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<ケセド編> 69.奇妙な合流と別離

69.奇妙な合流と別離


 (あと100メートル‥‥)


 スノウたちの前方に数人の人影が見えてきた。

 反転している万空寺の建物の陰になっている薄暗い場所を進んできているため、はっきりとは見えないが、明らかに8人くらいの人影だった。

 

 「8人じゃな」

 

 イリディアがライフソナー魔法で前方の人数を捉えた。


 (8人か‥‥)


 スノウは少し落胆していた。

 仮に向かってきているのがレヴルストラメンバーであれば6名であるはずだったからだ。

 可能性が低いと分かってはいたが、いざ確定すると落胆してしまう。

 同時に前方からゆっくりと近づいてくる者たちが何者なのかが分からなくなり、緊張が走る。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 「前方から敵意は感じられないが、いつでも戦う準備は整っている。お前が合図を出せスノウ」


 小声で話しかけてきたカディールの言葉にスノウは軽く頷いた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 薄暗い場所から間も無く陽の光が差す場所へと現れる。


 サッ‥サッ‥サッ‥サッ‥


 足音が聞こえる距離まで迫ってきた。

 そしていよいよその姿が見える場所に来た時、スノウは目を見開いて驚きの表情を見せた。


 「な、何であいつらが?!」


 姿を現したのはクティソスたちだった。

 黒い甲殻のイザナと紅い甲殻のライドウ、それに加えて黄、灰、水、白、桃、緑の色の甲殻のクティソスまでいる。


 (どうする‥‥追い返すか?!だが、おれと戦う目的でここへ来たのなら、夢結界の話をしても中へ入ってくるはずだ。いや、一度おれを外に出させて結界の外側で戦うという交渉もありか。だがそうなるとメグリやイリディアたちを外に出すことが出来なくなる。いや、イリディアのレベルになれば教えれば空廻(クーエ)くらいは使えるようになるか。ならば決まりか。交渉して一旦外に出してもらう‥‥ちょっと待て。こいつらが空廻(クーエ)を使えなければ交渉の意味がない‥‥どうするか‥‥早く決断しなければこいつらは結界内に入ってきてそのまま戦闘になる)


 ガチャ‥


 スノウはカディールたちに待機するよう合図した。

 フラガラッハに手をかけたままゆっくりと前へ進むスノウは夢結界壁ギリギリのところに立ちクティソスたちに話しかけた。


 「珍しい客人が来たもんだな」


 紅い甲殻を持つライドウが一歩前に出て言った。


 「スノウ・ウルスラグナ。あの時の借りは忘れてないぞ」


 その言葉を聞いてカディールがスノウの横に来て耳打ちした。


 「知り合いか?僅かに敵意があるようだが、やるか?」

 「いや、まだだ。様子を見たい」


 スノウはそう言うとライドウに言葉を返した。


 「何か貸した覚えはないけどな。だが、戦いたいとでも思っているならやめておけ。ここには特殊な結界が張られている。この線よりこっち側へ入ってきたなら2度とこの線を跨ぐことは出来なくなるだろう」


 スノウは話を続けながら足で地面に結界壁を示す線を引いた。

 するとライドウの肩に手を置いて下がるよう促したイザナが前に出て話し始めた。


 「調子に乗るなスノウ・ウルスラグナ。結界などとデマカセを言って我らが足を止めるとでも思うのか?お前は我らによって生かされた存在。今その場に立っていられることを自分の力だと思っているならせっかく陽の光を得たヒンノムで次の朝を迎えることはないと思え」

 「よく言うぜ。おれに完敗しただろう?仲間を引き連れてリベンジしに来たんだろうが、おれもひとりじゃない。甘く見ていると次の朝陽を拝めなくなるのはお前らの方になるぞ」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ‥‥


