<ティフェレト編>19.王国軍侵攻
19.王国軍進攻
スメラギはノーンザーレの北に位置するロアース山頂にいた。
彼はこの頂上に巨大なドーム状の建物を築いていた。
そしてそのドーム状の建物の中に足を踏み入れた。
この建物にもエレキ魔法が駆使されており、自動ドアやエレベーターといった元いた世界では当たり前だった設備が備え付けられている。
当然このティフェレトの住人にとっては不思議な設備であり、どういう原理でドアが勝手に開閉するのか、どう言った構造で自分の乗った箱が上下に動くのかは分からなかったが、その便利さに感動していた。
「こ、これはスメラギ様。ご機嫌麗しゅう」
白衣を着た人物がスメラギを迎え入れる。
「余計な挨拶は不要です。稼働状況は如何かな?」
「は、はい。順調に御座います。ふたつの望遠鏡はスメラギ様の設計図通りの制作されており、機能しております。ご覧になりますか?」
「そうですね」
「まずは、こちらの長距離望遠鏡でございます」
スメラギはドーム内の側壁外周に位置されたレールに乗っている運転シミュレータの席のような椅子に座り操作盤をいじりだす。
すると、レールに乗っているコックピットはスメラギの指示通り、移動し始めた。
そして目の前にある画面に目をやる。
画面には南端に位置するシベレンという港町が映し出されている。
スメラギはコックピットの操作スティックを動かし、望遠鏡をさらに遠くに向ける。
複数の小さな島が連なっているが、その奥は海が突然切れている状態になっていた。
「すばらしい!」
この世界は球体ではなく、昔のお伽話のように真っ平らな世界であるところで突然水平線が切れる形となっていた。
日本にいた頃の世界の常識に合致しない不思議な世界の実態を垣間見たスメラギはとても喜んだ。
「次だ!」
スメラギは中央にある螺旋階段を上り、上部にあるさらに大きいコックピットに座る。
巨大な筒がドーム状の天井に向かって伸びており、先程のコックピットと同様に操作スティックを動かすと筒が動きだす。
スメラギは筒の先端に付いている接眼レンズから覗き込む。
「実に素晴らしい!」
覗いた先には星が見える。
この装置は天体望遠鏡だった。
月のような惑星は近くにないようで天体望遠鏡の見える範囲はその場では分からなかったが、理論上はかなり遠くまでの見える作りになっている為スメラギは成功を確信した。
スメラギが作ったこの建物は天文台だった。
スメラギはこの天文台の中に作らせた自室を訪れ、稼働して以降の天体望遠鏡の撮影データを見ていた。
「やはり別次元か‥‥」
スメラギは見知らぬ黒づくめの ”人なのかどうかさえ分からない存在” に突然このティフェレトに連れてこられた。
当初は元の世界に戻り、元の生活を取り戻そうと躍起になっていたが、今は元の生活に戻る事は望んでいない。
しかし、元に戻る方法は探し続けていた。
音魔法を使って電気を生み出し、電気を使って様々な近代機器をこの世界に生み出した理由は全て元の世界に戻る手段を確立する為だった。
その手始めとして天文台を作った。
自分が飛ばされてきたのは空からだった為、空に元に戻るヒントがあると考えたからだ。
しかし、天体望遠鏡を駆使しても自分が突然放り込まれ流されてきた光の川は見当たらなかった。
「まぁいい。次の段階に移ればいい事」
スメラギは椅子にもたれて口が裂けているのではと思うほどの笑みを浮かべていた。
・・・・・
・・・
―――ところ変わってラザレ王宮都―――
スノウ一行はレネトーズ卿にもらった馬車でラザレ王宮都に来ていた。
王室依頼クエストのレベル:アレグロ “グコンレン軍の殲滅” に参加する為だ。
このクエストに参加するのはスノウ、ソニアックの2人いや3人だ。
ソニアックが既に登録を済ませている為、直接ラザレ王国軍に合流すればよい。
最初は3つめのクエストのハルピュイアの生捕クエストを他の者に対応されてはまずいので、一刻も早く王国軍に合流し効率よくクエストを終わらせ、クエストレベル:フォルテッシモの案件に移り王に謁見できる権利を得ると同時にハルピュイア生捕クエストでケリーの姉妹たちが誰かに生け捕られないよう対応しようと考えていた。
