表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/1110

<ティフェレト編>24.ロアース山 怪物討伐

24.ロアース山 怪物討伐



 「アネゴー!随分遅かったじゃないですかー!!」


 「ごめんね、レン。ちょっと色々とあってね」


 「心配したっすよ?そちらに行こうかと思ったっすけど、馬車置いていくわけにもいかないし、もしかしたらオイラの事置いてどっか行っちゃったかと想像したらオイラめちゃ怖くなったっすよー」


 「男の子がメソメソしないの!」


 「メソメソー」


 便乗してケリーがレンをからかう。


 「ふたりして何なんすかー!それで他のハルピュイアさんたちとの話は上手く行ったっすか?」


 「どうかな。アエローって名前の一番上のお姉さんハルピュイアだけ残ってる。でも次女のオキュペテ、末女のボダルゲは避難しているわ。そしてケリーはあたしたちと一緒に行く事になった」


 「そうっすか。でも何でそのアエローは残ったんすか?そのオキュペテたちと一緒に避難すれば良かったのに」


 「複雑な事情があるよの」


 「うわー出たー、必殺の “面倒臭いから誤魔化しとけ戦法” いっつもオイラは蚊帳の外っすよね」


 「そう言わないの!頼りにしてるわよ」


 エスティはレンとの会話にライジとのやりとりを重ねていた。

 ふと我にかえる。

 コグランが言った言葉が頭をよぎり、胸が苦しくなる。

 悪魔とはこうも人の心の奥にズカズカと土足で踏み込んで傷を(えぐ)ってくれるものだとエスティは思った。


 「コグランが出たの」


 「!!」


 レンは目を見開いて無言で震え出す。

 よほど恐ろしい目に遭ったのだろう。

 今なら分かる、とエスティは思った。


 「何故かは分からないけど、気を失って目を覚ましたらコグランは消えて、襲われ傷ついたケリーたちも元通りだったの。目的を果たせず何故かどこかへ行ってしまったらしくて・・・・。だからあたしたちは警戒しないとならないわ。一刻も早くスノウたちと合流しないと」


 「・・・・・・・・」


 レンは無言だった。

 言葉が出てこないレンの気持ちを察しエスティは無言のまま馬車に乗り込んだ。

 ケリーは馬車に乗り込むなり直ぐに寝てしまった。

 短期間に色々な事があり過ぎたが必死に明るく振る舞っていたのが伝わってきた。

 自分は今何をしようとしているのか。

 自分の味方は誰で敵は誰なのか。

 ホドに帰る術は本当にあるのか。

 父親や仲間は生きているのか。

 エスティは頭から離れないたくさんの疑問で押しつぶされそうになっていたが、ケリーとレンの顔を見て必死に自分を保っていた。


 (あたしがしっかりしないと。あたしはガルガンチュアの総帥。こんな弱気じゃだめだ・・・・)


 エスティは馬車を走らせた。




・・・・・


・・・




 円形の部屋。

 目の前に大きな画面が見える。


 「姉さん!あの展開はルール違反でしょう?」


 「何言っているの?あそこでゴーザの目の前であなたまで出てきたら、あの頭が化石のようなゴーザのことだから混乱して泡吹いていたはずよ」


 「なんて言う言い方・・・・。姉さんは本当に外面がいいよね」


 「ソニック!姉さんに向かってなんて言い草。姉さん悲しいわ・・・・」


 「また演技か。どうでもいいけど、次の王室クエストは僕が行くからね」


 「どうやってゴーザに説明するのよ?」


 「どうやってもこうやってもないよ。正直に言うんだよ。信じようが信じまいが関係ない。別人という形でもかまわない」


 「荒っぽいわね。まぁいいでしょう。ただし、もしゴーザが信じるようなら適度に私と代わりなさないね?」


 「なにそれ・・・・」


 ソニアックの頭の中でどこで自分の出番に出来るかを言い争っていた。



・・・・・


・・・



 「さてスノウ!次の王室クエストが待っています早速出かけましょう」


 「ん・・・・えぁ・・・・ソニックか?・・・・お前いったい何時だと思ってんだよ・・・・」


 「え?もう5時ですよ?早く出発しましょう!」


 「・・・・・・・・」


 (何でウキウキしているんだよ・・・・小学校の遠足じゃねぇんだぞ全く・・・・)