 スノウたちとイザナたちの間に緊張が走る。


 「おやおや、君たちは本当に仲がいいんだね」

 『!!』


 クティソスの背後からさらに別の者の声が聞こえた。

 スノウはその声に聞き覚えがあった。


 スタ‥スタ‥スタ‥


 現れたのはケルベロスの成れの果てのハチだった。

 その姿を見るやイリディアがスノウの背後に立ち、小声で耳打ちした。


 「そなたあれと知り合いか?」

 「ああ、ちょっとな」

 「あれは冥府の番犬ケルベロス。昔に聞いた姿とは違うようじゃが、間違いない。しかもあれは妾の感知魔法をすり抜けておる。気をつけよ」

 「分かってる」


 ハチはクティソスたちに少し下がるよう目で合図をした。

 その指示を受けて、8体のクティソスは道を開けるようにして後ろに下がった。


 「おや、流石はスノウ。強力な仲間を得たね。かなり危ない者もいるけど」

 「ああ。だから戦闘になればお前らは無事じゃ済まない。それ位は分かるんだろう?予知が出来るんだからな」

 「ははは。そうだね。でもそもそも戦うために来たんじゃないんだ」

 「じゃぁ何の用だ?」

 「君と合流しにだよ。ここから出られなくて困っているんだろう?僕なら君をここから出してあげられる。君の後ろにいる者たちも一緒にね」

 「?!」

 (おれと合流だって?!何を言っているんだコイツ‥‥)

 「冗談はそのミテクレだけにしろよ。おれと合流?何を企んでいる?」

 「ははは。相変わらず疑り深いねぇ。ここで話すのはどんなギャラリーがいるか分からないからね。ひとまずこの結界から出てもらって、あの寺の中で話をしようか」

 「どうやってこの結界を破るんだ?」

 「おや?君は既にその方法を知っているはずだよね?」

 「ちっ!勿体ぶるなよ。お前に空廻(クーエ)が使えるのか?」

 「僕じゃないよ。使えなくもないけどね。空廻(クーエ)にも波長があるんだ。この特殊な次元を跨いだ結界を破るには近しい波長の空廻(クーエ)で挟み込む必要があるんだよ」

 「早く結論を言えよ。誰が空廻(クーエ)を使うんだ?」

 「もう少し待って。間も無くここへある人物がやってくるから」

 「?」


 全てを見透かし、その情報は小出しにするハチの発言にスノウは苛立ちを隠せなかった。

 イリディアとカディール、そして明か時(あかつき)サーカス団員たちはいつでも戦えるよう構えていた。

 いつもなら率先して前に立ち、歯に衣着せぬ言動で周囲をヒヤヒヤさせてくれるのだが、珍しくフアルシは後方で様子を見ていた。

 イリディアが再度小声で耳打ちしてきた。


 「あやつらの後方からさらにもう1体生命反応が近づいてくる」

 「ああ。おれも気づいているよ」

 

 カディールはイリディアを庇うようにして立ち、剣の柄に手をかけていつでも戦える態勢をとっている。


 サッ‥サッ‥サッ‥


 陰から人影が現れた。


 「うわ!な、何だこの集団は?!」


 思い切り驚いている声にスノウは表情を変えずに目だけ見開いた。

 その声に聞き覚えがあったのだ。


 「おい‥マジか」

 「え?スノウさん?!スノウさんじゃないか!!」


 現れたのはシャルマーニだった。

 

 サッ!


 スノウの方へと近づいていくシャルマーニの前にクティソスたちが立ちはだかった。


 「!!」


 シャルマーニは驚きの表情を見せて瞬時に後方へと飛び退いた。


 「た、確かクティソスとか言ったな。まさかスノウさん、これらと交戦中だったのかい?」

 「いや、違う。そしてそいつらがお前の前に立ったのは敵意あっての行動じゃない。前に進ませないためだ」

 「どういうことだ?」

 「実はおれたちはこのアディシェスの特殊な結界の中に閉じ込められたんだ。それを解くにはお前の助けが必要なんだよ。だが、お前までこの結界の中へ入るとそれも出来なくなってしまう。だからお前が結界の中へと入らないように邪魔をしたんだ」

