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<ティフェレト編>8.おれのすべき事

8.おれのすべき事



 「助けて‥‥」


 見た目幼いハーピーはそういうと電池が切れたかのように気を失った。

 その姿は人間でいう7〜8歳といったところだ。

 もっともスノウには魔物年齢など分かるはずもなく、勝手に “幼い” と決めつけているが実は自分より遥かに年上という場合もありうる。

 だが、何よりスノウが心を痛めているのは腕の羽根が無惨にもムシられている事だった。

 おそらくあの貴族の指示でこの子が飛んで逃げないようにとムシられたのだろう。

 スノウはハーピーの子を抱き抱え、御者に気づかれないように後方の護衛馬車に戻った。



・・・・・


・・・



 「一体どういうこと?!」


 エスティは目を丸めてスノウに問いただしている。

 護衛の馬車に戻ってきたスノウが子供のハーピーを抱きかかえていたからだった。


 「いや‥特産品ってのが怪しかったし、何というか‥‥あの大貴族、よからぬことをしでかしたんじゃないかって思ってさ。それでこっそり見に行ったんだけど、そこにいたのがこの子ってわけだよ‥‥」


 「これってハーピーよね。普通魔物を助けるとかってある?てっきりあの大貴族に取り入って王都まで安心して旅ができるような環境づくりしてたと思ったんだけど。これが見つかったら私たち完全にあの大貴族から追われる身になるね」


 (嫌なこというなぁ、こいつ。まいったな、確かにエスティのいう通りだけど‥‥)


 「確かにその通りだし、分かってるんだけどなぜかこの子をなんとかしないととんでもない事になる気がしてならないんだよ‥‥」


 エスティへの説明に苦慮している通り、スノウ自身頭ではエスティのいう通りで、この幼いハーピーを助ける事でせっかくの大貴族とのパイプを利用した今後の旅の安全が少しでも確保される環境がいきなり崩れ、むしろ関係が拗れれば指名手配犯的な扱いで追われる可能性だってある。

