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<ケセド編> 79.謎の地下施設

79.謎の地下施設


 コンコン‥


 「入れ」


 ガチャ‥


 漆黒の騎士グイードの執務室にノックして入ってきたのは金の全身甲冑をきた騎士、ローガンダーだった。


 「全員殺したかローグ」

 「いえ。殺したのは蟹人間2体です。他の蟹人間と狐の面をつけた男を取り逃しました」

 「お前が取り逃すとは。それほど強かったのか?たしかクティソス‥‥とか言ったな」

 「いえ。蟹人間は大したことはないです。取り逃した理由は狐の面をつけた男にあります。剣術に長けているだけでなく、魔法‥‥おそらくリゾーマタ使いですね。相当強力な稲妻魔法を使いました。お陰で俺の体は全身黒焦げになりました」

 「ほう。俺の感じたオーラは狐の面をつけた者だったか。リゾーマタを使える者となると、このゲヘナの住民の可能性が高い。その者がクティソスを操っているのかもしれん」

 「そうかもしれませんが、警戒すべき相手ではありません。俺は既に狐面の男の太刀筋は覚えました。魔法を繰り出すタイミングも注視すれば躱すことは可能です。それにそもそもグイード様であれば敵ではありません。脅威にはなりえません」

 「結論を急ぐな。我ら以外の勢力もいるのだ。特に大魔王ディアボロスとやらとの交戦になれば相当苦戦を強いられることになるだろう。そやつらを配下に引き入れられれば大魔王とも戦いやすくなる」

 「俺らの盾となる捨て駒を増やす‥ということですね」

 「迂闊なことを言うな。あくまで総統閣下がこの世界を支配するために必要となる騎士を増やす話だ」

 「これは失礼致しました。引き入れられたとして序列はヴァティ騎士団どもの下‥‥ということになりましょう」

 「それも実力を見てからだ。ところでそいつらが何故襲ってきたのか聞き出したか?」

 「いえ、聞き出す前に逃げられました」

 「そうか。次のしくじりは許さん。俺を失望させるな」

 「承知しました。それでは次回、彼らが攻めてきた際はその目的を聞き出した上で仲間に引き入れることと致します」

 

 そう言って金の騎士ローガンダーは執務室を出ていった。

 漆黒の騎士グイードは窓から外を見た。


 「全ては総統閣下の予言通りだ。我らは間違えてはならぬ。ローグといい、ガーフといい、少し油断が過ぎるな。あやつらにも総統閣下からの洗礼を受けさせるか。それも含め未来のお言葉を頂きに行くとしよう」

 

 そう言うと、グイードも部屋を出ていった。


・・・・・

 

 スノウはデフレテの上空にいた。

 

 「追ってこないようだな。やはりアガスティアの民たちはリゾーマタの魔法は使えないってことか。いや、風魔法を使えないだけかもしれない。調査は継続だな。それはそうと、あのクティソスたち‥‥まだそう遠くまで行っていないはずだ。ひとり捕まえて色々と吐かせるか。ハチは一体何を考えて別動隊を送ったのか。どうせこうやって聴き込むのも予知しているはずだろうし」


 スノウはゆっくりと飛行し始めた。


 (だが、仮にそうだとしてなんでこんな周りくどいことをしている?出発前に直接言えばいいだろうに。可能性としてはおれを援護するため‥‥いや、それはないか。だとしたらおれを囮にして別の目的を達成しようとした‥‥いや、ベンテやライドウを連れていく可能性だってあったんだ。まさか八色衆を囮に使って‥‥それもないか。いや、やつらにだけは真意を伝えていたのかもしれない。だとしたら、おれに何を期待しているんだよ‥‥)


 スノウは思考を巡らせた。


 「ああ!ややこしいな!あいつが予知できるってだけで全てがこんがらがる!クティソスとっ捕まえて吐かせよう!」


 スノウはクティソスらしき人影を探した。


 「いた」


 ドヒュゥゥゥゥン!!


 スノウは凄まじい速さで逃亡するクティソスのひとりに向かって飛んでいった。

 

 ズン!


