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<ティフェレト編>7.森の襲撃者たち

7.森の襲撃者たち



 野営から目覚めたスノウとエスティ。

 昨日は霧などなく開けた広大な森を見下ろせたのだが、現在はまるで雲の上にでもいるような感覚になる景色が広がっている。

 雲海のような一面真っ白な霧。

 ざわついた空気と方々から聞こえる狂気にもにた叫び声。

 このティフェレトでは音が視覚的にも確認できるため、その叫び声の発生源も色でわかる。

 至ること露で光っている。

 ローリーに聞いた情報だが、音にはその発生源の状況や感情が入るようで、霧の中で見える色は主に恐怖を表す紫や怒りを表す赤だ。


 「いったい何が起こっているんだ‥‥」


 昨日と全く違う景色だけでなく言い知れぬ不安を拭えない2人だが進むしかない。


 「朝靄的なものかもしれない。少し様子をみよう。トマスの地図によれば丸一日はかからないはずだからあと1〜2時間以内に出れば日が暮れる前に森は抜けられるはずだ‥‥。それまでに霧が晴れることを祈ろう」


 (あくまでもトマスの地図が正しければ‥‥だけどな)


 スノウはエスティを不安にさせないように心の中で付け加えた。

 所詮は子供の描いた絵だ。

 そもそもそんなものを信用すること自体どうかしているのかもしれない、とスノウは思った。

 だが、かと言って目の前の広大な森は越えなければならないし、霧がなにやら不吉なものだと言うことも肌で感じ取っていたため、とにかく今ある情報を駆使して進むしかないと自分に言いかせた。

 引き返す選択肢はないのだ。


 1時間半が経った頃、入り口付近の霧が晴れているのにエスティが気づいた。


 「スノウ!あれ見て!」


 「ん?あれは‥‥おそらくこの先のメルセボーかノーンザーレの良いお家柄の一行だろう。あの馬車は一般庶民が持てる代物じゃぁないな」


 スノウが見たのは豪華な装飾がなされた馬車とその後に大きな荷物を運ぶに馬車2つ、そして護衛を運ぶ馬車の一行だ。

 馬車から護衛と思われる者たちが5人下車し豪華な装飾の馬車に3人、に馬車に2人横に付き添う形でゆっくり森の入り口に向かって進んでいる。


 「まだ霧が晴れていないのに森に入るのか?」


 「あの位置じゃ奥はまだ霧の中なのが見えないんじゃない?伝えに行った方がいいかしら?」


 「いや、彼らはこの地の住人だよ?おれたちより遥かにこの土地や森に詳しいはずだから、単なるお節介か最悪盗賊と間違えられて攻撃されかねないって考えておいた方がいいな」