 だがスノウの心の内がそうさせなかった。

 何故だか説明が難しいのだが、この幼いハーピーを助ける必要があると思わずにはいられなかったのだ。


 「わかったよ、スノウ。私はあなたを信じるわ。それで次の作戦は?」


 すんなり賛同した予想外のエスティの反応にスノウは一瞬戸惑ったが、エスティのいう通り、今後とるべき行動を整理する必要があった。

 少し考えて答える。


 「そうだな。なんとか特産品馬車を魔物に襲わせて馬車自体を燃やすか何かして消失させた事にしてはどうかな」


 「なるほど。そういやって諦めさせてこの子をこっそり逃す作戦ね。でもどうやって?またハーピーの集団が襲ってくるとは限らないのでしょう?」


 「そうだね。でもまぁやり方はいくつかあるさ。その前にこの子に捕まった事情を聞いておきたい」


 そういうとスノウは回復魔法を唱えて傷を癒した後、気付けとして最弱に抑えた電撃魔法のライセンを唱えた。

 チクッとした痛みのようなものを感じたハーピーの子は眉間に皺をよせた表情を見せた後、ゆっくりと目を開けた。


 「ギャ!」


 スノウは慌ててハーピーの子の口に手をあて騒ごうとしているのを制した。

 自身の口に指を経てながら “しーっ” と静かにしてほしいジェスチャーを交えながら話しかける。


 「びっくりさせてすまないが、おれたちは君の味方だ。君を助けるために今君を違う馬車にこっそり連れてきて話かけている。状況が理解できたら2回瞬きをしてくれ」


 ハーピーは眉をハの字にして怯えながらも2回瞬きして見せる。


 「いい子だ。君は強いね。今から口に当てているこの手を離すけど、騒がないでね。でないと見つかってしまうから。わかったなら2回瞬きして?」


 ハーピーは先ほどと同じように2回瞬きした。

 スノウは笑顔を見せてゆっくりと手を離した。

 次の瞬間、さっと馬車の隅に後ずさって若干の警戒を見せながらスノウを見るハーピーの子。

 エスティは馬車のホロの隙間から前方を進むレネトーズ卿の馬車や特産品馬車に変な動きがないか見張っているが、ハーピーの子はそちらにも警戒しているようだ。


 「怖かったね。ごめんよ、驚かせてしまって。もう一度言うよ。おれたちは君の味方だ。危害も加えないし、君を箱に閉じ込めた人から逃してあげたいんだ」


 そう言いながらハーピーの子より低い位置に差し伸べるように手を出してその手を取るように促す。

 子供に見えても相手は魔物だ。

 鋭い鉤爪で引き裂かれれば、下手をすれば腕が切断される危険もある。

 それを承知でスノウは敵意がない事を示すために手を差し伸べた。

 だが、ハーピーは依然警戒を解いていない。


 「偶々この馬車一行に遭遇した際にハーピーの集団の攻撃に遭ったんだけど、なんとか生き延びたおれたち2人はそのまま傭兵としてこの馬車に乗る事になったんだ。でも、どうしても気になって前方の馬車を調べてみたら君を見つけた。そこで察したんだけど、ハーピーの集団が襲ってきたのは単なる人間への攻撃ではなくて、君を助けるため‥‥だったんだよね?」


 スノウのその言葉を聞き、我にかえって状況が飲み込めてきたのか、目から大粒の涙を流し始めた。

 しかし、スノウを見つめながら声は出さない。


 (えらいな。声を出さないとは)


 「辛かったんだね。約束するよ、君を助ける」


 雪斗時代には考えられなかった行動だった。

 特に子供とは接点が皆無であった為、女性以上にどう接して良いかわからない存在だった。

 だがホドでのレヴルストラとの生活やティフェレトに越界後トマスやエルサと接した事で大きく変わっていた。

 初めて越界して以降、人との距離をとる行動イコール死に近い環境に置かれてきた。

 生きるために強制的に人と関わる事になった。

 だが、うまく取り繕って関わろうとしても意味がない事も知った。

 表面的に取り繕っても、相手は良くも悪くも自分の領域に土足でズケズケ入り込んでくる。

 その状況で自分をよく見せようとしたところで相手には響かない。

 むしろ素の自分、良いところも悪いところ包み隠さずそのまま見せないと、生きるための人との関わりができない。

 必要なのは全力でぶつかっていく事だと。

 子供であれば尚更だった。

 嫌われる事を恐れ、距離をとったら人との関係の連なりなど生まれない。

 自分自身が関わりが必要と感じた相手に、無様でも全力で自分を見せ接する事が唯一生きていく方法なのだと。

 頭ではなんとなくでしか理解できていない。

 むしろ無意識にそう感じとり、自ずと行動に出ているようだった。

 だが、その行動を取る自分の変化にもスノウは気づいていた。


 (やべぇ。もしかするとこの手切り裂かれるかもな。切断したらくっつけられるんだっけか‥‥?)


 今更ながら自分の行動に不安を覚えるスノウだが手を差し出した事は後悔していない。

 数秒が経過した。

 ハーピーは優しい笑顔で無防備な目の前の男に少しずつ理解を示したのか、徐々に距離を詰める。

 そして羽の腕をゆっくりと前に出した。

 羽の先がスノウの腕に触れる。

 触れた瞬間、ハーピーの体がビクンと震えたが、安心したのかゆっくりと近づいてくる。

 そしてスノウに抱きついてきた。


 「うわ!あ、あはは‥‥」


 ハーピーの予想外の行動に苦笑してしまうスノウ。

 父親に抱きついて甘える幼な子のようにスノウにしがみついている。


 (か、かわいい‥)


 スノウにとっては初めての感覚だった。

 子供のハーピーとはいえここまでピュアに正面からひっつかれて、思わず嬉しくなってしまう。


 「スノウ。いちゃいちゃしているところ申し訳ないけど、のんびりしていられないと思うのよね」


 なぜか刺々しい言い方で突っ込んでくるエスティ。

 その声を聞いてハーピーの子は “キッ”とした目つきでエスティを睨む。

 それに対抗するかのようにエスティも睨み返す。


 (そ、そうだな、まずはとにかく何故あんな箱に入れられて助けを求める状況になったかを聞かないと。ん?そもそも言葉通じるんだろうか?さっきはジェスチャー交えて話してたしな‥‥)


 「あ、えっとなんであんな箱に閉じ込められてたか聞きたいんだけど、その前に自己紹介だね。おれの名前はスノウ、スノウ・ウルスラグナだ。よろしくな」


 「‥‥‥‥」


 (やっぱりジェスチャートークしか無理か‥‥どうするかな‥‥)


 「スノウ‥‥」


 「おお!そうだよ!スノウ」


 「スノウ‥‥ウルサイナ?」


 「ウルサ‥‥」


 「ぷっ」


 思わず吹き出しそうになるエスティ。


 (確かにおれも最初はウルサイナみたいに覚えたけど、この名が馴染んだ今改めて他人に言われるとちょっとイラッとするな‥‥ははは)


