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<ティフェレト編>13.堕天使の正体

13.ローマンの正体



 カフェでくつろぐスノウとエスティ。

 もうすっかり日が沈み、辺りは夜だがエレキ魔法の恩恵か街頭が複数設置されておりもっぱら夜の繁華街のような状態になっている。

 予定通り行けばそろそろレネトーズ卿がパーティーとやらに出向く頃だ。

 しばらくはバタバタすることが想定されるため、1時間ほど経ってから潜入しケリーを救出後に火を放つ手筈だった。


 「それにしてもよくレンを信用したね」


 「ん?どういうことだい?」


 「スノウってもう少し臆病で慎重な人かと思ってたよ」


 「あぁ、そういうことか。臆病で慎重‥‥。臆病は合ってるな。けど慎重ってのは違うかな。おれは臆病故に慎重に行動するってのではなくて、臆病故に行動しないって感じだよ」


 「何それ!全然自分のこと分かってないねあなた。あなたが行動してなかったら今までレヴルストラのメンバーや私たちホドのキュリアたちは今頃どうなっていたか分からないよ。もう少し自分に自信持っていいんじゃない?あなたがそんなんじゃ信じてついていってる私たちが不安になるよ」


 「‥‥‥‥」


 (不安になるか‥‥。確かにそうだよな。でも自信‥‥そう簡単に持てたら楽だろうな)


 スノウはいくら成長スピードが早く戦闘力が高くなったからといって、それが自信に直結するものではないと思った。

 判断一つとってもそうだ。

 魔法があり魔物がいて戦っている違いはあれど、人生は判断の連続だ。

 危機的状況の種類は違えど、判断を誤れば自分だけじゃなく周りも不幸にしてしまう可能性がある。

 雪斗時代に染み付いた人と距離を縮めることへの恐怖は戦闘力が高くなっても簡単には癒えない傷となっていた。


 (このビビりのおれが、人の人生まで背負えるのか?)


 だが、エスティの言う通りだとも思った。

 確かに自分の存在がアレックスたちに影響が無かった訳じゃない。

 客観的に見て、自分の存在が役に立たないものなんかじゃないことも分かる。

 時には自分の判断でメンバーを導いたこともあった。


 (考えたらダメだな‥‥。常に意識して落ち着いて状況を見て最善の策で動く。集中力が切れた瞬間に雪斗時代に引き戻されて自分の弱さが露呈する‥‥。集中し続けることが大事‥‥うまくやれるのかおれは‥‥いや考えちゃダメだ‥‥)


 「いや、エスティの言う通りだ。おれは自信も持たなきゃならない。これからもよろしくな」


 エスティは顔を赤らめて両手で顔を覆い恥ずかしそうにモジモジしている。


 「そう、レンの話だったな。レンはおれと似ていると思ったからかな。あいつには元々何もなかった。金も地位も名誉も人を惹きつけるカリスマ性も。でも音変化っていう特技を手に入れた。それで世界に翻弄されながらも精一杯もがいて前に進もうとしている。おれも同じでさ。何も無かったおれが突然ホドに飛ばされ、天技にも恵まれて周りの人には使えない魔法を使ったり、技を覚えるスピードが速かったり」


 スノウは自分のこれまでの状況を思い返すように話を続ける。


 「そういうアドバンテージを持って精一杯もがいているっていう点でレンと似ているなって思ってさ‥‥。いや、おれと似ているいうかレンの方がおれの先を歩んでいるって言った方がいいか。おれにはあいつみたいなポジティブさはないからな。そんな訳であいつを全くの他人とは思えないんだよな」


 「そっか‥」


 顔を赤らめて恥ずかしそうにしていたエスティは、スノウの言葉を聞いて普通の顔色に戻り真剣に考えている。

 信号機のようにコロコロと感情が揺れる子だなとスノウは思った。


 「でもレンも同じ気持ちをスノウに抱いているのかもね。あなたについていけば自分の進むべき道が見えてくるんじゃないかみたいなね」


 確かにそうかもとスノウは思った。

 アニキと慕うのもそういう気持ちの表れだと納得した。


 「エスティはヴォヴルカシャ最大キュリア総帥だけあって人を見る目は意外とあるんだな」


 「な!な!な!ななによ!私だって一生懸命頑張ってるんだから!」


 顔を真っ赤にして怒っているのか喜んでいるのか分からない表情で吃りながら答える。


 「褒めているんだよ‥ん?」


 (!)