 スノウは逃走しているクティソスの前に着地した。


 「!!」


 クティソスは驚いている。


 「よう」

 「‥‥‥‥」

 「ハチの指示か?」

 「オ‥マエ‥‥ダレ?」

 「?」

 (惚けている?演技か?)

 

 スノウは目の前のクティソスから攻撃のオーラが発せられているのを感じ戦闘体勢をとった。


 (こいつ、おれのことを聞いていないのか?ハチはこの状況を予知しているとしたら、ここでコイツにおれが攻撃を受ける状況も見ているはず。ならばコイツらにおれのことを伝えていてもおかしくない。もしくはコイツと戦うことがハチの思惑なのか?)


 「ソコ‥‥ドケ‥」

 「随分じゃないか。おれはお前らを助けてやったんだ。感謝されても邪魔者扱いされる筋合いはないと思うが?」

 

 バシュン!ドガァァン!


 クティソスはいきなりスノウに攻撃を繰り出した。

 強烈な正拳突きが繰り出されたが、スノウはそれを軽々と受け流した。

 

 ヒュゥゥン‥‥シュヴァン!


 受け流される力を利用してクティソスは足から飛び出ている刃をスノウに向けて振り上げた。

 だが、スノウはそれを余裕の表情でギリギリで躱す。


 ドォォン!


 スノウはそのままクティソスの後頭部を手で掴んだまま地面に押しつけた。


 「ハチの目的は何だ?おれを攻撃しろと言われたか?」

 「ハチ‥‥シラナイ‥‥ハナセ‥‥カエル‥‥」

 「知らないだと?」

 (どういうことだ?)


 グィン‥‥ダシュゥン!!


 クティソスは体を捻りながら爪をスノウに突き立てた。

 スノウはそれを仰け反って避けたが、押さえつけられた力が弱まった瞬間にクティソスは抑え込みから逃れ、距離を取った。


 (帰る‥と言ったな。こいつを追いかけていけば、ハチに辿り着くはず。そこで問いただすか)


 バヒュン!


 クティソスは逃げ出した。

 スノウはそれを少し見守ると浮上し始めた。


 ヒュゥゥゥゥン‥‥


 (こっちの方向は痛みの街ポロエテじゃない。偽善の街クルエテか。一体どうなってる?)


 スノウは上空からクティソスを追っていた。

 

 「ん?」


 他の場所からもクティソスが数体現れた。

 先ほどデフレテの総統のいる拠点に攻め込んでいたクティソスたちだった。

 8体ほどが集合して走っている。

 クティソスたちは疲れを知らないのか、全速力で走り続けている。

 1日近く走り続けた後、前方にクルエテが見えてきた。


 (やはりクルエテか。だが、何故ここへ?まさかハチはクルエテも攻めろとコイツらに指示を出したのか?ここにはライドウがいるんだぞ。‥‥待てよ、ライドウやベンテも知っていておれと共に来たのか)


 クティソスたちはクルエテの正面入り口からは入らず、横に逸れていく。

 そして少し離れた場所にあるいくつかの大きな岩が連なる場所の前で止まった。

 

 ゴゴゴゴ‥‥

 

 クティソスのひとりが岩のひとつを動かした。

 

 (秘密の入り口か。いよいよ怪しいな)


 岩を動かすと小さな洞穴が出てきた。

 クティソスたちは一応周囲を確認し、中へと入っていった。

 

 ゴゴゴゴ‥‥‥


 岩が閉まっていく。


 (なるほど。何か裏がありそうだな)


 スノウは入り口に着地し、しばらく待ってから静かに岩を動かした。


 ゴゴォォ‥‥


 自分が入れるだけのスペースを開けると中へと入っていった。

 すぐに地面を削って作られた階段が現れた。

 1分ほど降りていく。

 階段を下り切ると廊下が続いており、地下道を進んでいくと扉が現れた。

 スノウはライフソナーを展開した。


 (おいおい、何だこの生命反応の多さは)


 扉の向こうには至る所に生命反応があり、入った瞬間に見つかってしまうのは明らかだった。


 (だが入らなければ情報は得られないし、ハチに問いただすことも出来ない)


 スノウは少しだけ扉を開き、中を確認した。


 (何だ‥‥生命反応があるはずの場所にはタンクみたいなのが並んでる。無数に生命反応はクティソスの数じゃないのか?)


