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<ティフェレト編>26.キクロプス

26.キクロプス



 スノウ一行が2時間ほど登り進んだ所で空気が一変する。


 「スノウ!」


 「ああ」


 7合目あたりまで登ってきた所でキクロプスの威圧感のような空気に包まれた。


 「既にキクロプスの音域に入りました」


 「音域?」


 「ああそうでした。申し訳ありません、スノウは異世界からの越界者、ご存知なくて当然です。音域とは強者が発するオーラと言いますか、音の振動のことです。威圧の音を発した場合、一定以上の強さがなければ気絶し場合によっては死に至ります」


 「まぁ俺たちゃぁ問題ないだろうがな!がっはっは」


 「そうですね。スノウお一人でも全く問題ありませんが、微力ながら私やソニア、ゴーザもおりますから、どうまかり間違っても負けることはありません」


 (なぜにそこまでの自信が?!)


 スノウは、ソニアックは自分を買い被りすぎだと思っていた。

 確かに急速に力をつけ、自分でも相当な強さだとは認識しているが、相手の情報が何一つない中で何をもって勝てると思えるのかが理解できなかったからだ。


 (しかし音域・・・。何となくわかる。オーラが別の形で視認できる。薄赤い靄がかかったようだ・・・)


 「さぁ、急ぎましょう!スノウのおっしゃる通りスメラギ様の建造された天文台とやらが破壊されてからでは元も子もなくなります」


 一行は足を早めた。

 徐々にソニックのいう音領域の振動というものが強く濃く響くようになってきた。

 ゆっくりと歩いているのか、その振動のようなものが空気を伝わって肌で感じられるようになった。

 景色は木々が生い茂っていた状態からゴツゴツとした岩が見えるようになってきており、足場が悪く普通の登山者であれば移動時間が遅くなるところだが、スノウ、ソニック、ゴーザの3人には全く問題なかった。

 軽快に岩岩を飛び越えていくと赤黒い霧が徐々に濃くなっていく。


 「スノウ、ゴーザ、間も無く現れます」


 「ああ」


 300メートルほど上に何か大きな焦茶色の影が見える。

 ゆっくりと動いており、岩岩を軽快に飛び越えるスノウたちの目にその姿が徐々にはっきり見えてくる。

 あと100メートルという所で大きな影が動きを止めた。


 「アウ・・・ロォォ」


 地響きかと思われるようなうめき声と共にその影はゆっくりと振り向いた。


 その姿はまさに異形で、王室クエストで “醜い” と称した理由に一同は納得した。

 目はひとつだが、顔の中央より少し上にずれ込むように斜めに配置され、鼻と思しきものは潰れており、類人猿のように少し突き出た口は閉じるたびに肉が融着しているかのように肉を裂きながら口を開けている。

 歯もガタガタだが、何かを噛み切るには都合よい鋭さをもったものも何本か生えていた。

 手は両手合わせて4本あるが、それぞれがバラバラな大きさで、片方のハサミが千切れた後に生えて左右アンバランスになったザリガニのようないびつさがあった。

 足は2本だが、太さが違う。

 5メートルはある体格の割に歩くペースが遅かったのはこの歩きづらい足の大きさの差のためだろう。

 そして肉がそげかかっている部位もある。

 確証はないが、何やら強引にこのような姿にされたのではと思われる雰囲気があった。


 「アウーーーロォォォーーーー!!!!!」


 激昂しているかのような叫びで一面にどす黒い振動が広がる。

 キクロプスは一番大きな腕を振り上げて一気に大きな岩を叩き飛ばす。


 ドガァァァァァーン!!!


 巨大な岩と共に無数のバスケットボール大の岩が凄まじい勢いで飛んでくる。


 「下がれ!」


 スノウはバリアオブアースウォールを連続発動させ、スノウ、ソニック、ゴーザの前に3重の壁を作った。


 ドガガガガガ!


 アースウォールは崩れたが、飛んでくる岩は概ね防げたため、あとはそれぞれが武器で弾いた。

 キクロプスは連続して岩を飛ばしてくる。

 アースウォールが間に合わず武器で弾き返す動作が忙しくなる。


 「スノウ、ゴーザ、援護をお願いします。あの腕を何とか止めます」


 「わかった」


 「・・・・」


 スノウはフラガラッハで岩攻撃をさばきながら大洪水を巻き起こすリゾーマタのディルヴィアルカタストロフを唱えた。

 突如現れた大量の水は大洪水となってキクロプスの放つ岩攻撃を弱めながらキクロプスに直撃した。


 ザッッパァァン!!!