 「えっとね、スノウ・ウルスラグナだよ。ウ・ル・ス・ラ・グ・ナな!」


 「スノウ‥‥ウルスラグナナ」


 「ぶふっ」


 「いや、ウルスラグナナじゃなくてウルスラグナね」


 「ウルスラグナネ」


 「あははは」


 「エスティ笑うな!、ウルスラグナ!ウルスラグナ!」


 スノウは自分の名前をオウムのように繰り返す。

 その光景を見てエスティは笑いを堪えられない。


 「スノウ ウルスラグナ?」


 「そうだ!よくできました!」


 名前をちゃんと言われた事が余程嬉しかったのか、思わず抱きかかえて喜ぶスノウ。

 それに幼いハーピーは一瞬びっくりするも笑顔になった。

 その光景を見てまた不機嫌になるエスティ。


 「スノウ ウルスラグナ」


 「言葉がわかるんだね。えらいぞー。スノウでいいよ」


 「スノウ」


 「うん、そうだ、いい子だね。そしてあそこにいる女の人がエスティだよ」


 「えへへ」


 スノウに褒められた事が嬉しそうだ。

 一方エスティは不満そうな顔をしている。


 (何この子、さらっと私の名前流したわね!)


 「じゃぁ今度は君の名前を教えてくれるかな?」


 「ケライノー‥‥ハルピュイアのケライノー」


 「ケライノーか。じゃぁケリーだな」


 「ケリー?」


 「ケライノーを親しみを込めて呼びやすくした感じかな。いやかい?」


 「ケリー!あたしケリー!」


 初めて名前をつけてもらったかのように喜ぶケライノーと名乗ったハーピーの子。

 すっかり意気投合したようなスノウとケライノーを見てエスティは相変わらず不満そうだ。


 「ん?」


 スノウは流しそうになった会話を思い出した。


 「ハルピュイア?ハーピーじゃないのかい?」


 「うん!あたしケリー!ハルピュイアのケリー!」


 「そうかそうか!」


 もはや愛おしくてどうでも良くなってきているスノウを見て苛々が頂点に達したエスティが割って入ってきた。


 「早く状況確認したら?」


 「怖いねーあのおねえさん」


 「怖いねー」


 「マジで殺すよ?あんたたち」



・・・・・


・・・



 状況はこうだった。

 ケライノーはハーピーの村に住んでいた。

 ハルピュイアとはハーピーの上位にあたる存在で、村を治める存在らしい。

 ケリーには2人の姉がいて、ケリー含めたこの三姉妹がハーピーの村を治めていた。

 ある日、人間の戦士たちが奇襲をかけて村を襲ってきた。

 何体ものハーピーが殺され、羽がムシられた。

 姉たちは人間と戦ったが、傷を負ったらしい。

 その隙に自分が捕らわれ、ムシられた羽とともに攫われたようだ。

 森の中で襲ってきたハーピーは自分たちの長の三姉妹の末妹を取り返すべく攻撃してきたのだろう。


 「ひどい話ね」


 「ああ」


 「わかった。ケリー。君を村まで返してあげるよ。ちなみに君の住んでいた村はどこにあるんだい?」


 スノはトマスが描いた地図をケリーに見せて自分の住んでいた村を指すように促した。


 「このあたり‥‥」


 ケリーはカレンザカタラン山脈とメルセンカタラン山脈が交わる麓を指さした。

 カレンザカタラン山脈はこのティフェレトの北東に位置し、メルセン地方とメーンザ地方を隔てるようにほぼ東西に連なる山脈だ。

 一方メルセンカタラン山脈はカレンザカタラン山脈の西端から南東に連なる山脈で、メルセン地方の草原地帯からメルセボーやラザレ王宮都に行くにはメルセンカタラン山脈が巨大な壁となりどうしてもメルセン樹林を通る形で回り込まなければならない。

 ケリーが指さしたハーピー村は、カレンザカタラン山脈とメルセンカタラン山脈が交わったあたりから少し東にある麓であり、この貴族一行が最大都市ノーンザーレに向かうためにはこのメルセン樹林を通らざるを得なかったという事だ。


 「うーむぅ‥‥」


 我ながらなんという微妙な声を出したものだとスノウは思った。

 なぜならケリーをハーピー村に帰すためにはメルセボーとは山脈を挟んだ反対側、つまり後退する事に他ならなかったからだ。

 今自分とエスティには時間がない。

 あの三足烏サンズウーと対峙し、劣勢を強いられているレヴルストラの仲間のところへ行かなければならなかったのだ。最悪既に決着がついており、スノウが舞い戻ったところで戦闘が終わった後の状況かもしれない。

 アレックスたちが全滅という状態で。

 そう考えるといてもたってもいられなくなる。

 だが、この幼いハルピュイアをここで置き去りにはできない。

 この怪しい森の異様な雰囲気からどんな魔物に攻撃されるか分からないからだ。しかもケリーは手負いだった。


 (仲間のハーピーが来るのを待つか?)


