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<ティフェレト編>21.決着

21.決着



 「それでは作戦を言います」


 王国軍は真面目に聞いている。

 おそらく、身分に偏見のない集まりなのだろう。

 ジャンジャン隊の面々が民衆の出であるからだろうか、それとも分隊長のジャンジャン自身がスノウの話を真剣に聞いているのに合わせているのか、あるいはその両方か、いずれにしてもスノウの話に聞き入っている。

 一方冒険者一同は纏まりがない。

 一人一人が好き勝手にこそこそ話をしていてスノウの話を聞こうとしていないようだ。

 スノウはそれを冷静に見ていた。

 統率の取れた部隊と方々バラバラな部隊。

 それぞれに良さと悪さがあると考えていたからだ。

 だが、ソニアは自分の任される隊のそんな状態を見てスノウの期待に応えられないと感じたからか、スノウに背を向け隊員の方に向き、恐ろしい程の炎のオーラを発している。

 バチン、バチンと空気が爆ぜる音がしたかと思うと、ソニアの近くにいる冒険者隊員から悲鳴があがる。


 「熱!!」

 「なんだ!?火傷している!」


 高熱と火傷の原因がソニアであることを悟った冒険者隊員たちは一斉に静まる。


 「お待たせしましたスノウ」


 「お、おう」


 この女性を怒らせてはならないとスノウは思った。


 「改めて。作戦を言います」


 100人隊が一斉にスノウの方を向き耳を傾けている。


 「まず、我々が成すべき任務ですが、敵の指揮官を捕らえて終了となります。つまり我々がこの戦さの一番の武功を挙げるということです。いいですね?全ては敵の指揮官を捕らえるために力を使ってください。この100人の中の誰でもいい、敵の指揮官を取ったらこの100人全員の手柄になる」


 元々は囮になって本体の活路を見出す犠牲的な役割だったはずのため、全員話が違うという表情を一瞬浮かべるが自分たちにとっては好都合な指示に一同は一気に全身に力が入る。


 「ではどうやって敵指揮官捕らえるかですが、みなさんには肉弾戦で敵を倒してもらう。ただそれだけです」


 一同はどよめく。

 ここは音の世界だ。

 皆音魔法を駆使して戦ってきたため、武技で戦うのには慣れていない。

 一同の不安を感じ真っ先にジャンジャンが発言する。


 「スノウ殿、お言葉ですが音魔法に肉弾戦とは勝てる気がしません。相手の音魔法を防げれば肉弾戦でも効果はあるやもしれ‥‥もしやそういう作戦か?」


 「そうです。音は空気の振動です。要は音の振動の速さを遅らせる、または変えればいい。それは私が行います。一方相手は音魔法を主体とした攻撃で戦ってきますから、こちらの肉弾戦を主体とする攻撃に面食らい対応が遅れます。奇襲を受けた際に初動が遅れると言うことは致命的です。つまり我々は不得手に見える肉弾戦で優位に立ちリスクを最小限にした上で敵司令官まで辿り着くという作戦です」


 「確かにすごい作戦だがどうやって音魔法を消すんだ?」


 「そ、そうだ!命を預ける以上肝心なその部分に確証がないと、戦えないぞ!」


 皆が興味津々になっており、ザワザワとどよめき出した。

 冒険者隊はソニアの人睨みで鎮まったが顔は興味と不安で入り混じっている。


 「いいでしょう。あまり時間がないのですが、簡単に実演します」



・・・・・


・・・



 一方、第1陣はかなりの苦戦を強いられていた。

 元々5000いた兵士は既に4000にまで減っていたが、グコンレン軍はまだ1万弱の状態だ。

 王国軍は薪を()べた移動式釜戸から発せられる音を弓矢隊が拾い矢に音を込めて放っている。

 当たった兵士は矢のダメージだけでなく高熱に焼かれるためかなりの重症を負うのだが、グコンレン軍も対策を講じていた。

 兵士全員が木の盾を装備し、後方に設置してある大きなプールのような水桶を弾く音を振り()いているが、兵士たちはその音を盾に吸収させ王国軍の高熱の矢の温度を下げているのだ。

