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<ケセド編> 71.ポロエテへ

71.ポロエテへ


 「正気か?」

 「ハチ様が許可して下さっている。自分の心配をしたらどうだ?」


 スノウたちはハチ、そしてクティソスたちと共に痛みの街ポロエテに向かっていた。

 その道中で常にスノウを睨みつけている紅い甲殻を持つライドウにとうとうスノウがキレた。

 それを待っていたかのように戦闘体勢入ったライドウにスノウも戦闘体勢をとったが、共闘関係になったことを思い出し冷静さを取り戻した。

 だが、ライドウは戦闘体勢を解くことはなく、今にも攻撃を繰り出そうとしている。

 ハチもそれを黙って見ていた。

 スノウはハチの顔を見たが、軽く頷いていた。


 (いいんだな?)

 

 スノウの心の問いが聞こえているかのように笑ってみせた。

 フラガラッハの柄に手をかけていたスノウはフラガラッハを抜かずに拳闘の構えをとった。


 「お前、俺を舐めているのか?剣なしで俺に勝てると思っているなら死ぬぞ」

 

 スルルル‥‥


 ライドウの両手の甲から刃が伸びてきた。


 (おいおい‥‥そういえば、前に戦った際も手の甲から刃を出していたな。剣技によほど自信があるんだな)


 「スノウ。加勢が必要なら手伝うぞ」

 「いや、不要だ。それにあんたが加勢してあいつを負かしたとしても、あいつは負けを認めない。この面倒なやり取りは続くってことだ。それにそもそもおれはあいつに負けない」

 「そうか、余計なお世話だったな。すまなかった。忘れてくれ」


 カディールは他のクティソスたちを牽制するために敢えて言った。

 スノウはそれを汲んで答えた。

 武人カディールの威圧を意識したのか、他のクティソスたちは黙って見ていた。


 「お前、またその蛇を使うのか?」


 ライドウは透過状態でスノウに巻き付いてマダラを指して言った。


 「安心しろ。使わない。防御もさせない」

 「どうだかな。だが、使いたければ使うがいい。それに頼らざるを得ない弱さを皆に示すチャンスだ。それに俺はその蛇がいても負けることはない」

 「そうかい」


 スノウは全身に波動気を漲らせた。


 「いくぞ」


 ダシュン!シュヴァァァン!


 ライドウは凄まじい速さでスノウとの間合いを詰め、手の甲の刃を振り下ろしてきた。

 同時に炎魔法を放ちながら蹴りも放つ。


 フワリ‥‥


 だがスノウはそれをギリギリで躱す。

 ライドウはさらに刃の突きを凄まじい速さで放つ。

 だが、スノウはそれを再度ギリギリで躱す。

 

 「くっ!これは避けれまい!」


 ライドウは刃の突きを連続で放つ。

 

 ヒュヒュヒュヒュヒュ!


 だがスノウはそれを全てギリギリで躱した。

 ライドウはさらに刃の連突きを繰り出す。

 全てスノウに躱されてしまうが、その直後突きと同じ速さでスノウの腹部に向けて横振りの斬撃を放つ。

 

 (この間合いで腹にこの斬撃は躱せるはずがない。例の透明な蛇を使うのだろうが、その蛇ごと斬り裂いてやる)


 ジャキン!


 「!!」


 ライドウは斬撃を止められてしまった。

 しかもスノウは人差し指と中指の2本の指だけでライドウの斬撃を止めていた。

 スノウは波動気を指に探し込み集中させ、まず螺旋でライドウの斬撃を弾き、勢いを殺しつつその直後流動に切り替えて斬撃の力を受け流し抑え切ったのだ。

 ライドウには何が起こったのか分からなかった。

 ただ、僅かだが手に2段階の衝撃が感じられた。

 

 (何が起こった?!)


 ライドウだけでなく、他の八色衆のクティソスたちも何が起こったのか分からなかった。

 

 「何が起こったのか分からなかったようだな」


 カディールが八色衆たちに話しかけた。

 八色衆はそれに答えなかった。

 この回答如何で自分たちがスノウやカディールの下に位置する存在になると思った彼らは何と答えれば威嚇出来るか分からなかったのだ。

 

 「波動気と呼ばれる氣を使ったのだ」


 カディールはバスケットボール大の岩を軽々と持ち上げ、真上へ放り投げた後、人差し指を上に向けて八色衆たちの前に見せた。

 

 バカァン!‥ドドスン!


