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<ティフェレト編>20.100人隊

20.100人隊



 「スノウ、ちょっとよろしいでしょうか」


 「ん?どうしたソニア」


 ソニアがスノウに耳打ちする。

 

 「彼をパーティに加えることは少し覚悟が必要かと推測します。」


 「どうしてだ?」


 「おそらく‥‥ですが、彼はこの戦いで殺されるからです」


 「はぁ?どういう意味だよ?」


 「ドワーフは王国規則で守られているのは先程申し上げた通りです。ですが、その恩赦としてこの戦さに参加させたというのは表向きかと」


 「つまりボコられた貴族にも面子があって恨みを晴らすためには処刑ではない形で殺してしまえばいい。例えばこの戦さで戦死したという形にして‥‥ってことかい?」


 「流石はスノウ。その通りです。実はよくあることなのです。王室クエストだけではなく、貴族が自分で依頼したクエストに参加させて、殺し屋を差し向けてクエスト中に死んだことにするといった感じです」


 「なるほど。ってことはこの王国軍第2陣にそのボコられた貴族の雇った殺し屋が紛れ込んでるってことかい?」


 「そうなりますね」


 (全く。貴族にはまともなやつがほとんど居ないんだなどの世界も。エントワみたいなのは本当に稀な存在なんだな。まぁ貴族に限った話じゃないか。地位や権力を得たやつのほとんどが私利私欲に走るのは世の常か)


 「面白い。じゃぁその殺し屋をこの戦さで逆に始末してしまえばお咎めなしってことだよな」


 「ははは、承知しました。私はあなたの従者ですから仰せのままに」


 「おうおう!なんだい?何か作戦でもあるのかい?同じパーチーなんだからよ、俺にも教えろい!」


 「ん?いや、ソニアは料理が上手だからこの戦さが終わったらとびっきりのご馳走を作ってくれってお願いしてただけだよ」


 「!」


 常に落ち着いた表情で何かに焦ることが全くないソニアだったが、今のスノウのコメントを聞き、ほんの少しだけ目を丸く見開いて微妙に驚きと少し怒った表情をスノウに向けた。

 ソニア、ソニックもそうだと思われるが、スノウが見ている限りエスティと正反対の性格に見えた。

 エスティが感情の生き物のような存在だとすれば、ソニアックはどこか人間ぽくないなとスノウは感じていた。

 そういう印象があったせいもあってか、スノウは意地悪な発言をした。

 いや、そんな意地悪な発言に対してもサラッと機械的に答えると想像していたがソニアは本当に料理が苦手だったようで、予想を裏切り焦りを隠せず返答に困っていた。

 そんなソニアを見てスノウは少しほっとしていた。


 「ほんとか!べっぴんさんは料理上手でもあるのか!いいな!スノウ、おまえさんこういう女性を嫁さんにするといいんじゃねーのか?がっはっは!」


 ソニアは表情を変えないまま少し顔を赤らめていた。

 何も返答せずクールな面持ちだったが、単に返す言葉が見つからなかっただけだった。

 そうこうしている内にマルシュ大橋に到着した。

 目の前で見ると改めてその大きさに驚く。

 ドワーフの技術力は相当なものだ。

 これだけの技術力なら武器や兵器を作れば相当な軍隊ができるはずだ。


 (もしかすると、プレクトラム王はドワーフを恐れて手を組んだんじゃないか?ドワーフ殺してあの技術力で本気で復讐でもされた日には国が滅びかねないだろうからな。そんな状況も知らず貴族のバカ共はこの戦さでゴーザを殺めようなんて全く自分のことしか頭にないんだな‥‥)