 「なるほど」


 そうこうしているうちに馬車は完全に森の中に入っていた。


 「よし、いい囮が現れたな。後をつけよう。いや言い方が悪かったな。そろそろ森へ入ろう」


 何かあっても馬車の彼らが先に影響を受けるはず。自分たちはそれに注力し、場合によっては戦うか逃げるか判断して行動すればいい、スノウはそう考えていた。


 「なるほどね、了解したわ」


 スノウとエスティは急いで野営のテントをたたみ荷物をまとめ崖を飛び降りた。

 20メートルほどある崖だがなんなく飛び降りる2人。

 日本でサラリーマンをしていたころでは想像もしていなかったし、その当時この高さを飛んだら確実に大怪我を負っていたはずだ。下手すれば死に至る。

 スノウはそんなことも気に留めないほどこの世界での自分の成長に慣れていた。

 精神的な部分ではまだこの世界に追いついていない部分もあるが、身体能力はこの世界でもずば抜けたレベルになっていた。

 だが本人はすでにそれを当たり前の感覚として捉えていた。

 上から見ると壮大な森だが、下から見ると大きな木々が密集し光もあまり通さない森で、重くのしかかってくるような感覚になる。

 一応木の影に隠れ、既に進んでいる馬車の一行に気づかれない距離を見て進み出した。


 「エクステンドマジックソナー、エクステンドライフソナー」


 スノウは周囲100mの生命反応と魔力反応を探知するロゴスの感知系魔法を唱えた。

 これはワサンが得意とする感知系魔法だが、スノウ自身が見たり体験した魔法や技を会得して使えるようになるスノウの天技、感応能力エンパスによって得たものだ。

 スノウは既に相当な魔法や技を会得しているが、そのクラスを上げることはできない。

 実際に見たものしか使えない。

 今スノウが唱えた魔法はクラス2だが、クラス3を唱えられれば周囲10kmの生命や魔力を感知することが可能になるが、まだ感応していないため使えないのだ。


 「中にはクマくらいの魔物がいるようだが動きからそう警戒するようなものじゃないな。魔力でしか感知できないようなゴースト系も数は多いが警戒するほどじゃぁないよ」


 その言葉を聞いてギョッとするエスティ。


 「スノウ‥‥あなた今ゴーストって言った?」


 「ああ、言ったけど?」


 「‥‥‥‥」


 エスティの顔が急に青ざめる。いつもすぐに顔を赤らめて恥ずかしがって破壊行為に走るのとは正反対の反応だ。


 (ははーん。なるほどな。おばけこわい系ってことな‥‥)


 「大丈夫だよ。ざっと見繕ってもたった100体くらいだ」


 バタン!


 「ん?えぇぇぇぇぇ?!!」


 スノウが言い終える前に泡を吹いて顔面蒼白状態で倒れていた。


 「まじか‥‥。ちょっと悪ふざけが過ぎたな。しょうがない、おぶっていくか‥‥」


 スノウは自分のしたことだと諦め、エスティをおぶって馬車の後をつけることにした。

 念の為、ロープでおんぶ紐のようにエスティを背中に括り付けて歩く。


 (しかし、見てもいないのに泡吹いて気絶するってどんだけだよ‥‥)


 エスティをおぶったまま、しばらく進む。

 10メートルほど前を進んでいる馬車も特に何もないようで順調に進んでいるように見える。

 相変わらずざわついた空気と方々から聞こえる悲鳴や叫び声は止まないが何事もない。

 さらに1時間ほど進んだ頃、急にあたりの視界が遮られる。


 (霧か!)


 ((助けて‥‥))


 崖の上から見えた霧のエリアに入ったようだ。

 あまりの濃い霧に肉眼で捉えるのは不可能と判断し、ソナー系魔法を中心とした魔法で周囲を見ることにした。

 感覚を鋭くするロゴスの感覚操作系魔法のキーンと、暗い中で視界をクリアにするウルソーの肉体強化系魔法のサイトオブダークネス、そして体力、筋力、素早さをあげる肉体強化系魔法も念の為唱え有事に備える。

 エスティをおぶっている縄を解き木の根元に座らせ、しばらく様子を見守るスノウ。

 何も変化はないように見える。

 研ぎ澄まされた感覚で耳をすまし前方の馬車の一行の動向も捉え続けている。

 特に変化はない。

 馬車一行もこの霧で動けないのか止まったままだった。


 「!!」


 (何かおかしい‥‥なにか来る!だが、ライフソナーでもマジックソナーでも感知できない!でもなにか来る感覚だけが襲いかかる!なんだこれは一体!?)


 スノウは警戒を強める。


 (上か!!)


 迂闊だった。

 平面でしか感知していなかったが何か、いや単体ではなく30体ほどはいるだろう、馬車一行のちょうど真上から何らかの集団が急激な速度で接近するのが感じられた。


 (まずいな‥‥、今知らせなければ確実に馬車一行はやられる。この降下速度は明らかに攻撃だ。生命反応があるから武器とか無機物ではなくほぼ間違いなく魔物だろう‥‥クソ!!ままよ!)


 スノウは勢いに任せ馬車の方に詰め寄る。

 スノウの感知系魔法の範囲は100メートル。

 あと数秒で攻撃される。


 「上だ!上に気をつけろ!!」


 凄まじいい勢いで馬車の方に詰め寄りスノウは叫ぶ。

 馬車の護衛たちも突然のスノウの登場にビクッと反応したが、あまりの声につられ一斉に上を見上げ武器を構える。


 「キェェェェェェェェェ!!!!」


 グザ!!!


 一瞬で護衛が二人やられた


 「うわぁぁぁぁ!!!」


 首が吹っ飛ばされたのを目の前で目の当たりにした別の護衛は大声をあげて腰を抜かす。


 ザバ!!


