表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
816/1110

<ケセド編> 73.4つの街、4つの勢力

73.4つの街、4つの勢力


 偽善の街クルエテ。

 街中の者がクルエテの中央にある広場に集められた。

 かなり大きな広場であるにも関わらず、集められた人々はすし詰め状態であった。

 それだけの人数がこのクルエテにいることを示していたが、人々の表情は不安そのものでこれから自分たちの身に何が起こるのかを心配しているように見えた。

 それもそのはずで、周囲には黒いローブを着て両手に剣を持った者たちが一定間隔で広場の周囲に立っており、広場から逃げようとする者を斬ろうとしていたからだ。

 既に数名が斬殺されており、それが見せしめとなったのかそれ以降広場から出るものはひとりもいなかった。

 広場に面している奥に大きな建物があった。

 クルエテの住民が使う公共施設だったが、そこには別の者たちがいた。

 黒いローブを着た別の者たちが、建物の前に大きめの台が置いた。

 建物のさらに奥には時計台が見えている。

 時計の針は間も無く午後2時を指そうとしていた。


 スタ‥スタ‥スタ‥


 建物の中から1人台の方へと歩いてくる人物がいた。

 胸の部分に金色の線が3本入った黒いローブを着ている。

 大きめの台の手前に階段があり、それを登って台の上に立った。


 ボワァン‥‥


 ローブの者の喉のあたりに小さな魔法陣が出現した。


 「街の者よ」


 『ざわざわざわ‥‥』


 まるでマイクを使ってスピーカーごしで話しかけられているかのようにローブの者の太く低い声が広場全体に広がった。


 「この街はたった今から神託者ベルガー様の聖地とする」


 『ざわざわざわ‥‥』

 「神託者って‥‥イシュタル様のお言葉を伝えてくれる人ってことか?」

 「そんなわけないでしょ。イシュタル様は魔王になってしまったはずじゃない」

 「じゃぁ、どんな神のお言葉なんだろう‥」

 「きっと空に光と大地に緑を下さった天使様よ」

 「なるほど!確か‥天使ザドキエルと名乗られていた!この地に光を下さった天使様か。その天使様のお言葉を下さるなんてこの街に住んでいて良かったんじゃないか?」

 「そうだよ!」

 「俺たちは恵まれているんだ!」

 「神託者様!万歳!」

 「ベルガー様!万歳!」

 『神託者様!万歳!』

 『ベルガー様!万歳!』


 クルエテの住民たちに異常とも思える思考が巡り、伝染した。


 「今より神託者ベルガー様から直々にお言葉を賜る。静まれぃ!」


 その時、建物から金色に輝くローブを纏った者が出てきて大きな台の上に登ってきた。


 バッ!


 フードを取ると、目の部分だけ隠された美しい装飾を施したドミノマスクをした男の顔が現れた。

 先ほどの黒ローブの男同様に金ローブの男の喉元にも小さな魔法陣が出現した。


 「我は神託者ベルガーである!偽善の街クルエテの民よ!我の言葉に耳を傾けよ!我の言葉を受け入れよ!我の発する言葉は天に在わす最高神の神託である!我は天使様を通じて神託を得る者だ!神託を受け入れ行動せよ!さすれば永遠の幸福が訪れるであろう!この世界は信ずる者だけが住むことを許された約束の地、千年王国(ミレニアム)となる!神託を受け入れた者だけが、千年王国(ミレニアム)に住むことを許されているのだ!」