 王国軍総司令官のアルフレッド・ルーメリアから第2陣の指揮を任された軍隊長が橋を渡るように全員に指示する。

 2000の軍勢はゆっくりと橋を渡り始める。

 スノウは一応橋の崩壊を警戒した。

 川には恐ろしい魔物とやらがウヨウヨしているらしいから軍勢のほとんどが橋を渡っている最中に橋を破壊すれば、第2陣はほぼ壊滅状態になるだろう。


 「スノウ!心配すんな!この橋は壊されやしねぇよ!グコンレンがどんな魔法使ったってドワーフの作った橋は壊されねぇ!だから安心して渡りな!がっはっは!」


 「‥‥‥‥」


 いい加減心の内が周りに知れるようなところは何とかしないとなとスノウは思った。

 30分ほど掛けてスノウたちは橋を渡り切った。

 さらに2時間ほど進軍すると前方に交戦中の軍勢が見え始めた。

 青い鎧の軍勢が王国軍だ。その数5000。

 一方赤い鎧の軍勢はグコンレン軍だが、その数は1万以上いるように見える。

 実際に王国軍は圧されていた。

 第2陣軍隊長は一同に止まるように指示する。

 馬に乗り剣を振り上げて叫び出す。


 「王国軍の精鋭たちよ!数ではグコンレンの者どもが勝っているかもしれない!だが我々は何だ!鍛え抜かれた王の剣!王国軍だ!数では劣勢だが、その力では大きく上回る!つまりこの戦い!我らの勝利で終わる!さぁ、精鋭たちよ!思う存分その力を振るえ!そして王国に勝利をもたらすのだ!!」


 『うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』


 王国軍は軍隊長の言葉に鼓舞され腕を上げて雄叫びをあげる。


 「突撃だぁ!!」


 合図とともに第2陣は一斉に交戦中の方向に突き進む。


 「おいおい、何の作戦もなくただ突っ込んでいくだけか?」


 思わず驚くスノウ。

 だが、周りは勝利を確信した顔で何の迷いもなく突き進む。


 「スノウ。お恥ずかしながら王国軍に作戦を持って指揮する技量を持ち合わせた騎士はアルフレッド卿以外にはおりません」


 「気合でなんとかしろってやつね。ある意味負けたことがないんだろう、王国軍は。毎度なんとかなっているんだろうな」


 「おっしゃる通りです」


 「おいおい!何してる!武功を上げて故郷に錦を飾るぜ!行くぞ!」


 (故郷って、あんたドワーフだろう?!全く‥‥これから殺されるかもしれないのに呑気か!)


 兵の流れがうねりとなって戦場に突き進む。

 スノウたちもその流れに争わずに進んでいく。

 もちろんスノウとソニアはゴーザを狙うヒットマンを警戒しながら進んでいる。



―――王国軍第1陣―――


 「ザリウス副総司令!援軍がきたようです!」


 「要らぬことを!父上の‥‥いや総司令の指示だな!だが有難い!左翼から敵を叩くよう指示をだせ!」


 青い鎧にゴールドの差し色が入った豪華な装飾の鎧を着た人物が援軍の登場に若干不機嫌になるも指示を出した。

 その指示を持った伝令が第2陣にやってくる。

 スノウはその指示に少し苛立ちを覚える。

 なぜなら戦況を見ると単に消耗している部分を補填する形にしか見えなかったからだ。

 左翼に第2陣が突入しても敵軍は向かって右翼側に軍を動かし、疲弊している第1陣がダメージを受けるだけだった。

 第1陣を壊滅させたその後はゆっくりと第2陣に手をかければよい。

 グコンレン軍後方はほぼ無傷であったため、2000の軍とは言え壊滅されるのにさほど時間はかからないだろう。


 「これは‥‥挟み撃ちの方がいいんじゃないか?第1陣が一度引いて敵軍を引っ張り出したら敵軍側方に回った第2陣で挟み込んで敵軍を2分して攻撃の方が第1陣が盛り返せると思うんだけどな‥‥」


 「同意です、スノウ。このままでは第1陣の被害はさらに広がってしまうでしょう。敵軍としては第1陣を壊滅状態にしてからゆっくりと第2陣を料理すればいい、そういうことかと思われます」