 次の瞬間その護衛も含めた残り3人が何らかの形で体を複数に引き裂かれた。


 (鳥か?!)


 カキィィィィン!!


 素早くフラガラッハを引き抜き鳥のような魔物の攻撃を受けるスノウ。


 (見たことがある!)


 それはホドでは見たことがないが、雪斗時代によく遊んだRPGに出てきた魔物だ。

 人間の顔、腕は翼、足には鳥の鉤爪がついた生き物。


 「ハーピー!」


 ガキィィィィン!‥シャァァァァン!!


 一発で仕留められなかったのが意外に思ったのか、一瞬怯んだ後、攻撃を続け様に繰り出すハーピー。

 既に馬車一行の護衛の5人は瞬殺され、20体ほどのハーピーが一斉にスノウに襲いかかる。

 残り10体は馬車一行の後方にある荷馬車に群がっている。


 「ジオストーム」


 スノウは切り裂く風の刃の暴風を巻き起こす。


 「キャァァァァァァァ!!」


 殆どのハーピーが一瞬にしてバタバタと地面に落ちてくる。

 かろうじて避けきった数体のハーピーが体勢を整えるべく一旦上空に避難する。

 荷馬車に群がる10体ほどのハーピーは、スノウが矛先を自分たちに変えたのを察知したのか、悲しそうな表情を浮かべながら後を追うように上空に飛び立った。


「‥‥‥‥」


 ハーピーが上空に飛び立ち、難が去って落ち着いたのを確認したからか荷馬車から御者と思しき1人の男が現れる。

 ハーピーを追いやったスノウに目も暮れず、男は豪華な馬車の方に足早に駆け寄り2回ノックした。

 そして首を垂れかしこまりながらドアを開ける。

 小綺麗な服装の立派な髭を蓄えた小太り中年の男がしんどそうに降りてきた。


 「すばらしい!」


 両手を広げてながら重たそうな体でのしのしとスノウに近づいてきた。

 真っ白な歯を見せながら笑みを浮かべている。

 目がアーチ状の線になっていて、いかにも優しそうな顔だ。


 「君強いね!どうだい、この私に雇われてみないか?」


 「‥‥‥‥」


 (こやつ私のことを知らないのか?いや、この霧だ‥‥私の顔もはっきり見えていないのだろう。)


 小太り男は突然の傭兵の申し出に黙っているスノウを見て、あまりに唐突すぎたかと思ったのか急いで付け加える。


 「唐突すぎたな。私は、ミハエル・レネトーズ。大貴族だ。ああ、いやかしこまらなくても構わんよ。見てもらっての通り、護衛が役に立たなくてね。通常はリュラー配下の護衛をつけるのだが今回は出払っていてね。仕方なく冒険者協会のフォックスに依頼して傭兵を集めたんだがこのザマというわけだ」


 (フォックス!おれがヴォヴルカシャ国蒼市で冒険者登録した場所‥‥。ここにもあるのか)


 「私はどうしてもノーンザーレの邸宅まで戻りたいのだが、どうやらこの森を抜けるのは難しくなってきたようだ。そこで先ほど鳥どもを一掃した腕前見込んで私の護衛を頼みたい。なぁに謝礼は望むままだ。君の腕前があれば悪い話ではないだろう?」


 そう話している後ろから、先ほど荷馬車から出てきた御者がミハエル・レネトーズと名乗る男に耳打ちしている。

 レネトーズは一瞬怒ったような表情を浮かべたがすぐもとの笑顔に戻りさらに話し始める。


 「さぁ、どうかね?断る理由もないだろう。交渉成立ということでよいかな?」


 (プライドの高そうな貴族様だな。自分のことは知らないやつはいないとばかりの口ぶり。話を合わせないと面倒なことになりそうだ‥‥)


 「失礼しました、この視界の悪さで気づくのが遅れましたレネトーズ卿。護衛は構いませんがその前に荷馬車で何を運ばれているかを伺ってから‥‥でいかがでしょう。卿のお命をお守りするだけはなく、積荷も合わせてお守りする必要があると思いまして。出過ぎたことを申し上げたのならお詫びします」


 レネトーズは一瞬顔を引き攣らせて返答する。


 「あぁ、かまわんよ。当然の申し出だな。これはメルセン地方の特産物を積んでいるんだ。肉や牛乳、その他の特産物だよ。君もこのあたりをうろついているなら特産物は知っているだろう」