・・・・・


・・・



 朝日が眩しい中ノーンザーレの宿屋前の階段に座っているスノウ。

 ゴーザが遅れてやってきた。


 「よう、スノウ。おはよう。早いじゃないか。クエストが待ちきれなかったか?」


 「そんな訳無いだろう?起こされたんだよ」


 「がっはっは!あのべっぴんソニアか!好かれたもんだなぁ!」


 「違うっての・・・・」


 この男はゴーザ・ロロンガ。

 コンレン地方の更に西に位置する豪雪地帯に都市を築いているドワーフ族のひとりだ。

 彼は前科のあるドワーフだった。

 横暴な貴族を殴って重症を負わせたが、王国規則でドワーフを極刑にはできない事から恩赦としてグコンレン軍に参加し、クエスト完了に伴い晴れて無罪となっていた。

 先のグコンレン軍との戦さのクエストでは目を見張るほどの戦闘力を見せた。

 大地の音を宿した攻撃を行い、1000人以上の命を奪った爆裂岩を最も簡単に砕いてみせたのだ。

 そして、ひょんな事から行動を共にする事になり、この後の王室クエストにも同行する羽目になっていたのだ。


 「さて、お二方!準備は宜しいようですね!それでは出発しましょう!」


 「??」


 「・・・・・・・・」


 「ん?どうされましたか?これから難関クエストですよ!ささ!行きましょう!」


 「あんたは誰だい?人違いではないか?俺たちゃべっぴんソニアって女を待ってる。俺たちはその子含めた3人パーチーだから、誰か別のやつと間違えてるぜボウヤ」


 「ボ、ボウヤ・・・・あ、いえ、そうですね!ご挨拶が遅れました。私はソニック。ソニアの弟です。今回のクエストは私が参加します」


 「おい。何を寝ぼけた事いってるんだ?なんで突然弟と名乗るやつと冒険しなきゃならん?おれはこのスノウとべっぴんソニアねーちゃんと3人で冒険がしてぇんだ。子供は帰ってクソして寝な。じゃぁなボウヤ」


 「子供・・・・クソして・・・・ボウヤ?!」


 目を丸くして驚いているソニック。


 「申し上げておきますが私は姉のソニアより強いですよ?」


 「そうかそうか。それはよかったな。じゃぁなボウヤ」


 ゴーザは目線を向ける事なく、手で追い払う動作をしながら言葉を返した。


 (あははは!)


 今の会話を聞いてソニアックの頭の中にいるソニアが腹を抱えて笑っている。

 彼女にとってゴーザはペースを崩される厄介な存在だったが、それはソニックにも同じだった。


 「信じていないようですね。いいですか?姉のソニアは外面は良いのですが、家ではそれはもうひどくズボラで言葉遣いも粗暴ですし、戦闘においてもすぐ熱くなるので対応が遅れるし、料理できない、掃除できない、平気でオナラするしとんでもないんですから!そんな姉の方が僕より・・・・」


 バシィン!


 何故か左手で自分をビンタするソニック。


 「おお、どうしたボウヤ!」


 下を向き、髪をかきあげるようにして上を向くとソニアに変わっていた。


 「ぎょえぇぇぇぇ!!!ボウズがべっぴ・・・・」


 びっくりして泡吹いて倒れるゴーザ。


 「ちょっとねぇ!ソニックあなた!スノウの前で何をありもしない嘘ばっかり並べて私を(おとし)めようとしているのかしら?!いい加減にしないと後悔する事になるわよ!」


 髪をかきあげる動作で今度はソニックに変わる。


 「姉さん!何故に勝手に出てくるの?説明もなしに交代したらゴーザさんだって驚くでしょう?!見てよ?みっともなく泡吹いて倒れちゃってるじゃないか?」


 再度髪の毛をかき上げると今度はソニアに変わる。


 「あなたがきちんとゴーザに説明しないからでしょう?!いないところで批判するのは悪口ですよと何度も言っていたじゃない?!そういうところが幼稚で稚拙で思慮浅い子供だって言っているの!」


 今度は横に一瞬顔を向けて戻しただけでソニックに変わる。


 「幼稚も稚拙も思慮浅いも子供もだいたい同じ意味ですから!語彙力あるフリして実はそれほどでも無いという自分からボロだしたね!」


 左手のビンタが飛ぶ!


