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<ティフェレト編>3.流れ星

3.流れ星



 「わぁ!きれな流れ星!」


 大きく開けた草原にぼつりと建つ少し大きめの家の2階の窓から小さな女の子は夜空を見て大きな声をあげた。


 「ほんとだ!すごい!はっきり見えるぞ!」


 隣で同じように夜空を眺めている女の子よりも少し年上にみえる男の子も光の筋を見つけて歓喜の声をあげた。


 「まだ光ってるよお兄ちゃん!お願いごとしなきゃ!」


 「うん!3回お願いごとが言えると叶うんだぞ!」


 光の筋はどんどん強くなっていく。


 「ねぇお兄ちゃん。流れ星さん、どんどんおっきくなってくるよ?」


 「うん!願い事絶対叶うぞ!」


 「ね、ねぇ‥流れ星さん、こっちの方に飛んでくるよ?」


 「僕たちの(うち)に来てくれるのかな?」


 光の筋はどんどん大きくなってくる。


 「マ、ママーー!流れ星さんがおうちに来るよーー!」


 どんどん大きくなって兄妹の家の方向に迫ってくる光の筋に、ちょっと恐ろしくなったのか急いで1階のリビングにいるはずの両親の元に走って報告にいく兄妹。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォ!!


 兄妹が両親の元にたどり着く前に轟音が鳴り響き始めた。


 ドッゴォォン!!

 ドドドドドドドドォォォォォォン!!

 ガッシャァァァァン!!


 家の隣の納屋の方から凄まじい爆音が鳴り響き、その爆音と共に地響きが起こる。

 爆風のようなもので納谷に向いて据え付けられているガラスというガラス全てが割れてしまった。


 「なんだ?!!」


 「地震?!!」


 驚いた両親は慌てて兄妹の方へ駆けつけ抱きかかえ、ダイニングテーブルの下に隠れる。

 爆音と地響きは一瞬で止み、それ以降何も起こらず割れて不安定になったガラスや家具が音を立てて崩れたり傾いたりしていた。


 「や、止んだか?」


 「地震というより爆発みたいな感じだったわね‥‥」


 不安そうに当たりを見回す父親と震えが止まらない母親。


 「じしんじゃないよ?流れ星さんだよ?」


 異常な事態に落ち着かない両親を見ながら妹は無邪気に答える。


 「そうだよ?流れ星がびゅーんって飛んできたんだ!それで流れ星こっちに飛んできて、きっと近くにおっこちたんだよ!」


 「流れ星?」


 『うん!』


 怪訝そうに子供達を見る父親に反応してもらったのが嬉しかったのか、兄の方が元気よく答える。

 その目が特に嘘をついているようには見えないと思った父親は情報を聞き出そうと二人に質問をする。


 「そうか。その流れ星をお前たち二人は2階で見たんだな?」


 「うん!」


 「どんな感じだった?」


 「えっとね!最初にエリサが気づいたんだよ!遠くでね!ちっちゃーい光がすーっと見えたの!」


 「僕が見つけたんだよ!」


 「違うよ!エリサだよ!お兄ちゃんはエリサが見つけた後、ほんとだ!って言ったもん」


 「わかったわかった。それでその光はどうなった?」


 「ええっとねー。ええっとねー」


 「光がどんどんおっっきくなってきてね!」


 一生懸命頭の中で整理して言おうと必死な妹を制して兄が話始める。


 「あーお兄ちゃんずるいー!エリサが言うのにー!」


 「エリサ、順番に聞くから大丈夫だよ?トマス、それでどうなった?」


 「どんどんおっきくなってきて、光がこっちの方にやってきたからママー!って言って急いで階段降りてきたら」


 「違うよ?ママーって言ったのエリサだもん!」


 やれやれといった顔で二人を見つめる父。

 二人の無邪気で和むやりとりにいつの間にか不安は消し飛びどうなったのかを知りたいという興味だけになっていた。

 母親は二人の言い合いなど聞いている余裕がないのか、二人を抱きかかえたまま震えている。


 「それでその光はどっちの方に飛んでいったんだい?」


 「ええっとねー最後に見た時はーとなりの納屋の方に飛んでいったー」


 「何?!‥‥よし!見てくるか!」


 「あなた!危ないわよ!朝まで待ちましょう!」


 「いや、でも納屋が心配だ。牧草が燃えてしまっていたら大変だし、牛舎に何かあったらそれこそ一大事だ。火事が起きているならすぐにでも火を消さないと。今年一年食べるものが何も無くなったら大変だろう?」