 いや、いつ来るかわからない連中を待つのは効率的ではない。

 しかも今いる場所はこの異様な森であり長居は無用だ。

 それに仮にハーピーにケリーを返してもレネトーズ卿がまた襲いに行くだけだ。


 (根本的な解決は、ハーピー村を襲わせないようにするって事か‥‥でもどうやって?そもそもこの子を助けたおれの選択は正しかったのか?)


 自分の選択を疑った瞬間、脳裏にエントワが浮かんだ。

 今のこの見過ごせない状況を放っておく事はダンディズムに反する愚行だと言わんばかりだ。


 (急いでホドに戻れたとして、戦闘は終わっているだろうし、仮に間に合ったとしてもおれとエスティが戻れたところであの戦局をひっくり返せるだろうか‥‥‥。今のこのおれの焦る気持ちは何だ?ただ心配しているだけなんじゃないか?あの状況がどうなったか確認したいだけなんじゃないのか?)


 スノウは落ち着くために自分の心の内を整理し始めた。

 気持ちが焦る時ほど、心を落ち着かせ状況を整理して、最良と思える次の行動を導き出す。

 これはエントワに学んだ事だった。


 「おれは‥‥」



 (この世界に来た理由があるはずだ。その理由を知る前にホドへ戻っても状況は変えられない。飛翔石タガヴィマ、世界竜のシェムロム‥‥これらはおれしか手にする事ができない代物。つまりおれがホドに飛ばされたからアレックスたちの旅は目的に近づいたって事だ‥‥)


 「スノウ?」


 眉間に皺を寄せて考え込んでいるスノウを見て、苦しそうだと勘違いしたのかケリーが心配そうにスノウを見つめて話しかけた。

 スノウはそれに優しい笑顔で返して整理している最中の自分の思考に集中する。


 (おれには‥‥あの厳しい状況を好転させる役割があるはずだ。それを果たすためにおれはこの世界に飛ばされたに違いない。このまま何も得ずに最短距離でホドに戻っても意味が無いかもしれない)


 「よし!」


 スノウは決めた。

 遠回りかもしれないが、この世界でできる事を精一杯やる。

 その中で得られるものが必ずホドに戻って役に立つはずだ。

 一期一会ではないが、出会ったものたちに精一杯接して吸収できるもの、得られるものは全てこの手にし、アレックスたちを救う力に変える。

 スノウはケリーの頭に優しく手をのせる。


 「ケリー。なぜハーピーの村が襲われたのか。そしてなぜ君が攫われたのか。それを突き止めた上で根本的な解決策を取ろうと思う。そのためにはこの先にある街や都市で情報を得たり、君を攫ったレネトーズが何の目的であんなひどい事をしたのかを探る必要があるんだ。つまりこのまま君をレネトーズが向かう先まで連れていく。もちろんおれたちが君を完璧に守り抜く」


 少し難しい話だったのか、ケリーはキョトンとした表情をしているが、真剣なスノウの顔を見てなんとなくスノウの言いたい事を察した。


 「ちょ、スノウ!言いたい事はわかったけど、もしまたハーピーたちが襲ってきたらどうするのよ?!状況によってはこの子の仲間と戦う事になりかねないのよ?だったら、仲間のハーピーが来るのをまってこの子を引き渡した方がいいんじゃないの?!」


 「エスティ。それじゃぁ解決にならないよ。どうせレネトーズがまたハーピーの村を襲ってこの子はまた攫われる」


 「確かにそうかもしれないけど‥‥でもあたし達には時間がないんだよ?」


 「ああ、そうだ。でも仮におれたちがこのまま直ぐにホドの三足烏と戦っているところに戻れたとしてあの劣勢を変えられるんだろうか。いや変えられる訳ないよな。そして最悪おれはやつらに捕まってヴィマナを奪われ、飛行できるヴィマナでホドは完全に元老院の支配下だ」


 「ぐ!・・・それは・・・そうかもしれないけど・・・だからといって不必要な寄り道はできないよ?」


 「もちろんだ。かといって急いで今のまま戻っても意味が無い。三足烏サンズウー飛翔石タガヴィマを持つ事はできない。おそらくヴィマナに飛翔石を実装させるためにおれを使うしか無い。だが、なんの益もない状態でおれを使う事はできないとやつらもわかっているはずだ。つまり‥‥」