 「殴ったねー?!暴力に訴えるとはなんて粗暴でヒステリックなんだ!」



・・・・・


・・・


 しばらく不思議なマジックを見ているような姉弟喧嘩が続いていた。

 スノウはその間、やれやれといった感じでずっと黙って見ていた。



・・・しばらくして・・・



 ソニアとソニックにコロコロ変わったため、顔のしわが伸びて老人のようになっていた。

 そこに泡吹いて気絶していたゴーザが起きる。


 「ぎょえぇぇぇぇ!!ばばぁがじじぃで・・・・」


 バタ!!


 突然老けた老人に変わっている様を見て再度泡を吹いて倒れた。



・・・・・


・・・



―――その日の昼―――



 結局出発できたのは昼食を済ませてからになってしまった。

 ソニアがゴーザに落ち着いて事情を説明し、怪訝そうな顔をしているものの一応は理解したようだ。

 今朝の喧嘩で老人になって以降、頭の中でも喧嘩していたようで、一応日によって交代で主導権を握る事になり、戦闘中は臨機応変にそれぞれが出てくるという事になったらしい。

 そして半日経ってシワシワだった顔も元に戻っていた。


 「いやぁー!びっくりしたぜ!びっくりした!まさかべっぴんボウヤだったとはなぁ!世の中不思議な事もあるもんだ!長生きしてみるもんだぜぇ!がっはっは!」


 「べっぴんボウヤはやめてくださいますか?誤解を招きますから。きちんと名前で呼んでいただければ。私はソニック。そして姉はソニアです。よろしいですか?」


 「もうどっちでもいいだろ!とにかく出発するにあたってもう一度クエスト内容を確認させてくれ」


 (全くこっちは夜明け前に起こされて寝不足なんだからさ・・・・・・)


 「どっちでもいいとは?!・・・・いえ、やめておきましょう。そうですね、目的は王との謁見ですから次のクエストを達成することは必須です。では今一度おさらいしましょう」


 そういうとソニックは王室クエストの書かれた羊皮紙を出して説明する



<クエストレベル:フォルテッシモ>

   ・ 巨大で醜い化け物退治

     ロアース山に巨大な化け物が出現している。

     何人もの勇敢な冒険者が討伐に挑んでいるが

     いずれも失敗

     更なる勇敢な猛者を募集中。

   ・ 報酬:金貨300枚



 「このロアース山とはこのノーンザーレの北西に位置する2000メートル級の山です。大きい山ですが、対象の化け物も巨大でその移動は木々を薙ぎ倒しながら移動しているとのことですので、見つけることはさほど難しくはなさそうです」


 「ほほー!報酬が金貨300枚とはすげぇな!でもよう、ロアース山なんて誰も近寄らない山だし、北の都市メーンザーレに行くにしてもロアース山は避けてお通れるわけだから放っておきゃぁいいんじゃねぇのか?なぜこんな莫大な報奨金をかけてる?」


 「そこなんです。最近このロアース山の頂上に、ある建物が建てられたらしいのです」


 「ある建物ぉ?」


 「スノウはご存知かもしれません。何やら遠くを見られる長い筒状の眼鏡のようなものがあって、特に巨大なものは星も目の前で見られるとか」


 「天体望遠鏡じゃないか!」


 (間違いない!天体望遠鏡だ。そして建物というからには天文台レベルのものだろう。この世界にはない科学力で不必要なものを建造しているとなれば・・・・)