 スノウはレネトーズ卿の方から何かが飛んでくるのを感じ構える。

 ボール状のものが飛んできたため、スノウはそれを反射的にキャッチする。

 大きさはソフトボール程度だ。

 どういった素材で作られたものか分からないが、小さなボタンを押すとパカっと開く構造のボール状の物体だった。

 開いてみると、小さな弓状の音を記憶するアイテムが入っていた。


 「レンに何かあったのかもしれないな」


 スノウはその弓を弾いてみる。

 そのアイテムから音に乗って会話が響いてきた。


―――――――


 「殺す前に目的を聞いてやる。なぜこの屋敷に潜入した?」

 「マジで下衆ヤロウっすね!!!さぁ殺したければ殺せばいいっす!!!オイラを殺したところでお前らは死んで地獄行きっすから!!!コグラン!!そしてローマン!!お前ら下衆ヤロウたちはきっと報いを受けるっすよ!!!


――――――――


 ここで音は途切れた。

 それほど長い時間録音できる代物ではないため、これ以上の録音はできなかったようだが内容はレンの置かれた状況を十分に把握できるものだった。


 「エスティ、急ぐぞ」


 代金を机の上に置き凄まじい速さでレネトーズ卿の方へ向かう。



・・・・・


・・・



 「アニキー!」


 叫ぶレンの言葉虚しくスノウに届くことなく、空中に浮いている包丁はレン目掛けて飛び、突き刺さろうとしている。


 「フハハァ!死んで俺たちの為にうまい料理の材料になれ!」


 カン!


 「何?!」


 何かが包丁に当たる音がして軌道が外れたのか、レンの首を皮一枚かすめてあらぬ方向に飛んでいった。

 次の瞬間、見えない速さでローマンは腰に下げた2本の包丁を両手でそれぞれ持ち構え警戒した。


 シュゥゥゥゥゥ‥‥


 ローマンの背後の上空からマント姿の影が急激な速度で近づいてくる。

 月明かりに照らされてマントをはためかせた影が剣を抜きローマンに襲いかかる。

 ローマンはその影に空中浮遊させている包丁を投げ、自身も攻撃を加えるために影の方に突進する。


 カキィィン!!


 影は飛ばされた包丁を剣で弾き、振りかぶってローマンに切り込む。


 ガギギギ!!


 ローマンはその剣撃を2本の包丁で受ける。


 「お前何者だ?この俺とやりあうとはなかなかの腕前だな」


 「あら、あなたと私が互角みたいな言い方ね」


 その影に向けて先ほど弾かれた包丁が背後から飛んでくる。


 グググ!!


 包丁が影に刺さる直前に止まった。

 いや、突如現れたもうひとつの影によって包丁を掴まれてしまっているのだ。

 影の背後からもう一つの包丁を掴んだ影がローマンの背後に回って剣を突き立てる。


 ガガガギギギ!


 ローマンはすかさず両手で押さえていた包丁の片方を使って、もうひとつの影の攻撃を受ける。

 だが、パワーに押され膝をついてしまう。

 月明かりに照らされてふたつの影の姿が明らかになる。


 「アニキー!!アネゴ―!!」


 半泣き状態のレンが見たのはスノウとエスティの姿だった。

 スノウは当たりを見回し状況を把握する。


 (この傭兵まがいの男が使用人全員をこのような状態で整列させるのは不自然だ。おそらく別の人物がいたに違いない。レンの音録音の音声ではコグラン、ローマンという名が叫ばれていた)


 「お前がローマンか?」


 「おお?俺の名前まで知っているとはな。お前何者だ?剣撃の重さと剣筋の鋭さから相当な手練れと見たが、この世界にゃぁリュラーのやつらくらいしかまともな強さ持ったやつはいねぇと思ってたかがなぁ」


 「なるほど。コグランとやらはここにはいないのか?」


 「お前如きがあの方を呼び捨てにするんじゃねぇよ」


 「あの方?レネトーズ卿よりも敬われているような言い方じゃないか」


 ローマンは包丁で剣を弾くとカンフーのような動きでジャンプし距離をとった。


 (こいつはこの場で倒す必要がある。人間相手にするのは今だに慣れないがこいつがいる限りケリーを助けることができないからな。それに無関係の人間を既に2人殺しているところと、どことなく人間じゃないようなこの雰囲気からして、コグランとこいつは何かやばい感じがする。そしてレネトーズ卿を利用して何か企んでいることは間違いない)


