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<ケセド編> 78.金の騎士

78.


 スノウは屍の街デフレテを訪れていた。


 (戻ってきたか。ヒンノムで最初に訪れた街、デフレテに‥‥。さて、この街を占拠した元アガスティア王の勢力とはどの程度のものかな‥)


 スノウは既に漆黒の騎士グイードとその配下の銀の騎士ガーフと戦っており、その際にソニアから元アガスティアの王騎士隊の者であることを聞いていた。

 偽善の街クルエテにはベルガーが統治する神託者教会が占拠していることを掴んだため、そのまま屍の街デフレテを占拠している元アガスティア王の勢力を調べることにしたのだ。

 スノウはアガスティアに降り立ってすぐに極刑となり、ゲヘナへ堕とされたため王家についての知識はなかった。

 そのため、どの程度の軍力を持っている勢力なのかを調べる必要があったのだ。

 既にグイードとガーフに面が割れているため、ウカの面をつけてフードを深く被って街中へと入っていった。

 街の中は意外にも以前と然程変わりはなかった。


 (やはり高圧フェンスの内側か‥)


 スノウは中心街である高圧フェンスの内側へと入っていった。

 

 (やはりな‥)


 高圧フェンス内に入ると途端に以前の雰囲気とは違う状態になった。

 至る所に全身甲冑の戦士が帯剣して歩いている。

 特にデフレテの住民に圧力をかけるような様子はなかった。

 むしろ住民を守っているかのように住民と会話している様子さえ窺えた。


 (占領しているんじゃないのか?)


 あまりキョロキョロと見回していると怪しまれそうな雰囲気もあったため、スノウはとりあえず時計台の方へ歩いていき、そこから周囲を観察することにした。


 (ここが元アガスティア王勢力の本拠地か)


 時計台に向かう途中でこの街で最も大きな宿の前に辿りついたスノウは宿屋の警備が異常に厳しい状況からそう考えた。


 (どうするか‥‥夜まで待って忍び込むか‥‥デカい宿だが、城に比べれば遥かに小さいからな。元王がいる部屋を見つけるのはそう難しくはないか。そのまま元王を殺してしまえばこの勢力は壊滅するんだろうか‥‥)


 スノウは取り敢えず、少し離れた場所にある宿に泊まることにした。

 そして夜中に忍び込んでシャーヴァル勢力の軍力や内情を探ることにしたのだった。


・・・・・

 

――真夜中――


 「さて、行くか」


 スノウは宿に併設されているレストランで夜食をとりながら周囲の会話に耳を傾けており、そこで幾つかの情報を得ていた。


 ・この街を統治しているのは総統を名乗っているシャーヴァル。

 ・総統の勢力はこの街を拠点にしているが、街の者たちとは友好関係にある。

 ・街長は元々このデフレテにいた者だが、総統の勢力が占拠して以降は宰相のような役割を担っている。

 ・総統の勢力には元王騎士軍とヴァティ騎士団の2大軍力がある。

 ・街長との盟約で総統の勢力はこの地を占拠する代わりにデフレテの住民を守る役割を担っている。


 (シャーヴァル総統ってのは人格者なのか?‥‥街の住民との共存をこんな短期間で成し遂げるとは。王騎士軍ってのはあの漆黒の騎士が騎士長だったんだろうな。それなりに強いが強敵には感じられなかったから王騎士軍ってのはそれほど軍力としては高くないのかもな。ヴァティ騎士団ってのもどれほどの戦力か分からないが、シャルマーニの話で言えば相当な戦力ということだった。一応警戒しておくか)


 スノウはウカの狐面をつけ、フードを被ってシャーヴァル総統の本拠地である宿屋を見下ろせる時計台の上に立っていた。

 サイトオブダークネスの魔法で夜目を利かせ、スメラギスコープを使って警備の状態を確認した。

 

 (なるほど、交代制か。昼間よりも警備が厚いな。シャーヴァル総統とやらはかなり用心深いやつのようだ。焦らず数日観察してから侵入するかどうかを判断した方がいいかもな)


 スノウはしばらく様子を見ることにした。

 全身甲冑の兵はだらけることなく警備を続けていた。


 (王騎士軍ってのはしっかりしているようだな。あの漆黒の騎士は余程立派な指揮官なんだろうな。規律がしっかりとしている)


 1時間ほど見張っていてスノウはそう思った。


 (ん?)

 

 突如僅かに異質な空気が風に乗って運ばれてきた。

 

 (この感じ‥‥知ってるぞ‥‥)


 シャ‥シャシャシャ‥‥


 「!!」


 スノウは目を見張った。

 シャーヴァル総統がいると思われる本拠地の建物の屋上に数体の影が着地したのだが、その姿がまさかのクティソスたちだったからだ。


 (おいおい!ハチのやつ、勝手なことしやがって!おれはまだベンテやライドウに何も伝えてないぞ?!何故攻撃させるんだよ!)