だが、流石に2つ目のクエストは簡単にいかないだろうと言う事で二手に別れる事にした。
従ってスノウ、ソニアックの3人はグコンレン軍の殲滅、エスティ、レン、ケリーの3人はケリーの故郷ハルピュイアの里を目指す。
いち早く里に出向き、ケリーの姉妹にこの事態を伝え一時的にどこかへ避難するというものだ。
スノウは王に謁見できればよいので、それが済み次第エスティたちと合流し、ハルピュイアを襲う輩をこっそりと叩けばいい。
問題はスメラギの動きが読めない事だ。
だが、今考えても仕方ないとスノウは思った。
「貴様らよくぞ志願してくれた。国王に代わり礼を言う」
総勢100名ほどの志願者が集まる前で演説する男がいる。
見なりは騎士の格好をしており、顔や腕などに傷がある事から幾多の戦場を経験している手練れに見える。
「えっと、今はソニアか。彼は一体?」
「彼は王国軍総司令官のアルフレッド・ルーメリア様です。叩き上げの騎士で西のグコンレンや北のメーンザーレの侵攻を抑えてきたのは彼の功績が大きと言えます。ただ、見ての通り60歳を超えていますので現場での軍の指揮は息子に譲っています」
「息子がいるのかい?」
「はい、名前はザリウス・ルーメリアです。代々ルーメリア家は王国軍の指揮を取る武豪貴族で既に亡くなったアルフレッドの父、ガルガ・ルーメリアはリュラー6騎士の1人でもありました」
「強いんだな」
「はい。でもスノウの足元にも及ばないでしょう」
「買い被りすぎだよ。ソニアこそ強いじゃないか」
「ありがとうございます。この戦いでもスノウのお役に立つべく最善を尽くします」
「あ、あぁ、ありがとう」
そうこうしている内に王国軍総司令の演説は終わり、いよいよ出発となった。
王国軍先発隊5000人に続き、2000人が出兵する。
スノウとソニアックは後続の2000人の部隊に加わっており、これから戦地となっているコンレゴ平原を目指す。
一方エスティ、レン、ケリーの3人はレネトーズ卿から得た報酬でもう一台馬車を購入し、現在メルセボーに向かっていた。
「ねえさま‥‥ボダルゲ‥‥」
馬車はレンが御者を務めており、ケリーとエスティは馬車の中にいた。
「大丈夫よケリー。お姉さんたちは強いんでしょ?それにハーピーたちもいるからそう簡単にはやられないわよ。そしてあたしたちが追いつけば問題解決。あたしは強いからね!ふふふ」
「ありがとう、エスティ‥‥」
ケリーはエスティに抱きつく。
エスティは、スノウを取り合ってケリーといがみ合う事もあったが、今はかわいい妹のように思っていた。
「それでケリー?お姉さんたちや妹はどんな感じなの?」
「えっとねー。アエローねえさまはきれいな緋い羽してて怖いけど優しいの。それでオキュペテねえさまはとっても優しい。ボダルゲはまだちっちゃいからあまりうまく飛べないの」
「そっか。ケリーは3番目なのね。ってことは妹のボダルゲにとってはケリーはお姉ちゃんって事ね」
「そー!ボダルゲいっつもケリーの後ろついてきて遊ぼしかいわない。ふふふ」
家族のことを話すケリーは少し心が和んだようで不安気な顔が少し笑顔になった。
エスティも三足烏との戦闘の場に置き去りにしている父を思うと胸が張り裂けそうになる。
ケリーの気持ちがよくわかった。
馬車はレンが思いのほか飛ばしていたのでまもなくメルセボーにつくという距離まで進んでいた。
メルセボーで馬に餌をやり、昼食をとったらすぐに出発し夜はどこかで野営する計画だ。
ケリーやレンは戦闘には参加できないが、ノーンザーレまで来た道のりで遭遇した魔物レベルであればエスティ1人で造作もなかった。
一方、スノウとソニアックが参戦している王国軍第2陣は大河のマルシュ川沿いを進軍していた。
グコンレンが簡単にラザレ王国に侵攻できない理由は先程のソニアの説明の通り、リュラーの存在はもちろん王国軍の存在があったが、もう一つ、地理的理由もあった。
このティフェレトの聖なる山と呼ばれるマルシュアース山から流れ出る川のマルシュ川の川幅がやく2キロメートル程あり、凶暴な川の魔物がいる為船が出せないのだ。