 スノウは中を確認した上で、慎重に扉を開け素早く中へ入って行った。

 そして死角になりそうなタンクの背後に隠れた。

 

 (何だここは‥)


 広い空間の中にいくつも円柱状の大きなタンクが並んでいる。

 

 「!!」


 スノウは驚いた。

 中には眠っているようなクティソスと、クティソスになり切れていないと思われる四肢欠損状態の甲殻生物が眠っているように揺れていたからだ。

 タンクはクティソスを生成する培養槽に見えた。


 (クティソスを作っている?!クローン技術か何かか?!いやクティソスで実験しているのかもしれない‥‥でも一体誰が‥‥あのクティソスたちはハチの配下の者じゃないのか?!)


 スノウはさらに慎重に進んでいく。


 (あれは?!)


 奥に厳重に閉じられた扉があった。

 スノウはエクステンドライフソナーとエクステンドマジックソナーを展開する。


 (何だ?!)


 ソナー魔法は何故か扉の向こうの空間を検知できないようになっていた。

 魔法が効かない現象は初めてであったため、スノウは困惑した。


 (強力な魔法障壁があるか、特殊な結界が張られているのかもしれない。いずれにしてもここには何か大きな秘密がある。ハチはこれをおれに突き止めさせるために調査隊として送ったのか?)


 「マダラ。聞こえていたら小声で反応しろ」


 スノウは小声でマダラに話しかけた。

 マダラは透明な状態でスノウに巻き付いている。


 「何だ我が主人よ」

 「お前、あの扉の向こうに何があるか感知できるか?」

 「無理だな」

 「何故だ?」

 「あれには特別な結界が張られている。しかも開錠条件はえげつない」

 「どういう条件だ?」

 「人族の命5人分だ」

 「は?!どういう意味だ?」

 「言った通りだ。人族の命5人分をあの扉に捧げるのだ。その上で特殊な呪文を唱えるとあの扉は開く」

 「ふざけてんのか?そんな開錠条件の結界なんてあるかよ」

 「特殊な呪文もえげつないぞ。普通に唱えると5分ほどかかる呪文を一言一句間違えてはならない。間違えればあの扉に命を奪われる。クティソスどもがあの周辺に近寄らないのはそのためだな。お陰で主人が見つからずに済んでいるわけだが」

 「どんな呪文だ?」

 「我が知るわけがないだろう?だが、ここにはあるのだろうな。その呪文が。そして恐らく厳重に保管されているに違いない。主人はあの扉を開けたいのか?」

 「分からない。だが何か重要な情報が眠っていると思うんだ」

 「確かにな」

 「ところでマダラ。何故お前はあの扉が特殊な結界で守られているのを知っているんだ?」

 「特殊な結界ではない。特別な結界だ。あのように命のエネルギーを軽んじて開錠の条件として使うのは高等な組み合わせの魔法で生成した施錠だ。だから特別なのだ」

 「‥‥‥。何故それが分かるんだって質問をしているぞ」

 「それは答えようがない。分かるものは分かるのだ」

 

 スノウは特殊と特別の違いの分かりづらい説明に加え、質問にきちんと答えない回答にもイラついた。


 「もう透明になって黙っていていいぞ」

 「そうか。それは残念だ‥‥」


 マダラはスノウに巻き付いたまま透過状態になった。

 スノウはしばらく培養槽の裏で様子を見ることにした。

 それから30分は特に動きはなかったが、その後、何も者かがやってきたのか、地下空間が慌ただしくなってきた。

 その人物がスノウの視界に入ってきた。

 黒のローブを着た者でクティソスたちは怯えたように後退りながら頭を下げている。


 (あれは‥‥金のラインが4本‥‥だがソニアじゃないな。金のラインの本数の違いにどんな意味があるのか分からないが、階級を表しているならクティソスの畏まりようから見ればそれなりに地位が高いことが窺える。ソニアの実力からみても納得だな)