 以前このデフレテにいた時に襲ってきたクティソスたちとは違い、明らかに統率の取れた動きをしている。

 既にクティソスを率いているハチと八色衆、そしてその指示で動くクティソスたちの勢力を知っているだけに、統率の取れた動きが出来ることも知っていた。


 (どうする?止めに入るか?いや、理由がない。調査を命じておいて別部隊を送っていたハチにイラついているだけだな。総統勢力がここで壊滅しようがどうでもいい。むしろ関わらない方がいいか)


 スノウはそのまま様子を見ることにした。

 クティソスたちは窓から中の建物へと侵入した。


 バッゴォォォォン!!


 突如建物の中から爆音が発生した。


 ドッゴォォォン!!


 数体のクティソスたちが一斉に建物の外へと出てきた。

 出てきたというより、吹き飛ばされたかのような状態だった。


 ガタ‥‥

 

 クティソスが吹き飛ばされた窓から金色の全身甲冑の騎士が出てきた。

 

 ダシュン‥‥


 金の騎士は凄まじい跳躍を見せると吹き飛ばされたクティソスのうちの1体に斬りかかった。


 ズヴァン!!


 「あがぁぁぁ!!」


 クティソスの悲鳴が轟いた。

 金の騎士の一太刀でクティソスは胴体から真っ二つに切断されてしまったのだ。


 ダン‥‥


 金の騎士は周囲を見回すと次の標的に狙いを定めたのか、再度凄まじい跳躍を見せた。

 逃げるクティソスはあっという間に追いつかれ背後から今度は縦に真っ二つに一刀両断された。


 (どうする‥‥助ける義理はないが、一応ハチの配下のクティソスたちだ。見捨てるのも気持ちが悪い。もしかすると、おれとの連絡が上手く繋がらなかっただけで、連携しようとしていたのかもしれない‥‥)


 金の騎士は次のクティソスに狙いを定めて再度跳躍し始めた。


 「くそ!」


 ダシュン!!


 スノウは凄まじい速さで飛行した。


 ガキィィン!!


 「!!」


 金の騎士がクティソスに斬りかかったところへスノウは割り込んでフラガラッハで防いだ。


 「何者ですか?俺の攻撃を妨げるということはこの蟹人間の味方ということですね?」


 キィィン!ダゴォン!


 金の騎士はスノウのフラガラッハを弾いた。

 スノウはそれを上手く去なしつつ、庇ったクティソスに蹴りを入れて少し離れた場所へと吹き飛ばした。


 「俺の太刀を受けても怯まないとは相当な剣術の使い手ですね。その狐の面もふざけているように見えますが、実は素顔を隠すための面。つまり素顔を隠さなければならない理由があるということ。貴様、グイード様とガーフが殲滅した神託者教会の者ですね。グイード様が仰っていました。ひとりだけ異常な強さの者がいたと。どうやら俺は幸運に恵まれているようです」


 ダシュン!‥‥ブワン!


 金の騎士は凄まじい速さで距離を詰めるとスノウに強力な一太刀を振り下ろした。

 

 カカァァァン!

 バリバリバリ!!‥‥ドッゴォォォォン!!


 スノウは片手で握ったフラガラッハで金の騎士の攻撃を軽々と振り払い、続け様にジオライゴウを放った。

 

 「あがぁぁ!!」


 金の騎士は強烈な稲妻に打たれた。


 バシュゥゥゥ‥‥


 金の甲冑の隙間から煙が出ている。


 「なる‥ほど‥‥。グイード様が警戒を促すわけですね。この俺の太刀を軽々と去なし、さらにはこれほどまでの強力な魔法を繰り出すのですから」


 ズン!


 金の騎士は腰を深く落とし、剣を構えた。


 「貴様に敬意を払い、名乗っておきましょう。俺の名はローガンダー。総統直下の軍の司令官です。そして俺の通り名は‥‥」


 ブワン‥‥ヒュゥゥン‥‥


 「?!」


 スノウは奇妙な感覚に陥っていた。

 金の騎士の動きは遅いのに、あっという間に間合いを詰められてしまったのだ。

 しかもスノウがそれを避けようと後方に下がるのに合わせてさらに距離を詰めてくる。

 そしていつのまにか金の騎士の刃がスノウの首元に迫っていた、


 「ちっ!」


 キィィィン!!


 辛うじて金の騎士の攻撃を受け防ぐスノウは困惑していた。

 

 (何だこのゆっくり動いているように見えて凄まじく速い太刀は?!)


 「私の通り名は幻術師!」


 ブワン‥‥バシュン!キィィン!


 「くっ!」


 スノウは再度攻撃を受けたが、何とかそれを受けて後方に飛び退いた。


 ダシュン!!


 そしてそのまま真上へと飛び去った。


 「おや、逃亡ですか」


 金の騎士ローガンダーは周囲を見回した。


 「なるほど。既に蟹人間たちが逃げたので、ご自身も逃げたのですね。まぁいいでしょう。貴様の太刀筋は覚えました」


 金の騎士はそう言うと建物の中へと入っていった。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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