 「エスティ。レンと一緒に例の作戦頼む。使用人達も解放してやってくれ」


 「了解。スノウ気をつけて?こいつ何かやばいよ」


 「分かってる」


 エスティは安心した表情を浮かべ、レンや他の従業員たちをひとまず屋敷の中に運ぶ。

 今だに身動きが取れない使用人たちに苦労するエスティ。


 「これって言霊とかいうやつよね。麻痺回復の効果もあるレストレーションも効かないなんて厄介ね。これだけの人数をどこか安全な場所に避難させるのは大変だし、どうしたらいいのかしら」


 「アネゴ、言霊には言霊で対抗するって聞いたことがあるっすよ」


 「そんなこと言ったってあたし言霊なんて使ったことないわよ。あなたはできるの?」


 「できたら苦労しないっすよ。なんか‥‥こう、なんでもいいから言ってみて下さいよ」


 「はぁ?!何それ!何か言って何も怒らなかったらあたしが無能だからみたいになるじゃない!馬鹿だわよあなた!」


 「あーもーなんでもいいからお願いするっすよ!もしかしたらどこか行っちまったコグランとの距離が離れてることで効き目が出るかもしれないじゃないっすか!」


 「うるさいわね!えーっと何?!動け!」


 エスティが言い放った声がエコーがかかったように響き、声の波動が波打って使用人達に浸透していく。

 レンと使用人たちは全員何かに操られたように小刻みで奇怪な動きをとり始めた。


 「ううごぉけぇじゃなくててててて、じゅばくくかかかかいいいいじょとととかかかじゃじゃじゃななないいっすかぁぁ??」


 工事現場の穴掘り機を使いながらしゃべっているかのような状態でツッコミを入れるレン。


 「ああ、ごめん。えっと‥呪縛‥解除!」


 先ほどと同様にエコーが掛かったような声の波動が広がっていきレンと使用人たちに伝わっていく。

 伝わりきった後に全員の奇怪ダンスは止まり自由となった。


 「おお、助かった」

 「ああああ!!」

 「殺されるかと思った」


 解放された使用人たちは動けるようになったことで自由を得た喜びを噛み締めている。


 「さぁ、みなさんグズグズしてらんないっすよ!さっさと裏口から逃げるっす!」


 「おお、そうだ」

 「こんな恐ろしいところにはいられない」

 「逃げるぞ!」


 使用人たちはエスティに礼も言わずに部屋から出ていった。


 「ふぅ。それにしてもアネゴ。すごいっすね!言霊使えるどころじゃないじゃないっすか!その力相当なものっすよ?」


 「そ‥‥そうなのかな‥‥なんだかよく分からないんだけど兎に角良かった」


 「アネゴ!じゃぁハルピュイア救出作戦行きましょっす!」


 「そうね!」


 (なんだか急に頼もしくなったわね、レンのくせに。そっか、スノウもこんな感じだったのね。恐怖を乗り越える度に強くなっていった。きっとそれは自分でも気づかない成長だったんだわ‥‥。そしてレンも気づかずにこんなに頼れる存在になってるってこと?)


 まだ会って数日だが、エスティはどことなくレンとライジを重ねてしまっており親近感を抱いているようだ。

 ライジがジライだった事が嘘だと自分に言い聞かせるように。

 ケリーが囚われている牢は倉庫の地下で簡単に行き着いた。


 「エスティ!」


 「ケリー!大丈夫?」


 「うん!スノウは?」


 「今ちょっと戦闘中。少し事情が変わってね」


 「スノウ大丈夫?」


 「大丈夫よ。彼強いから」


 「うん!」


 ほんの数秒のやり取りだったが、ケリーは納得したようだ。

 牢屋の鍵を開け、ケリーを救出する。


 「このちっこいの何?殺した方がいい?」


 「だめよ。この子も仲間なの」


 ケリーはレンを指さして少し警戒している。


 「オイラ、レンっす。訳あってスノウのアニキとエスティのアネゴについて来てるっすよ。心配いらないっす。こう見えてオイラめっちゃ弱いっすから警戒する必要ないっす。ってかちっこいのって、君の方がちっこくないっすか?」