 「なるほど!俺ぁ細かい仕事は好きだが細かいことは考えられねぇからな!このまま突っ込んでもいいと思っていたが、確かにスノウやべっぴんさんの言う通りだな!」


 「ゴーザ。そのべっぴんさんというのはやめていただけますか?」


 「なんでだ?べっぴんをべっぴんさんって呼ぶなってのは王を王様って呼ぶなって言っているようなもんだぜ?」


 「違うと思いますが。ソニアと呼んでいただけると今後のコミュニケーションもしやすいのでこれは私からのお願いです。同じパーティーなら聞き入れていただけると嬉しいのですが」


 「おお!べっぴんさんにそう言われちゃぁ従うしかねぇな!べっぴんソニア!わかったぜ!がっははっは!」


 「‥‥‥‥」


 「あはは」


 どうやらゴーザはソニアにとって天敵のようだ。


 「だが、負けたら報酬もらえるのか?このままじゃぁ全滅って可能性もあるぞ」


 「負けた場合は一応報酬は出ますが極めて少ないでしょう。それと十分な功績があげられないことになりますから王との謁見の機会はなくなります」


 「それは不味いな。ちょっと軍隊長と話してくる」


 スノウは軍隊長に掛け合いに行くことにした。

 自分たちが囮になって敵を誘い込み分散させるのでその隙をついて切り込むという作戦だ。

 2000の兵のうち、100名を自分に預けてほしい、自分はレネトーズに認められた者で通行証もレネトーズ卿の許可で得られた者だと伝えた。

 レネトーズ卿は領主スメラギとも接点のある有力大貴族だ。

 しかもリュラーを雇える立場でもあると出会った当初に言っていたことからすると、強い騎士や冒険者を従える事で知られているはずだ。

 それなりに効力があると踏んでいた。


 「レネトーズ卿は強いものにしか興味のないお方。かの方が信頼される貴様はそれなりの強さということだな。よかろう。貴様に100の兵を預けよう。ただし、成功したら我の判断であることを主張しろ。だがもし囮の役割を果たせなかった場合は軍令違反として貴様を処罰対象にする。そう思え!」


 なんという無茶苦茶な言い分だろうか。

 成功したら自分の手柄、失敗したら部下の責任。

 雪斗時代に散々味わった構図だ。

 いや、働き方改革とかコンプライアンスとか表向きの体裁で部下にいい顔して、さも一切の責任を追うから自分らしく思う存分頑張れと言いながら結果が振るわない部下には平気で最低評価をつけて飛ばす元の世界の現状からすれば、この世界の上流階級の横暴さはある意味分かりやすい。

 元の世界は裏切りの連続だったが、この世界に裏切りは少ない。

 シンプルに支配する者とされる者、搾取する側とされる側の構図だけで民衆に期待感とかそういった感情はなく、これが当たり前なのだ。


 (望むところだな)


 「もちろんです。それでは100名お借りします」


 「ふん!」


 軍隊長は進軍は止めずに自分だけ傍にそれて言い放つ。


 「今からこのレネトーズ卿衛兵のスノウがグコンレン軍に奇襲をかける!我々が切り込みやすく分散させるためだ!こやつには100名の兵が必要だ!我こそはと思う者は前に出ろ!成功すれば報酬は倍だ!だが失敗すれば死が待っている!腕に自信があるやつは志願してみせろ!」


 進軍を続ける第2陣に軍隊長の言葉が響く。

 当然真っ先にソニアとゴーザが前に出る。

 その後を追うようにパラパラと陣から志願者が出てくる。

 50名ほどが集まったがほとんどが冒険者だった。

 その後、王国軍から1人の将校が陣から出てきた。


 「軍隊長殿、小生の分隊50名も志願させていただいてもよろしいでしょうか!」


 「構わんが失敗すれば貴様だけでなく貴様の家族や家も罪を償うことになると知れ!」


 「もちろん承知しております!」


 「よし行け!」


 「は!」


 こうして有象無象の冒険者50名と、どういう了見か不明だが志願してきた王国軍50人部隊の隊長とその部下50名の約100名が集まった。

 左手にある小さな森があるところで第2陣本体から分離し、スノウ100人隊は敵軍から見えないところで止まる。


 「みなさん!私はスノウ!この小隊を任されたものです。この隊は軍ではない。なのでみんな対等です!ですが戦さには作戦とその作戦を成功に導く連携のための命令系統が必要です。作戦は私が立てみなさんに伝えますが、一人一人バラバラに動いていたのでは無駄死になる可能性が高い!そこで副官的な役割の方を2人置きたいのですがどなたか志願される方は手を挙げてください!」