 だが、大きい方の足を地面に食い込ませて耐えている。

 その隙をついてソニックがキクロプスに詰め寄る。


 「私の絶対零度をお見舞いしましょう。蔓韻音冷(まんいんおんれい)!」


 ソニックは胸の前で両手でボールを持つようなポーズを取る。

 その手の中に青白い光の渦が巻き起こり、急激にあたりの温度を下げる。

 そして一気に青白い光線となって放出された。


 ショワワァァァァァァ!!!


 スノウが放った大洪水が一瞬にして凍りつき、キクロプスの足と、岩を投げつけるため地面を叩きつけようとしていた一番大きな手が凍らされた洪水の中に埋もれて身動きが取れなくなった。


 「アアァァァウゥゥゥゥロォォォォ!!!!」


 キクロプスは天を仰大きく吠えた。


 「今です!」


 「!」


 ソニックの合図でスノウがジャンプしフラガラッハを大きく振り上げる。

 キクロプスを一刀両断する構えだ。


 ガキキィィィィィン!!!!


 力が乗る振りかぶり切る前にスノウの剣をゴーザの斧が受ける。


 「何のつもりだゴーザ!」


 「待ってくれ!スノウ!」


 スノウはそのまま後方に着地した。

 後を追うようにゴーザも着地したと同時にスノウはゴーザに凄まじい勢いで詰め寄りフラガラッハをゴーザの眼球ギリギリまで突きつける。


 「おれたちの邪魔をするためにこの場にいるなら、この剣はお前の目を貫く」


 「いや、スノウ!邪魔だてするつもりはねぇんだ!ちょっとだけ俺の話を聞いてくれ!あの怪物・・・いやあのお方は・・・俺たちドワーフの生き神なんだ・・・」


 「生き神?!」


 キクロプスは動けないため暴れている。

 流石のパワーのため、ソニックが凍らせた氷の監獄が砕けようとしていた。


 「ちょっと待て、話すには心許ない」


 スノウはソニックに目配せした。

 ディルヴィアルカタストロフを再度発動した。

 すかさずソニックが絶対零度の氷の監獄をかける。


 「蔓韻音冷(まんいんおんれい)!」


 シャキィィィーーン!!


 怪物は一瞬にして凍りついた。


 スノウとソニックはゴーザの元に詰め寄る。

 そしてスノウは再度フラガラッハをゴーザの喉元に突きつける。


 「それで?」


 「あ、あぁ。あれは・・・・製鉄の神ブロンテースだ。なんであんな姿になっちまったのかわからねぇが間違いない。ドワーフに鍛治を教え常にその腕を鍛えてくれている生き神なんだ・・」


 「どういうことだよ、もっとわかるように説明してくれ」


 「す、すまねぇ。その・・ショックがでかくてな・・」


 ゴーザは岩場にどっしりと腰を下ろして項垂れながら説明し始めた。


 「俺たちドワーフは巨人族の末裔だと言われている。巨人族は大元はひとつで色々と派生していったんだが、その中でドワーフは上から土着へと(おとし)められたが、神としてあり続ける存在もあるんだ。その中で俺たちドワーフ族に代々鍛治を教えてくれていた生きた神々がいるんだがその中のひとりがこの目の前の化け物ってことだ」


 「その生き神・・ブロンテースって言ったか?それがなぜこんな醜い姿でこの山を登ってんだよ」


 「それがわからねぇから俺もショック受けてんじゃねぇか」


 「ゴーザ。この醜い姿でどうしてそのブロンテース神だとわかるのですか?」


 「それは・・あの隻眼と立派な腕に刻まれている製鉄の神のアザを見たからだ」


 「わかった。だが、もはや言葉もまともに喋れない化け物と化している元神だ。王室クエストをクリアする目的を変えるまでもない」


 「待ってくれ!治す方法があるはずだ!どうか殺さないでくれ!」


 「だめだ!もう8合目だぞ?!放っておいたら間違いなく天文台を破壊する。そうなったら王に謁見するチャンスがなくなる。ここで殺すしかないだろう?!」


 「頼む・・・・。彼は・・俺の父親みてぇなもんなんだよ・・」


 「どういうことだ?」


 「大罪を犯した俺を庇ってくれたのが彼なんだ。小さな頃から俺に鍛治と戦い方を教えてくれた。とある名家に生まれたって前に言ったろう?だが俺は後継ではなかったために煙たがられていた存在だったからな。それを不憫に思って接してくれたのがブロンテースだったんだ・・」


「・・・・」


 スノウとソニックは言葉を失う。


 「それにしても誰が!ちくしょう!!」


 ゴーザは地面を何度も何度も斧で叩いていた。





12/25修正

・・・・・・・・・

少しアップするペースが遅くなります。

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