 レンの言う通り、レンと争ったからと言ってケリーに傷一つつけることはできないだろう。

 それでもケリーは警戒を解かない。

 その間エスティは背負っていたバッグから何やら大きめな袋を取り出す。

 どうやら鳥型の魔物のようだ。

 ケリーの死骸と見せかけるために街の外で狩ってきた魔物の死骸だった。

 そして、エスティはケリーを抱え地上を目指す。

 その間レンはハーピーの羽を馬車庫へ運ぶ。



・・・・・


・・・



―――場面変わって庭―――


 「さて、殺す前にお前たちの侵入目的を聞こうじゃねぇか」


 「お前には関係ないな。さっさとおれに殺されろ」


 「フハ!人間の分際で生意気な口を叩くじゃないか」


 「なるほど、自ら自分は人間じゃないって告白したってか!お前一体何者だよ。レネトーズ卿の懐に入って何しようと企んでる?」


 「思考の巡るやつだな。まるで重箱の隅を突くってやつだ。俺は重箱だと食べづらいからどんぶりか皿が好きだがな。主人も同じことを言っている」


 「?‥‥なんだかよく分からないがとっとと正体見せなよ。それは変体した姿なんだろ?」


 「お前のような人間に俺の真の姿見せてどうする。ちなみに名前も明かさないぞ?」


 「ははーん。なるほどな。お前悪魔だろう?名前を明かすと服従の契約を結んでしまうとかなんとかで言えないんだな?そしてそれほど強くない階級の悪魔だな?」


 「!!‥‥お前殺してやるよ」


 (なるほど!図星か!当てずっぽうに言ってみたが重要なヒントをもらった)


 スノウは雪斗時代にやっていた天使や悪魔の出てくるRPGの知識でハッタリをかましたが、ズバリ弱点の一つを言い当ててしまったようだ。

 一方、怒りに触れたのかローマンは会話を途中で切り、スノウ目掛けて突進してきた。

 素早く距離を詰め、両手の包丁を素早く複雑な動きで振り回し攻撃してくる。

 スノウはそれらをフラガラッハで防ぎながらブラストレーザーをぶち当てて距離を取る。


 「ほう!お前の加護はリゾーマタか!」


 「だけじゃないぜ」


 肉体強化魔法でローマンの倍はあろうかというスピードで今度はスノウから攻撃を仕掛けた。


 カンカンカン!!


 ローマンは3本の包丁でなんとかスノウの攻撃を防いだ。


 「ほほう、そうかじゃぁこっちも気合いれねぇとな!」


 「バイオニックソーマ、ジノ・アジリアル、マジックアドヒレンス、ジオライゴウ、ジオエクスプロージョン、ディルヴィアルカタストロフ」


 聴き慣れた魔法が聞こえるが、そのレベルが全てクラス3であり、特にやばいのがマジックアドヒレンス(魔法付着)をかけて3つの包丁にそれぞれジオ級のリゾーマタ魔法を付与していることだった。

 それを超高速攻撃でぶち当てようというのだから、相手の気合を入れる発言はまさにその通りだとスノウは思った。


 (ジノ・コンセントレイト、バイオニックソーマ、ジノ・アドレント)


 スノウは心の中で思い描くだけで魔法を放てる。

 詠唱が不要という点は戦い、特に1対1の戦いの中ではかなり有利だ。

 詠唱時間が短縮できる事に加え、心の中を読み取られない限りどのような魔法を繰り出すか相手に知られずに対応できるからだ。


 「いくぜぇ、今日の料理の一品さんよ!」


 ローマンは凄まじいスピードで一気に距離を詰める。

 両手と宙に浮いている3本の包丁がスノウ目掛けて襲いかかる。


 ドゴガガガガッァァァァァァン!!


 鋭利な包丁が炎と水と雷が爆裂級魔法を伴ってスノウにぶつけられる。

 属性防御も意味をなさない3属性同時攻撃は相当な魔法防御力か、魔法耐性がない限り即死か致命傷を負うレベルの攻撃だった。

 真っ黒焦げになっている攻撃対象を見てローマンは満足げだった。


 「所詮は人間か。少しやるやつだと思ったからもう少し楽しめるかと期待したのになぁ。しかもこんなに焦げてちゃ料理の食材になりやしねぇ。いや中身は丁度いい焼き加減かもしれねぇから切り裂いてみるか、フハァ!」


 ローマンは右手に持つ包丁で黒焦げの物体を複数に瞬時に切り刻む。


 「うほほぉ!強火でいい気に焼いたから中はレアに仕上がったなぁ!あぁ我が主人にも食して頂きてぇ!‥‥ん?」


 ローマンは何かに気づく。

 先に殺したはずの食材が1体足りない。


 「ど、どういうことだぁ?!」


 ザン!!