 ひとり、またひとりと手を組み神託者に向かって祈りを捧げ始めた。

 クルエテの民は全員が神託者ベルガーの信者となった。

 それは偽善の街クルエテがベルガー派の拠点となったことを意味していた。


・・・・・


 ベルガーたちはクルエテの中央広場に隣接している公共施設であったこの街で最も大きな建物をベルガー派の本部とした。

 クルエテの民たちに向けては、大聖堂と呼ばせた。


――大聖堂内の最上階の一室――


 ソファが向き合って配置され、奥には大きな執務机と豪華な椅子が置かれている。

 その椅子に座っているのはマーティス・ベルガーだった。


 「ベルガー様、先ほどの演説は素晴らしいものでした。感銘を受けましてございます」


 ベルガー派の元司教が愛想を振り撒きながらベルガーに擦り寄った。


 「見え透いた世辞など不要だ。それよりアガスティア大崩落の生き残り勢を調べろ。クティソスを数名調査に送れ」

 「か、かしこまりました」


 元司教は慌てたように部屋から出て行った。

 ベルガーは大きめの執務室でひとりとなった。

 顎を触りながら独り言のように頭の中を整理するために小声で話し始めた。


 「アガスティアから見えたゲヘナの大地‥‥4つの大きな街が見えた。その中で最も地の利がありそうなこのクルエテを奪るために最速で神の塔を登り、このゲヘナへ降り立った。無事にクルエテは占拠できたが、アガスティアの他の勢力を知ることが出来ていない。タヌキな教皇か、出来損ないの変人王か。教皇であれば財力はあれど武力に欠ける。ヴァティ騎士団がいたとしても、我のクティソス兵たちに敵うまい。一方の王には財力はそこそこだが、王騎士グイードがいる。やつは危険だ。不死身のグイードの名は伊達ではない。それに王直下の軍もあるという噂‥‥クティソス兵たちだけでは数で押し負ける可能性がある。いずれにせよ、攻めるなら他勢力の防衛体制が整う前だ‥‥」


 「それは少しばかり詰めが甘いですよ」


 ベルガーの背後から突如声が聞こえてきた。


 バッ‥スッ‥


 ベルガーは機敏な動きで振り向き後ずさってから膝をついて首を垂れた。


 「これはハシュマル様」


 ベルガーの背後に突如現れたのは天使ハシュマルだった。


 「マーティス。私の助言に忠実に従い首尾よく進めているようですが、焦ってはいけません。まずはこの地で守りを固めなさい」

 「かしこまりました。それでこの地に降り立った他の生き残り勢はどういった者たちなのでしょうか?」

 「イーギル・グル・シャーヴァル王と王騎士グイードが率いる1000の強靭な軍隊、そしてヴァティ騎士団300の合計1300の武力を持つ勢力です。シャーヴァルは総統を名乗り、既に屍の街デフレテに居を構えています」

 「王が!」

 (あのタヌキ教皇め‥‥変人の王に押し負けたか‥‥)

 「そうです。繰り返しますが、先ずはこの地で守りを固めることです。彼らにはまだ十分な情報がない。つまり、彼らもまた守りを固めるしかないのです。そして恐らく今クティソス兵たちを差し向けても数日はかかる道程です。その間にシャーヴァルたちは防衛体制を整えてしまうでしょう。守りを固めた要塞を攻めるのは難儀。その隙に別の勢力からこの地が攻められる可能性もあります。ならばこちらも守りをしっかりと固めるのが良いですね」

 「承知致しました。それではしっかりと防衛体制を整えると致します。もうひとつ質問してもよろしいでしょうか?」

 「勿論です」

 「このゲヘナの地の住人で我らの脅威となりうる存在とその者の拠点をご存じならお教え頂きたいのですが‥‥」

 「この地の東端にある城を有する巨大な街、無感動の街アディシェスに居を構える大魔王ディアボロスです。その者こそ、この地を守護する天使ザドキエルを誑かした張本人です」

 「何ですと?!ザドキエル様が?!」

 「驚くのも無理はありません。私も騙された者のひとりです」

 「ハシュマル様まで‥‥何ということなのでしょう!」

 「いつからザドキエルが神を裏切っていたのかは分かりません。いずれ彼本人に聞くしかありません。アガスティアに神の咆哮(メギド)を撃つに至った経緯すらザドキエルとディアボロスの計略ではなかったかと思うほどです」