 4本線の黒ローブの者が後からついてきた数名に話しかけた。

 他の者のローブは白いローブだった。


 「先ほどのクティソスの報告では今の能力では黒騎士たちには勝てないということだ。本隊であったソニア軍司教の小隊もソニア軍司教しか帰還出来ていない。まぁそもそもあの小隊は捨て駒だったのだがな。だが、ソニア軍司教は生き残り、クティソスは数体殺されている。少なくともクティソスをソニア軍司教の域まで強化しなければ今後の戦いには勝てないということだ」

 「となればソニア様のデータとサンプルを頂きたいとろこですな」

 「そうですねぇ。いっそのことソニア様を甲殻化してしまえばよいのではないですかねぇ。そこからサンプル取っちゃえば早いでしょうに」

 「迂闊なことを申すな。そんなことをしてみろ、神託者様が激昂されるぞ」

 「へぃへぃ」

 「返事の仕方も気をつけろ。貴様らを救ったのはスメラギと共に研究をしていたという点だけなのだぞ。結果を出せなければ貴様らも甲殻化だ」

 「滅相もございません。こうしてお仕事を頂けるだけで満足なのです。君も頭を下げるんだ」

 「はい‥‥すいません‥」

 「ふん。それで可能なのか?」

 「ソニア軍司教様とクティソス2〜3体を戦わせることでデータは得られます。また、帰還したクティソスの1体が金の騎士ローガンダーと戦ったデータが得られそうですので、現在甲殻化行程にある数体にそのデータを反映致します。ただ‥」

 「ただ何だ?」

 「甲殻化を強めますと自我を失う比率が高まります」

 「そんなことは分かっている!自我を失わないように甲殻化させる調整が貴様らの仕事であろうが!与えられた装置の使い方を知っているだけでそのローブを着られると思うな!その程度なら代わりはいくらでもいるのだからな!」

 「も、申し訳御座いません!」

 「2日だ。それ以上は待てん。いいな、ここで結果が出せなければ貴様らの内のひとりがこのラボから消えることになる」


 そう言うと、4本線の黒ローブの男は地下空間から出ていった。

 頭を下げてその姿を見届け、完全に部屋から出ていったのを確認すると、白ローブの者たちは緊張から解き放たれたように悪態をつき始めた。


 「言うだけなら誰でもやれるだろうに!あいつこそ代わりはいくらでもいるぞ!」

 「マジでやってられないっすよ。てかどうします?データとか言っているけど、勘で調整するだけっすよね?消えるのやですよ俺‥‥」

 「私も嫌ですからね!私は培養液の調整の担当です。指示通りやるだけですから、私には強化調整の責任がないということでお願いしますよ」

 「馬鹿を言え!連帯責任だ!私だけに責任を押し付けるつもりなら道連れにしてやるから覚悟しておけよ!」

 「ふざけんなよ!何であんたの責任まで被らなきゃならないんだよ!」

 「そうですよ!」

 「う、うるさい!とにかく2日しかないんだ!結果を出さなきゃ皆終わりだ!とにかく取り掛かるぞ!金の騎士と戦ったクティソスを連れてくるんだ!」

 「ちっ!偉そうに」

 「何だと!」

 

 揉めている白ローブの男3人をスノウは培養槽の陰から見ていた。


 (クティソス‥甲殻化だと?!こいつらがクティソスを作っていたとでもいうのか?!ハチたちはこいつらに作られた存在なのか?!‥‥辻褄が合わない。神託者ベルガーたちは元々アガスティアにいた。そいつらが密かにクティソスを作り、このヒンノムへと落としていた?!‥‥そうだとしても何故?!)


 スノウは答えが導き出せないと知りつつ思考を巡らせた。

 ”スメラギ” というワードが出たことを忘れてしまうほど困惑していた。


 (だめだ。情報が少ない。ハチを問いただすしかない。だが、確実に言えることは、とにかくソニアがクティソス化されることだけは避けなければならない。どうするか)


 スノウは隙を見て、地下施設を出ていった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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