 「ぐへぇ‥‥」


 ローマンの体が縦に切断され倒れ込む。


 「いくら死体といっても利用するのは気が引けたが、今回は仕方ない。恨むならあの世でローマンを恨んでくれ。といってもローマンは地獄行きだろうから会うことはできなと思うけどな」


 ローマンの体を切ったのはスノウだった。

 スノウは既に自身に掛けていた肉体強化、速度強化魔法に加え、バイオニックソーマで超人化し、さらに短時間瞬間的に魔法効果をあげるジノ・アドレントを掛けローマンの速度を大きく上回る速度で動き、先ほど殺されてしまった若者の死体を身代わりにして上空へ跳ね上がり、魔法効果を大幅にあげるジノ・コンセントレイトで魔法強化された状態でエントワ譲りの魔法剣でローマンを一刀両断にしたのだった。


 「ぐへへぇ」


 ローマンは縦に両断された状態にも関わらず笑っている。


 「面白ぇ。おもしれぇよお前!本気ださねぇとなぁここまでやれるやつなら!」


 ローマンは両手で自身を抱き抱えるようにして、両断された体をくっつけるようにしてそのまま立ち上がろうとしている。


 「お前、やっぱり人間じゃないな?」


 「残念だがその通り。俺様ぁ堕天使だ。体切り刻まれようが死にはしねぇんだなぁこれが」


 (堕天使。まぁそうか。天使がいれば堕天使だっているか)


 スノウは妙に落ち着いていた。

 おかしな話だが、戦闘においては自分の能力や戦闘力に自信を持っていた。

 雪斗時代の他人を拒絶し自分自身にも諦めを抱いていた感覚は、戦闘力が上がったところで簡単に払拭できるものではなかったが、精神的にも成長しつつある中で戦いの中でも落ち着いて対処できるようになっていた。

 これもロムロナのスパルタのお陰だが、当のスノウ本人は気づいていない。


 「じゃぁどうすればお前を消滅させられるか色々と試してみよう」


 「んーーー!!生意気な野郎だな!かの魔王の料理長を務めるこの俺様に向かってよくもそんな口を叩きやがったな!後悔させてやるぜ!」


 そう言い終える頃には半分に分割された体はすっかり元通りになっていた。

 いや正確には違う。

 切断された部分は元通りにくっついているが、その容姿は元の人間のローマンではなく、皮膚の色は青白く変色し、腕が4本に増え、目はつり上がり背中に黒いコウモリのような翼が生えている。


 「へぇ。それがお前の正体か。本当の名前はなんだったっけ?」


 「バカが!言うわけないだろうが!死ねぇ」


 そう言うと堕天使の姿に変貌したローマンは3本の包丁をそれぞれ分割し、計6本の包丁に変え、4本の手それぞれに包丁を握り、残り2本の包丁を宙に浮かせスノウに攻撃を仕掛けてくる。


 カカカン!!ガキィィン!!ザザン!!


 素早さに大きな差があるため、手数の多い堕天使の攻撃もスノウは難なく避けきり、逆に攻撃を加えている。

 しかし、斬っても斬ってもすぐに再生する。


 (厄介だな。堕天使っていうくらいだから、神聖属性とかそういうのじゃないと効かないのか?困ったな。試すにも神聖属性魔法とか知らねぇし)


 悪戯に時間ばかりが過ぎていく。


 「なぁるほどな。だいたいわかったぜ、お前の実力はな。そろそろ終わらせてきちんと食材にしてやるよ」


 そう言い放つと堕天使ローマンは包丁を更に分割し、6本を12本にし、4本の手に加え、8本を宙に浮かせた状態で構えた。


 (なるほど、そう来たかよ!)


 堕天使ローマンは、12本の包丁で一斉にスノウに攻撃を加える。


 「さぁ!終わりだぜ!フハハ!」


 スノウは、なんとか攻撃を防ぎ切っている。


 (このレベルなら防げるが、長くは持たないから早いところなんとか策を考えないと)


 「フハハァ!ゾクゾクするなぁ!この攻撃を防ぎ切る筋肉ってのはどんな味だぁ!?だがもう終わりにしてやる」


 堕天使ローマンは呪文を詠唱し始めた。


 (マジかよ‥‥)


 スノウのこめかみに汗が滴る。

 堕天使は12本の包丁に魔法を宿し始めた。



12/5 修正

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