 そして、最後方で爆弾を爆破させその音を巨大な投擲機(とうてきき)に伝え、大きな岩を王国軍に飛ばしていた。

 王国軍にとってこれが最も苦戦を強いられていた攻撃だった。

 巨大な岩が飛んでくるだけで一度に10名ほどの兵士が負傷するのだが、そこから岩が爆ぜるため、その衝撃破と岩の破片からさらに40〜50名の兵士が死傷していた。


 「下がるな!王国軍に後退はない!援軍は何をモタモタしているのだ!」


 後方で指揮しているザリウス副司令官の指示は無謀としか言えなかった。

 期待の第2陣はあと300メートルというあたりまで進軍していたが、敵軍1万に対し、第1陣4000と第2陣2000の合計6000という圧倒的不利な戦力だったため、第2陣が交戦の場に辿り着いても戦況が変わらないことは明らかだった。

 スノウ100人隊は左翼の小さな森を回り込みグコンレン軍の左側面に切り込もうとしていた。

 スノウを先頭にして2列にならび右側を冒険者組、左側を王国軍組としている。


 「さぁみんな!100人隊の剣で敵司令官目掛けて一気に駆け抜けるぞ!」


 「おおおおぉぉぉぉぉぉ!!」


 スノウの号令に隊員たちは呼応する。



・・・・・


・・・



―――グコンレン陣営――――


 「コランドモ司令官殿!右側面から約100名の小隊が接近中です!兵を500ほど組織して殲滅(せんめつ)いたしましょうか?」


 「くだらん。一発爆裂岩(ばくれつがん)をお見舞いしてやれ!それで一気に壊滅だろう。ブアハハハ!!」


 グコンレン軍は投擲機を1機だけスノウ100人隊に向けて投擲準備に入る。

 既に投擲機が王国軍に大ダメージを与えていることは森の陰から見えていたため、破壊力の凄まじさは理解していたが、怯むことなく突撃を続ける。


 「撃てーーー!!」


 グコンレン軍から爆裂岩が飛んでくる。


 「ライゴウ、バリアオブアースウォール」


 ガガッ!ドッゴーーーン!!!


 スノウの魔法だった。

 超電撃の柱が爆裂岩に直撃しで爆裂岩はグコンレン軍の上空粉々に爆ぜた。

 岩の破片が方々に飛び散ったが、スノウ100人隊の前に巨大な土の壁が現れそれらを防いだ。


 「うおおおおおおお!!!」


 100人隊から一斉に歓喜の声が上がる。


 「な、何だ今のは?!」


 「見たこともない魔法です。雷を宿した音魔法でしょうか?」


 「わ、我らも同じ魔法を使え!」


 「できません!現在は落雷もございませんし!」


 「お前の脳みそは空っぽか?あやつの魔法の雷の音を盗めば良いではないか!!」


 「そ、そんな無茶な‥‥」


 そうこうしている内にスノウ100人隊がグコンレン軍側面から勢いのある鋭い矢のように突き刺さって深く切り込んでいく。


 「音魔法で応戦だ!」


 グコンレン軍は高熱音や爆発音、精神的苦痛音、暴風を閉じ込めた音など様々な音魔法でスノウ100人隊を攻撃してくる。

 だが、100人隊の進撃は止まらない。


 「なぜ音魔法が効かない?!」


 「何やらドーム上の土の壁に守られており音がそこでかき消されているようなのです!」


 「音魔法がそんな土壁如きで弾かれるものか!もっと攻撃せい!」


 「いえ、何やら特殊な壁のようで音魔法が弾かれているというより何かこう‥‥かき消されているという感じのようなのです!」


 「ええぃ!そんな壁など爆裂岩で壊してしまえ!」


 「ですがコランドモ司令官殿!あの少数部隊を狙うと我が兵たちにも死傷者が出ます!」


 コランドモ司令官は副官の胸ぐらを掴み持ち上げ副官の首を締め上げる。


 「貴様!このワシの命令が聞けないのか?!きゃつらがここまでたどり着いて万が一このワシが殺されるようなことがあったら貴様はどう責任をとるつもりか?!貴様のくだらん命で償うなどと下賤なことは言うなよ?貴様の命など馬のクソにも劣る。そんな馬のクソ以下の貴様の命より価値のない雑兵の命などなぜこのワシが気にするはずもなかろうがァ!」