 『!!』


 カディールの人差し指に落下してきた岩は真っ二つに割れて地面に転がった。

 地面に落ちた音から岩がそれなりの重さがあることを示していたのだが、人差し指に力が入った様子はなく、触れた瞬間に岩が勝手に割れたように見えた。

 

 「俺は力を込めていない。氣の反発する力を利用して落ちてきた岩を弾くと同時に、二つに割れるような衝撃をこの岩に放ったのだ。岩は表面に対する衝撃だけではこのように割れない。内部に伝わる衝撃となって放たれたことによって岩は割れたのだ。スノウはこの氣を使ってあの紅い者の攻撃を止めた。この意味が分かるか?」

 『‥‥‥‥』


 クティソスたちは黙ってしまった。


 「貴様らの甲殻がどれほどの強度かは分からないが、空氣の振動のように内部へと伝わる力が放たれればお前たちは硬い甲殻は傷つくことなく、内部が破壊され絶命する。そういうことだ」


 スタ‥スタ‥スタ‥


 「すごいねぇ、みんな。流石はスノウ、そして武人カディールだね。この世界にはまだまだ強い存在がいるということだよ。でもね、落ち込むことはないよ、みんな。みんなもこれからもっと強くなれるってことだからね」


 ハチが歩み寄ってきて言った。


 「ハチ様‥‥」


 イザナが悔しそうな表情で言った。

 スノウは膝をついて項垂れているライドウの側に近づいて声をかけた。


 「降参か?」

 「くっ‥‥」


 言葉にならない言葉が発せられ、ライドウは立ち上がりスノウを無視しながら前へ歩き始めた。


 (素直じゃないなぁ)


 スノウは頭を掻きながら思った。


 「流石は主人(あるじ)だな。やはり我が仕えるべき存在。今後のお前の成長が楽しみだ」


 マダラが透過状態のまま小声で話しかけてきた。


 「マダラ‥‥お前、本当(ほんと)いつも上からだよな。おれの下僕とか言って、いつかおれを食おうとか思ってんじゃないだろうな」

 「主人を食うなどあり得ぬ。仮に美味かったとしてもな」

 (何だこいつ意味わからん‥)


 微妙な雰囲気になってしまった中、ハチが空気を切り替えようと思ったのか発言した。


 「さぁ、先に進もうか。今日中にポロエテに入りたいからね。もしかしたらアガスティアのどこかの勢力が既に街を占領しているかもしれないし」

 『は!』


 八色衆は返事をして前に進み始めた。

 イリディアがハチの横に来て小声で言った。


 「そなた、あの紅い者を敢えてスノウと戦わせたな?。スノウが圧倒して勝つビジョンが見えていたのだろうが、目的は違う。妾たちと共闘する意味を知らしめるためじゃろう。じゃがもう一つ裏の意図があるな?」

 「さぁて、何のことかな」

 「大方、クティソスたちを鍛えるためだとは思うがのう。恐らくこれから直面する戦いの中でクティソスたちが生き残れない未来でも見たのか。共闘の目的も自分たちが生き残るために妾たちを利用しようとしている‥‥ともとれるのう」

 「中々鋭いね。でも共闘の理由は違うよ。僕たちは共に戦うべきだと思ったから歩み寄ったんだ。恐らく僕の命はそう長くない 。その時にこの世界を誰の手に渡すべきかを考えたらスノウ君に行き着いた。僕らが生き残るためじゃない。あくまでこの世界をよりよくするための戦いだと思っているからね。それを託すに相応しい相手がスノウ君だと思っている」

 「どうとでも言えるな。まぁ悪意がないのは感じ取れる。今のところは信じてやろうではないか」

 「フフフ‥ありがとう」

 (それだけじゃない けどね)


・・・・・


 スノウたちは痛みの街ポロエテに到着した。

 既に陽が落ちてからかなりの時間が経っており、恐らく時間にして真夜中と思われた。

 街は静まり返っており、中へ進むと時計台が見えてきた。

 感覚通り、時間は既に夜中の2時だった。

 ポロエテは屍の街デフレテ、偽善の街クルエテ、無感動の街アディシェスの4大都市として栄えている場所だが、他の3つの街と比べて比較的規模は小さい。

 比較的過ごしやすい気温で落ち着いており、海に近いため海の幸に恵まれ食べ物には困らないのだが、その住み心地の良さが住民に長閑な暮らしを根付かせているため、他の街に比べて向上心が低く生活レベルを変えようとする努力や工夫などが見られず規模が広がらないのだ。