 「人質‥‥‥お父様やニンフィーたちが生きている可能性があるって事ね?!」


 「ああ。だが残っていた全員生かされているかはわからないけどな」


 「ぐっ‥‥」


 (お父様‥‥‥)


 「だが、おれは生きている事に賭ける。そしてその状況をおれは変える。この世界で得られる力全てを手にしてホドに戻り、残った仲間を助ける」


 スノウは拳を強く握り固い決意を示した。

 それは紛れもない自分に向けた決意だった。


 「だけど、それとこの子はなんの関係が?」


 「わからん」


 「はぁ?!」


 「わからんけど、でもきっと‥‥エントワならこの状況を放り投げるような事はしない」


 「!!」


 エスティはスノウのその一言で返す言葉を失ってしまった。


 「おれにはどの魔物が悪でどの魔物が善かなんてわからない。ダンジョンで魔物倒してきたけど、倒していい魔物なんているのかもわからない。そもそも魔物なんてものと出会ったのも越界して以降だしな。だけど、人間の善と悪はおれなりの基準で区別できるつもりだ。貧しいもの達を虐げる元老院は悪だし、それに付き従いおれたちに向かってきた三足烏サンズウーも悪だ。そして今レネトーズが行った事も悪だとおれは思っている」


 「‥‥‥‥」


 「それはあくまでおれの視点だ。もしかしたら間違っているかもしれない。だけど自分の信念に従って動かなきゃぁこの世界では生きていけない。後悔しないように自分の行動に責任を持たなきゃならないって事だ。今だに魔物を殺す事が良いのか悪いのかなんてわからないけど、仮に地獄に行くにしたって自分自身の信念に従って納得した上でじゃ無いと死んでも死にきれないからな」


 「スノウ‥‥‥」


 エスティは少し考え込んで言葉を返す。


 「わかったよ。決めた。あたしはとことんあなたに付いていく。今はそれがあたしの納得できる行動」


 「エスティ‥‥」


 父親を残し辛い思いは自分以上なはずのエスティが自分に賛同してくれたと思うと思わず込み上げるものがあったがスノウはそれを誤魔化すように優しい笑顔で返す。

 その笑顔を見たエスティは急に恥ずかしくなったのか、顔を赤らめて怒り顔になる。


 「そ、それはそうと!ハーピーたちが取り戻しに襲ってきたらどうするのよ!まさか何も考えずにこの子を助けるとか言ったんじゃ無いわよね?!だとしたら馬鹿だわ!」


 するとそのやりとりでなんとなく察したのかケリーが話始める。


 「大丈夫だよ。仲間たちにはあたしは大丈夫だからって伝えるよ。心の声を投げると伝わるんだよ。」


 「そ、そうなのかい?」


 (すごいな魔物は。そんな事もできるのか。まぁニンフィーは魔法で思念を飛ばす事はできたが、同じようなやつか‥‥‥)


 ケリーは喋る言葉を手でこねるポーズをしてポイっとスノウに軽く投げた。

 ケリーの言葉が光の玉のようになってスノウの方に飛んでくる。

 それを手に取ると、ケリーがしゃべった言葉が聞こえた。

 それだけはなく、ケリーが思い浮かべていたであろう情景が頭に浮かんできた。


 「これは!?」


 (すごいぞ、これも音の力か?!言葉だけじゃなく思念も飛ばせるって事か。これならうまく言葉で伝えられない子供でもイメージとして伝える事ができるな)


 「スノウが助けてくれるから大丈夫って伝えるー。スノウがあたしを助けてくれるっていう一生懸命な感じで伝えるー」


 「大丈夫って信じてくれるかな?」


 スノウたちが守ってくれる事はうまく伝わるだろう。だが、スノウが守り切れるだけの力があるかどうかまでは伝えるのが難しいはずだ。


 「大丈夫だよ?スノウが強いの仲間達知ってるから」


 「ああ、そうだったね。ありがとう。必ず君を救ってあげるからね。そして無事に村に返すよ。村がまた襲われないようにした上でね」


 「うん!」


 ケリーはスノウに抱きついた。

 なぜかエスティはその光景をキッっと睨みつけている。

 スノウはデレデレな顔になっていた。

 だが、不可抗力とはいえ心の隅でこの子の仲間を殺してしまったことの罪悪感も抱いていた。


 (魔物っていったいなんなんだろう‥‥‥)


 そんな思いを抱きながらもスノウのデレデレ顔はおさまらなかった。








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