 司令官はそのまま副官を投げつける。

 副官は頭部を強打し頭から血を流している。


 「しょ‥‥承知しました‥‥がはっ!!」


 血反吐を吐きながら副官は爆裂岩投擲の指示を出す。


 「仲間にあたるぞ!副官殿!わ、私にはできません!」


 「すまん!」


 歯向かった投擲機操作兵はその場で副官に切られた。


 「これは司令官殿の命令だ!早く撃て!」


 他の投擲操作兵が手を震わせながら投擲準備を行う。

 一方スノウ100人隊はドーム状のバリアを張っては解除を繰り返しながら進んでいた。

 バリアを張って音魔法を防いだ後解除し、100人隊が一気に切り込む。

 至近距離攻撃なため、影響範囲の広い音魔法よりも肉弾戦の方が自身に影響することもなく即効性をもって切り込める。

 加えてグコンレン軍にとってはいつバリアが解除されるかわからない状況下で即時対応が取れないのと、バリア解除後に突然切り込まれることで体勢を崩し反撃する間も無く倒されていくため、100人隊の進攻は止められなかった。

 そして何より、100人隊の進行によりグコンレン軍が縦に分断されたことで王国軍第1陣、第2陣ともに相手をするグコンレン軍が半分になった。

 前方は、王国軍6000に対しグコンレン軍5000という構図で一気に形成逆転となった。


 「スノウさん!あの音魔法攻撃を防ぎ切る壁は本当にすごい!しかしいまいちどんな特殊な魔法を使われたのかわからないのですが‥‥」


 スノウ100人隊の中で王国軍隊を任されているジャンジャンは戦闘前に説明を受けているのだが理解できいなかったようで効果を見た上で改めて質問してきた。


 「戦闘開始前に見せた通り、水の壁、土の壁、そしてもう一つ土の壁の三つの壁を作っている。そしてそれぞれの壁の間に空気の層を作っている。音は空気を伝わってくる。その音の振動を水と土の壁と空気の層で覆って弱めたんだよ。防音壁ってやつだ」


 「うむむ、光の線が飛び散っているのは見えましたが、通常は飛び散っても物を貫通して音魔法威力は消えずに対象に届くはずなんですがね‥‥どうやら私には理解できないようです」