 「ま、まさか?!それではアガスティア大崩落そのものもザドキエル様と魔王めの計画ということになるのでしょうか?」

 「憶測に過ぎませんが。天使の心は読むことができません。従って、直接問い正しに行かねばなりません。ですが、それもまた今焦って優先すべきことではありません。先ずは我れらが陣営の守りを固めるのです。盤石となった居は要塞と化します。行動するのはそれからでしょう」

 「仰せのままに」

 「頼みましたよベルガー。神の御心に従う者は最早貴方しかおりません」

 「はっ‥」


 天使ハシュマルは姿を消した。


 (シャーヴァル王が残ったか‥‥)


 ベルガーは豪華な椅子に腰掛けた。


 ドサ‥‥


 (あの変人王にジェイコブどもがついたとなればハシュマル様の仰る通り、守りを固めねばなるまい‥‥あやつの手駒、不死身のグイードは人ではないという噂もある。冥界の住人とも死せる騎士とも言われるほどだ。まぁハシュマル様の手にかかれば赤子同然ではあるがな。それより天使ザドキエル様が魔王の手に堕ちたとは‥‥。ということはこの地における最大勢力はやはり大魔王ディアボロス率いる者たちということになる。我も手駒を増やさねばならない)


 ベルガーはペンダントヘッドを手にとった。

 怪しく赤く光る宝石が埋め込まれた豪勢な作りのペンダントだった。


 (この洗脳の石があれば、クティソスはいくらでも増やせる。いや、ディアボロスの配下の悪魔どもすら我の配下に置くことも可能であろう)


 ベルガーは立ち上がり、窓から外の景色を眺めた。


 「ククク‥‥この地を手にするのは我だ。真の千年王国(ミレニアム)を築くのだ」


 不敵な笑みを浮かべつつベルガーは遠くを見ていた。


・・・・・


 その視線の遥か先の上空にふたつの人影があった。


 「4つの街に4つの勢力。まるで謀られたかのようだな」

 「おや、今更ではありませんか?」

 「相変わらず貴様ら天使は興を削ぐの得意だな。偶然を装って言葉遊びを楽しむ余裕はねぇのかよ」

 「偶然を装った言葉遊び。それのどこが楽しめるのでしょう?」

 「話が通じねぇな」


 ヒンノムの上空でそんな会話をしていたのは大魔王ディアボロスとチベットの修行僧の姿をした天使ザドキエルだった。


 「ふん‥まぁいい、今更だな。だが計画通りじゃねぇ。なぜ神の塔が図面と違うんだ?まさかお前の手引きじゃねぇだろうな」

 「有り得ませんよ」

 「お前じゃなけりゃ、ハシュマルの仕業か?」

 「それもないでしょう。彼は私に忠実でした。今頃私を裏切り者と主張しているかもしれませんがね」

 「そんなことはどうでもいい。とにかくあの塔を何とかしねぇと計画そのものが水泡に帰す可能性があるんだよ。これは彼の方の目的のために絶対に達成必要な計画なんだ。失敗は許されねぇ。お前の手であの塔をなんとかしろよ」

 「それは難しいでしょう。あれが何で出来ているのか、知らない貴方では有りませんでしょう?」

 「言い訳なんざ聞きたくねぇんだよ。何で出来ていようがお前はあれを何とかしろ。あれはお前の責任範囲だからな」

 「まぁいいでしょう。あれにはニンゲンの力が必要ですが、それも見越した今回の誘導。上手く踊ってくれるはずですよ」

 「策に溺れなきゃいいがな。それじゃぁ俺は行くぜ。ベルフェゴールのケツ拭きが残ってるからな」


 そう言うとディアボロスは転移魔法陣を出現させ、その中へと消えた。


 「忙しない男ですね。さて、約束したからにはきちんと仕掛けをしなければなりませんね」


 そう言うとザドキエルも消えた。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