<ケセド編> 82.クティソスの誕生
82.クティソスの誕生
ハチとアラトゥ、そして8人の有色の甲殻を持つ子供たちは偽善の街クルエテで街長と会話する機会を持った。
孤児院の養母ステラも同席し、街長と話をした。
街長に軟化病を治す様を見せ、異形の姿になりつつも生き続けることができる救いをくれたとあって、ハチたちは感謝されるに至った。
だが、救われた甲殻化した者たちは共に暮らすことは難しいとして、ヒノウミの地下空間で暮らすこととした。
その活動は、屍の街デフレテ、痛みの街ポロエテでも同様に行われ、クルエテ同様ハチたちは感謝された。
だが、中には本来の人の姿に治せないのか、なぜ甲殻化したのか、など非難する者も少なくなかった。
必ずしもハチたちを歓迎する者だけではなかったのだ。
怒鳴られたり、物を投げられたりと、命を救ったことに対し、感謝ではなく不満で返す者たちを見て8人の有色甲殻の子供たちは人間の愚かさ、醜さを目の当たりにした。
だが、ハチはそのような人間たちを責めることはなかった。
子供たちには、”彼らも怖いんだ。怖いからああやって怖く無くなるように振る舞ってしまうんだよ” と諭した。
納得いかない子もいたが、そんなハチの姿を見て子供たちは育っていった。
半年ほど軟化病の人々を救い続けた結果、ヒノウミの地下空間にはかなりの甲殻化した者たちが生活していた。
顔の甲殻を上手く動かせず言葉はままならない部分はあったが、皆助け合って生活していた。
有色甲殻を持つサトたち8名はしっかりと話すことができ、他の者とは違う存在であったが、不思議と甲殻化した者たちの拙い言葉を理解し、サポートするようになっていて、甲殻化した者たちから慕われていた。
「ハチ様、最近軟化病がさらに増えているみたいだよ?」
「そう、デフレテではここ1ヶ月で100人以上ふにゃふにゃ病になったってさ」
「クルエテも同じらしいがで」
「ポロエテも同じくらいでてたってさ」
「そっか。一体何が起こっているんだろうね。地下空間はまだ余裕はあるけどこれが何年も続くようなら、別な場所に彼らが住めるようにすることも考えないとね」
「ハチ様、そんな場所あるの?この間、軟化病になった人を助けようしたんだけど、ゴミ投げられたんだよねー。怖いからあっち行けってさ」
「俺もあったで。酷いことすんなや!って起こったったがし」
「僕も当てられたー。痛くなかったけどさ。でも痛くないけど、ずっと物を投げられ続けるのは嫌だなぁ」
「やっぱりどこかの街で一緒に住むなんて無理だよハチ様」
ハチは困った表情を浮かべた。
「ちょっと対応を考えるよ。確かにニンゲンが住んでいる街で一緒に住むのは難しいからね。それと、もし怪我しそうな物を投げられそうになったら逃げてよいからね?」
「そんなのダメだよハチ様!」
「そうだぜ!救うのが俺たちの使命だろ!」
「そうだがで。俺らがこうしてヒノウミ様のご加護を得てハチ様とアラドゥ様に救われて頑張れとんのも全部この使命果たして恩返しするためだと思うんだでさ」
「大丈夫だってハチ様!俺らにはこんな頑丈な体があるんだもん!何を投げられたって平気だよ!」
「君たち‥‥」
ハチは嬉しかった。
子供がここまで使命感を持つほど立派に育ってくれていたからだ。
人族、特に人間は環境と感情の影響を受けて成長する。
複雑な分岐によって様々な個性豊かな性格に変化していく。
だがその殆どは利己的で残酷な性格となる。
普段は親切な者であっても、自分に危害を加えられた時や自分の身が危うくなる状況に陥ると途端に親切心は消え、自分だけが助かればよいという思考になる。
そんな中で自分のもとで、自分の立場を悲観することなく、危害を加えられても尚他者を救いたいと言ってくれる8人の子供たちを誇りに思っていた。
「それはそうと、ハチ様。そろそろ “甲殻化した人” とか “甲殻人” とか言いづらいし、何か嫌なイメージがあるのよねぇ。何とかならない?」
サトが突然提案してきた。
「なるほど。確かにそうだね。イメージが良くないのもあるかもしれないしね。とてもいい意見だね。流石はみんなのお姉さんだよ、サト」
「な、何さ!揶揄うんじゃないよ!」
サトは顔を赤ながら嬉しそうにしている。
「そうだなぁ。どういう名がよいかなアラトゥ?」
“アラトゥガ決メテ良イノカ”
「もちろんさ。言ってみれば君が生み出した種族って言っても過言じゃないんだからね」
“クティソス”
「クティソス?」
“ソウダ。我ラノ次元デ太古ニ使ワレテイタ言語カラ引用シタ」
「どんな意味なんだい?」
“固イ意志ダ”