 ソニアが真っ先に手を挙げる。


 「私に50名をお預けください」


 他の冒険者たちは作戦には興味がなく自分が活躍し武功を挙げる事だけを考えていたため他に手を挙げるものはいなかった。

 その後、王国軍から志願した分隊長が名乗り出る。


 「小生も志願いたします。小生は50名の部下を持っております。よってこちらの勇気ある女性騎士には冒険者出身の50名、小生は部下の王国軍50名という分担でいかがでしょうか?」


 「ありがとう。それで行きましょう。失礼ですがお名前を伺ってもよいですか?」


 「これは失礼しました。小生はジャン・ジャングレン。平民出の王国軍50人隊隊長です。この戦況、スノウ殿のご提案は懸命なものかと思い貴殿のことはよく存じませんが部下の命を預かっている手前最良の策に賛同させて頂きたく志願しました」


 この将校は平民出ということもあり余計なプライドはなく、勝利を掴む意思の強さと部下を守る自分の責任の重さをきちんと認識しているなとスノウは思った。

 そこそこまでは出世するであろうが、この生まれた家系で搾取する側とされる側に2分される世界において搾取される側からする側になることは恐らくないだろう。

 だが、こういう存在は貴重だ。

 スノウは好感を持った。


 「こちらこそよろしくお願いします。ではこの急遽できた100人隊は冒険者50名と王国軍兵50名の2つのグループで基本的に行動する隊とします!」


 「よろしくな、ジャンジャン!おめぇみたいなまともで変わったやつが王国軍にいるなんてな!王国軍も捨てたもんじゃねぇってことだな!がっはっは!」


 「き、貴様!無礼だぞ!分隊長殿はジャン・ジャングレン様だ!次にお名前を言い間違えたらここで切って捨ててやる!」


 ジャンの部下が数人腰に下げた剣の柄に手をかけながら怒りを露わにする。

 決して自分の昇進のためのゴマスリで言っているのではなく、慕っている上官への無礼が許せないという感情からでた行動だとわかった。


 「貴様ら良いのだ。そういうつまらぬ体裁に拘るこの世界の構造を変えたくて軍に志願したのだ。その志は今も変わっていない。その私が名前どうこうに拘っていては世界を変えるどころか何も成し得ない。ジャンジャン!よいではないか!そちらのドワーフの戦士殿、部下の無礼をお詫びします。どうぞ好きに呼んでいただいて構わない」


 「がっはっは!気に入ったぜにいちゃん!じゃぁ遠慮なくジャンジャンって呼ばせてもらうぜ!」


 今回はこのジャンジャンの良識ある態度でもめずにすんだが、なんでもいいが事を荒立てないでほしいなとスノウは思った。

 スノウが100人隊を作ったのはもちろんこの無謀な戦況をひっくり返すためもあったが、ゴーザを狙うヒットマンを絞る目的もあった。

 2000人が交戦に突入した場合、もはやゴーザを気にしながら戦うのは不可能に近かったからだ。

 だが、100人に絞った今、格段にヒットマンを見つけやすくなった。

 しかも、冒険者50名はソニアが見るのでスノウは王国軍50名に気を配ればよかった。


 (貴族だから後腐れない選択をするなら冒険者に金を握らせ多額の成功報酬をちらつかせ黙らせておいて、成功しても失敗しても始末してしまえばいい。一方で王国軍の下層兵に出世をチラつかせて黙らせておいて実行させる手もある。この場合、王国軍だから簡単には始末できないが、子飼いにして上手く使う手もある。つまり両50名小隊ともにヒットマンが紛れ込んでいる可能性があるって事だな)


 「それでは作戦を言います」




12/18修正

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