 「そ、そうね!でもくれぐれも気をつけてよ?」


 「よし、お前たちはここにいなさい」


 「エリサも行くー!」


 「僕が行く!エリサはママといろよー!」


 「ふたりはママを頼む。ここにいてママを守ってあげてくれな?」


 「ええーー」

 「ぶーーー」


 兄妹は流れ星が自分の家にやってきたという嬉しさから見に行きたくて仕方がない様子だった。

 そんな子供達に危険が及んではならない。

 子供達を母に預けて、父は壁に立てかけてある槍とランプを手に持ち家を恐る恐る出てみる。

 ドアを開けると納屋のあたりに火がついているのが見える。


 「!!納屋が燃えてる!」


 急いで駆け寄りたいが得体が知れないため、ゆっくりと近寄ってみる。

 あたりを見回すと壊れたのは納屋だけで牛舎は無事のようだ。

 父親はとりあえず、今後の食いぶちが失われていないことに胸を撫で下ろす。

 しかし、燃えている納屋はすぐにでも火を消さないと牛を養う牧草が失われ、その損失から生活が苦しくなってしまう。

 慎重に且つ早足に納屋に近づいていく。

 よく見ると納屋は全壊を免れていた。

 入り口付近が破壊され、地面に大穴が空いており、納屋の奥の牧草が積まれている部分は辛うじて倒壊を免れ火の粉も飛び移っていないようだ。


 「助かった‥‥」


 子供達にすっかり冷静さを取り戻させてもらった父親は安堵の声を漏らす。

 生活の危機は去った。

 問題は納屋の入り口を粉々にし、大穴を開けた “何か” だ。


 (トマスとエリサが言うには流れ星だって話だが、隕石のようなものだったらこんな程度の衝撃で済むのだろうか。まぁ隕石落ちたのなんて見たことないけど‥‥)


 父親は大穴の目の前まで歩み寄り恐る恐る覗き込む。


 「!!」


 一瞬にして驚きの表情に変わる。


 (なん‥だ‥これ‥)


 穴の中には光を放つ球体があったのだ。

 水のバリアのような質感だが、光を放っており、球体の中に何かあるようだが眩しくて見えない。

 父親は好奇心からか持っていた槍で光る球体を突いてみる。


 シャパァァァン!!