「固い意志?」
「シャレやがね!甲殻の硬いと意思の固いをかけてるっちゅうことやがろ?」
「ははは!」
「面白ぉ!」
「いいじゃない!あたしたちのこの世界を救い続けるって固い意志がそのまま名前になっているってことでしょ?」
「甲殻が硬いって伝わるかもしれないよ?」
「ははは!そん時はそん時さね」
「かっこいいから大丈夫だよ!」
ハチは嬉しかった。
テュポーンとエキドナからケルベロスとして生を受けて以来、長い時を生きてきたが、生涯をかけて行ってきたことと言えば、ハーデースの命に逆らうことなく、意識を食い続けることだった。
常にひとりであり、家族と呼べる存在はなかった。
ただひたすら自分の食らう意識の悲鳴を聞き続けた。
だが今はハチとしてある意味生まれ変わり、家族のように大切な者たちに囲まれている。
ハチは生まれて初めて “幸福” というものを実感していた。
(皆、僕が守らなければならない家族だ。この世界がどうなったとしても、ハーデースが引き戻そうとしたとしても、僕は何より家族を優先して守り抜く)
・・・・・
それから数年が経過した。
有色甲殻を持った8人の子供たちは青年になった。
彼らはいつしか八色衆と呼ばれていた。
ハチは街に軟化病患者が現れては、八色衆と共にその場へ行き、その身を引き取ってアラトゥに救ってもらった。
クティソスとして生まれ変わった者たちは家族に別れを告げてヒノウミの地下空間か、そこからさらに南にあるヒジマという小さな街に住んでいた。
アラトゥはその合間をぬって分霊体のヌフスの消息を辿っていた。
だが、中々情報を得られずにいた。
一方ハチは幸福を謳歌していた。
アラトゥにも感情のような思考が生まれ、冗談や皮肉も言えるようになってきた。
実際には感情の振れというより、会話のパターンが予想通りに進むと生まれる暖かい雰囲気が心地よいといったもので、それもほんの僅かな感情の兆しだった。
僅かな兆しであっても感情というものと無縁である無機生命体であるアラドゥにとっては大きな変化だった。
八色衆も大きく成長した。
白の甲殻のサトは八色衆の副リーダーのような存在になった。
リーダーは意外にも黒の甲殻のイザナだった。
メンバーの中でも一際優しく勇敢で、誰よりも仲間を気遣う情深さがあった。
情深い一方で冷静さも持ち合わせており、それが皆に彼に対しリーダーとしての期待を持たせたのだった。
最も戦闘力の高い黄色の甲殻を持ったベンテは戦闘リーダーとなっていた。
と言っても戦いになることはまずなく、主に八色衆の皆を鍛える役目だった。
桃色の甲殻を持つベニはハチの世話役を担っていた。
8人の中で最も優しい性格の持ち主である上、人の心の内を読むのが得意でありハチのカウンセリングのようなことも行なっていたからだ。
それだけハチもベニに相談することが多かったのもあった。
灰色の甲殻のテツは計画を作るのが得意であり、皆に参謀と呼ばれていた。
周囲に気を配り、きちんと情報を仕入れた上で状況を判断する慎重さを持っていた。
緑色の甲殻を持つウズメは特に役割はなかったが、皆彼女に相談することが多かった。
寝るのが大好きで八色衆の中で最もやる気のない態度であったが、最も知能指数が高かったのだ。
相談するといつも面倒臭そうに答えるのだが、適切だった。
そして彼女はよくアラドゥとも会話していた。
それが彼女の知能指数を上げていたようだった。
水色の甲殻をもつカイトは未だに末っ子で甘えん坊だった。
何かと問題を起こすのだが、怒られる度に拗ねている。
そんなカイトではあったが、皆彼を可愛がった。
それだけ憎めない存在なのだ。
そして紅い甲殻を持つライドウ。
彼は八色衆の中でも一番真っ直ぐな男だった。
真っ直ぐで誰よりも仲間思いだった。
その思いが強すぎて、時にはクティソス以外と揉めることもしばしばだった。
だが、皆その強い思いを知っているため、揉めると彼を止めるが責めることはしなかった。
ライドウにとってはハチ、アラドゥ、そしてクティソスが何より大事だったのだ。
その頃になると、クティソスは1万人以上になっていた。
それだけ一つの種族として増えると世界はクティソスをひとつの勢力と見做した。
・・・・・
ある日。
ハチとアラドゥのいる部屋に突如訪問者が現れる。
「最近デカい面してケセドを歩き回ってんのはお前らか?」
「‥‥‥‥」
ハチはゆっくりと立ち上がった。
「そろそろ来る頃かと思っていたよ。大魔王」
現れたのはアディシェスを統べる大魔王、ディアボロスだった。
いつも読んで下さって本当にありがとうございます。