 やはり音魔法が当たり前のように使われているこの世界では物理の説明をしても理解できないのだろう。

 だが、今この戦場で明らかに自分たちが戦況を支配しているという事実だけで十分な様子だった。



・・・・・


・・・



―――王国軍陣営―――


 「なんだ?急に敵軍の数が減り拮抗し始めたぞ?第2陣の効果か?」


 「い、いえ、ザリウス様‥‥何やら第2陣の中で100人が奇襲攻撃をかけたとのことでそれによって敵軍が2分されているとの報告がありました」


 「はぁ?!なんだとぉ?!たかだか100人でそんなことができるわけなかろう!スメラギスコープとやらを持って来い!直接見てやる!」


 ザリウス副総司令の指示に従って部下が望遠鏡を持ってきた。

 これはスメラギの発明によるもので、天文台を作った際の副産物だったが貴族や騎士軍は天文台の価値などわからず、この小さな望遠鏡の方にしか興味を示していなかった。

 ザリウス副総司令は望遠鏡を覗き込む。


 「何だ?あの亀の甲羅のようなものは?おぉ!消えた!何だ奴らは!音魔法も使わずに切り込んでいるではないか?なぜそんなことができている?!」


 ザリウスは右翼側に望遠鏡の先を移し敵陣営を見る。


 「何ぃ?!味方もろとも吹き飛ばす気か?」


 手を焼いている爆裂岩投擲を100人隊目掛けて撃とうとしているのを見た。


 「おお!やつら撃ちやがった!」


 爆裂岩が凄まじい勢いで100人隊の方に飛んでいく。

 すると100人隊の中から人影が真上に飛び上がっていくのが見えた。


 「な、何だ?あれは人か?!」


 その直後、その人影から巨大な雷の柱が爆裂岩に直撃し粉々に砕いた。

 そして続け様に暴風が敵陣営目掛けて吹き荒れ、爆裂岩の破片の雨を敵司令官の居る陣営に降らせた。


 「な、なんと!!」


 ザリウスは目を丸くして遠方で起こっている状況をただただ見ているだけだった。

 さらにその人影は何もないところから爆裂岩のようなものを複数出現させて、グコンレン司令官陣営周辺に落下させた。

 敵軍に直撃はしていなかったが、そのあまりの破壊力に敵軍は方々に散らばるように逃げ、グコンレン司令官陣営だけを残し丸裸の状態になってしまった。

 その後、100人隊がグコンレン司令官陣営を取り囲み副官を捕らえた。


 「たった100人で‥‥いや1人で‥‥敵本陣営を占拠してしまったぞ!す、すばらしい!!」


 ザリウスは普段の険しい表情からは想像もできないほどの愉悦の表情でスノウ100人隊の一連の動きを見ていた。



・・・・・


・・・



―――グコンレン軍後方―――


 「コランドモ司令官!よくぞご無事で‥‥」


 「馬鹿者が!」


 コランドモ司令官は迎え入れた部下たちを怒鳴りながら殴りつけた。

 いつものことのようで殴られたことなの気にせずすぐに立ち上がりコランドモ司令官の前に整列した。

 コランドモ司令官はグコンレン軍左翼後方で陣を張っていたところへ事前に退避していた。

 副司令官の機転もありギリギリで本陣営から逃れ、左翼後方陣営に退避できたが、副司令官はコランドモ司令官を逃すために本陣営にとどまり、スノウ100人隊に捕まってしまい捕虜となっていた。


 「何者だ?!あの悪魔のような魔術使いは?!なぜあのような化け物を先に仕留めないのだ?!」


 「申し訳ありません!我らも突然現れたあの悪魔になす術なく!また、あの悪魔の出現で軍が二分されてしまったことを受けて、王国軍本陣を叩くことに専念していた為対応が遅れまして誠に申し訳ございません!!」


 「それで?ザリウスの首は取ったんだろうな?!」


 「いえ、後一歩のところであの悪魔出現により‥‥」


 バゴォン!


 殴られる部下。


 「よいか?爆裂岩投擲の総攻撃をあの悪魔に向けて撃て!その後、後方5000の兵は全てあの悪魔の部隊殲滅に、そして前方5000の兵は全てザリウスの首を取りに行かせろ!元々倍の兵力があり勝ちが確定していた戦いだぞ?負けるなどあってはならん!!」


 「は!」



―――グコンレン本陣営跡―――


 「さぁ殺せ!」


 副司令官は両手両足を縛られて跪かされている。


 「あと少しのところでコランドモに逃げられたか!」


 「今から追えばいいんじゃないか?」


 「だめだ!我々の後方にはまだ5000の兵がいるんだぞ?挟まれたらひとたまりもない!」


 「スノウさんは万の兵に匹敵する力だぜ?問題ねぇだろ!」


 敵本陣営をあっという間に制圧したことで冒険者組も王国軍組も興奮している。


 「みなさん、まずは後方5000の兵の足止めが先決です。その間に王国軍の本陣が敵司令官の首を取ってくれるはずです!」


 「前方敵軍から爆裂岩投擲の動きあり!」


 「!!みなさん副司令官を連れて左翼側に戻ります!急いで!あの数の爆裂岩攻撃は防ぎきれない!」


 スノウの声に100人隊は一斉に移動を開始する。

 スノウは1人本陣営から前に出て爆裂岩投擲の方に目を向けていた。

 その後を追うようにソニアとゴーザが前に出る。


 「1人で大丈夫だぞ?2人とも指揮があるだろう?」


 「ジャンジャンがいるから大丈夫だぜ!それにこんなワクワクする瞬間にスタコラサッサと逃げてては勿体ねぇじゃねぇか!がっはっは!」


 「勿体ないかどうかは知りませんが、スノウだけにご対応をお願いしていては従者として申し訳がたちませんので微力ながらお手伝いします」


 一方、前方王国軍本陣営から望遠鏡で戦況を見守るザリウス。


 「あの者が‥‥まるで鬼神だな!すばらしい」


 「ザリウス副総司令官殿、爆裂岩投擲を阻止いたしますか?まだ数台分なら止められそうです」


 「よい!不要だ!それよりも早くコランドモの首を取りに行け!」


 (さぁ鬼神よ!次はどんな力を見せてくれるのだ?!)