 「へぇ‥‥」


 シャルマーニは空視(クーシー)でスノウの方を見た。


 「なるほど。確かに異常な氣の乱れが見える。いや、乱れているのはこの辺りだけか。それ以外にはかなり強固な因の結びつきがまるで網目状の繊維みたいに複雑に絡み合っているようだね。しかもスノウさんが言った通り、これは一方通行だよ」

 

 シャルマーニはゆっくりと前にでて夢結界の結界壁の前に立った。

 

 「スノウさんが立っている場所は、こっちの次元とは違う次元になっているね。こんな結界張れる者は相当な能力の持ち主だよ。でもスノウさんが言ってくれた通り、結界の内と外から空廻(クーエ)で挟み込んで繊維を解くようにして結界壁を開いていけば部分的には解除できそうだ。この氣の揺らぎがある部分くらいは開くことができそうだ。でもかなり修復力が強いようだから、数秒で閉じてしまうよ」

 「数秒あれば十分だ。話が早くて助かる。早速空廻(クーエ)をお願い出来るかシャルマーニ」

 「ああ。でも‥‥」


 シャルマーニは周囲を見回して言った。


 「こっちに出て来られたらこの状況、説明してくれるよねスノウさん」

 「勿論だ」


 そう言うとスノウは右手のひらを結界壁に当てた。

 シャルマーニも結界壁に手のひらを当てた。


 キィィィィィィィィィィン‥‥


 劈くような耳鳴りが広がる。

 

 ヴゥゥゥゥゥゥゥゥゥン‥‥

 

 機械音のような不気味な振動音が広がった。

 結界壁が震えている。

 その震えが徐々に細かくなっていく。

 しばらくすると振動が止んだ。


 「みんなここを出る準備はいいか?」

 

 イリディアたちは頷いた。


 ヴゥゥゥゥゥ‥‥


 振動音は徐々に小さくなり、やがて消えた。

 次の瞬間。


 バリィィィン!!


 音として認識できたのかどうか分からないが、明らかにガラスが割れるような感覚が耳に響いてきた。

 それと同時に結界壁が消え去った。

 イリディアたちは急いで結界壁の穴から外へと出ていった。

 そして最後にスノウが結界の外へと出た。


 シュルルルル‥‥バギィン!

 

 結界壁が修復され、穴が閉じられた。


 「出られた!」

 「これでザーグが食べられるね!」

 「ジュウガよ。ザーグは南にある港町ゲゼーに行かねば食べられないのだ」

 「じゃぁ行こうよぉ!」

 「いや、我らもスノウと共に行かねばなるまい。ザーグはお預けだジュウガ」

 「まぁそう言いなさんなエビロウ!ジュウガも頑張ってくれたじゃない。あまりに我慢させ続けるのは精神衛生上良くないと思うのよ僕はね」


 フアルシがやっと口を開いた。


 「と言うことで僕ら明か時(あかつき)サーカス団は一路港町ゲゼーに向かわせてもらうよ!それじゃぁスノウ君。寂しくなるけどここでお別れだ。と言っても世界は広いようで狭い。何れまた会うと思うからその時まで一生懸命芸を磨いておいてくれよな!」

 「いや、おれ、サーカス団員じゃないから」

 「またー!素直じゃないねー!」


 フアルシのポジティブな発言にスノウは苦笑いした。

 

 「それじゃぁスノウボウヤ。元気でね。死ぬんじゃないよ、ってそう簡単に死ぬタマでもないわねぇ」

 「スノウ。お前との旅は楽しかったぞ。お前は間違いなく我らの仲間、明か時(あかつき)サーカス団の団員だ。また会おう」

 「スノウ、じゃぁねー。ザーグ食べたらまた来るよー」


 そう言ってあっさりと明か時(あかつき)サーカス団の4人は去っていった。


 「さぁ、それじゃぁ万空寺へと行こうか」


 ハチの指示に従ってスノウたちは万空寺に向かった。

 


いつも読んで下さって本当にありがとうございます。

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