戦いに干渉するなどあり得ません。私は選定者でもあるのです。神への信仰心を持つ者は強くなければなりません。神の咆哮を耐え抜いた総統勢力もまた神に選ばれた候補者たち。彼らには僅かな信仰心しか確認できませんが、もし彼らが勝ち貴方がたが負けるようなことがあれば、千年王国に住まう権利は彼らに与えられることになるでしょう。勿論、信仰心が一定の基準を満たさなければ、再び天罰が下ることになりますが」
「承知致しました。必ずやご期待に沿ってみませます」
「良い報告を待っていますよ」
ハシュマルはそう言うと光を放ちながら消えた。
しばし執務室内は静寂に包まれた。
ドガァァァァン!!
ベルガーは自身の机を思い切り蹴り上げた。
その衝撃で机は粉々に砕け散った。
(この我が千年王国の住人止まりだと?!‥‥しかも他の者と同列同等だと?!神託者教会を率いる我がか?!何故地位を貶められなければならんのだ!せめて千年王国を支配するチカラを与えるべきであろうが!!しかも ”私が生み出した下等生物” だと?!クティソスを生み、強化したのは我だぞ!いつもいつもいつもいつも言うばかりで、何一つ手を動かさんではないか!!)
ベルガーは怒りを抑えきれなかった。
そこには信仰心の欠片もなかった。
(まぁいい。とにかくまずは総統勢力の殲滅だ。アディシェス勢力は我が軍だけでは太刀打ちできん。ハシュマルの率いる主天使軍を出させ殲滅させる。人と人との争いには干渉しなくとも、人と悪魔の戦いには干渉しない理由はないはず。だがもしハシュマルが天使どもを出撃させないのであれば、最悪魔王勢力に寝返ってしまえばいい。死ぬよりマシだ)
バァン!!
ベルガーは扉を開けた。
「誰ぞあるか!」
タッタッタ!
「はっ!」
3本線の黒ローブを着た側近の兵がベルガーのもとへ素早く来て跪いた。
「至急幹部を呼べ。作戦会議だ」
「承知致しました」
ベルガーは出撃のため、神託者教会の幹部司教を招集した。
いつも読んで下さって本当に有り難う御座います。