 「ふぇあぁぁ!!」


 槍の刃先が光の球体に触れた瞬間に、まるで風船が割れるかのように弾けた。

 光の波動が広がり、あたりが一瞬明るくなるほどのフラッシュが放たれる。

 父親は情けない悲鳴をあげ、あまりの眩しさに目が眩む。

 しばらくして視力が戻り始める。


 「すっごい光ったねー!」

 「パパー!流れ星さん見つけたー?」


 無邪気な2人の足音と共に可愛らしい声が聞こえた。


 「こら2人とも!!家の中に居なさいって言われたでしょ!もう、なんなのこの子ら!」


 後から顔を硬らせて怯えきっている母親が足元おぼつかない感じで追いかけてくる。

 4人が穴の中を覗き込む。


 「!!」


 「流れ星さんの人たちだ‥‥」


 「オンチー星人だ、きっと!」


 「いや、違う!これは‥怪我人だ!!」


 穴の中、光の球体が割れた後に姿を現したのは大怪我を負っている男とかろうじて意識を保っている女だった。


 「攻撃が‥‥くる‥‥」


 女の方はそう言い残すと気を失ったのか力なく横たわった。


 「おい、家まで運ぶぞ!手当てしないと!」


 「流れ星さんの人死んじゃったの?」


 「オンチー星人は敵だから助けたらだめだよー」


 「あなた!こんな得体のしれないのを助けるって信じられない!」


 「いいから言うことを聞きなさい!どんな者であろうと救える命は救わないと!」


 そういって父親は1人ずつ担いで家のリビングに運び、手当をした。



・・・・・


・・・



ーーー翌日ーーー


 紫の長い髪の女性が目を覚ます。

 ベッドに寝かされていたようで、毛布がかけられていた。


 「パパー!女のひと起きたよー!」


 後ろで小さな女の子の声がする。

 頭がぼうっとしているせいもあり状況が飲み込めない様子だ。


 「おお!そうか!」


 遠くから声がする。

 ドアを開ける音とともに父親が入ってきて紫髪の女の前に娘のエリサと一緒に立って様子を伺う表情を見せる。


 「おねぇちゃん大丈夫?」


 「えっと、気が付いたかい?まだ無理しない方がいいと思うんだが‥‥目は見えるかい?俺の声は聞こえるかな?」


 父親は人差し指を立てて左右に振りながら女に話しかける。


 「あ‥ええ‥‥見える‥‥聞こえる‥‥‥ここは?」


 「おお、よかった!」

 「しゃべった!」


 ホッとしたような表情をする父と、喋ったことに驚いた表情を見せるエリサ。


 「あ、ここは俺の家だ。俺はこの家の主人のスタンという者だ。この子は俺の娘のエリサ。あんた名前は思い出せるかい?」


 「う‥わ、わたしの名前は‥‥」


 女は必死に何かを思い出しているのか眉間に皺をよせて少し苦しそうにしている。


 「わたしは‥‥ハッ!!スノウ!!」


 突然ガバッと起き上がる女。


 「おお!!びっくりした!あんたの名前はスノウっていうのか」


 「え?ああ、ごめんなさい!わたしの名前はエスト‥エスティです。えっとあの私の他にもう1人男性がいませんでしたか?」


 「え?!あ、あぁ居たよ。今俺のベッドに寝かせている。妻が看病しているよ。と言ってもひどい怪我で肋骨が数本複雑に折れていて腹を突き破っていたし、全身切り傷のような痕がたくさんあって相当な出血があったみたいし、高熱だしているようだったからね‥‥。俺も妻も医者でも回復魔法士でもないから看病っつっても大したことはできないけどな‥‥」


 紫髪の女はエスティだった。

 エスティは家の主人のスタンの肩をかり、スノウが寝ているベッドまで連れて行ってもらう。


 「スノウ!!」


 ベッドに寝ている男に詰め寄るエスティ。

 突然エスティが入ってきたので一瞬驚いたスタンの妻は状況を察したのか、夫のところまで下がって見守る。


 「あの‥峠は越えたようだから一命は取り留めたようだけど‥‥怪我が酷くて出血もあったようでなかなか意識が戻らないの」


 「いえ、ありがとうございます。命が助かっただけでも‥‥うう‥‥よかった‥‥ありがとう‥‥」


 エスティは泣きながらスノウを見つめる。


 「レストレーション、レストレイティブ」


 エスティは得意ではないが、クラス1の回復魔法をかけた。

 失われた血は戻らないからとにかく目を覚ましてもらい、血を作るために何か食べ物を摂ってもらえるまでは回復させたい。

 だが、ニンフィーのようにウルソーのクラス2レベルの回復魔法を使えないため、一気に治すこともできない。

 時間が経てば経つほどスノウが目を覚ますかどうかはわからなくなる。


 「おねちゃん‥‥大丈夫?」


 「ありがとう‥‥エリサちゃん?このお兄ちゃんはとっても強い人だからきっと大丈夫。お姉ちゃんの魔法が弱いからすぐには良くならないのだけどね」


 ダァァンン!!