 他の街との交流、貿易もあるのだが、欲がないため海の幸も大した儲けもなく売ってしまう。

 

 「どうやら他の勢力に占領されていないようだね」


 ハチが街の様子を見て言った。


 「それではここを我らの拠点とする計画は変更せずに済むということですね」

 「そうだね。まずはこの街の長と話をしようか。これから勢力争いになるとは思うけど、大規模な戦争になるのかは分からない。先ずはとりあえず平和的にここを拠点にしたい」

 「分かりました。それでは我々が‥」

 「いや、おれたちが行こう。お前たちでは警戒されるだろう?お前らが街の住人を殺しているのを見たからな」

 「やっぱりそう見えたんだね。でも実は違う。まぁいいよ。それじゃぁ街の長の所へは僕とスノウ君、それとベニの3人で行こう。事情は後で説明するけど、僕らが怖がられていないのが分かるはずだよ」


 納得できないスノウだったが、とりあえず3人で街の長のもとへ行くことにした。

 高圧フェンスの中に街長の家はあった。

 夜に支配されたヒンノムでは4大都市の中心にある高圧フェンス内はネオン眩しいはずだが、流石に夜中2時ともなればそのほとんどが消えていた。


 ファァァン‥‥


 変わった音がしたが恐らくこの家のチャイム音なのだろう。

 その後すぐに中から人が出てきた。

 出てきたのは背の低い女性だった。


 ガチャ‥


 「こんな夜中にどなたでしょうか‥‥はっ!あなたは!!」


 出てきた女性は驚いて中へ入って行った。


 (おいおい、やっぱりか‥)


 スノウがハチに文句を言おうとした瞬間、再び家の扉が開いた。


 ガチャ‥‥


 中から出てきたのは身長は低いが立派なヒゲを生やした屈強な姿の男だった。


 (ボディガードか?人族がハチやクティソスに勝てるわけがないだろうに。これから戦闘になるとしたら、おれはどっちの味方をすればいいんだよ、全く‥)


 呆れた顔のスノウを余所に屈強な男は膝をついて礼をした。


 「?!」

 「これはハチ様!そしてベニ様も。よくお越しくださいました。さぁ中へどうぞ」

 「こんな夜中にごめんね」

 「何を仰いますか!いつでもお越しくださってよいのですよ。ささ、中へ」


 案内されるままハチとベニは中へ入って行った。

 スノウも中へと入っていく。

 ここは街長の自宅らしく、少し大きいが普通の家だった。

 ハチたち3人は居間に通された。

 そこにはハチが座る専用と思われる形状のソファがあった。

 

 「さぁ、こちらへどうぞ。お茶を用意致します」

 「いや、いいんだ。ちょっと急いでいてね。すぐに話をしたいんだけどいいかい?」

 「勿論でございます。おい!お茶を持ってきてくれ」

 「お茶はいいって言ってるのに」

 「いえ、話はできますので。それに家内もハチ様、ベニ様が来られて喜んでいますしね」

 「ありがとう」

 「ところでそちらの御仁は?」

 「ああ、彼はスノウ君。スノウ・ウルスラグナ君だ。とても強い戦士でね。今僕たちと共に行動してくれている大切な仲間だよ」

 「そうでしたか!これはご挨拶が遅れました、スノウ様。私はヨロズ・キンゴロウと申します。見ての通りホビットです。スノウ様は人間とお見受け致しますが、もし違っておりましたらご容赦ください」

 「あ、いえ、人間です。えっと初めまして、ヨロズさん。よろしくお願いします」


 よく分からない展開にスノウは言葉を詰まらせながら挨拶した。

 ヨロズ・キンゴロウというホビットは街長故か落ち着いた雰囲気で凛々しい表情をしていた。


 「さて、本題に入りたいんだけどいいかな」

 「勿論です」

 「空から巨大な大陸が降ってきたのは知っているよね」

 「やはりその絡みでしたか。はい、勿論存じ上げています。あれが落下した際の衝撃で街外れにある家がいくつか破損しましたので。幸い距離がありましたから大きな被害にはなりませんでしたが」

 「それは良かった。アディシェスは結界があったから衝撃は免れたけど、周辺にはそれなりの影響があったはずだと思っていたから心配していたんだ。それで、その大陸、名前はアガスティアと言うんだけど、そこに元々住んでいた者たちが強大な力を持って2つの勢力としてこのヒンノムを支配しようとしてくるんだよ」