 一方、苛立ちを抑えられないグコンレン軍左翼陣。

 既に本陣営がスノウ100人隊の手に落ちている為、今はコランドモ司令官のいるこの左翼陣が本陣営となっている。


 「早く撃たんか!きゃつらたった3人でこの数の爆裂岩を防ぐと挑発しているのだぞ?!」


 50台ほどの爆裂岩投擲機の準備が整ったようだ。

 投擲機隊を任されている指揮官から準備ができた合図が送られる。


 「よし!撃てぃ!!」


 ゴワン!ガガン!ドガガン!!ゴガン!!!


 地響きとともに50台の投擲機が一斉砲撃される。

 スノウはリゾーマタの風魔法で再び空中に浮くと、連続してジオライゴウを放つ。


 「ジオライゴウ‥‥建雷命(タケミカヅチ)!」


 上空に一瞬にして巨大な黒雲が現れる。

 その黒雲から無数の雷の雨が降り注ぐ。

 ほとんどの爆裂岩が破壊され粉砕岩が飛び散る。


 「ジオストーム‥‥咆哮(ルドラ)!」


 台風のような暴風が吹き荒れ、粉砕岩を吹き飛ばす。


 「反響魔法・熱界(あっかい)


 ソニアは両手を軽く広げて目の前に四角い膜のようなものを張った。

 その中でいくつもの光の粒がぶつかり合っているのが見える。

 次第にその膜は紅くそまっていく。

 そして両手を一気に広げてその膜を解き放つ。


 「解放!」


 紅い膜は大きなスクリーンのように広がっていく。


 ジュヴァァァ!!


 爆裂岩がその紅いスクリーンに触れた瞬間一瞬で蒸発した。


 「消滅!」


 スクリーンは空気に溶けるように消え去った。

 一方ゴーザの方向にも爆裂岩飛んできている。

 それを見ながらゴーザは背中に背負っている2本の斧のうち一本を右手で取り出すと、その斧を両手で持ち大きく振り上げる。


 「ふぬぬ!大地の怒り!」


 ドッガァァァァン!!


 ゴーザは斧を振り下ろし地面を思い切り切り込む。

 その衝撃で周囲の地面が盛り上がる。

 そして野球のバッティングのように地面から発している音を振りかぶって拾い斧に纏わせる。


 「ふぬぬ!怒刃嵐(どはら)!」


 そのまま体を回転させて斧をブーメランのように飛ばす。

 斧は凄まじい回転とともにカーブを描き爆裂岩に激突しそれと同時に斧から先ほど拾った衝撃音を解き放つ。

 周囲に飛来していた爆裂岩を粉々に砕いていく。

 斧は回転しながらゴーザのところに戻っていき見事にキャッチする。

 たった3人によって50もの爆裂岩が全て破壊された。

 そのほとんどはスノウの手によるものだったが、50もの爆裂岩があれば700〜800名の兵士に死傷者が出ていたレベルの攻撃だった。


 「な、何者なのだぁ!!こ、殺せ!殺せぇぇぇぇ!!」


 怯えたような大声で叫ぶコランドモ司令官の号令で一斉にグコンレン兵士が3人に向かって迫ってくる。

 一方その背後から王国軍が追い討ちをかけるように攻める。


 「ソニア、ゴーザ。少し下がってて」


 スノウは魔法を唱える。


 「ジオエクスプロージョン 武羅漢(フラカン)


 スノウは胸の前で握っていた拳を開く。

 同時に無数の光が放物線を描いてグコンレン軍の方に飛んでいく。

 そして地面に着弾するとともに凄まじい爆発を起こす。


 ドドゴゴゴゴゴゴォォ!!


 爆発はグコンレン軍手前で起こり地面を大きく抉る。

 その抉られた地面に多くの兵が落下して動きを止めた。

 その後方から攻めていた王国軍は押し込む形で一気にコランドモ司令官の居る左翼本陣にたどり着く。

 そしてそのままコランドモ司令官とその部下たちを捕らえてしまった。

 一方元々コランドモ司令官が陣を張っていた場所は既にスノウ100人隊によって占拠されていたが、その後方に控える5000の兵がスノウ達めがけて迫ってきていた。


 「ジオライゴウ・雷殲(インドラ)


 スノウがそう唱えた後天の黒雲から強烈な雷がグコンレン軍の前に落ちる。


 ゴゴゴゴドゴゴゴォォォォン!!