 しばらくしてドアを思いっきり開ける音が聞こえる


 「ただいまー!!」


 トマスがどこかから帰ってきたようだ。


 「リクドー先生連れてきたよー」


 どうやら医者を連れてきたようだ。

 60歳くらいで白毛の長い髪を後ろで束ね牛乳瓶の底のようなメガネをかけた男が大きなカバンを抱きかかえトマスの後に部屋に入ってきた。


 「あれ!女星人の方は起きてる!」


 「こら!この人はエスティーさんよ。ちゃんと挨拶しなさい!」


 「いてて、なんだよー」


 母親に頭を押さえられお辞儀させられるトマス。


 「リクドー先生、悪いなこんな朝っぱらから。ちょっとこの人を診て欲しいんだ」


 「あぁ、構わんよ。お嬢さんちょっとこちらに来ていただけるかな?」


 見た目とは裏腹に紳士のような振る舞いだ。


 「あ、はい」


 紳士的な振る舞いがエントワを彷彿させる。

 エスティは彼の死に際を思い出し一気に涙を溢れさせる。


 「どうしたんだ?!大丈夫か?」


 心配するスタンに対して無理矢理作った笑顔で口だけ大丈夫と動かして答えた。


 「リクドー先生、この方、何か余程の衝撃を受けたのか肋骨が粉々になっていてお腹からも骨が飛び出ている状態だったんです。さっきこちらの方が回復魔法をかけたから少しは良くなていると思うのだけど」


 スタンの妻が心配そうに状況を伝える。


 「ありがとうローリー。状況は分かりましたよ」


 そう言いながら、ところどころに貼ってある布や包帯を取り除き傷口を確認するリクドーと呼ばれた医師。


 「ふむ。こ、これは?!」


 驚きの表情を見せるリクドー医師。

 その声に全員が反応する。


 「先生、どうなのでしょうか!?」


 エスティが医者の横に詰め寄る。


 「いや、傷が治っている‥‥」


 「!!」


 「あなたの魔法が効いたのでしょうな。すっかり治っているようです。ただ、顔の血色がよくない。相当出血したのでしょうな。首都のノーンザーレであれば輸血と呼ばれる医術で不足した血を補うことができるが、ここでは無理でしてな。このまま運ぶのも難しいから、まずは目を覚ますまであなたの回復魔法で癒しを続けてください。意識が戻ればとにかく食べて食べて血を増やすことです。それで動けるようになったらノーンザーレに行って輸血をしてもらう。紹介状を書いておくからそれを持っていれば大丈夫」


 「あ、ありがとうございます!ありがとうございます‥‥うう‥‥」


 ぼろぼろと涙が溢れ泣き崩れながら感謝の言葉を繰り返すエスティ。

 状況は飲み込めていないが、エントワが倒れその他の仲間達も満身創痍、アレックスは覚えている限りではホウゲキの強烈な一撃を喰らう直前だった。

 そんな中、スノウまで失ったらと思うと震えが止まらなかったが、一命を取り止め回復の道筋が見えたことでなんとか精神を保てている状態だった。


 「あなたもだいぶお疲れのようだ。この薬草が入ったお茶を飲むといい。ローリーすまないがお茶をいれてくれまいか?」


 「はい先生」


 「よかったぁ!」

 「よかったね」

 「男星人も死ななかったか!」


 ゴツン!


 「!!」


 父親からゲンコツを食うトマス。

 痛みで声が出ないようだ。


 「おーこらーれたー」


 小声でざまぁみろといわんばかりの茶化すような表情で舌をだしているエリンを見て怒って追いかけるトマス。

 ふたりは別の部屋に走って行った。


 「さ、事情は落ち着いてから聞くとしてまずはエスティ、先生のお茶でも飲んで落ち着きましょうや。リクドー先生は耄碌もうろくしているようにみえて名医なんで安心していいよ」


 「はい‥そうさせてもらいますね」


 エスティはスタンに言われるままリビングに向かい、スタンの妻のローリーが煎れたお茶を飲む。

 次第に心が落ち着いてきた。

 お茶を飲みながら、整理することにした。

 スノウはおそらく大丈夫だろう。いずれ目を覚ます。

 あのホウゲキの強烈な一撃を受けたのだ、そのダメージから一生懸命目覚めようと頑張っているに違いない。

 こんな時に自分がオロオロと取り乱してはいけない。

 しっかりと今の状況とここに至るまでの経緯をできる限り整理するのだ。

 そう思いながらエスティはお茶を飲み干した。





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