 「ええ、知っています。特産品でしたか。ですが何故あれだけのハーピーが一斉に襲ってきたのでしょうか?」


 「ははは‥‥大方特産品を狙って襲ってきたのだろう。あの卑しい鳥どもがやりそうなことだな、ははは」


 「なるほど。それにしましても、あの馬車いっぱいの特産品という事は何かご商売をされていて、あの特産品も売り物という事でしょうか?」


 少しずつ笑顔が歪んでいくレネトーズ。


 「いや違う。私はね、大貴族だから領地内の民を守る事が責務であって、商売なんぞやりはしない。それは民衆の仕事だ」


 彼の大貴族としてのプライドに触れたか、明らかにイラついている。


 「これは大変失礼しました。田舎育ちで無知なものでして。それにしても、この程度の規模の御一行にあの数で襲ってくるのは少し異常ですね」


 「知らんと言っておろうが!あの卑しい鳥の習性など私は知らん!そんなことはどうでもよいであろう?この森を抜ける所までで良い。大金が手に入るぞ?さぁ受けるのだろう?」


 明らかにひきつった顔で切り返すレネトーズ。


 (金か‥‥この世界はホドと違って金があるんだな。しかもこういう貴族が働きもせずに大金を持っているという事は税収があるって事だよな。それもきつい税率の‥‥。いやそれよりも荷馬車の中身が気になる。だが、これ以上探るのは不味そうだな。最後に念押しだけして引き受けるか)


 「荷馬車の中身は本当に特産品ですね?」


 「そう言っている!何度も言わせるな」


 「不躾で申し訳ありません。私も冒険者の端くれ、公式な手続きを踏んでいないご依頼ということは、信頼関係に基づいた契約と理解いたしました。ですので条件として卿のお言葉を信じ、荷馬車の中が特産品である限りはお守りしましょう。ですがもし!違うのであればその瞬間にこの契約は破棄という事でならお受けしますよ」


 「よし、成立だ!」


 「承知しました。連れがおりますので呼んできます」


 そう言って、スノウはエスティを起こし簡単に状況を説明した上でミハエル・レネトーズの護衛として護衛の馬車に乗り込んだ。


 

 ((助けて・・・))



 護衛の馬車の中には飲み食いした後の食べ残しやからのコップが転がっていた。

 剣や弓、盾のようないくつか武具もある。おそらく予備だろう。

 ざっと見渡す限り、そこそこの値段のする武具だ。

 雇われた冒険者たちの持ち物というより彼らの装備が心許なかったためにレネトーズが貸し与えたものに見える。


 「さて‥‥」


 スノウはライフソナーとマジックソナーの魔法を唱える。


 「思った通りだ。何が特産品だ」


 荷馬車の中に生命反応と魔力反応がある。

 荷馬車に生命反応と魔力反応を感じるだけでその存在が何を確認することはできないが、感じられる雰囲気は人間ではなさそうだった。


 「何かいるの?馬車に」


 ロゴスが得意ではないエスティにはソナー系魔法はうまく使えないためスノウに確認する。


 「ああ。しかも人間じゃない感じだよ。ちょっと見てくる」


 (さっきから声が聞こえる‥‥この声の主か‥‥それともおれの幻聴か‥‥)


 「ちょ、ちょっとスノウ!置いてかないでよ!」


 そういうとスノウは悟られないように素早く音を立てずに前を進む荷馬車に乗り込む。

 体重をかけると御者に感づかれてしまうため、馬車が揺れた瞬間にうまく乗り込んだ。

 スノウは再度サイトオブダークネスを心の中で唱えた。

 暗闇の中で視界がクリアになる。見回すと荷馬車の中にはいくつかの箱がある。

 箱をそっと開けてみる。

 そこには鳥の羽のようなものが入っていた。

 見た目は鳥の羽だが、ひとつひとつに魔力を帯びているのが感じられる。

 生命反応を感じる奥の方に目をやるとそこに1メートル角くらいの箱が見えた。

 音を立てないようにそっと箱の蓋を開けてみる。


 「!!」


 そこには縛られた状態の幼いハーピーいた。


 「た、助けて‥‥」




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