この川を横断可能としている巨大な橋マルシュ大橋が川を渡る唯一の手段になっており、防衛しやすいという点がその地理的理由だ。
第2陣はまもなくそのマルシュ大橋に差し掛かろうとしていた。
「デカイな‥あの橋。いったいどうやって建造したんだ?」
「よぉ若いの。おめえさんはこの橋見るの初めてか?」
背が低く筋骨隆々で背中に大きな斧を2本背負っている男がスノウに話しかけてきた。
「ええ、そうです。あなたは初めてじゃないんですか?」
「おいおい!そんな女みてぇな敬語使うなよ。背毛が逆立っちまうって、がっははー。俺は元々グコンレンのさらに西にある豪雪地帯の出身だからな。このラザレ王国に来るのに一度通ってるってことだ」
「ははは。じゃぁ遠慮なくタメ口で。へぇ、そうなんだな。豪雪地帯ってまたすごいところの出身だね」
「ああ!俺はドワーフだ。あの豪雪地帯の地下深くにある溶岩地帯を巨大な街に作り替えて住んでる屈強な一族だからな。俺たちドワーフにかかれば豪雪地帯も住みやすい場所になっちまう!がっははー」
なんとも陽気な男だとスノウは思った。
「あの大橋はな、大昔にドワーフが作ったものだ。初代ラザレ国王のプレクトラムとドワーフは交流を持つ証としてあの橋を作ったって話だ。兄ちゃんは知ってるかどうかわからんが、あの川には恐ろしい魔物がうようよしてるからな。いくら屈強なドワーフったって化け物と戦いながら橋は作れねぇわな。がっはっは」
(笑うところだったか?)
スノウはよく分からないが愛想笑いした。
「そこで、ドワーフは橋を作る。プレクトラム王は魔物を鎮めるって感じで協力したんだ」
(言霊か!)
「なんでもな?プレクトラム王が “鎮まれ” って言った瞬間に魔物が整列して大人しくなっちまったって話だ。流石は王様ってことだ!がっはっは!」
(強力な魔物を一言で黙らせる言霊の力。ユーダが手こずるわけだ)
「そうだ兄ちゃん。オメェはパーチー組んでるのか?」
(パーチー?‥ああ、パーティーか)
「ああ、この隣の者と組んでるよ」
「そうか!じゃぁ俺を仲間に加える気はねぇか?旅は道連れっていうじゃねぇか!これも一度出会っちまた縁だ。どうだ?俺は強ぇし器用になんでも作るぜ?」
「スノウ。彼には見覚えがあります。前科のあるドワーフです。確か貴族に重症を負わせた罪でした。貧しい人から搾取していた貴族を殴って重症を負わせたと記憶しています。王国規則でドワーフを極刑にはできませんから、おそらくこの戦に参加することで罪を免除という条件で参加しているのでしょう。戦は誰も行きたがりませんから恩赦があるんです。まともな心の持ち主だと推測します。もちろん仲間にするかはスノウのご判断にお任せします」
ソニアは悟られないようにさりげなく耳打ちした。
全くできる女性、いや双子だとスノウは感心した。
「いいだろう。この戦で武功をあげたいと思っていたんだけどあんたと組めば戦力増強できそうだ。悪い人でもなさそうだし。でもなぜおれに声かけたんだい?」
「そりゃぁ決まってんだろう?オメェさんが強えぇからだよ。それとまともなハート持ってるからかな!がっはっは!」
(なんだ‥‥?もしかしておれのことを知っているのか?)
「スノウ。大丈夫です。ある程度の戦闘力を持っている者ならあなたの強さはオーラでわかります。彼もまたそれがわかる強さを持っているということでもありますね。警戒する必要はなさそうです」
「わかった。おれはスノウ。よろしく。そして隣にいるのが‥‥」
「ソニアです。スノウさんの従者をしています」
「おお!べっぴんさんの従者がいるとはな!スノウ、オメェ色々とやるやつなんだな!がっはっは!」
(おいおい!このソニア、なかなか抜け目ないやつだな。ソニックに変われないように釘刺した感じか)
「おっとすまねぇ!声かけといて挨拶が遅れちまった!俺はゴーザ!よろしくな!」
3人でも十分だと思った一つ目のクエストだったが、思わぬところで仲間が増えた。
二つ目のクエストが楽になるなとスノウは思った。
12/18修正
・・・・・・・・・・
次話投稿は5/1の予定です。