 「そうです。スメラギ氏によってその天体望遠鏡というものがロアース山頂上に作られたのです」


 「これだけの報奨金が出るのも頷ける。万が一その化け物に天文台を破壊されでもしたら大変だと踏んだスメラギが王に依頼して王室クエストとして依頼したということか」


 「おそらくは」


 「おいおい、ちょっと話が見えないんだが、その天才ボウボウ系ってのは何だ?それにスメラギっていゃぁあの天才領主だよな?つまり、スメラギがボウボウ系なのか?」


 「天体望遠鏡です」


 「天才ボウボウ卿?」


 「天体!望遠!鏡!」


 「先輩暴言狂?」


 「わざと間違えてますよね?ゴーザ!」


 「いやいやそんなことはない、前菜ほうれん草・・・・」



・・・・・


・・・



 「なるほどな。するとスノウ!おめぇさんは別世界から越界してきたと。そしてそのスメラギも同じ世界からやってきた人物で元々いた世界では当たり前だったエレキ魔法を使って動かせる色々なカラクリを使って何か企んでいるっていうんだな?」


 「まぁ簡単に言うとそうなるな」


 「そして最近お人が変わったような王の原因のひとつがスメラギで、もうひとつが先のグコンレン軍との戦闘で俺を狙ったやつ、えーっと悪魔の仕業ってことか」


 「まだ確証はないがその可能性が高いってことだな。だからおれたちは王室クエストに挑戦し達成することで得られる王との謁見のチャンスで王が本物かどうかを確かめようとしているんだ」


 「確かめるったってどうするんだい?いきなり切り込むかァ?」


 「この声を記録する楽器で王の声を録音して大司教に聞かせれば本物かどうかわかるそうだ。そして王がもし別人になっているようならその元凶の排除。ここで関係してくるのが・・・・」


 「スメラギと悪魔か。もしくは両方結託しているって可能性もあるわな」


 「そうだね。だが、まずは王が別人かどうかを突き止める。そのためにこの王室クエストを何としてもクリアする必要があるってことだ」



・・・・・


・・・



 こうしてスノウ、ソニアック、ゴーザの4人はロアース山を目指し出発した。

 レネトーズ卿から得た謝礼でスノウチームも馬車を購入したため、移動が格段に楽になっている。

 このクエストはフォルテッシモレベルというかなり難易度の高いクエストでクリアできる人物もリュラーが率いる討伐隊か名を馳せたごく少数のハイレベル冒険者くらいらしく、あまり急ぐ必要はなかった。

 なぜならリュラーは今この世界に4名しか残っておらず、ソニアックの2名、スメラギ配下の “音撃” ルーナ・テッセン、そして王の側近の “音斬” ナザ・ルノスだが、スメラギや王がそれぞれ自身の護衛としておいているため、出向くことはないからだ。

 そして名のある冒険者も現在は遠方遠征中とのことだった。


 「そういえば、ルーナ・テッセンは音撃、ナザ・ルノスは音斬だけど、ソニック、ソニアにもなんていうか二つ名みたいなのあるのかい?」


 「・・・・・・・・」


 「ん?」


 「私が音氷、姉が音熱です」


 「ププ!ぶあはっはっは!何だか夏は涼しくしてもらったり冬は暖かくしてもらったりっていう便利魔法だな!」


 ソニックの目が赫く染まり、ソニアに変貌する。

 そして両手の中で太陽のような灼熱の球が生まれ一気にゴーザ目掛けて放出される。


 「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 「あまり人を(そし)るものではありませんよゴーザ。ふふ」


 その目はサディスティックそのもので愉しんでいるかのようだった。

 灼熱球がゴーザに接触する直前で魔法が解除されたようで大火傷を負わずにすんだが、ゴーザはこの日を境に2度と二つ名を馬鹿にすることはなくなったという。


 「やれやれ・・・・」


 そうこうしているうちに前方に雪がかった巨大な山が見えてきた。

 ロアース山である。

 その奥に更に大きな山が霞んで見えた。


 トマスの地図によるとこのティフェレトの聖地とされている山、マルシュアース山らしい。

 恐ろしく高い山であるため、スノウはあの山に登るクエストではなくて良かったと思った。




12/24修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