 「何ですと?!」

 「これからこのヒンノムの支配権を争う戦争が始まるんだ。戦争と言ってもこの世界が滅ぶような戦いにはならないけどね。そして今後、ヒンノムの覇権を争う勢力は4つになる。ひとつはアディシェスだね」

 「ディアボロス率いる悪魔の軍隊ですね」

 「そうだね。そしてもう2つがアガスティアに住んでいた勢力だ。まだどんな勢力なのかはっきり視えていないんだけどね」

 「そして残るひとつがハチ様たち、ということですね」

 「流石はキンさんだ。‥‥!」

 「どうなされましたか?」

 「いや、ちょっと未来が視えてしまってね」

 「大丈夫でしょうか?」

 「あ、うん‥‥それで話を続けるとね、それらの勢力は4大都市を拠点にすることになるんだ。アディシェスは既に拠点があるから、他の3つの勢力がこれからデフレテ、クルエテ、そしてポロエテを拠点にすべく占拠しに来るはずなんだ」

 「何ですと!」


 ヨロズは顎髭を触りながら険しい顔になった。

 

 「それでハチ様たちはこのポロエテを拠点にされたいと言うことですね」

 「うん」

 「承知致しました。我らは幸運です。得体の知れない者たちが占拠するということは少なからず弾圧があるでしょう。争えば死人もでるはずです。私の副業としてはクルエテ、そして小さいですがデフレテにも店がありますので心配ではありますが、可能な限り従業員を引き上げてポロエテに避難させます。勿論、この街の総力をあげてハチ様たちを支援させて頂きます」

 「ありがとうキンさん」

 「もしかするとハチ様たちはアディシェスから来られましたか?」

 「そうだね」

 「それでは私の息子とは会われませんでしたか?あいつは無鉄砲なところがありまして、私の忠告も聞かずにアディシェスに店を出すんだと息巻いて出て行ったきり帰ってきていないものですから‥‥」


 スノウはピンときた。

 アディシェス城の地下牢に閉じ込められていた際に別の牢にヨロズと名乗った若いホビットの商人がいたことを思い出したのだ。

 そして彼の従者らしき者がディアボロスの配下のオロバによって奇怪な形へと姿を変えられてしまったことと、その後連れられて行ったことを思い出した。


 「もしご存じであれば教えて頂きたいのです。アディシャスにまだいるなら使いを送ってここへ呼び戻そうと思っております」

 「あの‥」


 スノウは言葉に詰まりながらも説明することにした。

 スノウの説明を聞き終えたヨロズは険しい顔になったが、すぐに凛々しい表情へと戻った。


 「そうでしたか。お話下さってありがとうございます。生きている可能性が1%でも残っている限り、帰ってくることを信じております‥‥。さて、この街で一番高級な宿で良い部屋を人数分確保致しましょう。まずはそちらへお泊まり下さい。明日以降、ハチ様たちが拠点とされる本部の建物をどこかに工面致します。また必要な物資や武具、ハチ様たちの部下となって働く戦士たちも集めましょう」

 「ありがとう。でも戦士は不要だよ。僕はこの街の人たちを犠牲にするつもりはないんだ。それにスノウ君に加えて魔女イリディア、武人カディールも仲間に加わってくれているからね」

 「あ、あの魔女と武人が?!それは心強い。ですが、裏切りはしないでしょうか?」

 「裏切るかもね。でもそれは僕らが負けそうになった時かな。でも負けるとは思っていないよ。なぜならスノウ君の仲間もいずれ加わってくれるはずだし、彼の仲間は桁外れに強いからね」

 「!!」


 スノウは驚きの表情を見せた。

 ハチはレヴルストラの仲間のことを予知で視ていたのだ。


 「それならば私は物資のご提供に注力致します。さぁ、早速宿までご案内しましょう!」


 ヨロズはハチたち、そして他の八色衆とイリディア、カディールを引き連れて宿へ案内してくれた。

 面々はとりあえず宿で休むことにした。

 スノウは自室のベッドに横たわり今後のことについて考えていた。


 (この世界の覇権‥‥興味はないが、この世界の住人たちにとっての最良な形となるようにはしたい。アガスティアの勢力は恐らく神託院フラターとイーギル王家だ。さほど強力な軍力はない気もする。となれば最大の敵はディアボロスだな。そして早くみんなと合流しなければ‥‥。いや、ハチは既に予知しているんだ。いずれ合流することは間違いないんだろう。となれば今できることをするまでか‥‥)


 スノウは少し安心したのか、そのまま眠った。




いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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