 その轟音に驚いたかのように敵軍の動きは止まった。

 その時、一本の矢がゴーザ目掛けて飛んできた。

 スノウは凄まじい速さで飛んでくる矢に近づいてフラガラッハで弾く。

 その瞬間音が弾けて毒が飛び散る。

 どうやら毒を音に忍ばせて矢に付与して飛ばしたようだ。


 「スノウ!」


 恐ろしいほどの高熱オーラを放ちながら矢は射られた方向に詰め寄るソニア。

 弓を射った者は逃げる間も無くソニアの剣によって切られそうになるがかろうじて弓で剣を受けてスノウの方に飛ばされる形となった。


 「ジノ・デトフィキシケーション‥‥」


 スノウはすぐさま強力な解毒作用のある魔法を自分にかけた。

 飛ばされた男は綺麗に着地した。


 「おやおや、せっかくの特製毒もすぐさま解毒されてしまうとは。あなた何者ですか?」


 「お前こそ‥‥って、お前悪魔か?」


 「まぁ、私としたことが。あの女従者の素早い動きに咄嗟の判断が要求されてつい戦いの方に気がいってしまったようですね」


 そう答えたゴーザを殺そうとした殺し屋の足を見ると牛というよりヤギのような下蹄がついた毛で覆われたものになっていた。

 雪斗時代によく見た典型的な悪魔の姿だ。


 「私はね、ニスロクの作る料理が大好きだったのですよ。それをあなたが還してしまったから冥府に戻るまで食べられなくなってしまってイラついていたのです。それを更に私に依頼されたそこのドワーフを殺す任務まで邪魔して‥‥ニスロクの件もまとめて次はあなたを殺しますよ。いいですね?常に私はあなたを見ていますよ。後ろに気をつけてくださいね」


 そう言いながら砂が舞うように消え去った。

 呆気にとられているゴーザ。

 自分の身に何が起きたのかわからずぼーっと突っ立っていたが、ソニアが簡単に説明したのを聞いて状況を理解した。


 「スノウ、そしてべっぴんソニア!すまねぇ!俺がお前らのパーチーに入って助けてやろうなんて大見得きっていたのに実際に助けられていたのは俺だったな!改めて礼を言う!ありがとう!」


 思わぬ異形の者の出現にさらなる混乱を招いた戦いだったが、逆にそれが両軍の動きを止める結果になったことと、既にコランドモ司令官と副官が王国軍に捕まったことで事実上軍の指揮系統を失ったことからグコンレンの敗北が決まった。

 ザリウス副総司令が勝利宣言を行ったことでこの戦いは幕を閉じた。

 スノウを中心とした激しい魔法攻撃や肉弾戦によって多くの死傷者を出したように見えたグコンレン軍は実際には軽傷者ばかりで死者はほとんど出ていなかった。

 スノウは基本的に魔法攻撃を両軍に当たらないところで派手に繰り出していた上、100人隊はみな持っている武器を殴るだけで切りこむような攻撃は行っていなかったからだ。

 極力死者を出さずに勝つ、というスノウの作戦だった。

 約1万の兵はグコンレン兵は代理で立てた司令官がこれ以上攻め込まない条約にサインをした後帰路についた。

 条約といっても形式的なもので何かしらの利害関係が発生する度に小競り合いになり攻めたり攻め込まれたりしているようだ。

 毎度お決まりの終戦儀礼なのだろう。

 スノウとその部下として奮戦したスノウ隊100人はこの戦さの功労者として認知された。



・・・・・


・・・



―――翌朝―――


 「さてスノウ!次の王室クエストが待っています。早速出かけましょう」


 目を輝かせたようなソニックが久々の出番とばかりに息巻いてスノウを起こした。

 まだ明け方5時前だった。


 (鬼だな‥‥)


 頼りになるソニアックだったが、表に出ていないソニックは元気満々なのだとスノウはため息をついた。 





12/18修正

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